遭遇②
ちょっと文章量多めです(当社比)
ご評価ありがとうございます!
は、徘徊型フィールドボスモンスター!?!
目があった瞬間に鳥肌が立ちました。
これは大変マズいです。
勝ち目どころか逃げ切れるか怪しいです。
せめてこの仔馬を逃がすことを考えなければ………
「グオオオオオオッ」
「ッ!」
大きな雄叫びをあげた瞬間にこちらへ四足歩行で走ってきます。
木々の間をくぐり抜けてジグザグに走ります。
はっやい熊ですね!!!!
わたしに並走するシリウスとアルタイル、ペルセウスさんも少し難しい顔をしています。
このレベル差です。
一撃貰っただけで致命傷でしょう。
とりあえずもう1回ポーションを仔馬にかけます。
すると傷が塞がりました。
「よかっ……たぁ!?」
ペルセウスさんに引っ張られて共に茂みに飛び込みます。
すぐ後ろをレッドグリズリーの腕が通り抜けて、木にぶつかり、その木がメキメキと音を立てて倒れました。
な、なんてパワーでしょう。
致命傷どころかわたしのHP全部無くなりますねこれ………
そしてすぐさまペルセウスさんはわたしを抱えて走り出します。
俵担ぎされてるので後ろを見やると、シリウスとアルタイルが牽制して注意を逸らしていました。
シリウス、アルタイル、少しの間だけ頑張って下さい……!
森を走ること5分程度、木々の間隔が広く明るくなってきました。
森の中の方が身を隠しやすいと思うので、ここで仔馬を逃します。
先程から目を覚まして、ずっとキョロキョロしていたのです。
ペルセウスさんに降ろして頂いて、仔馬を地面に立たせます。
この仔馬を襲ったのがレッドグリズリーかはわかりませんが、傷は治ったのでここから離れてもらいましょう。
仔馬が離れるまで、あのレッドグリズリーの目をわたしに向けさせてみせます。
わたしなら倒れても復活できますからね。
だからと言って、もしかしたら逃げられるかもしれませんので諦めずに走りますよ。
「さぁ、今のうちにはやく逃げて下さい」
「…」
仔馬はわたしの目をジッと見つめ、小さく鳴くと前へと進みます。
ある程度まで進むと、こちらを振り返りました。
「さあ!はやく!」
遠くから大きな音が聞こえてきます。
きっとレッドグリズリーです。
わたしの声を聞いて仔馬は勢い良く駆け出します。
それを見送って、わたしも音の方向へと走り出します。
せめて十分離れるくらいに時間稼ぎをしましょう。
「ありがとうございます二人とも!【身体強化(魔)】、ウォーターアロー!」
大分ボロボロになったシリウスとアルタイルに声をかけて、レッドグリズリーに向かって魔法を放ちます。
まだ【神秘】は使えませんし、魔法でHPを削りつつレッドグリズリーのスタミナ切れも狙うしかありません。
木々を利用して撹乱できるように頑張りましょう。
「ウォーターアロー!ウォーターアロー!」
うぐううウォーターアローはレッドグリズリーのHPをちょっとしか削ってくれません。
これがレベル差……!
「ウォーターアロー!ウォーターアロー!ウォーターアロー!」
水の矢を連続で放っていると、煩わしかったのか無作為に両腕を振り回します。
「ッ!アルタイル!」
その振り回しが空中にいたアルタイルに当たってしまいました。
アルタイルは小さく鳴いて、スーッと消えていきました。
大きなダメージを受けると、返還されるのでしょうか。
ありがとうございます、ごめんなさいアルタイル。
次に喚ぶときにはゆっくりしましょう!
なるべく止まらないように動き続けていれば、当然のように息が上がります。
「ッゲホ」
変に息を吸い込んでしまって、噎せてしまいました。
すると目の前でレッドグリズリーは大きく腕を振りかぶります。
「!」
ペルセウスさんが剣でレッドグリズリーの腕を弾くように、目の前で割り込んで下さいましたが、その爪撃はわたしの左腕を掠ります。
「いった!!!」
HP半分持ってかれました!
掠っただけで半分です!
ハイポーションでHPを回復して、ハイMPポーションでMPも回復します。
「〈さそり座〉!」
魔法陣から1匹のサソリが出現します。
アンタレスは毒の逸話をもつサソリですので、ちょっと毒で弱らせたい願望です。
諸説によればオリオンを毒殺したという神話もありますし、大きい身体のレッドグリズリーに毒の弱体を期待します。
アンタレスの大きさは50cmくらいです。
1度鋏を動かしたと思うと、地面へ潜りました。
よろしくお願いします、アンタレス!
