第9話 曇った眼に映る世界
「セシリア様、本当に御一緒に行かれなくてよろしかったのですか?ホテルに着いても…シャルル様にはお会い出来ませんよ…セシリア様!!」
(私達親子がタラップから降りた先では、驚きの事態が待ち受けていました。シャルルをお父様とお母様に取り上げられてしまったのです。後継者とはまだ、公には致していませんが…)
「私達と一緒にいる事で、親子として世間的に認識して頂けるだろう…お前も一緒に来るか?セシリア…」
(父の言葉を聞いた私は、息子の手を無理矢理解かれた事で何かが壊れ掛ける音が聞こえました。それが自らの心とも気が付かずに…。私は虚ろな表情で父と母と息子を見ていました。父の言葉に返答する余裕もなかった。私を置いて、父と母はシャルルを車に乗せてホテルに向かい始めました。そして私は、クリスの怒声で意識を取り戻しました。そして私は、遠ざかって行く車を見つめながら涙を流し始めます)
「…私には何も力はないもの……結局私は、あの人達の人形として生きて行くしかないんですもの……私は…」
(清二、やっぱり私は、貴方のように強くはなれないわ…。自らの力で檻から飛び出して、大空に羽ばたく事も出来ない…貴方との子も守れない女です…ごめんなさい)
「ただいま車が参ります…そちらで宿泊先のホテルに向かいます…宜しいですな!!セシリア様…」
(クリスの言葉は、普段の優しい声ではなく、私を叱りつけるような声でした。そして私は、迎えに来た車に乗り込み宿泊先のホテルに向かいました。シャルルの事でクリスが怒っているのは分かっていました。私は彼の言葉を頷いて聞く事しか出来ませんでした)
「貴女に助けを求めるような…そんな表情をなさっていましたよ…シャルル様は……。ホテルに到着致しましたよ…?」
(その言葉を聞くと私は、声を上げて泣きました。自らが一番守らなければいけない子を、私は手放してしまった。その事を悔いてもどうにもなりませんが…私は泣く事で感情を表に吐き出していました。そして車はホテルの入口に到着しました)
「参りましょうか…セシリア様…」
(車を降りた私達は、荷物を持ってくれるクリスと共に部屋に向かいました。そして彼は荷物を部屋に入れ終えると、入り口に立ち、私に背を向けて静かに語りかけて来ました)
「最後に一つだけ…実は私…清二様のお見送りに行っていたんです…あの日…あの御方は…私にこう仰って旅立たれました…」
(それは、思い出したくもない一日でした。彼のアパートで愛し合った私は、お屋敷に帰って来ると、軟禁生活のような扱いを受けていました。唯一の外出が許されていた図書館も禁じられていました。その理由は、彼が日本に帰国する日だったからです。その日にクリスを御屋敷で見かけた者は居ないと、他の執事達から聞いていました。その真実が今、打ち明けられました)
「…セシリアを俺は離れた地で愛して守り続けます。一緒にいられなくとも……俺はずっと、セシリアの傍にいるからと…」
(その言葉を聞くと、私は眼を見開いて膝から崩れ落ちて、ベッドに顔を伏せました。そしてクリスは静かに扉を開けて、外に出ました。そして室内からは、私の嗚咽が響き続けていました)