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第4話: 研究者たちの驚愕

 朝早く、父親に手を引かれながら車に乗り込む。いつものように、特別な感情が湧かない。目的地は研究所だが、私にとってはもはやただの「日常」だ。


 家を出る前、母親は私に目を合わせようともせず、冷たく背を向けていた。その背中からは、言葉では表現できないような冷徹さが感じられる。


「今日も研究所か……」

 母親の声が小さく漏れる。それは明らかに嫌悪感に満ちていた。顔を見ようとしないのに、声だけがこちらへ向けられてくる。その声は、まるで私を非難するようだった。


「何度も言わせるな。アオイは特別なんだ。協力費のおかげで、俺たちはこの生活を続けられている。それを忘れるな」

 父親の言葉は冷たく、かつ強引だ。顔をしかめながら、車のドアをバンと閉めると、母親の言葉を遮るように車を発進させた。


「協力費が無くても普通の生活がしたいのよ!普通の子供を育てたかっただけ……」

 母親の声が震える。それでも、父親はその言葉に耳を貸すことなく、アクセルを踏み込む。私は後部座席で二人のやり取りを静かに聞き流していた。「普通」――その言葉が、私の頭の中で何度も響く。私が「普通」でいられる日は、いつ来るのだろうか。


 研究所に到着すると、白衣を着た研究者たちが笑顔で出迎えてくれる。

「アオイちゃん、今日は少しだけお勉強をお願いね」

 その言葉に、私はただ軽く頷く。表面的な優しさを装った彼らの微笑みが、どこか冷たく感じるのはなぜだろう。


「じゃあパパはここで待っててね。アオイちゃん、がんばろうね」

 父親はそう言いながら、研究者たちに私を託す。その声には、どこか得意げな響きがあった。私はその表情を見逃さなかった。私を実験室に送り込んで、何かを期待しているその目を。


 案内された部屋には、机と椅子が置かれていた。

「これから少しだけ質問や問題を出すから、できる範囲で答えてね」

 研究者の一人が、優しい口調で言う。私は渡されたペンを握りながら、黙って問題用紙に目を落とす。


 最初に渡された問題用紙を見た瞬間、私は眉をひそめた。

「これ、やるの?」

 目の前にあるのは、3歳児が解くようなものではない。難解な数学の方程式や、物理法則の応用に関する設問が並んでいる。私は一瞬ためらったが、ペンを持つ手を動かし始めた。


「まあ、試してみるよ」

 私は静かにそう言って、ペンを走らせる。数分後、全問を解き終え、ペンを置いた。次の問題用紙が渡される。それもまた、高度な内容だが、私にとってはどれも大したことはない。


「次もお願いします」

 私は軽く言うと、研究員たちは少し驚いた顔を見せながらも、さらに別の用紙を持ってきた。その様子に私は気づかないふりをして、淡々と問題を解き続けた。


 別室では、モニター越しにその様子を見ていた研究者たちが息を呑んでいた。

「……これ、博士課程の学生が解くレベルだぞ。まさか……」

「しかも問題を渡してから数分しか経っていない。全問正解か?」

「解答を確認してみろ。理論の展開が見事だ。単なる模範解答じゃない……独自の思考で解いている」

 研究者たちの会話は、驚愕と興奮に満ちていた。


「この子の知能指数、どのくらいになるんだ……いや、普通の測定基準じゃ測れないかもしれないな」

「これが、たった3歳の子供の脳だと?」

 彼らはただ、目の前のデータに圧倒され、立ち尽くしていた。


 知能検査が終わると、私は別の検査室に移動し、身体測定が行われた。身長や体重、そして反射神経のテスト。どれも私には退屈な作業だったが、淡々とこなす。

「アオイちゃん、本当にすごいわね。全然怖がらないんだね」

 研究員が感心したように声をかけてくるが、私は軽く頷くだけだ。

「普通の子供ならどうするのだろう?」

 その疑問は私の中で繰り返されていた。


 すべての検査が終わると、父親が迎えに来た。

 研究者たちが父親に向かって何かを熱心に話しているのが聞こえる。

「彼女の能力はまさに驚異的です。この年齢でここまでの知能を持っているなんて……普通では考えられません」

 父親はその言葉に目を輝かせる。

「そうだろう。だから言っただろう、アオイは特別なんだ。彼女の力は世界を変えられる……いや、もっと価値のあるものにできるんだ」

 その言葉を聞きながら、私は心の中で何度も問いかけていた。

「私が特別だと言うのなら、どうして私はこんなに孤独なのだろう?」


 帰りの車の中、父親はご機嫌だった。

「アオイ、お前はすごいぞ。世界中の誰もが驚く力を持っているんだ」

 私は答えなかった。無言で、ただ窓の外に視線を向けていた。夜の景色が目の前を流れていく。その静けさが、心の中の不安を増幅させる。


 家に戻ると、待っていたのは母親の冷たい視線だった。

「また研究所?……もうやめてよ!」

 母親の声は震えていたが、その裏に隠された苛立ちも明確に感じ取れた。


「協力費のおかげで暮らせているんだぞ。それが分からないのか!」

 父親の返しが、また一層二人の距離を広げていく。


 私は耳を塞ぎたくなる気持ちを抑え、ふと考える。

「私の能力は、そんなに特別なんだろうか?」

 誰にも答えの出せない問いが、再び心の中に広がっていた。


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