「ウィンドアロー!」
わたしは気を引くために魔法を放ち続けます。
ペルセウスさんも短剣で積極的に残った片目を狙います。
蛇さんの石化はレジストされるようで、石化はしないみたいです。
シリウスも隙を見て噛み付いたりしますが、噛み付いた腕を振り回され、木にぶつかります。
「ガッ」
「シリウスッ!」
悔しそうに唸ってシリウスも消えていきました。
………泣きそうですが、泣いてられません。
レッドグリズリーのHPはまだ8割あります。
「ウォーターアロー!ウォーターアロー!」
「ガァァッ」
!ウォーターアローを腕で振り払いました。
こ、この!
そしてレッドグリズリーの足元でアンタレスが尻尾を足に刺します。
「ガッ!?」
そしてすぐに地面に潜ります。
レッドグリズリーを見ると、毒の状態異常マークがついています。
いい仕事しますね!アンタレス!
どうにか森の中を逃げ回ります。
割と、時間を稼げたでしょうか。
レッドグリズリーはまだHPを7割以上残してます。
「はぁっはぁっ」
ずっと走り回っているので、足がガクガクしてきました。
さすがに限界です。
振り返ってレッドグリズリーを視界に入れた瞬間に、木の根に足を引っ掛けて転がってしまいました。
「うぐっ」
そこにレッドグリズリーが体当たりをしてきます。
わたしは避けることもできず、まるでボールのように吹き飛びました。
衝撃と痛みがわたしの身体を襲います。
痛みでわたしは身体を丸めて、地面を転がります。
こんな痛みは現実でも感じたことありませんね。
なんてまるで他人事のように考えていました。
地面を転がって木の根元で止まりました。
HPがギリギリ、ほんの少しだけ残っているみたいです。
痛覚下げててもこの痛みとは、100%なんて天地がひっくり返ってもやりたくないですね。
ペルセウスさんが焦ったような顔をして、こちらに手を伸ばします。
すみませんペルセウスさん。
もう少し、防御とか上げておけば良かったですかね……
でも負けたままは、嫌なので。
わたしちょっと負けず嫌いなところもあるのです。
もう少し、強くなりたいです。
レッドグリズリーが手を振り上げるので、わたしは衝撃に備えて目をギュッと瞑ります。
「シッ」
「ガァッ!?」
頭上で何か大きな鈍い音が響きました。
そして軽く目の前に誰かが降りたのを気配で感じます。
そして何かを弾くような音が聞こえると、離れたところで目を瞑っててもわかる閃光が弾けました。
わたしは恐る恐る、目を開けました。
「あー、意識はあんのか」
「……あな、たは?」
確かこの間花ちゃんが見てた雑誌に載っていた、マッシュウルフという髪型でしょうか。
黒髪から覗く燃える炎のような鋭い紅い目がこちらを見下ろします。両腕にガントレット?のようなものを付けた男性がこちらを覗き込んでいました。
見えるマーカーは、プレイヤーのマーカーです。
「俺はレン。アレ、倒していいンなら倒すけど」
「………それは願ったり、叶ったりですね」
「ン、じゃあ倒すわ」
‐プレイヤー名 レンよりユニオン申請が届きました‐
ユニオン申請???
とりあえずわからないですが、承認します。
レンさんはわたしにハイポーションを振りかけると、何らかのオーラを纏ってレッドグリズリーへと接敵します。
「オラオラオラオラァ!」
そして目にも止まらぬ速さで殴ります。
…………殴ります!?
アーツも使わず身体強化っぽいやつだけで殴ってますね!?
ペルセウスさんに身体を起こすのを手伝ってもらいつつ、残りのHPをハイポーションで回復します。
す、すごい。
わたしがやっと削っていたHPがすごい勢いで減っていきます。
レン Lv.25
ヒューマン
???/???
