物納する税
専売品で統制品である塩を生産する拠点であるため、危険な海辺であるがここに集落がある。本家の治める一帯からも労役の男たちが塩を作るためにやってくる。この界隈の海辺は高く切り立った崖が多く磯とか砂浜はない。塩を作る場所も延々と勾配を降って林を抜けた先にあるごく小さな入江の砂地だ。
もっと広い砂浜で塩を作るのが望ましいが先達がようやく見つけたのがここだったらしい。栄養たっぷりスープの海水から塩を取り出すのは、汲んで加熱では難しい。必ず、海の仲間たちが紛れ込んで、こちらに一撃いれてくる。汲んだ時点で入ってなくても、いろいろなヤツがコンタミしてくるので、わたしの知ってる製塩とは違う方法をしている。イオン交換膜とも違うが同じくらい不思議なやり方をする。この夏、わたしも製塩デビューするのが楽しみでマットと一緒に練習に励んでいる。
水を口にする都度、異物の混入の無いようにちょちょっと使う神経質な人もいるらしいけど大概はコップに注ぐ前に一撃入れるくらいの頻度で魔法で水の安全を確保している。トイレの後手を洗わないヤツも世間にはいるらしいが、水に魔法を放たないヤツはいない。
皆、小さい時に一度は混入した海の生き物に刺されたり咬まれたり、ハサミで口の中に切られたり身体に教えられるからね。水は必ず魔法で紛れ込んだチンクイたちを仕留めてから口にする。大事なことだ。
水に魔法を放つとチンクイとか魚は死滅して、排泄されたり表面から出たイロイロも凝固して沈殿する仕掛けだ。底に沈んだのを取り除けばキレイな飲料水。製塩はこの応用で海水から得る。
応用って言ってもコツを掴まないといきなり海水から塩だけ析出させるのは難しいので今年デビューの子どもが集められて稽古している。魔法は皆使うけど、塩が作れるのは一族の者だけなので此処に封じられているともいう。
『解りそうな』子を選抜して訓練するので、八歳児全員集合じゃない。女児が多い。この年頃だと男児はわりとふんわりと多幸感のなかで漂っているような子も多い。わたしもカマドウマに遭遇するまではウットリと枝を振って暮らしていた。まさかマットが『海水に含まれる塩』見えない概念を理解するインテリジェンスを持っているとは思わなかった。一緒に仔犬のように胡蝶を追っていたのに。
「ピリピリぃ〜。あソレもういっちょっ!」
海水入りのボウルに指先を寄せて練習している風を装いつつ、バリバリの大バカ全開のマット。理科の実験室みたいに大きな卓を囲んで指導を受けているので同席しているボス女児モニカの眉間に縦皺が深く、目元は険しい。アホがやかましくはしゃいで集中しにくいよね。。。これ以上刺激すると絶対勝てない口撃喰らうから、マットには黙って欲しい。