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44話--宣戦布告--

 それは、本当に何の前触れもなく、いつも通りのだらけきった時間の最中に起きた。


 リビングでだらだらとソファに沈みながら、なんとなく付けっぱなしにしていたテレビを眺めていると、ちょうど「ダンジョンパーティー特集」なんて番組がやっていた。

 内容は、今売り出し中らしい『開拓者(フロンティア)』というパーティーに密着取材をした映像らしい。


「『開拓者』……聞いたことないなぁ」


 ぼそりと呟くと、隣でクッションを抱えていた沙耶が、呆れたように肩を竦めた。


「お姉ちゃんそういうの興味ないもんね……ネットじゃあ『銀の聖女』に次いで人気だよ」


「そうなんだ……タンク1の前衛3、後衛3の支援1か。人数が多いけどバランスはいいね」


 テロップを追いながら、無意識にパーティーバランスを評価してしまうあたり、我ながら職業病だと思う。

 公式サイトまで飛んでみると、隊列の詳細やメンバー構成だけじゃなく、所持スキルとレベルまで載っていた。


 ……いやいやいや。


「大丈夫か、これ。スキルって、個人情報みたいなものなんだよ……?」


 眉間を押さえながら小さく呟く。

 世の中は「良い人」だけで出来ているわけじゃない。むしろ、強さと金が絡めばロクでもない方がよく目立つ。


 複数隊列で攻略する大規模ダンジョン。事故に見せかけて他隊列を潰そうとする輩。

 ――回帰前、腐るほど見てきたし、実際に何度も狙われた。


 スキルを公表するってことは、自分を倒すための攻略情報を無料配布してるのと同じだ。

 対策を立てられるということが、どれだけ危ういか、まだ誰も知らない。


「なんか日常生活だけだったね。あっ、インタビューもやってるんだ」


 番組の終盤、生放送らしく、メンバー一人一人へのインタビューが始まった。

 リーダーらしい金髪の男にマイクが向けられた、その瞬間――それは起きた。


『巷では『開拓者』か『銀の聖女』か最強パーティーはどちらか、の議論がされておりますが……』


『あぁ、その件ですか。皆言うんですよ。最強は僕たち『開拓者』ですよ、あんな娘っ子しか居ない『銀の聖女』なんぞに僕たちが遅れをとる訳ないじゃないですか。最近はダンジョンの攻略もあまりしてないようですし、男でもできたんじゃないんですか?』


