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2-7

「……それからイノリがこの街に来て。彼女は最初遠慮がちで、たまに顔を合わせた時に軽く挨拶をするくらいだったんだけど、ある時、またいじめっ子たちが報復に来て、今度はどこからか盗んできた葬奏機を持ってわたしとトウカを取り囲んでね」

 

 ネルの言葉にトウカが続く。

 

「しかも最悪なのはそんな状況で無骸霊(ムクロ)が現れてね。当時は私もネルも駆け出しの葬奏者で実戦もまだだったからどうしょうもなくて……そんなピンチの時にイノリが走ってきて、あっという間に無骸霊(ムクロ)を倒してくれたの。それで、そんなイノリを見て、いじめっ子たちはそれっきり見なくなった」

 

「……トウカもわたしも怖くて泣いてて、そんなわたしたちをイノリは大丈夫だよ、って安心させて。それから仲良くなって、色々と会話するようになったり、一緒に遊んだり、葬奏機の扱い方とか教えてもらったり、そこそこ強くなって、葬奏者として実績を積んでいく中でフーリンやリュー、ヴラムたちと一緒に仕事をするようになった」

 

「そっか、それだけふたりはイノリに感謝してるんだな」

 

 レンの言葉にふたりは頷く。

 

「……後からイノリが孤児だったっていうのを知ったけど、それをあの子はまったく感じさせずに、いつも明るい笑顔を向けてくれたんだよ」

 

「本当にあの子は強いわ。でも時々脆そうに思える瞬間がある。ほんの何かの拍子に崩れて、消えてしまいそうな弱さが」

 

 トウカの言葉にレンも内心で同意する。

 彼女は何か隠しているが、それを察されないように明るく振る舞っている。

 だからこそレンは、彼女に全て打ち明けて欲しいと改めて思い、

 

「……だから、一緒に住んでるキミにイノリを支えて欲しい」

 

「まぁ不本意だけどね。分かってると思うけど変な気を起こしたら絶対に許さないから」

 

「わ、わかってるよ……! イノリは守る」

 

 レンは自分の胸を叩いてみせた。

 

「……わかったならオッケー、だよ」

 

「約束破ったら絶対に許さないからね」

 

 威圧するトウカにうんうんとレンは高速で何度も頷き、

 

「UFOの中、見せてくれてありがとうな。そろそろ帰るよ」

 

「またいつでも来てくれていいよ」

 

「まぁ、たまになら、ね」

 

 少しだけふたりに受け入れられたかな、とレンは嬉しさを覚えつつ、UFOの外に出た。ここからだと天に向って青い光の筋が昇る、CLOUD(クラウド)の夜景を一望できる。

 

「ああ、渡し忘れるところだった。リボンありがとうなトウカ」

 

 レンはUFOから降りてきたトウカにリボンを手渡した。

 

「あらもうクリーニングしたの? 別にそんなすぐ返さなくていいのに」

 

「あとネルもUFO絆創膏とかめっちゃセンスいいよな」

 

「……やっぱりそう思う? かわいくてお気に入り」

 

 ネルは少しだけ顔を赤くし、はにかんで、

 

「……ねぇレン。訊いていい?」

 

「うん? 何だネル?」

 

「……どうしてイノリに本当のことを言わなかったの?」

 

 そんな彼女の問いにレンはうーん、と頭を掻き、

 

「別に2人は間違ったことしてないだろ。無骸霊(ムクロ)と戦うのが葬奏者の仕事で、お前らは俺が無骸霊(ムクロ)で、みんなの脅威になると思ったから攻撃した。それ自体は別に間違ってない。まぁ俺は心当たりがないから抵抗するけどな!」

 

 レンは歯を見せて挑発的に笑い、

 

「それに2人ともイノリと仲いいんだろ? 仮に本当のこと言って万が一にでもイノリと2人の関係がギクシャクしたら悪いしな。まぁイノリは優しくて素直な子だからそんなことはありえないだろうけどな!」

 

 また挑発的に笑った。

 

「その……ごめん。アタシのせいで迷惑かけて」

 

「……わたしもごめんね。キミのこと勘違いしてた」

 

 ネルは被っていた帽子を取り、上目遣いでレンを見つめる。

 

「……キミはいいひと。イノリのことも安心して任せられる」

 

「それについては約束するよ。ふたりを失望させない」

 

 するとネルはじっとレンの顔を見つめ、

 

「……ふーむ」

 

「な、何だよ」

 

「……ネルポイント+100万をあげよう」

 

「はは、なんだよそれ。貯めたら何かいいことあんの?」

 

「……それは秘密。まぁでも粗品としてこの帽子をあげよう」

 

「ありがたいけど固辞するよ。それはネルが被ってたほうが似合う」

 

 ネルから受け取った帽子をレンはそのまま彼女の頭に被せて戻した。

 

「むぅ……ちょっとずるい」

 

 ネルは帽子の位置を直すが、恥ずかしいのか顔が見られないように目深に被る。

 

「ま、まぁ私はまだ完全に心を許してないけどね! 同じ神社に住んでるからってイノリに手を出したら許さないから!」

 

「うん、やっぱポニーテール似合ってるな」

 

「か、からかわないでよ! ったく……ネル行くわよ!」

 

「……はいはい。じゃあねレン」

 

「ああ、またな」

 

 足早に境内の奥へ引っ込むトウカとネルの後ろ姿をレンは見送った。

 

 ※

 

「あ、イノリ」

 

 寺院門を潜り、帰路につこうとしたところでイノリと出くわした。

 

「ごめん。中々レンが帰ってこないから来てみたんだけど、ちょっと会話を聞いちゃって」

 

「あーそうか……まぁ隠すつもりはなかったんだけど」

 

「……本当はトウカとネルと喧嘩したんでしょ? あの子たちちょっと思い込み激しいところあるから」

 

「うん、まぁ……」

 

 少し困ったように微笑むイノリにレンもバツが悪そうに苦笑いする。

 

「でも、ふたりとも本当はとてもいい子だから、その……」

 

「安心していいぞ。ふたりの友達になったから俺!」

 

 気まずそうなイノリに対しレンは親指を立てて見せる。

 

「え、レンすごいね! わたしだって最初はふたりと距離を縮めるのに少し時間掛かったのに」

 

「まぁはじめこそ最悪の出会いと言えるかもしれないけど……」

 

「でもその分、好感度はかなり上がってるはずだよ。もしかしたら友達以上の関係になれたり?」

 

 少し意味深なイノリの言葉にレンは首を傾げ、

 

「それってどういう……?」

 

「鈍感だなぁ」

 

 イノリは少しイタズラっぽく微笑んだ。

 

 ※

 

 神群寺(かむろでら)にあるUFOの中ではネルとトウカがソファや床で寝転がりながらホログラムウィンドウで格闘ゲームの対戦を繰り広げていた。もちろんネルは仮想コントローラーではなく物理アーケードコントローラーを使用している。

 

「……ねぇトウカ」

 

「何よ? ネル」

 

「……わたし、好きな人ができたかも」

 

「は……? はぁぁああああああああああああああ!?」

 

 こうしてトウカはネルにいろんな意味で負けた。

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