星詠みの魔女の試練
お待たせしました。
いつもご覧いただきありがとうございます!
ミーアさんにご挨拶して図書館の外でお待ちしていると、ヴァイスさんが図書館から出てきました。
折角買ったのに忘れてしまったお菓子と紅茶セットを今渡してしまいましょう。
何故!忘れてしまったのか!どうして………
「待たせてすまない」
「いえ、大丈夫です。……あの、美味しい紅茶をありがとうございました。これ、本当は最初にお渡ししたかったのですが……」
「………律儀な事だ。有難く受け取ろう」
ヴァイスさんは受け取ったものをまた黒い穴にしまいます。
それはヴァイスさん専用のアイテムボックスみたいな感じでしょうか????
でも禁書入れてましたよね???
「では森まで送ろう」
送る、とはどのように送って下さるのでしょう。
そんなルクレシアの近くに魔女さんが住む森は無さそうですし。
ヴァイスさんは懐から懐中時計を取り出しました。
そしてわたしには左手を差し出します。
「……申し訳ないが手を乗せてくれないか。触れていないと連れていけない」
「ひえっ……し、失礼します」
ヴァイスさんの左手に恐る恐る指先を乗せます。
その様子をみてヴァイスさんは、軽くわたしの指先を握って懐中時計を開きます。
すると、一瞬の浮遊感光に包まれて思わず目を瞑りました。
「……着いたぞ」
ヴァイスさんがゆっくり手を離し、声をかけて下さいましたので目を開けます。
「……森だ………」
そこは鬱蒼とした森でした。かろうじて道っぽいものはありますが、人気は全く無いですしモンスターの気配も無いですね。
「少し待てば案内が来る。付いて行けば迷わず辿り着けるだろう」
「は、はい。送って頂いてありがとうございます」
「……試練とは名ばかりの簡単な実力テストだ。健闘を祈る」
ヴァイスさんは瞬きの間に姿を消しました。
しゅ、瞬間移動ってやつでしょうか??
すごいです。
言われた通り案内とやらが来てくださるのを待ちます。
ここはとても静かで、それが少し怖くもあります。
「………お嬢さんが小僧の言っていた渡り人か?」
「ぴっ」
目を瞑ってその場で深呼吸をしていると、背後から声が聞こえました。
慌てて振り返ると、そこには大きめの犬がいました。
「……?何か付いているか?」
「い、いえ!その、小僧?と言うのがヴァイスさんでしたら、渡り人はわたしです。ミツキと申します。こちらお手紙です」
「ミツキと言うのか、よろしくな。………プロキオン、この手紙を婆さんのところに持っていけ」
「はーい!」
わっ気付きませんてした。大きめの犬の後ろに子犬もいました。手紙を受け取った子犬は、元気に駆け出して行きました。
プロキオン、もしやこいぬ座の……?
「よしミツキ、ついてきな」
「は、はい!」
先導してくださる犬さんの後をおっかなびっくりついていきます。
「渡り人がここに来るのは初めてだ」
「そうなのですか」
「魔女の婆さん、人との関わりが好きじゃないのさ」
「い、いきなりお邪魔してご迷惑でしたでしょうか……」
「迷惑だったら迎えなんて寄越さねえさ」
迷い無く前を向いてまっすぐ進む推定おおいぬ座の犬さんの後をついて歩くこと10分程度。
鬱蒼とした森を抜けると、そこには小さな池、畑が広がり、そしてログハウスが建っていました。
とてもいい雰囲気です。
わたしこういうの好きなんですよねぇ………
「おーい婆さん!連れてきたぞ!」
「ワタシを婆さんなんて呼ぶんじゃないよ!」
「ひょっ」
「シリウス、呼ぶならお婆様とお呼び」
「嫌だぜ」
犬さんがログハウスに向かって声を上げると、真後ろから女性の声が聞こえました。
慌てて振り返ります。
「アンタが小僧の言っていた渡り人だね?」
すっと伸びる背筋、シルバーグレーの髪をかき上げ、その身を包む黒衣はまるで挿絵に描かれるような魔女のよう。
ご年齢相応な皺が刻まれていますが、その目はとても強い意思をもってわたしを貫いています。
自信が感じられる立ち姿、とても格好いい女性です。
「ヴァイスさんのご紹介で来ました。ミツキと申します」
名前を告げて最敬礼します。
安易な言葉ですが、出来る女性!って感じがしますね。
「ワタシは〈星詠みの魔女〉と呼ばれている魔女さ。小僧から話は聞いている。アンタを少し試させてもらう」
「は、はい。よろしくお願いします」
「そう気負わなくていい。至ってシンプルなものさ。着いてくるといい」
魔女さんはそう言ってわたしに背を向けて森を進みます。
わたしは遅れないようについていきます。
試練とはどのようなものなのでしょうか。
ひとまず乗り越えられるように頑張りましょう。
わたしは決意を込めて、杖を取り出して握りしめました。
