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深夜2時のCLOUDTOWER前のスクランブル交差点。
CLOUDの中心部である“セントラル”の商業ビルの屋上では、クラッシュが未だ眠らずに活動する人の営みが放つ無数の光を眺めていた。
「ははっ、いい眺めだ。まるでオレがこのCLOUDを支配した気分だ」
彼は視線をあちこちに動かし、
「夜のスクランブル交差点か。大量に美味そうな“餌”で溢れてやがる」
そして彼は夜風に吹かれながら、金網フェンスを片足で簡単にぶち破り、
「よっと」
まるで庭の生垣を越えるかのような気楽さで屋上から身を投げ、そのまま着地した。
アスファルトの地面にクレーターが生じ、次々にクルマが急停車し、夜勤の通行人たちが悲鳴を上げる。
そしてその中には以前クラッシュと行動を共にしていたゴーグルの小柄な男がおり、
「あ、兄貴……!? この数週間どこに居たんですか!? ずっと探してたんですよ!」
「あ? ……誰だっけお前」
ゴーグルの男が一瞬固まり、
「え、冗談でしょ……オイラですよ! グレイ型宇宙人の霊核を持つグレイグですよ!」
「あー……そうだったっけ。まぁどうでもいいわ」
面倒くさくなったクラッシュは懐からあるものを取り出す。
「へ? それってもしかして……」
グレイグが見つめるのは最近噂になっているドラッグ“ソウルハッカー”だった。それをクラッシュは咀嚼し、飲み込み、ゲップを吐いている。
直後、クラッシュの全身を赤黒い炎が覆い、そこから全長5メートルには達するであろう巨大な“怪獣”が現れた。
「――じゃあ、喰うか」
何が起きているのかわからず、一瞬思考が停止していたグレイグは目の前に居るものが何なのかはっきりと認識し、
「ひぃっ! む、無骸霊……!?」
「なんだよ薄情なヤツだなぁ……人をまるでバケモノみたいによ。まぁオレはお前のこと覚えてねぇけどな」
“怪獣”がゆっくりと鉤爪をグレイグの喉元に近付ける。
「だ、誰か助け……!」
しかし、“怪獣”の腕は肩口から斬り落とされ、アスファルトの地面を転がっていた。
「ちっ、邪魔が入りやがったか……!」
“怪獣”が攻撃を仕掛けた“敵”を捕捉する。
視線の先に居るのはイノリだ。
イノリは射出していた1機のビットを背部に戻し、無言のまま“怪獣”を睨みつける。
「よりによって人通りの多いスクランブル交差点で騒ぎを起こすなんて……!」
トウカとネルもイノリに追い付き、“怪獣”の姿をやっと視界に捉えた。
「……流石に全員守り切る自信は無い。みんな早く避難して……」
逃げ惑う人々の壁となるように立つネルとトウカはそれぞれの葬奏機を構え、イノリとともに切断された右腕を再生している“怪獣”を包囲する。
「通報があったので参りました」
「例のソウルハッカーに関連する無骸霊か?」
イノリたちの前に現れたのはフリーの葬奏者とは異なる、CROWDS直属の、画一化された葬奏機を使用する葬奏者部隊だった。彼らは全身を黒のタクティカルスーツで覆っており、アサルトライフル型の量産型葬奏機を手にしていた。
彼らのような葬奏者部隊は比較的葬奏者としての適性が低い数合わせの一面があり、重装備なのも、私服で戦っているような葬奏者とは異なり、常時展開する防御シールドの耐久値が低く、このような重装備でなければ無骸霊に対抗できないという一面がある。
しかし厳しい訓練によってその連携力は目を見張るものがあり、イノリをはじめとして彼らをリスペクトする葬奏者は多い。
「はい、ただしかなり危険な相手です。細心の注意を払って対処しないと……」
しかし、そんなイノリの言葉を鼻で笑う者たちが居た。
「ふん、たかが無骸霊一体で警戒し過ぎだ。我々“マスラオ”は勇敢な葬奏者しか居ない」
その人物は白いひげを蓄えた甲冑姿の老人だった。その背後には霊子ブレードを発振する刀を装備した鎧武者の隊員たちが仁王立ちで待機している。
「あら、野蛮人が出る幕ではありませんよ。ここは我々“フルール・ド・シュバリエ”の舞台なのですから」
一方、いかにもプライドが高そうなドレスの老淑女が率いるプレートメイルにマントを羽織った騎士団が整然と並んでに対峙していた。
「ふん、狡猾な魔女めが。貴様の軟弱な葬奏者どもが役に立つものか。総員かかれ!」
「彼らに先陣を切らせてはなりません! すぐにあの無骸霊を討つのです!」
すると挑発に乗った“マスラオ”の指揮官が突撃命令を出し、同様に“フルール・ド・シュバリエ”側も負けじと突撃命令を出した。
「バカ! 自殺行為よ!」
トウカが止めるがもう遅い。
「ぐあっ!」
「うわぁ……!」
「まさか一瞬で全滅だと……!?」
「そんな馬鹿な……認められませんわ……!」
鎧武者たちと騎士たちは“怪獣”の吐き出した霊子砲の薙ぎ払いによって全滅した。しかし重装甲のおかげでなんとか絶命は免れているようだ。
「……邪魔だから死にたくないならさっさと逃げて」
「な、何をするのです!? 無礼な!」
「この小娘めが! 離さんか! おわぁ!?」
ネルは無視し、念力で役立たずの老いぼれふたりをひとまず安全そうな場所に運ぶ。ついでに気絶している無能な指揮官の犠牲となった葬奏者たちも念力で一纏めにさらっておく。遠くから救急車が何台か来ているので一旦は彼らに任せておけばいいだろう。
「半端な葬奏者どもはどいてな! オレたち“アイアンズ”が来たからな!」
すると頭上から大型のVTOLが現れ、その中から5機の全高7m程度の強化外骨格装甲“アームドスーツ”がスラスターを吹かしながら次々に降下する。スーツのバックパックには一般的な葬奏機が搭載するものより大きな霊子炉を搭載しているため出力が高く、単純な攻撃力だと並の葬奏者を遥かに凌ぐ戦闘力があるとされる。しかし操縦者の育成含めて運用コストが高く、あまり普及していないのが実情だ。
「メタルタイタン部隊攻撃開始! CLOUD市民の血税を注ぎ込んだデカい一撃をぶち込んでやれ!」
熱血風の指揮官が叫び、イエッサーと、“メタルタイダン”を駆るパイロットたちが霊子ガトリング砲や霊子バズーカ、霊子レールガンなど手にしている火器を“怪獣”に向けて放った。
しかし“怪獣”の全身から高出力の霊子シールドが展開され、殺到する砲撃は全て無力化される。
続けて“怪獣”は再び口から収束霊子砲を照射して周囲の“メタルタイタン”を一掃した。
「メタルタイタン部隊全滅しました!」
「ば、馬鹿な!? 一瞬で5機のアームドスーツが全滅だと!?」
慌ててパイロットたちが爆発する寸前の機体から脱出する。こうしてCLOUD市民の血税は露と消えた。
「右舷被弾! 墜落します!」
更にVTOLも霊子砲を受け、炎上しながらみるみるうちにその高度を下げていく。
「ええい、やむを得ん! 脱出する!」
するとキャノピーからムキムキの大男とオペレーターらしき美人の女性が飛び出し、パラシュートで降下した。




