サバイバルイベント 4日目 ⑩
ご覧いただきありがとうございます!
『良かろう良かろう。我が力、存分に貸し与えてやろうぞ』
頭の中で、女性の声が響きました。
不思議に思い顔を上げると、祭壇の真上の空中に亀裂が入っています。
それは徐々に広がり、他人が入れるような隙間が現れました。
その隙間の先には、宇宙空間のようなものが広がっています。
そして気付けば、周りの空間が動きを止めていました。
まるで時間が止まったかのような………
「え……」
『まさか喚ばれるとは思わなかったのう。エトワールもヴァイスも中々我を喚ばぬし。そなたに喚ばれるのは初めてじゃし、初回サービスと言うことで今回はそなたの命は貰わぬ』
「…………は、はい?」
若そうなお声とは裏腹にすごく古い話し方をされる女性の声が響きます。
「あ、あなたは?」
『……ふふ、我は宇宙の彼方から此方を覗くモノよ』
そ、そらの彼方から???
空?空の上ですか??
『……さてそなたの願いは状況を打破する力じゃったな。このフィールド効果を打ち消せば良いのか?』
「は、はい。お願いしても宜しいですか?」
『良かろう!我が力をとくと見るが良いぞ!』
その声とともに、青空と荒野だったフィールドが、徐々にプラネタリウムのようにドームの形で宇宙空間が拡がります。
『こちらに有利なフィールドを作れば良いのじゃ。この空間の中では【天体魔法】と【星魔法】で喚び出した星座にバフが、敵には重力による行動デバフがかかるでな』
「す、すごいです」
『生贄の質で貸せる力は増減するからの〜。弱いモンスターを生贄にするとちょっとしたバフや敵へのデバフ、そなたのパーティーメンバーへのバフとかその辺じゃの。別に戦闘だけではなく質問とかでも良いがの。逆に今回みたいにそなた、もしくはレアリティの高いモンスターを瀕死に追いやれば生贄にすることができるでな。それだと貸せる力は多くなるが、生贄にしたモンスターは素材落とさぬからのう』
「な、なるほど」
生贄の質でお借りできる力は増減、戦闘じゃなくても質問する時に生贄用意して喚び出せば知りたいことを教えてくれるんですね。
…………普通に考えましたがすごすぎでは???
在り方が神様みたいですが……
でもレアリティの高いモンスターを生贄にするのはやめておきましょう。
『あ、継続時間は15分しか無いからの。はやく倒した方が良いぞ』
「ぅえ!?わ、わかりました!どうやって戻ればいいんでしょうか」
『おお、今解除するでな』
徐々に戦場の空気が戻ってきました。
「………お力添え、ありがとうございます」
『なんのなんの。そなたたちを見てるだけでも楽しいんじゃが、喚ばれるともっと楽しいからの』
……………わたしたちを見ている、んですね?
どのような方なのでしょうか………
『……次はちゃんと、対価を貰う故』
「っ」
『宇宙の力、堪能せよ』
耳元で囁くように呟いたあと、女性の声は遠くなりました。
そして止まった時間が動き始めました。
視界の端に残り時間が表示されています。
「ッなんだ」
「な、なんですかこれ」
「レンさん!ミカゲさん!」
キュクロプスの動きが極端に鈍くなりました。
腕を上げる動作が、とてもゆっくりに見えます。
「えっと、博打成功しました!でも15分しか保たないので、今の内にHPを削りましょう!」
「…………ハハッいいじゃねェか!」
「うわぁナニコレ……研究したい……後で話せる範囲で聞かせて下さいねー!」
レンさんは赤黒いオーラを纏って重い1発を繰り返します。
ミカゲさんも爆発薬や氷結薬を何個も投げつけています。
シリウスもレグルスも、いつもより動きが速く一撃一撃が重そうです。
シリウスが噛み付いた途端その口元から青い炎が吹き出しました。
ちょ、シリウス!?それみたことないですよ!?
シリウスは青白い星ですが!それ由来でしょうか!?
シリウスが離れました。
噛み付いたところが炭化して風に吹かれて消えていきます。
さ、さすがです。焼き焦がすもの、の異名をもつだけありますね!
レグルスは……………!?
「………ちょ、ちょっとそこの獅子さん!?ボクと戦い方被ってません??」
ミカゲさんと共に戦うレグルスですが………
見間違いじゃなければ、なんか、大鎌を咥えてませんか!?
し、獅子の大鎌ですよね!?!
その大鎌何処から出したんですか!?
器用に身体を捻ってキュクロプスを切りつけています。
このバフは本来の力を発揮できるようになるバフでしょうか?
