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「くっ……!」
「痛っ……!」
鋭い痛みにふたりは呻くが、
「休んでいる暇は無いわよ? 土・火」
空が明るくなったのを知覚したリューとフーリンが頭上を見上げると、そこには赤熱化して迫る5つの隕石があった。
サイズは直径1メートル程度と小さいが、ある程度の高所から位置エネルギーを内包して降って来るので相応の破壊力がある筈だ。
「やべぇぞフーリン! あいつらマジで殺しに掛かってきてるぞ! 一緒に仕事してメシも食わせてる仲なのに外道過ぎて怖ェなオイ!!」
「びびび、ビビってる場合じゃないでしょ! さっさとアレどうにかするわよ!?」
リューは雙龍火砲のバレル内部で、風のエネルギーを極限まで圧縮し、ふたつの銃口から透明な弾丸として発射した。
撃ち出された空気の弾丸は、それぞれふたつの隕石に真正面から衝突すると、圧縮されていた空気が一気に膨張――爆発を生じさせ、隕石を跡形もなく吹き飛ばす。
フーリンも負けじと両腕の王虎牙の前部ユニットを展開し、内蔵砲から雷の属性を付与した霊子砲を照射すると、丸ごとふたつの隕石を呑み込み、蒸発させた。
しかし最後のひとつは依然として残っており、撃墜は不可能と判断したリューは自身とフーリンの背後に突風を発生させてそれを推力として身を吹き飛ばす。
直後、背後で凄まじい衝撃と爆発が生じて彼らはアスファルトの地面を転がった。すぐさま身を起こし、後ろを振り返ると直径5メートルほどのクレーターが生じており、霧も晴れて、その破壊力が如何ほどのものか伺えた。
「まったく張り合いが無いわね。あなたたちの力は本当にこの程度なのかしら?」
「仕方ないよモニカ、ふたりとも怪我人だし。一方的な展開になるのは当然さ」
よろめきながら立ち上がるリューとフーリンにラウルとモニカは余裕の表情で見下ろす。
「なんだろうあのふたり、アタシめっちゃ殴りたい……!」
「だな。時間が長引けば不利になる一方だしよ……こっちも本気で行くとするか」
ふたりは額に青筋を立てながらラウルとモニカを睨み返す。
その闘志は消えていなかった。
「抵抗を続けても無駄よ……水・土」
魔法円が輝きを放ち、再び全高10メートルに達する巨大な氷の柱が次々に生じ、リューとフーリンを呑み込まんと迫る。
「仕留めろ、銀狼」
更に先ほど倒された2体も復活して、合計6体となった銀狼が主の命令に従い、ふたりの喉笛を食いちぎらんとする勢いで殺到する。
「――風龍!」
「――雷虎!」
ふたつの声とともに、風神と雷神が顕現した。
否、それは風の龍を纏うリューと雷の虎を纏うフーリンだ。
ふたりの肉体は半霊子状態となり、それぞれが司る属性をその身に纏わせている。
リューの荒れ狂う風の手は殺到する銀狼を風の刃で次々に切り刻んで塵に変え、フーリンの迸る稲妻の手も迫りくる氷の壁を掠めるだけで跡形もなく蒸発させる。
「なるほど、それが君たちの本気か。なら、こちらも全力で応じよう――集まれ、銀狼!」
リューによって全滅させられた銀狼だったが、未だ漂っている残留霊子とコアを成す疑似霊核が主人のもとに集まる。
こうしてラウルに6体の銀狼が宿り、彼の瞳は瞳孔の細い、金色に変わり、余剰霊子が溢れて彼の髪に纏わり、まるで長髪になったかのように錯覚させ、月光のリーチもみるみるうちに伸ばしていく。
狼の毛皮を被ることで鬼神のごとき力を発揮したとされる狂戦士の逸話のごとく、彼もその真価を発揮する。
「ラウルの本気、久しぶりに見たわね。なら私もそれに応えるとしましょうか」
モニカは深淵魔導を構え、足元に巨大な魔法円を展開した。それはリューとモニカの足元にも及び、ふたりを否応なしに逃れられない“領域”に引きずり込む。
「――顕現せよ。"72柱の悪魔を支配する魔導王"」
彼女の背後に立つのは全長5メートルに達する異形の魔術師。
捻れた山羊の角と蝙蝠の翼を有する黒衣の王。
彼は両手のすべての指に嵌めた黄金の指輪を掲げた。
「“闇”」
夜よりも暗い闇が世界を侵食した。
あらゆるものを腐食し、広がる闇はモニカが足元に展開する巨大な魔法円によって作り出された領域全体を飲み込む。
「霊子が吸い取られていくよ……!?」
ふたりは気付いていた。自身の肉体を置換している風や雷の力が徐々に引き剥がされていることに。このままでは霊能の解除どころか元の肉体の再構築すら危うくなる。
「短時間で決着をつけないと駄目ってわけか」
リューが雙龍火砲を、フーリンが王虎牙を構えて駆け出した。まず狙うのはこの領域を支配するモニカだ。
しかし彼女は余裕の笑みを絶やさず、
「“光”」
直後、光線が闇の世界を切り裂く。
咄嗟に身を捻ったリューとフーリンの間を通過した光線は一瞬ながらふたりの肌にジリジリとした熱を実感させた。
直撃すれば確実にやられていた。
闇と“光”――それは相反する2つの属性魔法であり、モニカが最初に覚えた魔法。世界の始まりから存在した概念と神が世界の創造のために生み出した概念。その2つから5属性は生じた。
「魔法という体系化された学問を学ぶ私は奇跡を信じないわ」
「だから見せてくれよ。キミたちが起こす奇跡を!」
徐々に風と雷の力を失っていくリューとフーリンのもとに獣のように身を低くして駆けるラウルが現れ、月光を振るう。その刃が纏う霊子はチェーンソーの歯のように高速で回転運動をしており、更には刀身自体も高周波振動することで凄まじい切れ味を実現している。
ラウルが地面に刃を叩きつけるとアスファルトを粉々に粉砕し、指向性を持った礫がリューとフーリンの全身を切り裂く。
続けてラウルはまず手近なリューの、無防備な胴目掛けて月光を横薙ぎに振るった。それは本気の一撃で、リューの身体を真っ二つにしかねないものだ。
「リュー!」
フーリンがパートナーの危機に駆けつけようとするが、ラウルの背後から予備動作なく銀狼が飛び出し、フーリンを止める。
リューはラウルたちの本気を理解した。
だからこそ、それらに全力で応える。
「奇跡なんて大それたモンは知らねぇよ。俺たちが起こすのは“必然”だ!」
直後、風が荒れ狂った。
真空によって生じた不可視の風の刃がラウルの剣を止め、彼の全身をズタズタに切り裂き、血の霧を生じさせる。
「ラウル!」
モニカがリューを倒すため、咄嗟に“土”を発動し、岩の弾丸を生成する。
しかし彼女は大きなミスを犯していた。
それは雷虎を発動しているフーリンにとってその予備動作は遅すぎたことだ。
「――ッ!」
それに気付いた時、左の王虎牙の爪がモニカの肩から肘にかけて切り裂いていた。
血が噴き出し、モニカが握っていた深淵魔導を落としてしまう。
続けてフーリンは右の王虎牙を手前に引き、
「いい加減目を覚ましなさいよ馬鹿!!」
モニカのがら空きの胴体に思い切り叩き込んだ。




