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「一体何がどうなってんだ? イノリちゃんは……あのボウズはどうなったんだよ?」

 

 鳥居の近くでは、綿あめ屋のオヤジをはじめとして、その他何人かの人々が避難もせず、戦いの様子を遠巻きに見ていた。 

 

 夜中で、しかも森の中ということもあり、霊子エネルギーの光や爆発などしか見えない環境だったが、障壁(ウォール)は消え去り、戦闘の光や音も無くなったことから決着が着いたのは確かだ。

 

 近隣では看板巫女としてアイドル的存在であるイノリと、葬奏者でないにも拘わらず、無骸霊(ムクロ)によって戦いに巻き込まれた少年の身を案じ、彼らは恐る恐る現場に向かおうとする。

 

 しかし新たに少年と少女たちの集団が現れ、野次馬たちはその動きを止めた。

 

「おっと、葬奏者以外は立ち入りしちゃダメだぜ? まだ無骸霊(ムクロ)の反応が残ってるからよ」

 

 緑の中華服に黒のダウンジャケットを羽織った茶髪の少年が右手でサングラスの位置を直し、ニヤリと白い歯を見せて笑う。

 

「ま、撮影くらいは許してあげる。“cha-chat(チャチャット)”でバズったら嬉しいし」

 

 その隣に立つツインテールの少女は虎の耳と尻尾を生やしており、オレンジ色のチャイナドレスに白のジャケットという装いだ。彼女はホログラムウィンドウでSNSのタイムラインをスクロールしつつ、ウィンクを向ける。

 

「ったくリューもフーリンも……今の状況のヤバさがわかってんの? 例の“怪獣”の無骸霊(ムクロ)を追ってた筈が、そいつの反応は突然消えてイノリが意識不明で、しかも新たに発生した正体不明の無骸霊(ムクロ)とふたりきりにされてるわけでしょ? ふざけている場合じゃないわよ」

 

 のんきな二人組の前をきびきびと歩くのは黒いコートとホットパンツ、スニーカーに鬼角を生やした少女だ。彼女は黒髪のポニーテールと赤いマフラーを風になびかせながら腰に提げた刀の鞘を不機嫌そうに鳴らす。

 

 しかしリューと呼ばれた少年は肩を竦め、

 

「だからこそだろトウカ。ヤバい状況だからこそオレたちはいつも通りに振舞うんだぜ」

 

「そーそー。みんなのヒーロー葬奏者は、応援してくれる人たちに不安を与えるようなところを見せたらダメってこと」

 

 リューの反論にフーリンが同調した。

 

「……親友のイノリがピンチになって焦ってるのはわかるけど落ち着いてトウカ。今はとにかく状況を把握するのが大事……」

 

 みんなの中で後方を歩く少女は小柄で、宇宙飛行士を思わせるような白いパーカーのテックウェアに兎耳がついたキャップを被った装いだ。髪は水色で、兎のような大きな耳が帽子を飛び出して垂れ下がっている。

 

「――確かにそうね。ネルの言う通りだわ。で、肝心の状況はどうなの?」

 

「……わたしのUFOドローンから確認してみたけど、霊子の濃度が高くて観測データにノイズが多くて詳しいことは不明……でもイノリは無事で無骸霊(ムクロ)も静かに突っ立てるだけみたい。よくわかんない……」

 

「ありがと。まぁでも本当に意味不明よね。AIZ(アイズ)の指示も無骸霊(ムクロ)の“祓除(ふつじょ)”じゃなくて“確保”だしね」

 

 トウカを含めて全員AIZ(アイズ)の判断に疑問を抱いていた。

 このCLOUD(クラウド)を管理する超高度人工知能AIZ(アイズ)の判断に基づき、連合体CROWDS(クラウズ)は、政治や経済を動かす。それは滅亡の危機に瀕した人類がゼロから文明の復興に至るために作り出した新たなる神だからだ。その判断は完璧であり、CROWDS(クラウズ)はこれまで一丸となって無骸霊(ムクロ)をはじめとした脅威に対抗していた。

 

 しかし何故かAIZ(アイズ)は一転してあの謎の無骸霊(ムクロ)を可能な限り無傷で確保しろと指示している。

 

 とはいえ迷っている暇はない。AIZ(アイズ)の指示に従うのが最善なのだから。

 

「そろそろだな。お前ら気を引き締めて行けよ」

 

「リューがそれ言う? ってアレだよね、例の無骸霊(ムクロ)って。イノリも無事みたいで良かった」

 

 フーリンが指差す方にはこちらに背中を向けて佇む無骸霊(ムクロ)の少年と、気を失って倒れているイノリが居た。

 

「……見た目は普通の男の子っぽいね。葬奏機持ってるし、葬奏者の筈だけど……」

 

「でも明らかに(マイナス)の霊子反応よね。ならアイツは無骸霊(ムクロ)ってことでしょ。無骸霊(ムクロ)になったばかりってことかしらね、気の毒だけど」

 

「見た目を人間みたいに擬態しているだけって可能性もあるが……じゃあ取りあえずヤるとするか……っておい待てよトウカ!」

 

 トウカがいきなり全速で駆け出し、刀の鞘に手をかけたのを目の当たりにしてリューが慌てて呼びかけるが、彼女は無視する。

 

「悪いけど、アレが被害が出す前に対処するわ。無傷で確保の保証はできないから」

 

「……クールぶってるけど血の気が多いね。それだけ仲間想いってことだろうけど……」

 

 リューは眉間に皺を作りながら頭を掻く。これだから指示役は嫌なんだとぼやきつつ、

 

「じゃあネルはトウカのサポートに行ってくれ。オレはコイツとなんかいい感じにやっからよ」

 

「……わかった」

 

 ネルはこくりと頷いた。

 

「ネル、コイツのあんなアホみたいな指示理解できたのすごくない?」

 

「……やることはいつも通りだよフーリン。ふたりを信頼してるってコト」

 

「じゃあその期待に応えていかなきゃねリュー」

 

「違いねぇ。さっさとイノリ助けんぞ」

 

 これまで何度も共に死地をくぐり抜けてきた彼らは息の合ったコンビネーションが可能だ。どれだけ相手が強力でも負ける気はしない……というのは言い過ぎだが少なくともCLOUD(クラウド)内ではそれなりに腕が立つという自負はある。

 

「――紅夜叉(クレナイヤシャ)

 

 トウカが鞘から抜いたのは真紅の刃を持つ太刀。

 

雙龍火砲(アルトロン)!」

 

 リューが両手に携え、構えるのは龍の頭を模したような2丁の大振りな黒い銃。

 

王虎牙(ワンフーガ)っと」

 

 フーリンの両腕に装着されているのは虎の頭部を思わせる、“牙”と“爪”を持つガントレット。

 

「……臨界巨星(コスモスマッシャー)

 

 ネルが両腕に装備するのは彼女の小柄な身体には不釣り合いな巨大なマニピュレーターつきのシールド。


「――それじゃ行くわよ」

 

 武装を完了した4人は一気に動き出す。

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