証拠が必要?やってやろうじゃないの。
ミリアには婚約者がいる。
しかし彼は、二学年に上がった時に転入してきたとある女子生徒と節度のない距離感で四六時中一緒にいるようになってしまった。
確かにあの女子生徒は庇護欲をそそる小動物めいた可愛さがある。
花開く寸前の美女といった容姿のミリアとはまるで違う。
そこは認めるが、だからといって不貞を許すわけにはいかない。
そのため、ミリアは双方に忠告した。
友人であるにしても異性であることを理解した距離感を保って欲しい、と。
しかし彼らは笑って流したのだ。
なので、ミリアは婚約を白紙撤回、あるいは破棄するために行動を始めた。
まず準備したのは大量の白紙。そして万年筆である。
同時に、それらをファイリングするための別の帳面も購入した。念のために二冊分。
そうしてまずは同級生に、彼らについてどう思うかを証言して欲しい、具体的には書いて欲しいと伝えた。
理由を語らずとも察した同級生たちは素直に思ったままを書いてくれた。
婚約者であるはずのミリアを蔑ろにし、放置し、二人の世界を作ってずっとピッタリくっついている様はふしだらで不愉快だ、と。
中には、更に踏み込んで、ミリアが気の毒だからあんな最低な婚約者は捨てられてしまえばいいのに、とまで書いた生徒もいる。
そこから同級生に伝手を求め、広く生徒の意見を書いてもらった。
学年、名前、家名。証言日時。
それらも彼ら彼女ら自身に書いてもらった。
さらにさらに、教師陣にも意見を求めた。
用務員やカフェテリアの従業員、警備員と、学園内にいる人物の大半に彼らについての意見を求め、書かせた。
中には王族による意見もあったし、学園の理事長でさえ意見を書いた。
理事長はミリアの家とは無関係かつ婚約者の家の寄り親である公爵家の次期当主である。
要するにあちら側の人間だ。
最終的に用意していた帳面に、白紙の部分を切り取って証言のみの部分を抜粋して貼り付けていったのだが、帳面は四冊に及んだ。
生徒1、2、教師陣、用務員や警備員、である。
その帳面にはどの陣営の意見か分かるよう題をつけた。
で、ミリアはこれを父親に提出した。
言葉で訴えても「若い男はたまには浮足立つものサ」などと抜かしていた父親も、娘が揃えてきた証言の数々に真面目な顔をした。
それをまずはぱらぱらと捲り、その意見の多さと厳しさに眉間に皺を寄せた。
貴族で言うと、上は公爵家から下は男爵家まで、証言者が揃っている。
理事長でさえこれを問題視していて、教師陣も幾度となく注意をしているとある。
一番問題なのは、用務員と警備員の目撃証言である。
婚約者と女子生徒は一線を越えており、人目を忍んだつもりで学園内のあちこちで致している、とあったのだ。
さすがに事の最中に叱りつけては合体中の二人に何かあった時責任が取れないので事が済むまで待ってから注意しているが聞き入れた様子は一切ない、と。
「それで、これがわたくしが適当な人物に証言を偽証させたわけではない証明です。特別にお借りしてきた従業員リストです」
どさ、と、追加で一冊の帳面が机に置かれる。
学校の印章の施されたその帳面と、適当に見繕った用務員の名前を見比べてみれば、確かに今年度雇われている人物である。
「……全て確認したいが、一晩は猶予があるかな?」
「ええ。三日ほどお借りしてきました。
あらかじめ言っておきますけれど、気が向けばどこにでも種をまき散らす男の元に嫁ぐだなどとわたくしはごめんです。
この婚約をあちら有責で破棄か、最悪でも白紙撤回していただけないのでしたら、この情報を新聞社に売りますわ。
写しを準備しておりますの。お父様の分からないところに預けてありますし、わたくしの部屋を探しても無駄でしてよ」
全くの無表情の娘に、父親は冷や汗をかく。
夫人と同じ気性――流水の如く静かに、けれど怒りだけは烈火の如く。
淑女の仮面の裏は激しい気質が満ちている。
娘の言い分をある程度通さないと、本気でやばいと確信を得た。
幸いにして今日は学園が午前中だけだったので、今はまだ昼下がりである。
確認するための時間はなんとかある。
「明日の、ミリアが登校するより前には結論を出そう。