「――はぁ?」


 沙耶の、低い、腹の底から出たような声と同時に、リビングの空気が凍り付いた。


 振り向かなくても分かる。

 七海も小森ちゃんも、顔から「笑顔」という感情を綺麗さっぱり捨てて、険しい目をしていた。

 下手に「落ち着いて」とか言おうものなら、火に油を注ぐだけだ。


 私はと言えば、どこか現実感がなくて、ぼんやりと画面と三人を交互に眺めていた。

 なんだろう……格闘技の世界大会とかでよく見る、マイクパフォーマンス的なアレかなぁ、くらいの温度感で。


 そんなことを考えていると、タイミングを見計らったかのように携帯が震えた。

 画面を見ると「相田」の文字。あぁ、やっぱり。


「はい、橘」


「お、嬢ちゃん。テレビ、見たか?」


「ちょうど見てたところ。最近の若い子は威勢がいいね」


「かっかっかっ! 良すぎる威勢も困ったものだがなぁ。嬢ちゃんはどうでも良さそうな感じだが、他の子はどうだ?」


「えっと……ちょっと待ってね」


 耳から携帯を外し、視線を3人に向ける。

 テーブルの周りに集まって、何やら真剣な顔でノートに書き込みをしていた。


 タイトルだけ盗み見ると――。


「『開拓者抹消計画』……」


 字面が普通に怖い。

 内容は知らないが、ろくなことを考えていないのは確かだ。


 そのまま相田さんに、見出しだけありのまま伝えた。


「やっぱりそうなるよなぁ。儂でさえカチンと来たのによ、嬢ちゃんを大切に思ってる他の子達が憤らないわけがないんだ」


 受話口の向こうで、深い溜息混じりの声がした。

 私も「まあ、そうだよね」と心の中で頷く。


 『開拓者』のリーダーが言っていた「最近はダンジョンの攻略をあまりしていない」という部分は、残念ながら事実だ。


 ――こっちにも理由はある。


 私たちが片っ端から攻略してしまうと、後から覚醒したハンター候補が育たない。

 そう思って、相田さんと相談しながら、あえて攻略数を抑えていたのだ。


 ハンターの未来を考えて、わざと前に出すぎないよう手加減していた。

 それを、よりにもよって「男でもできたんじゃないか」とか、面白おかしく貶す形にされるのは……。


 ――喧嘩売ってるようにしか聞こえないよねぇ。


「あれっ、もしかして喧嘩売られてる?」


 今さらながら、ぽつりと口にすると、受話口の向こうで苦笑が漏れた。


「気づいてなかったのか……嬢ちゃん、今回の事で少しばかり世間が騒がしくなるけど他の子達が短気を起こさないように手綱をしっかりと握っておいてくれないか? 必ず何とかする機会を設けるからよ」


「わかったよ。いつもありがとうね、相田さん」


 そう言って、短く別れの挨拶をして通話を切る。


 すかさず、3人が何か書き込んでいた物騒な計画書を没収し、相田さんから言われたことを順番に伝えた。

 3人とも、相田さんとは何度か顔を合わせていて、それなりに懐いている。だからこそ、言葉はちゃんと届くはずだ。


「でもさ……機会を設けるってどんな感じなんだろう?」


 ぽつりと漏らすと、七海が顎に手を当てて首を傾げた。


「試合みたいな感じで模擬戦するんじゃない? 最強決定戦! みたいな」


「それだ! お姉ちゃん、電話貸して?」


 思いついた瞬間の沙耶の目は、いつも大体ろくでもない。

 止める間もなく携帯を奪われ、そのまま自室へ全力疾走して行った。


 数分後、息を弾ませながら戻ってきた沙耶から携帯を返してもらい、発信履歴を確認すると、しっかり「相田」の文字が残っていた。


「どこのパーティーが最強か議論するんだったら明示的に決めちゃえばいいんだよ」


「なるほど、それで相田さんに提案した感じ?」


「そう! たまに会ったときに相談乗ってくれたりするし、何かあったら気軽に電話してくれって言ってたから提案してみた」


 あの忙しい陸将を、ここまで普通に「相談窓口」として使っているの、冷静に考えると凄いなぁ……。


 何やら色々と面倒なことが起きそうな予感しかしない。

 対モンスター戦ならいくらでもやりようがあるが、対人戦となると話が変わってくる。


 私の剣術はあくまでモンスター相手を想定している。

 「殺す気で斬り合う」ならまだしも、「模擬戦」となるとリミッターを掛ける必要が出てくる。その時点で不利だなぁ、と内心で頭を抱えた。


「とりあえずダンジョン攻略しに行こうか」


「そうだね~、モンスターに八つ当たりしよっと……」


 3人とも、ニコリ、と口角だけを上げて笑った。

 目が一切笑ってないあたり、モンスターの安否が心配になるレベルの狂気を感じる。


 小森ちゃんは【支援】スキルの関係で武器補正が乗らないので、前に倒したコボルトから回収したククリナイフを使ってもらっている。

 護身用のつもりで持たせたのに、ゴブリンを普通に斬り伏せたときは、さすがに私も目を疑った。


 協会から支給された端末を操作し、行ける範囲のダンジョンを予約する。

 走って20分ほどの場所が空いていたので、そこを押さえた。


    ◇ ◇ ◇


 その日のダンジョン攻略は、特に波乱もなく終了した。


 強いて言えば、「あ、そういえば【竜体】と【竜骨】で上がった防御力ってどのぐらいなんだろう」とふと思い立ち、試しにコボルトの嚙みつきを腕で受け止めたところ――。


 バキッと嫌な音がして、コボルトの歯が折れ、場が微妙な空気になったくらいだろうか。


 防御力120は伊達じゃない。数字は正直だった。


 【竜体】なんて名前が付いているから、身体のどこかに竜の鱗でも生えるのかと思っていたのだけど、以前3人に全身を確認してもらった限りでは、見た目は普通の人の柔肌らしい。

