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第17話:終焉の先に

 アオイは冷徹な目で実験室の中を見つめていた。前方の巨大な装置が微かな振動を繰り返し、白熱した光を放ちながら水素融合の実験が進行していく。彼女は心の中でその光景に何の感情も抱かず、ただ無機質にそのすべてを観察していた。しかし、その背後で、彼女の心は他の何もかもを引き裂くような想念で満ちていた。


「もし私が普通の子供だったら、母さんは幸せになっていただろうか…」


 その言葉は、何度も何度も頭の中を反響していた。アオイは自分が生まれてきたことが、母親にどれほどの苦しみを与えたのかを知っている。もし、普通の子供だったら、母親は笑って過ごせたのだろうか。普通であることを望んだ自分が、母を死に追いやったのだという罪の意識が、彼女の胸を締めつける。


「私が普通を望まなければ、父はこんなふうに堕落していなかったかもしれない…」


 父は、彼女が生まれたときからどこかおかしかった。アオイの異常な能力を、彼女自身が理解する前から、それを金銭に変えようと必死だった。結果、父の心は完全に腐り果て、アオイをただの「道具」としてしか見なくなった。


「人類は、私が発明した水素融合技術を平和に使うことができるのだろうか?」


 アオイの目は、実験装置を見つめながらふとわずかな不安に包まれた。彼女が開発した技術は、食料問題を解決し、水質浄化、エネルギー問題を根本から変える可能性を秘めていた。しかし、その力を悪用する者たちがいるのも知っている。その結果をもたらすのは自分の手のひらの上だった。


 そんな思いを抱えながら、アオイはふと周囲の様子を見回した。九条をはじめとする研究所の面々は、それぞれの欲望に満ちた目で実験の行方を見守っている。その背後にある欲望、金銭、力、支配の思いがひしひしと伝わってきて、アオイはその異様な空気に胸の奥で嫌悪感を覚えた。それでも、彼女は目の前の実験を見守り続けた。もう止めることはできないのだから。


「どうか、これが人類を幸せに導くものでありますように。」


 その願いは、どこか諦めのような響きを帯びていた。


 突如、実験室の中で警報が鳴り響いた。アオイの心臓が一瞬、跳ね上がる。それを合図に、研究員たちは慌てて操作を開始し、装置周囲は騒然となった。アオイも無意識のうちに目を見開き、集中してその様子を見守る。


「どうして、こんなことに…」


 混乱する研究員たちの中、アオイは心の中で言葉を漏らした。だが、その言葉はすぐに消えていった。彼女がもはや、誰かのために手を差し伸べることはないのだと、自分でも理解していた。もう、すべてが終わるべきだと。


 そして、全ての目が集まる中で、アオイは静かに目を閉じた。そのとき、彼女の心の中で確信が生まれた。もう、終わりだ。すべてが、終わるのだ。


「私はもう、何もかも終わらせる。」


 その言葉を、アオイは心の中で呟いた。


 実験装置が最高潮に達したその瞬間、彼女は完全に心を無にし、すべてを受け入れた。そして、目の前で広がる閃光が、研究所を包み込んだ。


 次の瞬間、アオイが感じたのは、世界が消え去ったような圧倒的な静寂だった。周囲5キロ圏内、すべてを巻き込んだ閃光の中で、研究所は跡形もなく消え去った。


「これで、すべて終わった…」


 アオイの目には、無限の虚無が広がっていた。しかし、それと同時に、どこか解放感もあった。彼女の目の前にあったすべてのものが、永遠に消えたのだ。

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