熟練度がまだ半分にも達して無さそうですからね、【星魔法】は………
ハイMPポーションでMPを回復します。
ちょっと短時間で回復しているので飲みすぎで気分が悪くなりましたが、なるべくはやくHPを削りたいので、耐えます。
「……【流星】ッ……うっ」
先程放った流星より、高い場所で魔法陣が展開されました。そしてキュクロプスに向かって加速して、一回り大きくなった流星が流れました。
「グオオオオッ!?」
そして大爆発しました。
お、おお………すごい威力です。
残り4割くらいになりました!
【天体魔法】へのバフ?……すごすぎです!
キュクロプスは動きづらそうですが、腕を振り下ろしたり横薙ぎにしたりしてきます。
それは先程よりもゆっくりなので、避けやすいので難なく避けられます。
「【クレセント・ムーン】!」
ミカゲさんが大鎌を下から上に振り上げます。
その軌道と斬撃が三日月のようです。かっこいいですね!
「【コンバート】 【テラ・インパクト】ッ」
聞きなれぬアーツを唱えたあと、レンさんが思いっきり右腕を振り抜きました。
大きな衝撃がキュクロプスを襲い、その上半身を大きく仰け反らせます。
その一撃は、残り2割まで減らしていたキュクロプスのHPを容赦なく消し飛ばしました。
す、すごいパワーです。
衝撃が離れた所にいるわたしの元まで届きました。
キュクロプスは唸りを上げて消えていきました。
た、倒せました………!
‐キュクロプスを倒しました‐
この戦いでは経験値のみの取得となります。
種族レベルが5上がりました。
任意の場所へステータスを割り振って下さい。
種族レベルが30になりましたので、【瞬間移動】のアクティブスキルを取得しました。
アクセサリースロットが1枠増えました。
SPを10獲得しました。
メインジョブレベルが上がりました。
メインジョブレベルがMaxになりました。
転職先を選んで下さい。
ま、待ってください!!
久しぶりにアナウンスが多いです!
一息つかせてください。
「ふぅ………」
杖を支えにしながら思わず地面へと座り込みます。
ステータスの操作は後でゆっくりやります。
もう遅めの時間ですし。
ミカゲさんがこちらへと駆けてきました。
「お疲れ様でしたな、ミツキ氏」
「はい、ミカゲさんもお疲れ様です」
「めっっっっちゃ働きましたわーーー、暗殺者に前衛させるのは鬼畜ですよぉ」
離れたところからレンさんがゆっくりと歩いてきます。
その横にはシリウスとレグルスが付き従うように歩いています。
なんだか………
「猛獣使いです……」
「猛獣使いですわ……」
わたしはミカゲさんと顔を見合わせて笑いました。
「レン氏、なんかいつもより歩くの遅くないです?」
「アーツ使った副作用」
「後で詳しくよろです」
『……まさか倒すとは』
3人集まっていた所、頭上からソル様の声が聞こえてきました。
見上げると、ゆっくりと空からソル様が降りてきます。
『楽しませてもらったぞ。よく戦った』
「あ、ありがとうございます」
『お前達の潜在能力は未知数だ。自分より高い力量を持つ敵との戦いも、臆すことなく立ち向かった。人はこうでなくてはな』
なにやらすごく楽しそうです。
よ、良かったです。
『さて褒美だな。これをやろう』
それぞれ、3人の前にウィンドウが表示されます。
太陽のブレスレット
太陽の下での戦闘時、全ステータス1.2倍になる。
「ひゃあ」
「うわあナニコレですわ」
『初回クリアボーナスの品だな。後これもやろう』
‐称号 太陽の祝福 を手に入れました ‐
‐イベントアイテム 拠点の石版 を手に入れました‐
‐100000リルを手に入れました‐
‐太陽鉱石を手に入れました‐
‐陽光珠を手に入れました‐
!!!!
「これは!」
『これからのお前達の冒険に役立つといいんだが』
「あ、ありがとうございます!」
『称号は太陽からの個人的な贈り物だが、拠点の石版はイベント限定アイテムで完全クリア報酬だ。それだけだと味気ないから完全クリア報酬に鉱石などを加えてやった』
「やっぱりメタくて自由ですなこの太陽さまは!?」
『イベント限定ダンジョン故、報酬に良いものが設定されて無かったからな』
完全クリア報酬!
こ、これで拠点を作ることができるのですか!
そしてこのダンジョン、完全クリアしたんですね!
じわじわと達成感が湧いてきました。
ソル様が目の前にいますし、確認は後にします。
『さて、出口を用意しよう。行き先はどこにするか……』
ソル様はウィンドウを表示して操作しています。
………………もしや島の全体図では?
