139話--皆の戦闘--
私が魔力の操作を微調整しながら重さと格闘しているうちに、皆の作戦会議は終わったようだった。
カレンから風竜がどんな相手かを聞いたのだろう。
振り返ると四人とも顔つきがさっきまでと違っていて、冗談一つない表情で頷き合っている。
肩に入った力と視線の先の一点の鋭さからして、戦う覚悟はもう決まっているようだった。
「それじゃあ、行こうか」
「……うん」
沙耶の短い返事を合図にして風竜の魔力が濃く漂う方角へと歩き出す。
途中、木々の切れ間から滑り込むように翼竜が襲い掛かってきたが、落ちていた石を拾って投げつけて翼を砕いて、そのまま地面に叩き落とす。
落下している間に首を落として息の根を止め、慣れた手つきで解体して素材と魔石に分けて袋に収納した。
体にまとわせた重さは、さっきリリィに重くしてもらったことで自分でも速度がだいぶ落ちているのがよく分かった。
「ってかお姉ちゃん、そんなに素材とか魔石とか集めてるけど持って帰れるの?」
「うん。持って帰って使うこともできるし、あと五層進んだら安全地帯ってのがあるから、そこで取引もできるよ」
安全地帯のことをちゃんと話してなかったな、と今さら思い出して簡単に説明しておく。
そういえば【全知】、フリーパスって話だけど、出たいときはどうするの?
『回答します。安全地帯の転移石から自由に地球へ帰還することができます』
「……なるほど」
「やっぱ先輩、帰ってきてから独り言多いっすよね?」
「ん。あーちゃんは魔界でも独り言多かった」
【全知】の返答に相槌を打っていたら、横から七海とカレンに同時に突っ込まれた。
それは自分でも自覚がある。
試練場で一人きりだった時間が長すぎて、考え事を口に出す癖が染み込んでしまっている。
極力やめようとしてはいるけれど、そう簡単に抜けてくれる習慣じゃないのが厄介だ。
「徐々に減らしていくよ……」
「あ、別に悪い意味じゃないっすよ? 天然ちゃんみたいで面白いっす!」
「七海さん、それはフォローになってないと思いますよ……」
七海の無邪気な煽りに少しだけ気分が落ち込む。
その小さな動揺が魔力の流れにまで影響したのか一瞬だけ制御が乱れる。
その瞬間、全体重が片足に偏ったみたいな感覚になって、私の足がずぶりと地面に沈んだ。
「……何してるの?」
「ごめん……」
沙耶が半眼でこちらを見下ろしながら言った。声の温度は低いが、本気で怒っているわけではないのも分かる。
感情の揺れで魔力操作が乱れないように意識せずとも自動でやれるところまで精度を上げておかないとな……。
家に戻ったときに床や壁をうっかり壊しかねない。安全地帯に着くまでの道のりは、いい矯正期間だと思って黙々と魔力操作を続けることにした。
その後は特に事故もなく進んで風竜のいる盆地の縁にたどり着いた。
開けた地形の上を風がゆるく流れ、ゆらりと頬を撫でていく。
乾いた匂いとは別に濃くて鋭い魔力の気配が肌を刺してきて、胸の奥が少しだけ高鳴った。
けれど今回の主役は私ではない。また自分の番が回ってきたときに存分に遊ばせてもらえばいい。
「じゃあ、小森さんとカレンさんは前衛お願いね」
「頑張ります!」
「ん。任せて」
「私と七海さんは風竜が飛ばないように翼を集中攻撃ね」
「了解っす!」
沙耶の指示で四人が一斉に散っていく。足音と気配が盆地の中に広がっていくのに釣られるように風竜が頭をもたげてこちらを見た。
巨体が大きく息を吸い込む。
周囲の魔力は動いていないので放ってくるのはブレスではなく咆哮だと分かる。耳の内側を魔力で覆って鼓膜を守るように膜を張った。