〈魔女視点〉
小僧が連れてきた渡り人は至って普通の少女だった。
「さて、小僧からの手紙にはお嬢さんは薬師だと聞いた。まず必要な素材を集めてみろ」
「は、はい」
少女は頷くと、迷い無く魔力草を採取していく。
それらは紛れもなくポーション作成に最適な品質のものだけ摘み取っている。
………そこまで迷い無く素材を採取するということはなにか植物系素材等を見分けるスキルを持っているのだろう。
ふむ、それはいい能力だ。
……………少女の身なりは整っている。
手に持つ杖はフラワープラントをソロ討伐して得るアイテムであるし、身にまとう装備はスカーレットの店の物だろう。
ウォーホースのブーツは履き慣れているようにもみえる。
少なくとも最低限戦えるし、ルクレシアの住民とも縁を繋いでいるようである。
「ポーションを作ってみてくれ」
「はい」
伝えたことは素直に従うこともできる。
少女は切り株をテーブルにしてポーションを作り始める。
ふむ、ポーション作りの手順は問題ないな。
他にも何個か作らせるが失敗もしていない。
そこはさすが翠玉薬師の弟子と言ったところか。
「できました」
「よくやった。では次だ」
戦えなければ意味がないからな。
どのくらい戦えるのかも見たい。
少女が低レベルのモンスターと戦うのを眺める。
ウルフや角ウサギの攻撃をひらりと避けている。
【気配察知】は持っているようだな。
「ファイアーアロー!」
熟練度2段階目の魔法も覚えている。
他にも水魔法や風魔法も2段階目までは成長している。
攻撃に積極的ではないが、弱点は狙うし上手く避けることもできる。
ジャイアントピグや暴れ牛との戦いも工夫しながら戦えている。
時折殴ったり蹴ったりしてモンスターと距離を取っている。
ふん、いいね。ワタシ好みの戦い方をする。
人並みには戦えるようだね。
まぁ、まだまだだがね。
「料理は出来るのかい」
「人並みには作れます」
「何か1品、作ってみてくれ」
「……わかりました。何か身体に合わない食べ物とかはありますか?」
「いや、特にないね」
「わかりました。少しお時間頂きますね」
開けた場所で少女はキャンプセットを展開する。
なんだい、いいの持ってんじゃないかい。
「初めて使いました。魔女さんはそちらにお掛けになってお待ちください」
少女はアウトドアチェアーへワタシを案内して、調理セットで料理を始める。
ふむ、結構迷いがないね。
食材を洗うのにウォーターボールを使ってるのは面白い。
【掃除】のスキルは持っていないようだね。
だがそれは普段から料理や洗い物をやり慣れてる証拠でもある。
随分と手際がいい。
しばらく待っていると、少女は2つ皿をアウトドアテーブルに並べた。
「鶏のトマト煮込みとお気に入りのクロワッサンです」
「ありがとう。いただくよ」
お口に合えば良いのですが、と心配そうに目を伏せる少女に礼を言ってその鶏のトマト煮込みを口に運ぶ。
柔らかい鶏肉に玉ねぎとトマトソースが絡んで美味しい。
少しガーリックな味付けは食欲をそそる。仕上げにとかけられたバジルも風味を良くしている。
これはコッコの肉だな。上手い。
これは食パンやガーリックトーストが合うね。
酒のつまみにいい。
「ふむ、美味しい」
「あ、ありがとうございます!」
大きく息を吐く少女をみて、魔女は考える。
見てる限りでは裏表ない素直な性格をしている。
手際もいいし礼儀も弁えている。
「俺も食べたいんだが」
「わっ……魔女さん、シリウスさんは、人間が作ったもの食べられますか?」
「……ソイツは何でも食うから大丈夫だろう。分けてやってくれ」
「はい!えと、シリウスさん、どのくらい召し上がりますか?」
「その皿に入るくらいでいいぜ」
久方ぶりの人の手料理にあの犬は尻尾振ってやがる。
……何かをする際には必ず上の者に確認し、尚且つ相手を尊重して話している。
少し優しすぎる気もするが、それも少女の良いところなんだろう。
翠玉薬師の弟子、スカーレットが低いレベルの少女に少し合わない性能の高い装備を着せる、ヴァイスの紹介………
「アンタ、仲間はいないのかい」
「……いないですね。元々自分の趣味のためにこの世界に来たようなものなので。1人で旅する予定です」
「趣味?」
「はい、えと、天体観測です」
「ほう」
天体観測をするためにこの世界に渡ってくるとは。
それは筋金入りだ。
そりゃ星も見つめる訳だ。
適性が有り過ぎる。
ふ、面白い。
言われたことをどうにかやり終えて、食事を口に運びながら考え事をしてらっしゃる魔女さんの様子を窺います。
キャンプセットが思ったよりも簡単に展開できてよかったです。魔力を込めるだけでセットできるとは、便利!
