第6話 繊細で凛々しい戦乙女
「おい!!細野、お前こんな書類…、取引先に提示出来ると思っているのか!?」
(俺は仕事に身が入らずにいた。その原因は先日の居酒屋で聞いた報道の内容だった。ローズ家が日本に来るというもの、それも彼女の父親の後継者のお披露目の為と報じられていた。つまりは…彼女が…別の男性との婚姻を受け入れたか、それによって彼女が相手の男性の子を産み…その子のお披露目の為と思っていた。だが、フランスの秘宝と呼ばれるほどに、彼女の知名度は世界的にも有名なものだった。そのセシリアの婚姻報道は、俺が日本に帰国した後も聞いた事はなかった。まぁ、その彼女の事を知らなかった俺が言えた義理ではないのだがな…)
「綺麗な女性だよな…確か今日の午後には到着予定らしいぞ…セシリア・ローズ嬢か…確か…まだ未婚なんだよな?」
(作り直した書類をコピーしていると、同僚達の話し声が聞こえて来ていた。そしてそんな俺の傍に一人の女性が近寄って来ていた)
「細野君、何しけた面をしているのだい?もっとシャキッとしないか!…」
(あの日、居酒屋で出会った女性だった。彼女は同じ社に勤める、橘梨華さん、31歳。あの日後輩に頼まれて渋々合コンに参加していた女性だった。そんな彼女は俺とは違う部署に勤めていた。営業一課、そして俺は営業二課。敵対関係にある部署の者だった)
「橘さん、どうしたんですか?…貴女がわざわざ二課に来るなんて…」
(彼女の名を出すと、二課にいた者達は手を止めて、一斉に彼女の方を向き始める。そして彼女はそんな視線など気にせずに、淡々と述べて来た)
「なに…君と昼食でも共にしようと思ってな…」
(その誘いに俺は作業の手を一度止めて、上司に休憩に入る事を伝えると、俺は彼女と共に食堂に向かい始めた。そして食事を共にしながら、彼女なら話してもいいかも知れないと思い、事情を他の者達に聞こえない声で伝えると、彼女は目を見開き、そして箸を止め、席を勢いよく立ち上がる)
「なに!!…君…ッ!?」
(俺は慌てて彼女の口を手で塞いでいく。こんな事が知れたら世界的な一大スキャンダルになる。そうなっては社にも迷惑がかかる。だから、俺は彼女の口を急いで塞いだ)
「はぁはぁ…君…今の事が本当なら…大変な事になるぞ…ここで話す内容ではないな…席を離れようか…」
(そして食事を半分以上残した状態で、俺と彼女は食堂を後にして、人の少ない屋上に向かった)