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ともだちを紹介しよう

「グローーバァァァァ!!」

甲高い大声で窓の外からわたしを呼ぶのがマット。用もないのにあらわれて肩が当たったと言ってぶってくるので蹴り倒す、仲良しのマット。今は呼びかたがムカつくのでダンゴムシをぶつけるか迷っている。あー、ムシ全般がダメってわけじゃないんだよ。いくつか受け入れられないだけで。ダンゴムシ平気。

 好き嫌いって他人に伝わらないよね。わたしも言い分を聞いたことあるけど。

「タルタルソースって。。。なんかタルタルしてるっていうの?どうにも。。。アレはムリ」

っていうの、分かる?

「シダの裏、見るとゾワゾワする。黒い突起がいっぱいおできみたいに並んでて。。。どうしても捲るよね」

ぐらいわかんない。マットの言うことはだいたいわからない。


「アンソニー爺のところへ行こう!早く!」

 やかましいマットの誘いに応じて良いのかサムの方へ振り返る。渋紙みたいに焼けた顔をすこしゆるめて頷くので、急いで小さなナイフや虫籠、網、壺、麻袋とか採取用品を装備する。どこで獲物に遭うかわからないのでいつも持って行く。

「坊ちゃん、手袋も」

 抜かりない指摘はトム。大きいのでもう虫取りはしないけど、歴は長い先輩なので。

トムとサムは短剣を携え、わたしたちの後からついて来る。トムの稽古をつけるのに爺さんちのあたりはちょうど良いらしい。


 前を行くマットがヒョイと屈んで、いい感じの棒を拾った。スゲのような硬めの草の柄。たぶん、あれをわたしに向かって振り回すだろうから、すかさず手近の葛っぽい蔓草の太いのをナイフで長めに切り取る。お互いヒュンヒュンといい音を鳴らしながら道を行く。


「アンソニー爺のところはそろそろ孵ると思うんだよ」

 毎日そう言ってマットは通っている。爺さんの仕事は運搬。畑の向こう、集落からすこし離れた街道沿いに住んでいる。飼育環境を整えるためと街道に出やすいのでやや不便だけど愛亀の為に住居を移した。

 大型陸亀で集落間の運搬を請負う。トレーラー並みの大容量。貨客便で荷物の隙間に挟まって旅もできる。速さは都電並みに出るので皆重宝している。爺さんの愛亀ベティ号以外にも集落間を運用中の亀たちはいるけれど、今回ベティが卵を産んだのでマットが騒いでいるのだ。

 年に1度か2度卵を産むことがある。それは孵ったりダメだったりするけれど、もしも孵化したらその亀と組んで自分もパイロットになりたい。そう村の子供たちは狙っているのだ。

 アンソニー爺はパイロットだ。航空機の操縦士並みの人気職。大戦前昭和の初期、自動車は貴重で通り過ぎてあと排気ガスの臭いを嗅ぎに行くほど珍重された。その車の操縦をするタクシードライバーも憧れの職でたいそう人気ものになったのだよとかつて曾祖父さんがニヤけていたのを思い出すほど、マットたちの羨望の眼差しは熱い。亀の面接を受ける為に子供たちは日参している。


 さて、わたしグローバーについて何も言ってなかったね。

 歳は七歳。家族は父と母たちと兄1名。母たちというのがすこし事情がある。戸籍上の父の伴侶扱いの人たちがいる。

 それはいずれ。長くて面倒くさい話に今度付き合ってほしい。

 海のそばの集落で畑と納税用の塩の生産をしている。地域で重要な拠点で父は責任者。他所の集落からも塩の生産のための労役にくる人足たちもいるので、不特定多数が出入りする割と大きな村を分家として取りまとめている。五つ年上の兄はもう父に付いて次代として学んでいるんだってさ。父は本家と作業所と執務で忙しく、子供のわたしとは接点がない。たぶんわたしが今幾つなのかもわからないだろう。母も戸籍上の妻たちを率いて地域の事業、生産した塩の管理や出荷、塩蔵品の生産、販売促進いろいろあり。わたしグローバーがお手伝いをサボっててもほぼスルーだ。家内使用人から書取りサボってるとか畑でトマトの青いのをむしってマットたちと投げたとか報告されても、あらあらダメよぉ〜。で流されてる。

 将来の希望としては早く老いてしわしわになりたい。


カマドウマの他にも ぜったいイヤ はあるんですが

本当に膝が震えるほど あの姿を拒むんですよね。。。

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