それまでなら待てるかい?」
「ええ、構いませんわ」
「では父はこれを読むから」
するりと淑女の礼をしてミリアは下がる。
彼女の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、父親はまずは生徒の1番から目を通し始める。
聴取を開始した日から毎日この帳面に証言の紙を貼っていたのだろう、始まりは二か月ほど前からだ。
ミリアが夕食の席で名前を出したことのある生徒たちの証言から始まり、少しずつ関連性が下がっていく。
なのにほとんど全員が堂々たる不貞を行う婚約者とその相手への軽蔑を示している。
内容をしっかり理解しながら読み進める。
学園には父親も通ったことがある。
なのでどういう風にどこに何があるのかも知っている。
だから、ここまで広く不貞が知れ渡るということは、中庭で睦み合っていたとしか思えない。
カフェテリアの従業員もそれを知っているのならカフェテリアでもそうだったのだろうとも分かる。
中庭でそんな風に振る舞っていたせいだろう、中庭で友人とゆったり過ごしたいのに邪魔だからどうにかなって欲しい、という意見が散見される。
ただのバカップルじゃなくて不貞カップルだから始末に負えない、と吐き捨てるような意見も多い。
ちなみに完全否定の意見だけではない。
二人はうまくいっていて幸せなのだからミリアが身を引いて然るべきだという意見も存在した。
これは男爵家や準男爵家、平民に限られてくる。
政略結婚のなんたるかを理解しきっていないが故の考えなのだろうと父親は考えた。
教師陣の意見書きは惨憺たる評価しかない。
見かけた際に、紳士淑女としての節度を持つよう説いたが、理解した様子はなかった、とある。
礼節の担当教師に至っては、各々を別個で呼び出して指導したが、指導を終えてすぐにまた絡み合うので己の指導が間違っているのかと自信を喪失したとまである。この教師には父も世話になった記憶があるが、厳格ながら優しい教師で、根気強い淑女であったはずだ。
理事長も、このままの状態が続くのであれば学園の風紀に差し支えるので退学処分を検討していると赤裸々に述べている。
もうこの時点で父親は婚約破棄を決意していた。
婚約を無理矢理継続させた場合、お互いの家名に泥を塗るだけの結果に終わるだろう。なんならあちらは件の令嬢を妾として迎え入れ、ミリアとは子を作らずに妾の子を跡継ぎにしかねない。それでは婚姻の意味がないではないか。
惰性で従業員等の帳面に手を伸ばすが、貴族にとっては背景である彼らが目撃する婚約者とその相手の情事に耽る様子は不愉快極まりない。
この国では、貴族の男女ともに貞淑であることが好まれ、妾や愛人を作る場合はやむを得ない場合に限るとされている。夫が妻に手を出したくない、あるいは飽きたからという理由での場合は軽蔑の対象である。
故に父親も女は妻しか知らない。それでいいと思っているし、妻が負担に感じるだろう時は遠慮するという術も知っている。
同世代の男たちは皆そうだ。
紳士クラブで女について語る時、彼らは妻の好ましい部分をよく話す。もちろん愚痴も言うが、それ以上に自慢がしたいのだ。
そういった席で、愛人やら妾やらを抱えた紳士はほんの僅かほどの同類と一緒に大人しくしている。それは当然の話になってくるが、誰も妻ではない他所の女の自慢話などされたくないから、露骨にではないが邪険にされ、された同士で集まっている他ないからである。
ともかく、そういった性に厳格なこの国の紳士の一人であるところの父親にとって、婚約者という定められた相手がいるにも関わらず、他なる女に溺れるというだけでおぞ気が走る。
何が浮足立っただけサ、だ、と過去の発言を悔いる。
ほんのりした浮気心でほんのちょっぴり――例えばカフェテリアや中庭のベンチで隣の席に座るだとか、親し気に言葉を交わすだとかはまだ理解は出来る。節度をほんのちょっぴりだけ超える程度ならまだ貞淑の範疇に収まるだろう。
しかし婚約者とその相手は、貞淑ではなくなった。
許し難き行いである。
全ての証言を読み終えた時には夕暮れとなっていたが、父親は便せんを手に取り婚約者の家へと手紙を書いた。