 「せっかくなら腕とかに鱗があったほうがカッコイイのになぁ」と少しだけ残念に思いながら、外に出る。


 ――途端に、視界が黒と銀に埋め尽くされた。


 マイク、カメラ、照明、そして見慣れた「ニュース番組でよく見るあの感じ」の報道陣の群れが、私たちを取り囲んでいた。


「『銀の聖女』さん! 先ほどの番組で『開拓者』から言われていましたが、どうお考えですか!?」


 押し寄せてくる声、押し寄せてくるカメラ。

 後ろの3人に視線を送ると、全員が揃って「帰りたい」みたいな顔をしていた。誰かが呼んだ線は消えた。


 そのとき、沙耶がそっと私の服の裾を引っ張り、耳元まで顔を寄せてきた。


「お姉ちゃん、ネットに目撃情報の書き込みが上がってる」


「……そうなんだ。林さんに報告して後でお礼参りに行かないとね」


 報道陣に聞こえない程度の声量で小さく会話を交わす。

 私たちが内緒話をしている様子が気に入らなかったのか、前のめり気味の記者が声を張り上げた。


「沈黙は肯定と受け取っていいんですか!? 『銀の聖女』さん、お答えください!!」


「貴女、少しばかり無礼が過ぎるよ?」


 詰め寄ってきた女性記者に向けて、【竜の威圧】をピンポイントで放つ。


 彼女の肩がびくりと震え、その場でガタガタと身を丸め、膝から崩れ落ちた。

 スキルを切らず、そのまま周囲の報道陣にもじわりと威圧の圧を広げていく。


「番組がー、って言ってるけどさ……私自体、『開拓者』って名前のパーティーを知ったのは今日のその番組なんだよね。人の事をどう言おうと私は気にしないけど、会ったことも話したこともない人を悪し様に言うのは良くないと思う」


 淡々と、できるだけ感情を抑えた口調で告げながら、威圧をさらに一段階強める。


 目に見えない圧力が、じわりと地面に押し付けるように広がっていく感覚。

 記者たちが口々にざわめき始め、自然と私たちの前にいた人たちが左右に割れて道ができた。


 さっき威圧の直撃を浴びせてしまったお姉さん――座り込んだまま顔面蒼白になっている彼女に、せめてものフォローをしようと思い出す。


 ポーチに手を突っ込みながら足を止め、声をかけた。


「ごめんね、怖かったよね」


「すみませんでした!! どうか命だけは……」


 どこまでいっても、スキルの影響で完全に勘違いしている。

 取り出したハンカチをそっと差し出すと、彼女はきょとんとした顔で見上げた。


「えっ、あの? ハンカチ?」


「うん。それで粗相しちゃったのを拭くといいよ……」


 視線を落とした彼女の足元には、分かりやすい水たまりが広がっていた。

 それに気づいた瞬間、彼女の顔は耳まで真っ赤に染まる。


 ……無礼だったとはいえ、やり過ぎたかな、と胸の奥がちくりと痛んだ。

 軽く会釈だけして、その場を後にする。


    ◇ ◇ ◇


 翌日。

 まだ意識が布団と一体化している時間に、沙耶が部屋のドアを勢いよく開けて飛び込んできた。


「お姉ちゃん! 起きて!!」


「なに……? ねむいんだけど……」


 布団を頭までかぶって抵抗する私の身体を容赦なく揺さぶりながら、沙耶が声を張り上げる。


「昨日のがネットニュースになってる!!」


 無理やり上体を起こされ、半分閉じた目のまま渡された携帯の画面に視線を落とす。


 トップニュースの見出しに、昨日の私の写真がどーんと載っていた。


 『銀の聖女』「『開拓者』なんて眼中になかった」

 『銀の聖女』が『開拓者』のモラルの無さを指摘――


 などなど、似たようなタイトルの記事がずらりと並んでいる。


「えぇ……? そんなに騒ぐ事なの……?」


 布団の上からぽすん、と携帯を落として、天井を見上げながら、ぽつりと疑問を零した。


 心底、「あー……面倒くさい」と思いながら、私は重い腰を上げて朝食の準備をするためにキッチンへ向かった。

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No.2のパーティーが認知されてなかったとかw
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