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「――やはり来たか」
鳥居を潜り、境内に入ったところでレンは声を掛けられた。
前を見ると、そこには最強の葬奏者・ヴラムがレンを鋭い目で見据えていた。
まるで視線だけで人を殺せそうなその“魔眼”にレンは怖気づきそうになる気持ちを抑え、自ら一歩を踏み出し、真正面から彼を見返す。
「イノリを救いに来た。そこを退けよ“吸血鬼”」
レンの周囲に火の粉が舞い散る。
彼の内側に眠る霊子エネルギーが有り余って溢れ出しているのだ。
「ならば俺は世界のために貴様を止める。“幽鬼”」
ヴラムは静かに拡張空間から己の獲物を取り出す。
「――血染狂姫」
それは身の丈以上の長さを誇る槍だった。
これまでに多くの血を吸った、妖しく輝く刃が煌めき、レンの前に突き付けられる。
「俺は決めたんだ。イノリの命も救って、お前の目も覚まさせてやる!」
対峙するレンも応じる。
右手に生じた炎が収束し、焔魂を形成した。
炎が勢いを増し、大剣を構えたレンが推力を以てヴラムに向かう。
こうして“幽鬼”と“吸血鬼”の戦いの火蓋が切って落とされた。
※
レンの焔魂とヴラムの血染狂姫がぶつかり合い、霊子の火花を散らしていた。
より速く、より強く、より巧みに、レンの刃はヴラムに迫り、ヴラムは更にその上を行く。
それはまるで踊るようだった。
何度も繰り返される剣と槍の攻撃の応酬がまるでワルツのように見える。
時折、血の槍が雨のようにいくつも降り注ぎ、炎の刃がそれらを一撃で薙ぎ払う。
時折、炎の弾丸が剣先からいくつも撃ち出され、“吸血鬼”の影を追うが、血の津波が丸ごと呑み込む。
時折、炎の斬撃波が莫大な熱量を含んで放たれるが、高速で回転する血のギロチンがぶつかり、相殺する。
そして再び剣と槍の応酬を繰り返す。
ふたりの戦いは互角に繰り広げられていた。
「お前の刃から伝わってくるよ。悲しみや痛み、苦しみを」
石畳を踏みしめ、身を翻しながら炎を纏った回転切りを放つレンは素直な言葉を口にする。
「お前がイノリの命を奪ったら今度こそお前は壊れる。だから俺はお前にイノリを殺させない! ルミアにも頼まれたからな!」
「――っ!」
自身の内心を見透かされたヴラムが僅かに動揺を見せ、形勢が偏る。
ヴラムはレンが繰り出す大振りな一撃を抑え切れず、その身体がノックバックした。
玉砂利を踏みしめ、ブレーキとして踏みとどまったヴラムだが、直後満月をバックに炎の刃を振り下ろすレンの姿が目に飛び込んでくる。
「――俺がお前より強いってことを証明してやる!」
ヴラムは血染狂姫を構える。
しかしレンの焔魂の一撃は抑え切れず、彼の槍は吹き飛ばされた。
※
一方、神群境界部でも激闘が繰り広げられていた。
「――オラァッ!!」
リューの双銃から撃ち出される霊子弾と竜巻が付近の川の水を巻き上げながらラウルとモニカに迫る。
「属性融合――“水”・“土“」
深淵魔導が輝き、瞬く間に川の水が凍結し、巨大な壁となって竜巻を防ぐ。
ラウルはその壁を足場として駆け、一気にリューとフーリンとの距離を詰めていく。
リューが双銃を連射し、機動力を奪うためにラウルの足を狙うが彼のスピードは速く、弾は当たらない。
「貰ったよ!」
身を捻り、空中で3回転しながらラウルは月光をリュー目掛けて振りかざした。
リューは雙龍火砲のブレードで月光を受け止め、弾くが、ラウルの斬りこみは速く、インファイトは不利と判断して足元に竜巻を打ち込み、彼を引き剥がして距離を取る。
「その竜巻、利用させてもらうわ――火」
魔法円から撃ち出される炎の弾丸が竜巻に呑み込まれ、一気に燃え上がった。
さらに炎の竜巻はモニカが作り出した氷の壁を溶かし、生じた水蒸気によって濃い霧を作り出して視界も奪う。
「ちっ!」
リューは急いで炎の竜巻から逃れようとするが、至近距離故に竜巻に巻き込まれてしまい難しい。一旦竜巻を解除することも考えるが、そうなるとモニカが付与した炎だけが残り、こちらが火だるまになりかねない。
どうするか、と考えているとリューの手を握って引っ張る存在があった。
「リュー! ボーっとしてないでよ!」
「おう悪いなフーリン、助かったぜ」
フーリンはその足の速さでリューを引っ張りながら一瞬のうちに炎の竜巻から逃れる。
しかし、ふたりを追跡する狩人が霧を斬り咲いて姿を現した。
「ラウルね! まさかアタシに追い付くなんて褒めてあげるわよ!」
「それは光栄だね――銀狼」
6体の銀狼が次々に飛び出し、フーリンとリューを取り囲んだ。
「物量で押し切るつもりか?」
リューは雙龍火砲の射撃とブレードによる近接攻撃で次々に襲い掛かる銀狼を凌ぐが、その動きは速く、霧の中で視界も優れないということで苦戦する。
竜巻は本来こういった雑魚散らしには持ってこいなのだが、近くに居るフーリンを巻き込みかねない上、ラウルの動きが速く、何より先ほどのようにモニカによって属性魔法を付与されて攻撃に利用されるのは困る。
故に彼はその場に留まる竜巻ではなく、一瞬だけ吹き荒れる突風を攻撃に選んだ。
すぐ目の前にまで迫り、牙を剥いていた銀狼は、リューの目前から一気に生じた突風に呑み込まれ、そのまま川の中に叩きこまれる。
「しつこい……!」
リューが6体の銀狼のうち、1体を倒したとはいえ、いまだ数は多く、これでは埒が明かないと踏んだフーリンは、手近な1体をアッパーで上空に打ち上げ、身動きができなくなったところに王虎牙の内蔵砲から電気エネルギーを溜めた光弾……雷球弾を撃ち出して爆散させた。
「これで4体か。でも、僕の銀狼は時間経過で復活する。既に消耗し始めている君たちは不利というわけさ」
身を屈めたラウルが一瞬でふたりの間を通過した直後、リューの左脇腹とフーリンの右肩が斬り裂かれ、鮮血が噴き出した。