そちらの不貞行為が発覚したため、有責での婚約破棄を行うという宣言である。その話し合いのための日時を指定し、立会人はお互いの家の寄り親から一人だけとも定めた。
手紙を封筒に入れ、封蝋をした上で、執事に今すぐこれを届けさせよと命じる。
「今からですと晩餐前には届くかと思われます。
旦那様はお嬢様に結果をお伝えくださいますよう」
「ああ。私もさすがに目が覚めた」
速足で手紙の送達人員の元に向かう執事と扉の前で別れ、娘の部屋の前に立つ。
そうしてノックをすると、待っていたとばかりに娘の「どうぞ」が速やかに返ってきた。
ミリアは昔好んでいた絵本を読んでいた。
可愛らしい白ウサギが、寒さの苦手な母ウサギのためにマフラーを買いにいく童話の絵本である。
ある時からぱたりと読まなくなったと聞いて、大人になってしまったなと思っていたのだが。
「懐かしい本だな」
「あの方がからかってくるので、好きなのに読めなくなっていました。
でも、今はまた読む気持ちになれています。……それが嬉しい」
「そうか。ミリア。
婚約はあちらの有責で破棄する。
これは決定事項だ。あちらがどうごねようとも、お前が頑張って集めた証拠がある限り、この結果は覆らない。
軽く流してしまった父を許せとは言わない。
ただ、愚かであったと謝らせてはくれるかい」
「いいのです、お父様。わたくしも軽く受け取れる言い方をしてしまいました。お互い様です」
穏やかに微笑むミリアに、父親は何度か瞬きをして潤みそうになる瞳をごまかした。
身を焼き滅ぼさん限りの怒りを抱いて行動したろうに、その原因の一人でもある父にこれほど寛容な娘を得難く思ったのだ。
「必ずミリアの望む結末にすると誓うよ。
近日中に結果を出すから、それまであとほんの少しだけ耐えられるかい」
「はい。お父様を信じます」
「その信頼を裏切らぬよう努力するよ」
相手がたの家は早馬で届けられたその手紙に飛び上がって驚いた。
同時に、部屋でのほほんとしていた息子を殴りつけ、何を仕出かしたのだと怒鳴った。
しかし息子は何を言われているか分からないという顔で、その顔に当主は酷く腹が立って、集まってきた使用人たちに息子を部屋に軟禁し決して外に出すなと命じた。
ミリアの父は情深い。だがそれが故に怒りを見せた時はすさまじいものがあると、同級生だった当主は知っている。
ミリアの母を侮辱した他の生徒に決闘を申し込み、指の骨を三本ほど粉砕したことは同世代では有名な話だ。
しかもそれには後日談があり、家にも苦情を送って、その生徒を放逐させまでしている。無論学校も密かに退学させられて、だ。
当主は息子のやらかしを知らない。
そのやらかしとなった娯楽本が部屋にあることも気付かない。
西方面に一つ国を跨いだ先の、この国よりも性に奔放な面のある国の、恋愛小説を読みふけり、蒐集していたことなど、分からない。
この本たちは息子が町で見かけて買い求めたもので、当主は一切かかわっていないのだから。
婚約者の家は激震が走った状態で、当主の妻は理由も分からないのに可哀想だと泣き、弟妹は兄姉を持つ同世代から聞いた話でなんとなく理解しているのでどっちにもつかない。
使用人たちは急ごしらえで閂を扉の外側につけ、物理的に脱出できないようにした上で、窓からも逃げられぬように一時的に板でふさいだ。当主の命令である。
もちろんこの状態なので婚約者は登校など出来ない。
不貞相手は前日まで元気だった恋人がいないことに困惑していたが、ミリアが何かしたとは思わなかったようで、同じクラスの人間に話しかけては袖にされていた。
それを慰めるのが少数の賛同派で、彼らもさすがにミリアに矛先を向けるわけにはいかないことを理解している。
腐っても貴族令嬢である。しかも格上の。
ケンカを売った場合、家が潰されるくらいは覚悟しないといけない。
聞き取りを受けているミリアと同じクラスの人間は、中庭が以前のように静かな状態に戻ったことで、ミリアが行動したのだと察している。
だが婚約者をどうにかした等と言う噂が出回れば彼女の評価が悪くなる可能性があるので、
「今日はなんだか雰囲気が落ち着いていて心地よいですわ。ね、ミリア様」