わ、わぁ………すっごくレベル高いです。
納得の強さとパワーですね。
「グ、グオオオオオオッ」
レッドグリズリーのHPが5割まで減ると、レッドグリズリーが唸りをあげます。
その身体を赤黒いオーラで包み、顔に亀裂のような紋が刻まれます。
「オイ、動けるか?」
「はい、大丈夫です」
「アレは【覚醒】ってヤツだ。避けられるなら避けとけよ、アンタのレベルだと掠ったら死ぬぜ」
「わ、わかりました」
レッドグリズリーは明らかにパワーアップしています。
ちょっと移動手段を考えましょう。
人を乗せて逃げる神話をもつ、牡羊にしましょう。
「〈おひつじ座〉!」
ハマルは人を乗せて逃げ切った逸話を持ちますからね。
わたしは振り落とされないようにしっかりとハマルにしがみつきます。
うおお、これが生贄にされてしまうほどの金毛……ふわふわです。
「グガァァァァッ」
「ハマル、逃げて!」
ハマルはわたしを乗せて走り出します。
わたしは必死にしがみつき、しがみつきながら牽制で魔法を放ちます。
「ファイアーアロー!ウォーターアロー!」
「へぇ、面白い」
レンさんがニヤリと笑って、わたしを追いかけるレッドグリズリーを殴りつけます。
殴って蹴って、地面に転がします。
そこを容赦なく踏み抜きます。
いや容赦ないですね、ほんと。
「ひええ…」
レッドグリズリーも必死に避けて、どうにか距離を取ろうと目線を逸らします。
「オイオイ俺から目を逸してんじゃねェよ」
レンさんはそう言ってレッドグリズリーの懐に潜り込み、アッパーを放ちます。
直撃したレッドグリズリーの身体が宙に浮きました。
「せいぜい転がってろやァ!」
勢い良く蹴り飛ばし、レッドグリズリーは木々を薙ぎ倒しながら飛転がっていきます。
「よし、トドメさすか」
手をヒラヒラさせながら、レッドグリズリーに歩み寄るレンさんの後を、ハマルから降りて少しだけ間をあけてついていきます。
レッドグリズリーは、HPを僅かに残して倒れていました。
「どうする?」
レンさんは、目線をレッドグリズリーから逸らさずにこちらに問いかけます。
恐らく、トドメをさすかどうか聞いてくださってるのでしょう。
「ほぼレンさんが倒してくださったようなものなので。レンさんが倒して下さい」
「ン」
怖い人だと思いましたが、すごくわたしに配慮してくれてましたね。
レンさんはレッドグリズリーに拳を振り下ろします。
レッドグリズリーはポリゴンとなって消えていきました。
‐レッドグリズリーを倒しました‐
種族レベルが2上がりました。
任意の場所へステータスを割り振って下さい。
SPを4獲得しました。
メインジョブレベルが上がりました。
レッドグリズリーの爪、毛皮(小)を手に入れました。
わ、ほとんどレンさんが倒して下さったのにレベルアップしてしまいました。
しかも2つも。
私よりレベルが6も高かったですからね。
ミツキ Lv.14
ヒューマン
メインジョブ:アストラルウィザード Lv.5/サブ:薬師 Lv.1
ステータス
攻撃 26 +2 (+5)
防御 31 +2 (+14)
魔攻 50 +4 (+10)
魔防 31 +2 (+14)
敏捷 30 (+15)
幸運 26
よし、これでいいでしょう!
同じようにステータスを操作していたであろうレンさんにお声掛けします。
「レンさん、助けて頂いてありがとうございました」
「別に、通りかかっただけだ」
「いえ、助かりました!命の恩人です。お礼をさせてください!」
持っている素材とかで足りるでしょうか。
でもその前に、お昼をとっくに過ぎているので、一旦ログアウトだけさせて頂きたく………!
「ただ、お礼の前に少しだけログアウトさせて頂きたく………セーフティエリアとか、ありますかね?」
「………ついてこい」
レンさんは森の中心部に向かって歩き出します。
それについていきます。
「ペルセウスさん、ハマルもありがとうございます」
ペルセウスさんはコクリと頷いて、周囲を警戒しながら歩きます。
ハマルものんびり歩いています。
しばらく歩くと、泉がありました。
‐セーフティエリア ティアレの泉に入りました‐
「ありがとうございます!お礼をさせて頂きたいので、少しだけお時間下さい!」
「別に気にしないでいいけど」
「します!!午後少しだけ、お時間下さい」
「………わかった」
わたしの圧に、レンさんは頷いて下さいました。
なので急いでログアウトします。
現実の身体が空腹でアラームがなりそうです。
急いでご飯を済ませてログインしました。
レンさんは………いませんね。
ログアウトされてるんだと信じましょう。
わたしはキャンプセットを展開して、料理の準備をします。
こっちもお腹がすいてます。
簡単に料理作りましょう。
「〈みずがめ座〉」
サダルスウドを喚び出します。
お料理にも何か効果があるのか確かめようと思います。
シリウスとアルタイル、ペルセウスさんとアンタレスも喚び出します。
「さっきはありがとうございました。とても助かりました」
シリウスとアルタイルはわたしに頭を擦りつけて、気にすんなとでも伝えてくれているような気持ちです。
急いで周りから木の枝を集めて、ファイアーボールで火をつけます。
よし、いい感じに燃えました。魔法は便利です。
ジャイアントピグの豚バラ肉があるので、野菜を巻いて焼きましょう。
巻いて焼くだけ、簡単です。
無難な茄子とアスパラと大根にしましょう。
照り焼きなら今の調味料でいけますね。
しょうゆ、砂糖、みりん、料理酒、そしてサダルスウドの水で調味料として混ぜ合わせましょう。
巻きやすいサイズに切って、巻いて、塩コショウして、フライパンに油を引いて焼きます。
「♪」
ついつい鼻歌歌いながら焼き上げていきます。
いい感じに焼き目がついたので、調味料を入れます。
そのまま煮詰めつつ、野菜に火が通った事を確認してお皿に盛り付けます。
ふと横をみると、レンさんが胡座をかきながら頬杖ついてこちらを見つめてました。
ぜんっぜん気付きませんでした!!!
