レダン帝国防衛戦②
ご覧いただきありがとうございます!
前半はミツキ、後半は視点が一部プレイヤーです。
崖下へと着地するかと思いきや、マレフィックさんはそのまま空を飛びます。地上から困惑の視線を感じます。
「ま、マレフィックさん!」
『なーに』
「降りないんですか!?」
『雑魚を相手にする気はないんだよね』
「わたしも強敵から相手にする気はありませんでしたが!?」
『今のミツキの敵じゃないから』
そうは言いますけども!デーモンとは戦ったことがありませんので、どんな攻撃をしてくるのかどうか知っておきたいところです。
プレイヤーや帝国軍がレッサーデーモン、サキュバス、オーガたちと戦闘を始めたのを見下ろして、不意に前方からモンスターの気配を感じて顔を前方へと戻します。
前方には数体のデーモンが大きく翼を広げながらわたしたちを睨み、浮かんでいました。
その姿は悪魔と検索すれば出てくるような巨体で、禍々しい角と翼、青みがかった黒い肌をしています。
マレフィックさんは人間に近い見目をしていますが、デーモンは人型とは言えますが、異形という言葉も当てはまります。
『俺と雑魚を一緒にしないでよね』
「し、していませんが!」
『今見比べたでしょ。わかりやすいよね本当……今両手が塞がってるからミツキが倒して』
「!じゃあ、おろ『さないよ』わあっ! うぐぐ……【宇宙線】!」
俵担ぎのような体勢から、こ、これはプリンセスホールドに!塞がってなかったのに、両手を塞ぎましたよこの悪魔。
とても恥ずかしいですが、わたしの反応を楽しんでいるマレフィックさんがおろしてくれないので、もうどうにでもなれと杖をデーモンに向けました。
デーモン Lv.78
アクティブ
【闇魔法】【誘惑】【飛翔】
【狂化】【吸魂】【幻覚】
【生贄】【絡繰】
デーモン Lv.78
アクティブ
【闇魔法】【誘惑】【飛翔】
【狂化】【吸魂】【幻覚】
【生贄】【絡繰】
デーモン Lv.78
アクティブ
【闇魔法】【誘惑】【飛翔】
【狂化】【吸魂】【幻覚】
【生贄】【絡繰】
油断ならないアーツやスキルを持っていますね。
しかし宇宙線でHPを半分削ることができました。魔防がそこまで高くないかもしれません。
「【流星群】!」
デーモンから飛んでくる闇魔法による攻撃はマレフィックさんが最低限の動きで避けてくださるので安心です。……たまに酔いそうになりますけどね!大地が恋しいです。
「【二重詠唱】ウォーターボム!」
「ギャッ!」
「グッ!?……ガアアッ!!」
「うひょあ!」
ウォーターボムが直撃したデーモンが腕を振りかぶりながら接近してきました。
マレフィックさんはワルツを踊るように空中で回転します。その回転の勢いを利用したのか、勢い良くマレフィックさんの踵がデーモンの頭部へとめり込みました。
い、痛いです!これは痛いですよ!
見ただけで痛いです!HPをほんの少し残して、目の前のデーモンが落下しました。あれ気絶してませんか!?
『あ』
「え」
地上ではプレイヤー、帝国軍、モンスターたちが入り混じって戦闘をしています。そこに体の大きい瀕死のデーモンが直撃したら、被害が出るやもしれませ……っ!
慌てて杖を向けた瞬間、何か黒い物体が勢い良く落下中のデーモンへと衝突しました。
デーモンの姿は、消えました。
……遠距離を担当しているミューニション・スラッガーのメンバーでしょうか?全然見えませんでしたけどね。
「ロケット弾とか大砲でしょうか……」
『良識があればさすがに近距離にオレたちがいるのに爆発物は撃たないデショ。鉄の玉だよアレ』
良識があれば……?
そして鉄の玉だと、知る限りで思い浮かぶのは母の鉄球ですけどね……
「とりあえず地面を進みませんか……」
『えー……まあ、進んだからいいか』
「みぎゅ」
小さくため息をついたマレフィックさんは、力を抜くと自由落下を始めました。重力……!重力を感じます……!