などと、迂遠な物言いで、祝福を送った。
それにミリアもそうですわね、と、静かに微笑んで返す。
実際、ミリアも数か月振りに味わう桃色空気のない学校に満足している。
色恋に狂った男女が織りなす独特のあの空気感には辟易していた。
貞淑であることが求められる貴族にとって、あれは異常だった。
もちろんミリアにとっても。
異国ではこの国ほど貞淑さを求められないという。
それがミリアには信じられない。
ふしだらだとかそういった潔癖さによるものではなく、政略をなんだと思っているのだという怒りだ。
この国の貴族でも、恋愛結婚をする夫婦はゼロではない。
学園に入学するまでの年齢で婚約を結んでいなかった令嬢令息たちが好ましいと思った人物にアピールし、お互いのことを知った上で家に報告する場合が多い。
なので恋愛結婚に関してはなんとも思わない。なんならミリアの両親は、付き合いのある家の子供同士で交流していた際に両親が一目惚れしあったので結ばれた恋愛結婚派である。
そういった出会いがミリアにはなかったので父親がよさそうな縁談を受け入れたのが婚約者との関係の始まりである。
ちなみに、一応、お互いの領地の特産品の融通であるとかの話も入っている。なので政略である。
この融通の話はお互いに知っているし、縁付くことで商売に広がりを持つことも言われずとも分かる。
故にミリアと婚約者の結婚は意味があったのだ。
それを彼は台無しにした。
別にこれが恋愛関係での婚約なら問答無用で別れを告げて事後報告すればよかった。
だが政略なのだ。
家と家との結びつきのためなのだ。
貴族としてぬくぬくと暮らしてきておいて、その義務のひとつである家の道具としての婚姻さえマトモに出来ないのはどういうことか。
領民たちからの税で生活しているのに、領民たちに恩恵を与える政略の道具にさえなれないのはどういう理屈だ。
自分たちが誤れば家族だけでなく領民も憂き目にあうのだ。
故にこそ己を律するべきなのに、箍が外れた行動をする愚か者に容赦などいらない。
ミリアの怒りは、ぐつぐつと煮えたぎっていたのである。
平静を装った淑女の表情の裏で。
そうして数日が過ぎた頃、お互いの寄り親の親族に同席してもらった上で両家は話し合いの席に臨んだ。
まず初手でミリアの父はミリアお手製の調書をまとめた帳面を出す。
説明はこれをかいつまんで読んだ後に、ということで、困惑してミリア側の寄り親の親族を見れば、無表情。つまり彼は内容を知っていることになる。
では、と、得意の速読を活かして内容を見て――見る見るうちに顔色を悪くする婚約者の父。
いや生徒だけではと教師の帳面を見、念のためと従業員の帳面を見、放心したように天井を仰いだ。
その隣に座っていた婚約者側の寄り親の親族も帳面をめくり、ため息を吐く。
「これでは有責も致し方ないな。
しかもお前の息子はこれではもう跡継ぎにはなれまい。廃嫡しかないな」
「……です、な…………情けない話ですが、気付かず……」
「今日お前の屋敷に向かった時、使用人から気になる話を聞かされた。
異国の恋愛本を蒐集していたようだ。
本も時には虫干しが必要だとて軽く調べた時に気付いたと。
……他国では我が国よりも貞淑を求めないことが多い。
似た貞操感覚の異国の本ならば敢えて集めまい」
沈黙が下りる。
使用人が婚約者の親――雇用主よりも、その寄り親の親族へ打ち明けたのは、重大な情報故だろう。
今思えば、程度の話であっても、より上位の存在に話したほうが話は早いだろう、と。
決して裏切りではないし、むしろ原因を知れたのだから婚約者の父もどの使用人から聞いたのかなど訊ねない。
貞淑であるべきだとされて抑圧されていた青少年が、刺激的な恋愛本を読んで恋というものに過剰な憧れを抱き。
同時に婚約者ではない別の女性と恋に落ちた。
そうして、刺激的な本にあった通りに体の関係を持った。
恐らくだが、この推察は間違ってはいまい。
しかも、聴取の情報を繋ぎ合わせて考える限り、相手は貴族ではない。裕福な商家の娘である。つまり、……貞淑さの必要ない、平民だ。
その商家が娘に貴族の在り方を教育していたなら。