「わ、お待たせしてすみません!」
「いや平気」
そういいつつ目線はお皿に向かいます。
「………召し上がりますか?」
「………食ってみたい」
「わかりました!こちらをお召し上がりください」
アウトドアテーブルにお皿を載せて、新品のお箸を出します。
「いや、待ってる」
「そ、そうですか?急いで作りますね」
急いで同じように作り上げて、焼き立てのものをレンさん側に置きます。
ちなみにペルセウスさんたちにも同じもの作りました。
食べるかわからなかったのですが、ガツガツ食べてますね。
良かったです。
ちなみにお料理には何も効果はありませんでした。
「……悪いな」
「お礼の一部のようなものなので、どうぞ召し上がれ!」
「……イタダキマス」
レンさんは手を合わせて挨拶をして、茄子の肉巻きを口に運びます。
「……美味い」
「良かったです!」
わたしもそれを見届けて、大根の肉巻きを口に運びます。
うん、甘辛いタレが香ばしくて、大根もとろとろで美味しいです!
「……レンさんちょっと伺ってもよろしいですか」
「何」
「普段満腹度管理に何を食べてらっしゃるんでしょう?」
肉巻きを美味しそうに食べてくださるのは嬉しいのですが、レンさんほどの強さであればお金はたくさん持っていそうですし、素材もたくさんありそうです。
普段から美味しいもの食べてらっしゃるとおもったのですが。
「コレ」
「わっ」
レンさんはこちらに何かを放ります。
受け取ったものを見ると、なんかのパッケージですね。
携行食
味がしない携行食。お腹は膨れる。
満腹度+70
「わ、こんなのもあるんですね」
「ギルドで買える。安い」
「そ、そうなんですか」
でも味はしないのは寂しいですね。
わたしは食べるなら美味しいものを食べたいので!
「ゴチソウサマ。美味かった」
「お粗末様でした。良かったです」
受け取ったお皿を【清潔】で綺麗にし、キャンプセットを片付けます。
あっ今更ながら、わたし自己紹介していませんでした!?
「今更ですが、ミツキと言います。本当にありがとうございました。さてお礼の話ですが……」
「あーそれなら魔力草、一緒に探してくれないか」
「魔力草ですか?」
「ポーション作るのに最適な魔力草を納品しろって依頼取っちまったんだよ。失敗にさせるのも癪だし、片っ端から採取した魔力草はほぼちげぇし」
「そ、そうなんですか」
片っ端から採取してほぼ違うのは運が悪すぎるのではないかと。
ですがそれなら手伝えそうです!
「わたしにおまかせ下さい。どのくらい必要ですか?」
「30」
「わかりました。歩きながら採取します」
セーフティエリアを出て、ちょっとした話をしながら魔力草を採取します。
怖そうな雰囲気をお持ちですが、普通に話して下さいますね。
孤高の一匹狼みたいな人かと思いましたが、面倒見よさそうなタイプです。
レンさんはゲーム初めて1ヶ月程度らしいです。
アーツを使うのが嫌いなんだとか。
自分の身体が勝手に動くのが気に入らないそうです。
なるほど、そのような人もいるんですね。
よし、集め終えました。
「これで大丈夫だと思います」
「助かった」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
………この世界で初めてお話ししたプレイヤーです。
ここは勇気を出して、お誘いしてみましょう。
「………あの、よろしければフレンドになって頂けますでしょうか」
「………俺?」
「はい、わたし1人でプレイしているので、何かあったときにお話しできるフレンドさんが欲しくて」
「………」
少し考える素振りをみせるレンさん。
わたしは段々目線が地面へと下がります。
「……まぁいいけど」
「!本当ですか!」
「また飯食わせてくれンなら」
そんなのお安い御用ですよ!
料理人ではありませんが、振る舞わせて頂きます!
レンさんにフレンド申請して、承認して頂けました。
「強い敵がいたら連絡しろよ」
「はい!その時はメッセージ飛ばします」
森の出口でレンさんと別れます。
わたしもルクレシアまで戻りましょう。
………初めてのフレンドです。
とても嬉しいです。
フレンド一覧に名前があるのを確認して、メニューを閉じます。
な、何かあったら頼りにさせて頂きましょう。
わたしは懐中時計でルクレシアまで戻りました。
初めてのフレンド!
これからもミツキの冒険と出会いを見守って頂きたいです。