おじさんは山へしばかれに
ピシッ!!
バキッ!
トムの腕に腹に腿に低い枝がしなっては当たる。
山に薪を拾いに来ただけだね。サムが適当な枝を見繕ってナタで払う。後に続いているマットとわたしは灌木や草で目を突かないように気をつけてそれを拾う。枯れ枝なんかも拾う。途中で見つけたいい感じの棒はその中に紛れてしまった。ヤギ車には十分に詰め込んである。あと二回分言いつけられているけど。
さらに、切り傷に使う草、腹痛に効く草なんかも摘む。紅いばかりで甘くもない草の実なのに、つい摘んで口にすると、渋い、種のざらりとした口当たりとクセのある青臭さも鼻につく。目ざといマットが羨ましそうな顔をしてるので、もう一つ摘んで、そっとマットの口にも入れてやる。タネを顔に吹きつけられた。
天気が崩れて来たので、昼前に山を降りる。
海への道からも大きな人の声が響いている。製塩小屋からも人が引き上げてくる。
沖の白波が高い。荒れそうだと大人たちが慌ただしい。
先頭には担がれてゆく男。警備にあたっていたゴンザレスおじさんっぽい。チリチリの天然パーマで、潮風に揉まれて櫛が通らなくなるといつもボヤいているクシャクシャの栗色の頭が力なく垂れている。
飛来物で怪我を負ったのだろうか。
落ち着かない雰囲気のなかでそそくさと軽食を取り、悪天候に備える母たちの号令のもと、薪をしまい、芋を掘り、水を汲み、夕食と明日の朝食まで先に作る。畑の収穫物も少し早いけれど取れそうなものは全部もいでしまう。見えているところだけ、大急ぎで。
鎧戸を閉め、窓を板で塞ぐ。
いつもと違う雰囲気に神経質になっているヤギたちを宥めつつ無理矢理小屋に匿い、犬にも家に入るよう指示する。もちろんわたしのいうことなど聞かない。母が言ったのだ。
厚さを増した暗い雲から雨が落ち始める。雨は強さを増す。篠突くように強く叩きつける雨が地面で弾ける。白い飛沫が風に煽られるから、上からも下からも吹きつける。日が暮れる前なのに、外はすっかりは暗くなっている。
エントランスに避難してくる住民を受け入れる。荒天で海がいろいろと吹っ飛ばしてくるのはままあることなので、屋根をぶち抜かれて怪我をする前にさっさと避難してくる。無愛想な暗い色の、地元の岩から切り出した無骨な石造りの館だけど、質実剛健としか言いようのない頑丈さがこういうときに頼もしく思う。雨が降り出す前に、おおかたの住民たちは軽食や編み針を含む手荷物を持って三々五々に集まってきていた。
犬もヤギも大丈夫。近所のおじさんおばさんたちもだいたい揃ってる。もちろんマットやモニカ、ハンナもいる。大人は眉間に縦じわを寄せているけど、子どもはソワソワしながらこっちに来たそうにしている。
雨の音が流れる水の音のようにザァザァと大きく響くようになった頃、通用口の扉をガツガツ叩いて来たのは、レイチェルおばさんの旦那。おばさんは愛亀を連れて避難できないから、ここに来ない。
戸口でボトボトと水を滴らせ、濡れた髪の毛が顔に張りついたまま、強張った顔で
「爺さんは?」と問う。
雨の中、畑の様子を見に出たらしい。
「止めても聞かないならあのクソじじいを縄で括っておけば良かった」と半ギレで呟くおじさん。
もしやここに担ぎ込まれているのでは?と尋ねて来たそうだが、レイチェルおばさんちの爺さんは来ていない。
「もう、このまま。戻るのも危ないから。」と留まるように周りのおばさんたちが説得している。
吹きつける雨で視界がないそうだ。顔に当たる雨が痛い。目を開けても雨の飛沫で覆われて見えない。そういう雨。
風で転がる桶が、小屋や石垣に当たる音。小屋にぶつかる投擲物の音。けっこうな破壊音でその都度身体が跳ねたけど、今、一際大きな破壊音がする。
石垣の石がゴツゴツ当たる音。崩れてゆく音が雨音よりも大きく響いている。固いナニカと擦れるような音。
それは石垣側から井戸の方へ更なる破壊音を立てながら移っていく。
おばさんたちがモニカやマットたちを掴んで引きつける。おじさんたちが息を殺しながら静かに裏のほうへ動き始めた。
「ねえ。母ちゃん、ナニ?」
ハンナの弟がきつく締められて身を捩りながら尋ねている。
「…。そう、ね。大丈夫よ。なんか飛んできたのよ。…たぶん。」