あるいは、学園ではじめに貴族の在り方を教えていたら。
何もかもがたらればで、今更どうにもならない。
「では、納得はしていただけたということで。本日この時を持って二人の婚約は破棄。
男性側の有責とし、契約に基づいた慰謝料を請求するものとする。
同時に不貞の相手である商家の娘にも同額を。よろしいかな?」
ミリアの寄り親関係者はにこやかに言い、帳面を片付けて空いた場所に書類を置く。
「額面は婚約時に取り決めたものから計算してある。
決して法外でもなければ莫大でもないので、可能であれば一括で。
金銭での支払いが難しければ当家で査定を行うので代替品そのものなり土地の権利書なりを持ってきてくれて構わないよ」
額面を確かめた二人は、静かに頷く。
確かに常識外の金額ではない。蓄財を切り崩せばなんとか支払えるだろう。
さすがに数年は節約をせねばなるまいがそれもケジメというもの。
むしろ、これでミリアの側は黙ってくれるのだから有難い。
この時は、そう判断していた。
ミリアは、別に情報をかき集めたのは自分だけとは言っていない。
同じように情報を集めていた生徒を知っている。
そして、その生徒の親の持つ会社の一つが、新聞社であることも知っていた。
しかもその傾向がゴシップ寄りであることも。
何分、生徒の聴取を先に始めたのはミリアだが、教師や従業員に話を聞いたのはその生徒が先である。
そして、その生徒はミリアより「数日」遅れて情報を完成させた。
結果、何がどうなったか。
王都に拠点を持つ新聞社が、支部とタイミングを合わせてとあるゴシップを取り上げた特集を発行した。
それはとある貴族令息が、商家の娘に入れあげた挙句肉体関係を結んだという醜聞。
しかもご丁寧に「貴族は婚約者と結婚するまで貞操を守らねばならず、異性とは節度のある距離を保ちハグさえしない」と注釈をつけたのだ。
元々情報の精度がよいと信頼を置かれているゴシップ紙の会社である。
不定期にしか発行されないというプレミア感もあり、その回は売れに売れた。
行き届いていないと判断してか増刷までされ――ゴシップ紙は、貴族家にも行き渡った。
使用人たちが回し読みしていたものを執事が見つけ、それを当主に捧げさせたのだ。
話を読む限り問題の二人は学園に通っている、となれば、現在学園に通っている娘息子、あるいは親族に真偽を問う。
そうなれば彼らは「ああ、有名ですよ」と返すわけだ。
有名過ぎて外にも知れていると思っている彼らは問われるままにその二人の素性を全て語るのだ。
だって、別に自分に傷がつく話ではないし。
ちなみにミリアは新聞社に持ち込むぞと脅しをかけた以上、父に一瞬ほんのり疑われた。
しかし学園に通う以外は基本的に家にいて、時たま学友と貴族向けのカフェでお茶をする程度の事しかしてないので、すぐ疑いは晴れた。
さすがに諸々伝手がありそうな新聞社とて、学園内にいる特定の令嬢に情報を売ってくれないかと唐突に話しかけはすまいと。
ミリアも疑われるだろうなと思いつつも、脅しに新聞社を持ち出したのでお互い様だと思っている。
動かなければ、もみ消そうとする動きを見せれば、個人的に使える金銭を新聞社に融通して国内の隅々まで醜聞が行き渡るようにするつもりだった。
今は主要な都市だけで済んでいるのでまだ優しい方である。
ミリアはその後、結婚相手は自分で探しますと言って学園内で静かに相手を見繕い、見事誠実な、しかしもっさりした外見と地味な稼業で嫁取りに失敗した男子生徒を捕まえた。
見た目など自分が関与して改造すればよろしい。
稼業とて食べていければそれでいいのだ。
なんなら発展させるための技術はミリアの家が握っているので、恩を売ってしまえばいい。
打算ありきで捕まえた婚約者だが、ミリアは何がきっかけだったかと言う質問にこう答えた。
「わたくし、尻に敷ける男性でないと多分うまくやっていけないわ。
こんな気性だから夫の一歩後ろで微笑むだけなんて出来やしないもの」
新たな婚約者殿には、魅惑のミリアの尻の下、頑張ってほしいものである。
途中から婚約者とかその相手に名前必要だなとは思ったんですが面倒なのでミリア以外に名前をつけませんでした。読みにくくてごめんな。