サバイバルイベント 5日目 ⑤
ご覧いただきありがとうございます!
「………箱?」
もう一度水の中に沈めてみると、景色を反射して箱の輪郭が見えづらくなっています。
なるほど光学迷彩のような。
完全に水の中と同化しているようにみえます。
(ゆっくりそれを地面に置くといい)
「はい」
レグルスに言われた通り、そっと、地面へと置きました。
こんなものが泉の中にあるなんて………怪しさ満点です。
わたしは泉の中から出ます。
『お疲れ様です、ミツキ。乾かしますね』
「わ!ありがとうございます」
眷属さんがわたしに手をかざすと、温風が吹いてきました。
それはわたしの身体の水分を乾かしてくれました。
自分に【清潔】もかけておきます。
………意味ないかもですがキュアポーションも飲みましょう。
「………何でしょうか、これ」
『……わかりません。初めて見ました』
眷属さんが眉を寄せながら近付くと、ハッと目を見開きました。
『………この魔力の気配は………ッ』
信じられない………そんな顔をしました。
小さく震えているようにも見えます。
『………ミツキ、申し訳ないですが、泉の中に戻してください』
「えっ……良いのですか?」
『……はい、そのほうが安全かと』
眷属さんが青い顔でそう言うので、わたしはそっと水の中へと箱を戻しました。
やはり箱は見えなくなりました。
どんな仕掛けなのでしょう。
『………プラムの木の元へ、戻りましょう。そちらでご説明しますね』
「わ、わかりました」
眷属さんは青い顔のままです。
何がわかったのでしょう。
プラムの木の元へ戻ってきました。
『……申し訳ございませんでした』
「いえ、とんでもないです。……何かわかったのですか?」
眷属さんはちらりと空を見上げると、迷った末に、意を決したように手を握りしめました。
『……あの箱から、月様のお力を感じました』
「……ルーナ様?」
『はい。月様は、夜を照らす月。寿命や農耕を司ってらっしゃいます。………ソル様とは、表と裏のようなご関係ですが、あまり仲がよろしくありません』
なるほど、月の………ソル様と表裏一体なのですね。
そしてあまり仲がよろしくないと………
『………少し前に、この島にいらした事があるのですが、その時他の眷属に聞いた話では、口論されていたとお伺いしています。………気分を害された月様が、島にこれを置いていったのかもしれません』
……気性の激しいお方なのでしょうか。
月を司る方々は皆様戦いに関係されてる方も多いですからね……
『………ソル様にお伺いすれば、何かわかるかもしれませんが。今はまだお勤めの最中ですので、お伺いはできません』
そうですね………頭上で燦々と輝いてます。
…………ソル様が光ってるとかではないんですよね???
(………なら、解呪の方を優先して考えた方が良いわね)
「解呪を優先的に、ですね」
(その眷属の子は、主の手を煩わせたくないのでしょう?)
「……きっと、そう思っているでしょう」
(なら、木の様子を見ながら考えましょう。水は当分サダルスウドの水をかけましょう。星の水だもの、普通の水より良いとおもうわ)
「……そうですね」
もうすぐお昼の時間になります。
わたしも一旦ログアウトして、ユアストで解呪に関する事をちょっと調べてみようかとおもいます。
眷属さんにその旨を伝えると、先ほどとは異なるガゼボに連れてきてくれました。
『こちら側にはモンスターはいません。休憩用のガゼボをお使い下さい』
「ありがとうございます。………こちら側には?」
『はい。この果樹園周り、島の北部はソル様の聖域ですので』
「聖域!」
なるほど!モンスターと出会わなかった訳です。
プラムの木のためでしょうか?
ひとまずガゼボをお借りしてログアウトしようと思います。
『渡り人が定期的にご自分の世界に戻られるのは知っています。……また来てくださいね』
「用事を済ませたら、また直ぐにお邪魔しますので!」
ちょっと寂しそうな眷属さんにわたしの心臓がギュッてなりました!!
お昼作って調べものしたらすぐ来ますからね!!!!
レシピを見ながら、肉味噌を作ります。
CMみて美味しそうだな、と思ったのです。
なので、きょうのお昼は肉味噌キャベツ丼です!
作り方を覚えられれば、ゲームの中でも作れますしね!
材料もそんなに多くないですし、時間もかからないですからね!
キャベツはざく切りにします。
味噌、醤油、酒、みりん、砂糖をレシピの通りに入れて合わせておきます。あ、豆板醤も入れましょう。
そしてフライパンで豚ひき肉、酒、塩胡椒などを振り入れて中火で炒めます。
火が通ったらキャベツを入れて炒めて、しんなりしてきたら調味料、片栗粉、水を入れます。
仕上げにごま油をかけて、完成!
ちょっと味見します。
…………ピリ辛!美味しいです。ご飯に乗せましょう。
「お兄ちゃん、できたよー」
「お、ありがとな」
リビングで天体雑誌を読む兄に声をかけます。
あれ今月号でしょうか………読み終わったら借りたいですね。
「ご飯、丼に好きなだけ盛って」
「おう。……このくらいだな」
「はいどうぞ」
フライパンの7割の肉味噌キャベツを兄の丼に盛り付けます。
たくさんたべますからね!
