サバイバルイベント 閑話 ②
他の人達のはなしになります。
ちょくちょく目線が変わるので、少し読みづらいかもしれません。
-ミツキ達が太陽の隠れ家でソルと会っていた頃-
島の北東部では、アンタイオスとの戦いが繰り広げられていた。
両手と両足が鎖で繋がれた巨人へ、プレイヤーたちは攻撃を繰り返していた。
鎖で繋がれているため単調な攻撃を繰り返すアンタイオスだが、そのパワーは絶大だ。
拳の振り下ろしで地面は抉れ爆風が巻き起こり、近寄るプレイヤーに嬉々として殴りかかるアンタイオス。
「…パワーは凄いが」
「防御力は低いみたいね」
「プレイヤーの人数は100集まんなかったが、全然削りきれそうだな」
「…そろそろ日も暮れる。早めに倒したい所だが」
アンタイオスの残りHPは2割。
魔法や遠距離攻撃、中にはアンタイオスに斬りかかる、殴りかかるプレイヤーもいるため、ハイペースで戦闘は続いている。
「目くらまし行くよ!【カプノース】」
エレメンタル・フランマ……ウィザードからの進化を経て炎に特化した魔法使いとなったチェリーによって、アンタイオスの顔周りに黒い煙が漂う。
それはアンタイオスの視界を奪い、その動きを鈍らせた。
「よっしゃ!【エアリアル・スラッシュ】!」
「【フォティア】!」
「【断罪ノ二撃】!」
「【スナイプ・ビート】!」
プレイヤーが次々とアンタイオスに向かってアーツを放つ。
それは、アンタイオスのHPを見事に削り取った。
アンタイオスは、地面に膝をついた。
「よし!」
「…………?」
「……おかしい」
「身体が、消えない」
「オオオオオオオオオオッ」
アンタイオスは咆哮をあげる。
その顔に笑みを浮かべながら。
バキンッ
そして、アンタイオスの能力を封じていた魔封じの鎖が、砕け散った。
「「!!」」
「お前らッまだ終わらねえぞ!」
「チッやはり2段階目があるよなァ!」
プレイヤーたちの目の前には、両手両足の自由になった巨人が、完全回復して立っていた。
特殊なフィールドが展開されているVSアンタイオス。
レベル的に参加をやめたレベル30超えたばかりのプレイヤーたちが、離れたところから戦闘の状況を観戦していた。
「ハイレベルな戦いだなぁ」
「人間業じゃないよなー」
「俺達もあんな動きができるんかな」
「うわ、なにあの魔法すごい」
彼らは戦闘を避けながらこの場所まで来た。
高度な技術が飛び交う戦場を目の前にして、彼らは忘れてしまった。
この場所が、レベル50以上のモンスターが出現する土地なのだと。
彼らの背後に黒い影が現れる。
しかし戦闘に夢中な彼らは気付かない。
リッチ Lv.53
アクティブ
【炎魔法】【水魔法】【土魔法】
【風魔法】【闇魔法】【死霊召喚】
【威圧】【吸魂】
黒いローブを纏った骸骨が嗤う。
手に持つ杖が黒く光ると、彼らの足元に黒い魔法陣が広がる。
「……えっ」
「な、何これ!?」
「う、動けねぇ!」
「ヒッ」
骸骨はカタカタと顎を鳴らして嗤う。
そして杖で地面を軽く叩くと、魔法陣から亡者の群れが出現し、彼らへと纏わりついた。
「ヒィッ」
「や、やだ!こっちこないで!」
「クソッなんだよ!」
「魔法も使えねえ!」
怯え惑う彼らの様子を愉しんだ後、リッチは空中に黒球を出現させる。
それをプレイヤーたちは怯えたように見上げ、リッチが跪いて両手を掲げると、黒球から、黒いオーラが彼らへと伸びた。
それはまるで触手のように蠢き、一瞬にしてプレイヤー1人のHPを吸い取った。
「ヒィッ」
「キャァァァァッ」
「なんだよ、これっ」
次々とプレイヤーのHPを奪うリッチ。
奪い取ったHPを自らの力へと変換する。
リッチを包む黒いオーラが威力を増す。
次の獲物を求めて、リッチは影の中へと姿を消した。
「クハッ」
「うわっ」
「うおおおお!?」
「あぶねえ!!」
両手両足が自由になったアンタイオスは、容赦なくフィールドを蹂躙する。
近寄れば腕や足を使った攻撃が、離れると魔法が飛んでくる。
プレイヤーたちは苦戦を強いられていた。
「オイオイめっちゃ楽しそうじゃんかよあの巨人さんよぉ」
ハイシールダーとしてアンタイオスの遠距離攻撃からウィザードやスナイパーたちを守っていたグラン。
彼の持つ盾は、かなり消耗していた。
ユアストの武器防具には、表示されていないが耐久値が存在する。
耐久値が減ると武器防具が汚れ、すり減る。武器に罅も入る。
耐久値の確認はできず、プレイヤーが判断するしかない。
「チッ結構消耗すんなぁこれ!」
「グランさんすみません!」
「気にすんな!攻撃続けろ!」
グランが展開しているアーツ、【防御陣】
薄くドームのように、プレイヤーたちを包んでいる。
グランの防御ステータス準拠で発動するアーツだ。
その【防御陣】の効果範囲の中から、ハイウィザードやスナイパーたちがアンタイオスを狙撃する。
遮蔽物が無いフィールドのため、どうしても狙われる彼らを守るためにグランはここにいる。
「さっさと倒してくれよな、カメリア……!」
武器防具の耐久値を回復するアイテムを消費しながら、グランは独りごちる。
「これ、課金アイテムだからそう数が無いんだよなぁ!」
そのカメリアは、相棒の魔剣を手にアンタイオスへと攻撃し続けていた。
(2段階目に入って、鎖の無くなったアンタイオスは目に見えて厄介になった)
【鑑定】でアンタイオスのレベルは見えず、イベントモンスターであることしか視えない。
目に見えてHPの減りも遅くなった。
攻撃も防御も上がっているだろう。
(ハハッ面白い!そういうのは好みだ!)