『まぁ人気の無いところに出るようにしておこう。拠点に出来そうな所が近場にある。それでいいか?』
「はい、大丈夫です」
「あぁ」
「はいですわ」
『久方ぶりに人と関わったが、お前達の事は気に入った。これからも慢心せず自らの信念を貫く事だ』
わたし達の足元に魔法陣が展開されました。
このまま何処かに送ってくれるんですかね?
『太陽はいつでもお前達を照らしている。…では、さらば』
視界が光に包まれました。
あまりの眩しさに、目をぎゅっと瞑ります。
(『……星詠みの娘よ、次は太陽を喚ぶといい』)
「えっ」
(『喚ばれるのを楽しみにしている』)
思わず目を開けると、わたし達は砂浜に立っていました。
い、今直接脳内に語りかけられた気がします。
‐イベント限定ダンジョン 太陽の隠れ家 が 完全クリアされました‐
ひゃっ
あ、アナウンスが流れました。
これがSNSでみた、ワールドアナウンスと言うものでしょうか。
ダンジョン初回クリアや、フィールドボスを初めて倒した時などに流れるらしいですね!
わたし初めて聞きました。
そ、それよりもです。
………ソル様を、喚ぶ………?
…………あっ【神秘】の、【19:太陽】ですか!?
サンはソル様だった……?
……………考えるのは止めましょう。
よ、喚び出した時に考えます。
「お二人ともお疲れ様でした」
「お疲れ」
「お疲れ様ですわ」
「色々、ありましたね…」
どことなくお二人ともお疲れです。
中々濃い1日でしたからね。
「……この後はどうしますか?わたしは確認は明日にしようと思います……今日は少し疲れました」
「ボクも今日はこのままログアウトしたいですな…」
「……少しだけ待て」
レンさんが周りを見渡します。
わたしも見渡します。海と砂浜と森がみえま………山が近いですね。
「………ここは山の裏か」
「………そのようですね」
「………モンスターの気配はねえけど、拠点の場所だけ決めた方がいいんじゃねえか。ログアウトするにも」
「!確かにです」
「あのー、なんかお誂え向きな場所あるっぽいですぞー」
ミカゲさんがある方向を指差します。
そちらを見ると、森の中で木々に囲まれたちょっとした空間と小さな泉がありました。
「アレ、ヒイラギですわ。この世界だとモンスター避けにつかわれてるんですよ」
「拠点向けの場所か」
「恐らくそう作られているハズですわ」
なるほど、ではそちらに向かいましょう。
わたし達はゆっくりと森の中へ向かいました。
先程見えた場所に向かうと、およそ8畳程度の空間がありました。
ぐるっとヒイラギで囲まれており、小さな泉もあります。
すごい隠れ家的雰囲気です。
拠点の石版を取り出すと、ウィンドウが出ました。
‐拠点の石版を設置可能です 設置しますか?‐
設置場所 ヒイラギの木陰
あ、ヒイラギの木陰という名前がついてました。
「ここでよろしいですか?」
「ああ」
「良いですぞ」
拠点の石版を設置すると、石版を設置した範囲が薄く可視化されました。
‐ヒイラギの木陰 拠点の石版設置者 ミツキ ‐
ちゃんと設定出来たようです。
なんだか………
「……少し秘密基地みたいでわくわくします」
「………ミツキ氏の眩しさにボク浄化されそう」
「………そうだな」
レンさんが小さく笑いました。
ミカゲさんは眩しいものを見るような顔をこちらに向けます。
え、わくわくしませんか???
「で、ではそろそろ失礼しますね」
「うい。また明日ですな」
「お疲れ」
「はい、また明日!」
また明日。と挨拶が出来るのは、なんとなく嬉しいですね。
そんな事を考えながら、ログアウトしました。
ヘッドセットを置いて、身体を動かします。
今日も色々ありましたね。
窓を開けて、ベランダの柵に両腕を乗せて空を見上げます。
春の星座が瞬いています。
「…獅子の尾のデネボラ、獅子の心臓のレグルス、獅子の額のアルギエバ。アルギエバからアダフェラやラサラス達を繋ぐと、獅子の大鎌になる」
星と星を指で繋ぎます。
今日はシリウスもレグルスも大活躍でした。
明日は、ペルセウスさんも喚び出してお疲れ様会をしましょう。
ちょっとゆっくりしたい気分です。
ステータスの確認もありますしね!
よし、寝ましょう。
割と疲労感を感じていますからね。
部屋に戻って寝る準備をします。
よく眠れそうな感じがします。
おやすみなさい。
読者の方々、勘が良すぎるのでは???
それとも作者がわかり易すぎるんですかね???
次は島のプレイヤーの閑話を1話挟みます!