わたしは少なめで良いのです。
わたしも同じように盛って、小皿にマカロニサラダを出します。
「「いただきます」」
兄と共に挨拶して、ご飯と一緒に肉味噌キャベツを口に運びます。
んんんシャキシャキキャベツにとろりとした肉味噌がご飯によく合う!!
ピリ辛なのもいいアクセントです!
「うんま」
「美味しいね……」
ふたりして黙々と食べすすめました。
簡単で美味しい………なんて素晴らしい!
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
兄が洗い物してくれるそうなので、リビングで食休みします。
食べてすぐ横になるのは良くないと言われていますからね。
その間に調べものしましょう。
えっと、 〈ユアスト 呪い 解く 〉 検索っと。
…………見たことないアイテムやジョブ名が出て来ましたね。
解呪できるのは《聖水》、《ハイキュアポーション》といった上位アイテムのようです。
……キュアポーションの上位アイテムですか……
そうでした。キュアポーションは状態異常回復アイテムです。
………簡単な呪いであればキュアポーションでも回復できるのでしょうかね?
あとは《解呪師》と呼ばれるジョブもあるみたいです。
これは、NPCで見かけたそうです。
プレイヤーで解呪師になった人は現時点で確認できていないとのこと………
島には絶対いないですよね………
他に毒を取り除くアイテムとかあるでしょうか。
…………キュアポーションですよね!
ダメ元でキュアポーションかけますか………?
…………もしくはまたアルタール召喚、するかどうかですね。
質問でもいいと言っていましたし。
はっ!
………あれ、わたしもしかして一人では何も出来ないのでは???
ちょっと【星魔法】に頼りすぎているかもしれません。
………アストラルウィザードになるまでは1人でしたし、何でもやらないと!ってなっていましたけれど……
………わたし自身は、あまり成長出来ていないかもしれません。
ソファで頭を抱えていると、兄が洗い物を終えて戻ってきました。
「………どうしたよ?」
「………自分を見つめ直してた」
「急にどうした」
わたしの隣に座ってテレビをつけました。
……これは聞いてやるから話せみたいな感じですね。
思っていることを簡単に兄に伝えました。
「………新しい力に頼りすぎて自分が成長してないかも、ね……」
「うん………」
兄はしばらくソファに頭を預けて目を閉じます。
わたしも同じように頭を預けて天井を眺めます。
「………いいんじゃねえの?」
「へ?」
「聞いた感じだと、お前随分と器用貧乏な戦い方してんのな」
器用貧乏……
器用貧乏、でしょうか。
確かに何でも、1人でも出来るようにと色々やっている気がします。
「そりゃ色々手を出してるなら成長は遅くて当然だろ。それにお前はこの手のゲームは初めてだろ?そんで始めて1ヶ月も経ってないだろ。そう簡単に成長なんかしねーよ」
「でも、」
「それらを全て引っくるめて満月の物語なんだろ。力も使わないと勿体無いし、頼れるものは何でも頼ればいい。好きなことやるのがこのゲームだろ?」
「うん………」
「まぁ頼りすぎるのも、ってなるのは分かるけどな。お前結構遠慮するし」
「え」
え、遠慮!
してます!?!
結構図々しいかと思いました。
「でも好きなものはとことん譲らないし一生懸命だ。知識への貪欲さもある」
「そりゃ好きな事だもん。知りたくなるよね?」
「まぁその好奇心が偶に危ねえと思うこともあるが……ぶっちゃけると」
「結構、過保護だぞ。お前に寄ってくるやつらは」
俺も含めてなー。
そう言って頭をポンポンと撫でられました。
「お前たまに一直線で危なっかしい所あるから結構周りは心配なワケ。むしろ頼ってくれ」
「お兄ちゃん……」
「頼られるのは嬉しいモンなのさ。だからその力を使いこなすためにも、たくさん使ってたくさんコミュニケーション取るといいと思うぞー」
………考えすぎるのもわたしの悪いところかもしれません。
でも兄と話して、気持ちが軽くなりました。
たくさんの力を持っていても、使えなければ意味がないですし!
これからゲームの中で使いこなして、わたし自身も強くなれるように努力するしか!ですね!
「そうしたら不慣れな俺に教えてくれよ、センパイ?」
「………しょうがないから教えてあげるよ。……ありがとう」
ぽそっと言った感謝の言葉に、兄はわたしの頭をぐしゃぐしゃにしてリビングから出ていきました。
………こういう所、兄って感じがします。
………過保護ホイホイですか………そうでしたか………
「よし、迷惑にならない程度に、頼ろう!」
わたしはソファで拳を握ります。
アルタールを召喚して聞きましょう!
ちょっと空の雲行きが怪しいので、洗濯物を取り込んでからゲームにログインしましょう!
「………そういう所が遠慮しいなんだが、わかってないんだよなぁ」
ドアの外で、少女の兄は大きなため息をついた。
作者は主人公最強も好きですが、器用貧乏で周りに頼りながら強くなる主人公も大好きです。ミツキは、最強ではありませんが、たくさんの人と関わり、自分なりの物語を進めていく予定です。