強敵との戦いは心躍る!
カメリアも笑みを浮かべながらアンタイオスへと斬りかかる。
覚えたてのアーツを使うには良い的だ。
「良いサンドバッグになってくれ!」
カメリアはアーツの発動準備に取り掛かった。
「はい回復。はい回復。はい回復………みんなポーションちゃんと準備しろよなー」
ハイプリーストのおこめは、参加しているプレイヤーたちを回復していた。
今回参加したプリースト系が10数人しかいなかったため、手分けして戦場を走り回り辻ヒールしていた。
その中で見つけたカメリアがアーツの発動準備をしているのを見つける。
「おや、カメリア使う気満々じゃん。カイトー、カメリアがアレ使うみたいよ。援護しに行くぞー」
「了解」
同じようにフィールドを駆け回ってバフをプレイヤーに付与していた付与術師のカイトが、カメリアの元へと駆けて行く。
「俺達も負けてらんねえなぁ」
「エクリクシにばかりいい格好はつけさせねえよ」
「行くぞ野郎共!斧がいっちゃん強いところ見せてやろうぜ!」
斧を手に持った重戦士のプレイヤー達が、雄叫びを上げてアンタイオスへと突進する。
「力こそ全て!【ハイブースト】ォ!からの【両断】ッ!」
「行くぞオラァ!【トマホーク】!」
「グッ……オオオオオッ」
「後は任せたぜええええ」
最後の一撃とばかりに技を放って、アンタイオスからの反撃を受けて消えていく重戦士たち。
「うおおおおかっけえぜアニキーーッ」
「わたしたちも!貢献しないと!」
「オラァァァ行くぜえええ」
プレイヤー達が玉砕覚悟でアーツを放っていく中、おこめはカメリアの回復に専念していた。
「ううううまだ足りないんか、カメリア!」
「ぐ、うぅ……あと、もう少しッ」
己のHPを剣に喰わせるカメリアに、何度も【ハイヒール】をかけるおこめ。
「5回も【ハイヒール】かけてるのにまだ喰うんかこの魔剣は!」
「しょうがない、それが〈生命喰らい〉の力だからな」
「こンの、食いしん坊魔剣!」
怒りながらも、また【ハイヒール】をかけるおこめに苦笑しながら、カメリアはHPを注ぐ。
‐イベント限定ダンジョン 太陽の隠れ家 が 完全クリアされました‐
「わっ」
「びっくりしたぁ!」
「ダンジョンもあるんかこの島ァ!」
戦闘中に鳴り響いたアナウンスに、戦場がどよめいた。
しかしアンタイオスの攻撃は止まらないため、それぞれ叫んでから攻撃に戻った。
(………何かやらかすとしたら怪しいのはレンなんだが、アイツが真面目にダンジョン攻略とかするような奴じゃないしな………ミツキと、か?)
