異名持ち集会
ご覧いただきありがとうございます!
閑話です。主人公は出てきませんが話題にはされています( ˘ω˘)
クリスティア王国 王都ミゼリア
クリスティア城の一角にて
それぞれ見た目の異なる装備に身を包み、年齢も種族も異なる者達が集まっていた。
彼らはロの字にテーブルと椅子が並べられた場所に、次々と自由に腰掛けていく。
黒いロングワンピースに身を包み、シルバーグレーのひし形ショートヘアをかきあげながら本を読む老齢の女性
金紅:宝石彫刻師 エトワール
モスグリーンのロングドレスに白いショールを羽織り、シルバーの髪を低い位置で団子にまとめ、編み物を始めた老齢の女性
翠玉:薬師 リゼット
所々汚れた白いタンクトップに黒いニッカポッカ、頭にタオルを巻いた筋骨隆々な狼男は、腕を組んで目を瞑る
黒曜:鍛冶師 アイオン
刈り上げた黒髪、シンプルなTシャツにグレーのソムリエエプロンをつけた中年男性は、レシピ帳と書かれた小さなノートへ何かを書き込んでいる
琥珀:料理人 グレナダ
赤いロングドレスに身を包み、腰まで流れる艶やかな黒髪をなびかせ、足を組んで座り新しいデザインのスケッチを始めた中性的な美貌を持つ男性
柘榴:服飾職人 スカーレット
麦わら帽子を首にかけ、白いTシャツとオーバーオールに身を包み、朗らかに笑い、野菜に話しかける若い男性
孔雀:農家 ベルドゥーラ
緩く巻かれたブルーグレーの髪に、黒いゴシックドレスに身を包み、メイド服を着た人形を侍らせ優雅に紅茶を口に運ぶ少女
藍銅:人形師 スフィア
肩口で切りそろえられた焦げ茶髪の頭には大きなゴーグル、グレーのロングコートを羽織りあらゆるポケットから独特な色をした試験管を覗かせる若い女性
黄玉:錬金術師 アーシア
明るめのオレンジブラウンの髪をポニーテールにまとめて、白いロングTシャツの上に藍色のエプロンをつけて手持ちのノートに家具のデザインを描き始めた中年女性
碧玉:家具職人 エレノア
バジルゴールドのマッシュヘア、まるで狐のように目を細め、笑みを浮かべて周りの人間を観察する若い男性
菫青:商人 シエロ
青みがかった銀髪、縁無し眼鏡をかけた知的な美貌を持つ、古い言葉で書かれる書物に目を落とすエルフの男性
蒼玉:学者 カエルム
目の下まで伸びる青い髪を隠すように目深に黒いローブを被り、首元に黒い蛇を巻いた男性
黒玉:情報屋 リューイ
「……待たせたな。始めよう」
秘書官を連れて部屋に入ってきたのは、怜悧な美貌を持つクリスティア王国国王、シュタール=クリスティア
そうして、異名持ちの集会が始まるのであった。
「………黒玉、レダンの動きはどうだ」
「星詠みの魔女に告げられたのもあるため、虚空より扉を開ける魔族への対策を練っているようです」
黒玉と呼ばれた情報屋、リューイは静かに答えた。
「……日輪の国は今もなお閉じている。海竜の動きをどうにかしないと、安全に航行出来ぬな」
シュタールは小さくため息をついた。
日輪の国との交易が、海で暴れる巨大な海竜によって打撃を与えられているからだ。
海神の眷属である海竜を、こちらから攻撃する訳にはいかない。
海竜も、周りからみれば暴れているが、本竜に取っては遊びの範疇なのだ。
「……渡り人たちはどうだ」
「……まぁ、たくさん買ってくれますんで、景気は良いですねぇ」
「おう。武器もよく売れるし、弟子が弟子に取ったりしてるな」
「農業もよう手伝ってくれとります」
「……騒がしいけれど、ある意味お得意様ね」
「そうさね!若いやつもいるけどそこそこ年のやつもいるから、年齢層で結構売れ行きは変わるけど」
シュタールはちらりと金紅と翠玉の座る方向へ目を向ける。
「そうさねぇ……渡り人を弟子に取ったが、中々飽きないね。本職の方だが」
「ええ、覚えるのも早いし。素直で良い子だったわ」
「……金紅、貴女が渡り人を弟子に取ったのか」
蒼玉の異名を持つカエルムが、エトワールへと目を向ける。
エトワールは、カエルムへと目を向けた。
「なんだい、とっちゃ悪いのかい」
「悪くはない。貴女の弟子が増えるのは喜ばしいことだが……渡り人か」
「渡り人ならではの視点も持っているからね。中々ワタシにも刺激を貰っているさ」
「そうだね。金紅の弟子の子は素直で可愛い子さ」
柘榴の異名を持つスカーレットが、エトワールをみてそう言うと、リゼットも柔らかく笑って頷いた。
「……その言い方は、貴様たちも顔見知りと言うことだな」
「ワタシの弟子でもあり、リゼットの弟子でもあるのさ」
「ええ。………変なこと、しないで頂戴ね?」
瞬間、空気がピンと張り詰めた。
「………貴女の弟子に悪いことはしない」
「むしろ興味持ちましたわぁ」
菫青、シエロがにんまりと笑った。
「ワタシとリゼットのブローチつけてるからわかるだろうが、手を出したらキサマの頭に星を降らせるからね」
「それは勘弁ですわぁ……本気じゃないですかぁ」
「私も黙ってないわよ、シエロ?」
「わかってますよぉ!変なことしません!」
「それにカエルム、これを聞いたらお前さん、渡り人へと突撃したくなるぞ?」
「………なんだ」
エトワールはニヤリと笑うと、両手を広げて大げさな身振りをする。
