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東風(こち)にのって  作者: へますぽん


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14/17

ありあけの空の

家で育ててる芋は、蒸しても焼いても、腹はふくれるが味は淡い。

もそもそして、単体では美味いという感じじゃない。

だからスープにいれたり、潰して油のきいた煮込みに添えて一緒に食べる。


 今朝もヤギの小屋の掃除を言いつけられる。小屋が臭いとせっかくの乳まで臭うので、大事なことだ。わたしは悪くない。ちょっと薪を無駄遣いしただけじゃないか。ありあけの空に残っている白い月は丸い。早朝から良く働くわたしはたぶん良い子だ。



 あの日、みなで、鍋いっぱいに芋を剥いてふかした。

 芋に砕いた大麦モヤシを入れるタイミングを湯気の上がる芋に手をかざしては測る。

 麦芽単体ではもの足りない。芋の澱粉が、麦芽の力でほどける瞬間を待つ。煮る前だ。沸いたら無効。だから煮ない。潰したまだ温かい芋の入った壺を藁で包んでわたしの古い上着も着せて古シーツに包んで大事に納屋に隠した。サムがずいぶん面倒見が良くなってと笑う。

 昔は偶然とか運とか言ったのだろうけど、これは仕組みだ。甘くなる理屈がある。

 鍋の中で、見えないところが忙しく働いている。そのあいだ、人は口出ししない。

 甘さは、作るものじゃなくて、起こすものだ。


 そうして芋がびしゃっとなって、布で漉した液を鍋に戻す。色はまだ薄い。湯、と言ってもいい。

 火を入れる。弱め。焦ったくなるほど。


 最初は静かだ。水の顔をしている。

 しばらくすると、ふつ、ふつ、と音が変わる。泡が重たくなる。指先に伝わる振動が、さっきより遅い。

 混ぜる。鍋底をなぞる。離れるな。

 大人のサムは薪の扱いが上手で、熾火にならないけど炎が立たない程度にコントロールするから、薪の消費はそう多くない。とはいえ、時間がかかる分、くすねた薪の数はそこそこ。


 匂いがまた変わる。草でも粉でもない。甘さが、熱を帯びて立ち上がる。

 マットが鼻をひくつかせる。「きた?」

「まだ」


 色がつく。淡い琥珀。光にかざすと、とろりと戻る。

 指で掬って、垂らす。糸を引く。悪くない。


 ここまで来たら、勝ちだ。

 失敗しても甘い湯。成功すれば飴。

 鍋を見下ろして、勝利宣言の代わりに独りごつ。


「……酵素パワー」

ふふふふふ。からの三段式高笑いをする瞬間って今じゃないか?

 小さくて短い指の先で、ほんの少しだけ舐める。

 ――甘い。そして熱い。沸いてるからね。


「ちょっと!」

 横から指が伸びてきて、真似をする。

 次の瞬間、


「熱っ!」


 ぴょん、と跳ねる。

 マットはバッタのように跳ねる。火のそばではしゃぐのは、どうかと思う。トムが跳ねたマットを抱える。


「だから言ったでしょ」

「言ってない!」


 涙目で指を振りながら、トムに降ろされるなり、それでもまた鍋を覗く。

 甘い匂いに負けて、また近づく。

 懲りない。


 鍋に蓋をして、サムが少しだけ火を弱めた。


「ぱぅあぁぁー!」


 唐突にマットが意味もなく吠える。火のそばで叫ぶのでサムは顔を顰めている。

 鍋に向かって、拳を突き上げるマット。なぜだ。


「今の、関係ある?」

「わかんねえけど、強そうだった」


「ぱぅあぁぁー!」


 力が出た気がしたらしい。火から離すために抱えられるとビチビチと身を捩るので庭の端に向かって放り投げられてる。なぜ嬉しそうに駆け戻ってくるのか。もう一度とせがむな。

甘い飴は鍋底に僅かにできただけで、その場で分けておしまい。でも、マットが絶対もう一度と縋りついてねだるくらいの成功だった。



 ありあけの空に、まだ白い月が残っている。

 蒸した芋を割ったときこんな色が湯気の中で輝いているんだ、と一瞬思う。ほろほろして、腹に溜まりそうな色。早起きをしたのは、今日の予定が押しているからだ。小屋の掃除が済んだら、アサの母ヤギをヤギ車に繋いで柴刈りに行く。なお、それとは別に背負いカゴにも担いで来なさい!とかさ、あんまりだ。使いこんだ薪の件がバレて補填を命じられたのだ。どう考えてもヤギ車で3杯は不当だと思う。

叱られない程度に掃除を済ませ、菜園の手入れも雑にやって、井戸端で爪に入った泥を落としているとヤギ小屋の方から甲高い声が響いている。


「うんこぉぉー!!」

「ギャハァァァアア!!」「うひぃぃっ!!」


 口々に脳天から突き上げるような高音の咆哮だ。

 ヤギ小屋の屋根の上だ。マットと他の男児たちが、順番に飛び降りては競争している。なぜ?どうやら誰が一番遠くまで跳べるか。誰が一番大きな声を出せるか、っぽい。意味はない。楽しいようだ。


「おい!落ちるぞ!」


「うんこぉーっ!!」

「もっと言えぇぇぇ!」

「デカイぞぉぉー!」

「きひぃぃぃっ!」

 朝から元気でなによりだ。

まる召せ(クソ喰らえ)。わたしは朝飯をいただくけどな。

最後のお下品部分。

以前、近所の悪童と一緒にクソ!などと言ったら、サムに小言を食らったので

古語でお上品に言ってみた。だいぶ中の人がこども返りしている。反省を求める。


さて今日バレンタイン

首尾はいかがですか?

わたしは500gのバター、5本の粉チーズ、300gのアーモンド、300gの胡桃を使い切ってクッキーを十数枚贈りました。残りは試作と試食。身も細る思いで増量中です。


次回2/21です どうぞ宜しくお願いします



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