やらかす事であれば、弟へ謎の信頼を寄せるカメリア。
……でもまぁ違うかもしれないな。それに教えてもくれんだろうし。
そんな事を考えていた時、突如カメリアの剣を握る片手が、腕ごと白い炎に包まれた。
「…ッ良し!カイト!ありったけのバフをくれ!」
「よし来た!行ってこいカメリア!」
「ほい!【ハイヒール】」
減ったHPをおこめが回復して、カイトの付与術を受けてカメリアが戦場を走り抜けて真っ直ぐアンタイオスの元へと接敵する。
残り4割となったアンタイオスは、カメリアを捉えてニヤリと笑った。
アンタイオスから放たれる水、砂の矢を避けてプレイヤー達は走る。
数で押してアンタイオスのHPも残り1割近くなってきたところ、アンタイオスは雄叫びをあげるとうっすら青いオーラを纏う。
アンタイオスの両腕で、水が渦巻き始めた。
「んえええ残りHPが少なくなったら強化される奴ーーーっ!」
「お約束!」
「だよなぁ……」
「なるほどポセイドンの息子だし水系が強いんだなアンタイオスは……」
「アンタは冷静に見てんじゃないわよ!」
プレイヤー達は自分への回復と、バフをかけ直してアンタイオスへと向き合う。
「もうこれはアレしかないな」
「もうラストスパートだよな」
「時間も遅いしなぁ」
「よし、『総攻撃』じゃーーー!」
自分の残りの力を込めて、アーツを放つのであった。
「【だるまおとし】ッ」
身の丈ほどの大槌を振り回す少女が、アンタイオスの片足へと大槌を振りぬいた。
バランスを崩したアンタイオスは地面に転がった。
「ハッざまあ!」
「いいから下がれ!」
「ぎゃっ」
盾を持った戦士が少女の首元の装備を引っ張って後ろへ放り投げる。
その目の前を、アンタイオスの片手が通り過ぎていった。
「……あ、ありがと」
「礼はいい!畳み掛けるぞ!」
「う、うん!【ファイアースタンプ】!」
少女の大槌が打ち付けられた場所から、炎が吹き出す。
それは容赦なくアンタイオスの胴体を焼いた。
「オラオラオラオラァ!」
「ウォーターボム!ウォーターボム!」
「【爆発】!」
「【毒手裏剣】!」
「【パラライズ】!」
「その首、獲ったッ!【首斬】!」
プレイヤー達の攻撃の合間を縫って、カメリアが首元で魔剣を斬り上げた。
「ガッ…」
アンタイオスは、小さくうめき声をあげて、光に包まれて消えた。
-レイドクエスト VSアンタイオス-
アンタイオスを倒しました。
参加報酬として参加者全員に30万リルが配られます。
巨人の遺跡がセーフティエリアとなりました。
「……よっしゃぁぁぁぁ!」
「うおおおおお勝ったああああああ!」
「つっっっかれたーーー!」
「おまいらお疲れーー!!」
プレイヤーたちは皆、地面へ座り込んだ。
カメリアも、魔剣を解除して深呼吸する。
「………ふぅ。中々スリルある戦いだったな」
「久しぶりにこんな強敵と戦ったね」
「ありがとうおこめ。回復してくれて助かった」
「それが仕事なのでー」
プレイヤー達はセーフティエリアになったため気を抜いて、各々戦闘を振り返る。
そこに、とある声が響き渡った。
『良き戦いであった』
「「「「「!!!」」」」」
その場にいたプレイヤー達は、即座に武器を構えて周りを警戒した。
『褒美だ。宝物庫に触れるといい』
並々ならぬ魔力を感じて何人かが上を見上げた所、金の髪に月桂冠を被った、白いキトンに赤いドレープを身に纏う恐ろしいほどの美貌を持った男が、空中で足を組んで頬杖をついてプレイヤーを見下ろしていた。
男のマーカーは、緑である。
NPCなのは間違いないが、それにしても圧が強い。
「……失礼だが、貴方は?」
『……本来なら供物無しに答える道理は無いが』
カメリアの問いに、男は無表情でそう呟いた。
『ここは太陽に祝福された太陽の島。太陽は太陽の概念を司るモノだ』
その場のプレイヤーが、息を呑んだ音が響いた。
「………太陽の、」
『1人1回のみ宝物庫に触れる事を許可する。2度目は無い。強欲は身を滅ぼすぞ』
そして瞬きの間に男は姿を消した。
プレイヤー達はどっと押し寄せる疲労感に、地面に座り込む。
「………ビビった!」
「何あれ……つっっっよ」
「やべー雰囲気しか無かったが???」
「太陽を司るモノって、太陽神、てこと!?」
「やべー人?と会っちまったな」
プレイヤーは今しがた出会った男について推測を話し合う。
そして宝物庫の事へと話題は逸れていった。
「……カメリア?」
「………………強そうな奴だったな」
「………あたしゃまだ死にたくないよ」
おこめが覗いたカメリアの顔には、薄く笑みが浮かんでいたとか。
そんなカメリアの背を、おこめとカイトは宝物庫へと押し進めた。
ちなみにミツキがログアウトしている間にアナウンスが流れたので、ミツキは一切アンタイオス関係の事は知りません。
ソル様も、供物を捧げてないので少し塩対応です。




