塩田はない
海水を汲み上げ、岩と砂場で作ったスロープにぶち撒けた先にある少し濃縮された水たまりには生きものは侵入しない。これを製塩小屋に汲み上げて塩に仕上げる。とても労力がかかるし、海に近寄るので危険が多い。
労役できた農村部からの膂力と先達の作った柄の長いバネ付き釣部のコンビネーションで強引に運用している。子どもチームは比較的安全な小屋の中で汲み上げた海水から塩を析出させている。それでも危険はあるのだ。往復の道中に海からダーツのように長い吻の尖った魚がすっ飛んでくる。木枠の両面に薄い板を葺いた衝立を持ち、機動戦士みたいなゴツいブーツを履き、鍋っぽい兜も被ってヨチヨチ海岸への階段を降り、砂浜に設置された木道をできるだけ音を立てないようにもそもそと進むが、襲撃は毎回。
衝立には大ぶりのサヨリというかダツみたいな魚が刺さって絶命するから、帰宅する頃には折れ釘?逆立ちLの字になった干物が完成してる。手首から肘くらいの大きさのあっさりした白身なので、これはどこの家のお母さんも楽しみにしているお土産でスープの出汁にしても良いし炙って齧るのも美味しい。でも、どこの家にもこれで大怪我を負った親戚はいる。刺さると深手を負うので海岸に行くときは何度も、衝立から足も頭も出すなとくどくど言われる。
それでも犠牲が出るのは、木道を歩いているとき、足音に釣られたユムシ(北海道の珍味ルッツ)が映画のサンドワームのように砂地からバババババっ!!と砂埃と共に突き上げてくる。大人のふくらはぎくらいに大きいので、動揺して衝立を持つ手がずれてしまうこともある。そのタイミングで魚が撃ちこまれると、事故発生。だから慣れた大人がまずドタドタと音を立てて先行し、出たユムシを長い手鈎でフックして仕留める。子どもは階段のところで待機して、大人たちの流れるような、手鈎でフックしてクルッと回すようにしてパス。スポーンと飛ばされたのを手鈎でキャッチして袋詰め、その一連の作業に賞賛の声をあげる。きっとあれだ。見たことないけどクリケットってこういう感じなんだろう?
作業している間に日陰で海風にあたりながら柔らかく干物になったユムシは炒めものや煮付けになる。
ユムシが出なくなったエリアは貝掘りも出来る。波打ち際にはたくさんいるらしいが命懸けになるので木道周辺で棒で突つき回して探す。そんな砂地でも小さい貝などは取れる。栗くらいの小さい貝が子供でもバケツにいっぱい取れるので、これもお土産になる。帰りまで小屋のすみで砂を吐かせる。
塩作りメンバーに選ばれるとお土産の役得もあるし、普段近寄れない海岸にも出られるし、足元から襲いかかるユムシ狩りのスリルもあるので、小さいメンズにとってとても栄誉がある。わたしもマットもすごく羨まれた。上手に塩を作れないと二軍落ちして連れてきてもらえなくなるので、水盤から塩を素早くたくさん吊り出せるように稽古にも力が入る。水面に少しだけ浸した指先に結晶が着くように魔法を放つ。指先から薄く伝う力と惹きつけられるように寄ってくるモノ。はじき落とすジャナイもの。目を凝らすように伝う力の感触に集中して選り分ける。
そうして枝状に粒の連なる形で水盤からズルズルと塩を引きだす。白っぽい半透明だけれどビスマス結晶のような面白い形になる。ボス女児モニカは仕切っているだけあって、集中力も高く結晶の粒が大きく透き通った美しい塩を小さな指先にゾロリとつけている。濡れた結晶は水晶のように透明でドングリくらいあるのだ。
だが、そういう綺麗なヤツは取り分けておき、乾いたところで、ワザとキズをつけたり砕いて粉っぽい塩をまぶしてから納品用の袋に混ぜている。目をつけられない為の措置だけど、そう聞かされてもモニカの目に盛り上がる涙がいたわしい。なんかね、透明な結晶を使って魔法光線放つとすごい強力な効果あるらしい。レーザービームのような?
モニカの今のレベルではそうした効果が出ないけど、もっと透明度を上げて大きな結晶を作れるようになったら兵器に使えるんだって。
ほんとうに塩作りって色々と危険。