それに、レシピを頭に叩き込んでおいて、良かった!!!
レシピ本の鶏肉料理のところ読んで覚えて助かりましたわたし!!
使い終わった調理セットをウォーターボールで洗います。
ウォーターボールすごく便利です。
洗剤を使わなくても綺麗になります。
どんな仕組みなのでしょう。
スポンジは雑貨屋さんで買ったのでウォーターボールの中でゴシゴシしてますけどね。
「お嬢さん、美味かったぜ」
「はい、お粗末さまでした」
シリウスさんは器用にお皿を咥えて持ってきてくださいました。
………言葉を話す犬に慣れましたね。
いや普通の犬では無いんですけどね。
「よし!採用!」
魔女さん急に大きい声を出しました。
わたしは面接試験を受けていましたか????
「まあそもそも小僧は〈見る目〉がある。その小僧が送り出すならそれは間違いないから弟子にする気ではいたが」
「そ、そうなのですか。ヴァイスさんは魔女さんの部下、なんでしょうか?」
「なんだ、言ってなかったのか小僧は」
魔女さんは呆れたようにため息をつきます。
「あの小僧は〈星詠みの魔女〉の弟子さ。アイツも天体魔法を使える」
「………えええっ!?」
すごく詳しいと思っていましたが!
でも司書さんとして働いてらっしゃる???
「司書さんだと思ってました……」
「小僧は本が好きだからな。今度兄弟子と呼んでやるといい、面白いから」
「は、はぁ……」
カラカラと笑う魔女さんに変な返事しか出来ないわたしです。
採用頂けましたが、何をどうすれば良いのでしょう。
「と言う事で、アンタは今日からワタシの弟子にする。星に魅入られているなら天体魔法の素質があるからな。使い方を教えてやろう」
「あ、ありがとうございます!」
「渡り人がどんな風を吹かせてくれるか楽しみだ」
「ワタシは〈星詠みの魔女〉エトワールだ。今日からよろしく頼むぞ、ミツキ」
「……はい!よろしくお願いします、エトワール様!」
「堅い!お師匠様と呼びな!」
「は、はい!お師匠様!」
アウトドアチェアーに足を組んで座るエトワール様、もといお師匠様はまるで玉座に座る女王様のようで。
とてもまぶしく格好いいです。
‐称号 星詠みの魔女の弟子を手に入れました‐
特殊ジョブ:アストラルウィザードへの転職が可能になりました。
任意の転職先を選んでください。
あ、アストラルウィザード、とは???
「あの、お師匠様」
「なんだいミツキ」
「アストラルウィザードというものが、天体魔法を扱うジョブでしょうか?」
「ああ、そう言えば転職するために来たんだったね。そうさ、ワタシのジョブはアストラルウィザード。【天体魔法】【星魔法】を使い、【神秘】を用いて星詠みをするのさ」
情報が………情報が多いです!!!
不甲斐ない弟子に詳しくお教えください!!!
いつまでも誤字脱字が減らない……皆様ありがとうございます。
ご感想も目を通させて頂いております。
これからもこの作品をよろしくお願いします!