「――!!」
空気そのものを殴られたような衝撃が音というより圧として全身を叩きつけた。
足元の砂利が震えて胸の内側がびりびりと震える。
風竜がそのまま尾を振りかぶり、先頭を走っていた小森ちゃんに横薙ぎで叩きつけた。
普通なら吹き飛ばされる一撃を、小森ちゃんは両腕で受け止め、そのまま尾を抱え込むようにホールドする。
「えぇ……?」
普段とのギャップに素で声が漏れた。
風竜の方も一歩たりとも押し返せないし尾が引き戻せない現状が信じられないのか、わずかに目を見開いたように見える。
その隙に、カレンが一気に距離を詰めて短剣を滑り込ませた。
……浅いな。竜種は総じて鱗の斬撃耐性が高い。
九層までに手に入れた材質の良くない短剣では、どう頑張っても鱗を少し裂く程度の傷しか与えられない。
それでもカレンは速度を落とさない。
風竜の周囲を高速で走り回りながら斬りつけて攻撃の意識を自分に釘付けにしていく。
狙いがカレンだけに集中した瞬間を逃さず、沙耶と七海が一斉に矢と魔法を放った。
風竜はそれに気付いて翼を広げ、空へ逃れようとするが――。
「逃がしませんよ!」
小森ちゃんが握った尾をぐい、とさらに引き寄せて地面へ縫い付ける。
巨体がわずかによろめいた隙に逃げ場を失った風竜へ七海の矢と沙耶の魔法、そしてカレンが自身の血から形成した大きな槍が一斉に叩き込まれた。
重い衝撃音が盆地に響く。
土煙が大きく巻き上がり視界一面が茶色に染まった。
沙耶が風の魔法で空気を掃き払うと翼をぼろぼろに裂かれた風竜の姿が露わになる。
翼膜は穴だらけで、もう飛ぶことはできないのが一目でわかった。
「七海さん! 前に出て一気に叩くよ!」
「承知っす!!」
沙耶の号令と共に七海と沙耶自身が一気に前に出る。
剣と矢、魔法の連撃が途切れないようにタイミングを合わせて叩き込み続けると、風竜の内部を巡る魔力が少しずつ減っていくのが肌越しに伝わってきた。
私も以前は短期決戦で風竜を押し切ったが、こうして人数を揃えて攻撃していると安定感も安全性も段違いだ。
「これで――終わりだよ!」
近接攻撃を続けながら沙耶が頭上に巨大な石の槍を形作っていた。
その声を合図に全員が一歩ずつ距離を取る。
間髪入れずに石の槍が重力に引かれるように落ち、風竜の頭部を一直線に貫いてそのまま地面ごと押し潰した。
渦巻いていた風竜の魔力反応が完全に途絶える。
他の皆もそれを感じ取ったのか、ほっとしたような、達成感の混じった息を漏らした。
「終わった~!」
肩の力を抜いて喜ぶ声を聞きながら、リリィとエルアと一緒に倒れた風竜へと歩み寄る。
「おつかれさま。一番の貢献者は小森ちゃんだね」
「恐縮です……」
ねぎらいの一言をかけてから風竜の解体に取り掛かる。
解体ナイフを骨の隙間に滑り込ませて鱗、骨、肉、魔石と手順通りに分けていく。
周囲に敵の気配がないことを再度確認してから近くに薪を集めて火を起こす。
激しい戦闘の後は、しっかり食べた方が疲労の回復が早い。
「前から思ってたけど、お姉ちゃん野営の準備手慣れすぎじゃない?」
「まあ……割とやってるからね……」
沙耶と他愛もない会話を交わしながら近くの木を切って簡易的なテーブル代わりの板を作り、その上に風竜の肉とさっきの翼竜の肉を並べて下味をつけていく。
串に刺して火の周りに立てかけると、じゅっと脂が落ちて炎が小さく跳ねた。
立ち上る煙に乗って、香ばしい匂いが盆地一面に広がっていく。
さっきまで竜の咆哮と衝撃で満たされていた空間が、今はただ香ばしい匂いで満たされていった。
現実が忙しくて更新忘れてました。申し訳ないデス……