「渡り人たちは、催し物が開かれてソル・ネーソスへ行ったようだ」
「…………………は?」
「………まぁ」
「………だからかぁー……」
「だからか!!!」
カエルムは目を丸くし、黄玉のアーシアは口に手を当て、琥珀のグレナダとスカーレットは頭を抱えた。
グレナダとスカーレットは、お互いに、少女から貰った例の幻の果実の事を思い浮かべていた。
「弟子から聞いたんだけどね。中々面白かったよ」
「……貴女の弟子と話がしたい」
「嫌だね」
「……いくらだ、いくら出せばいい。いくら出せば太陽島の話を聞ける」
「めっちゃ必死ですやんカエルムの旦那(笑)」
「伝説の島だぞ。気になるだろう」
「お前さんも弟子を取ればいいだろう」
「…………面倒だ」
「……お前たち」
「おっと、すまないね王よ。ついね」
「……後で俺にも聞かせろ」
「………お前さんもかい」
エトワールは大きくため息をついたが、弟子とのアポイントメントを取るために、まぁいいかと開き直るのであった。
-色々脱線しながら情報共有し終わった頃-
「……セレニア神聖王国もきな臭い。十分気を付けてくれ」
その場にいた人間が頷くのをみて、シュタールは解散を宣言した。
「王よ」
「……どうした」
退席しようとするシュタールを、エトワールが呼び止め、1通の手紙を渡す。
その手紙に目を通したあと、シュタールは手紙を燃やした。
「……明日の15時ならば30分は取れる」
「おや、30分でいいんだね?」
「………1時間用意する」
側に控えた秘書官が、手帳に書き込んでいく。
「……楽しみに待っているとしよう」
「爆弾持っていくから待っときな」
お互いに小声でニヤリと笑って、その場を離れた。
そして振り向くと、リゼットの近くにスカーレットとグレナダが座っていた。
エトワールは、その場に近寄って椅子に腰掛けた。
「……お二人は、もう食べたのか?」
「食べたわよ。貰ったときに」
「初めて食う美味さだったね」
「……勿体無いとか思わなかったんですか?」
スカーレットがちらりとエトワールを見る。
「まぁ思わんこともなかったが、弟子の想いがこもってたからね。もう暫く健康でいるさ」
「やはり見間違えじゃなかったようですね……あの鑑定結果は……」
「嬢ちゃん、妻の分までくれて……」
「本当に優しい子ね」
「あの子の想いを尊重してくれるなら、食べてくれ。ヴァイスも剥製にしようとしたが、最終的にはそのまま食べたよ」
「……わかった。帰ったら食べることにする」
「俺もクレハと食べることにします」
グレナダとスカーレットが深く頷くとその背後にシエロが近付いた。
「4人集まって、何のハナシしてらっしゃるんですかぁ?」
「太陽島で取れた果物のことよ」
リゼットが真っ先にそう答えたので、三人もリゼットに合わせて頷いた。
「そら気になりますなぁ!」
「ええ。太陽島の果物は普通の果物より大きいのよ」
「そうなんですかぁ!?」
「みせてあげるから、追求は無しよ?」
「……………ハイ」
「………………」
いつの間にかシエロの隣にカエルムも立っていた。
エトワールは、面倒くさそうな表情を浮かべた。
「ほらみて、この林檎。美味しそうでしょう?」
実は幻の果実を貰ったときに、少女から林檎も貰っていたリゼット。
アップルパイや林檎のタルトでも作ろうかと思っていた矢先、ちょっと厄介な二人に話しかけられたため、これ幸いと林檎に注目を集めさせた。
プラムの事は、バレたら絶対に喧しいわ、とリゼットは思った。
「か、鑑定しても???」
「商人の性よねぇ。いいわよ」
シエロはじっと林檎を見つめたあと、閉じてた目を見開いた。
「ほ、本当に太陽島の林檎じゃないですかぁ!」
「さっきからそう言ってるでしょう」
「リゼットさんがあーしてこうしたのかと」
「さすがに私がこんなに大きい林檎育てられないわ。ベルドゥーラならわかるけれど」
「……今、ぼくのこと呼びましたぁ〜?」
離れた所でエレノアと話していた孔雀、農家のベルドゥーラが、リゼット達のもとへ近付く。
そして林檎を視界に入れて、目を大きく見開いた。
「な、なななんですかその林檎!」
「太陽島の林檎よ」
「とっても太陽光を受けて、みずみずしく栄養満点に育ってます〜!」
「あら、さすがねベルドゥーラ」
「素晴らしい林檎ですねぇ!」
ベルドゥーラは、にこにこと笑う。
「ぼくの渡り人のお弟子さん達は、野菜の種を持って帰ってきたんですよぉ」
「あら、素敵じゃない。育てられそう?」
「これから研究して、試しながら育てていく予定ですよぉ」
「頑張んな、ベルドゥーラ」
「ええ、頑張りますねぇ」
「ぐぬぬぬ、私も渡り人を弟子に……いやでも」
「お前さんは商人だからなぁ……よく見極めないとだな」
「そうなんですよ……エトワールさん、どうやって弟子にしたんですかぁ……」
「弟子がつれてきたのさ」
「……私の弟子は連れてこないですねぇ!」
「…………………」
盛り上がる彼らを他所に、カエルムは、何かを考えるように口元に手を当てて無言で立っていた。
キャラクター考えるの楽しくて増やしすぎた感もありますが、今後いろいろなタイミングでこの人たちは出てくる予定です。