「みぎゃあああああああ!!」
『うわうるさ……口は閉じなよね』
ぎゅっと目も口も閉じて衝撃に備えようと、体に力を込めます。らっかこわいです。
『……あー、ゴメンネ』
『この、おばかーーー!』
『イタッ』
音も立てずに地面へと着地したのか、次の瞬間には地面へとおろされました。そしてラクリマの声が聞こえて目を開けると、ラクリマが糸を鞭のようにしならせてマレフィックさんを攻撃してました。
「……ら、ラクリマ!?」
『これだから悪魔は!刹那の享楽よりも契約者を大事にしなさい!』
『……いやこれでも大切に扱って』
『薄氷とかガラスよりも丁寧に大切に扱ってよね!』
近寄ってきていたネクロマンサーが、ラクリマが振るう白い魔力糸で複数回打たれて消えました。それ光魔法とか込められてます??
『働け!』
『……ハイ』
『ミツキ、頑張ろうね!』
マレフィックさんを叱りとばして、しっかりものの姉……ラクリマは重力と光魔法を交互に扱いながら的確にモンスターを倒します。
それを見たアストラエアさんが苦笑し、こちらへ向かってくるサキュバスへ武器を構えて飛び出して行きました。
わたしも負けてられません。
もう一体近付いてきたサキュバスへと杖を向けます。
(【宇宙線】!)
『アハッ』
「!」
宇宙線を避けることもせず、笑みを浮かべて手を伸ばしてきたサキュバスの瞳が、淡い桃色に光ります。
これは、確か魅了の……!瞳を逸らすのは危険なので、どうにか攻撃しようと杖を動かした瞬間、サキュバスの瞳が暗くなりました。サキュバスが慌てて瞳を抑えます。
(【流星】!)
『ギャッ……!』
瞳を抑えたまま蹲るサキュバスは、流星が直撃して消えました。
瞳を隠す前にみた瞳の色……宇宙空間のような色彩でしたね。これはコスモス様の加護の、宇宙侵食の力でしょうか。
瞳を合わせることで相手を魅了するのであれば、瞳を侵食することで状態異常を阻害する……?
……こ、これはやばいかもです。しかもその加護のおかげで天体魔法の威力も上昇しているはずです。
それは一撃でHPが大きく減らせるわけです。
アクロバティックな動きでインキュバスという名のモンスターを地面へと叩き付けたマレフィックさんは、インキュバスを無視して次のデーモンへ接近します。
その瀕死のインキュバスへ炎魔法を放ち、周囲を見渡します。
扉の方向からは、絶えずモンスターが出現してきます。プレイヤーも帝国軍も武器を手にモンスターを倒していますが、モンスターの数が多いので戦場に広く散らばっているようです。
「ハアッ!」
『やあ!光よ!』
『ホラさっさと立ちなよ、雑魚共』
……アストラエアさんとラクリマは真剣に、真面目にモンスターへと攻撃を叩き込んでいますが、マレフィックさんはとても楽しそうです。
ブラックウルフを尾で締め上げながら、アリアが戻ってきました。ブラックウルフを投げ捨てると、わたしに巻き付きます。
……ワイルドに投げ捨てられたブラックウルフに水魔法を放ち、オフィウクスさんの姿を探します。
オフィウクスさんは杖を片手に、時々手足を使いながら最低限の動きでモンスターを攻撃していました。
オフィウクスさんの周囲に、瀕死のレッサーデーモンが転がっています。
「……邪魔だ」
「はいっ!フレイムピラー!」
鬱陶しいものを見る目で転がるレッサーデーモンを睨みつけ、わたしへと視線を向けて呟いたオフィウクスさんの言葉に勢いよく返事をして、レッサーデーモンを攻撃します。
シャーーーッ!
「……確かに転がしたのは俺だが、瀕死にさせねば邪魔だろう。お前もブラックウルフを投げ捨てていた」
シャーーーッ!シャーーーッ!
「…………」
アリアとオフィウクスさんが何か会話をしています!わたしにはわかりません!察せませんね……
アリアを撫でると、頬に擦り寄ってきました。
「ミツキッ!トドメ!」
「はいっ!ハイドロピラー!」
アストラエアさんがボロボロになったサキュバスの腹部へ向かって拳を打ち上げると、サキュバスが宙を舞いました。水の柱が直撃したサキュバスは、そのまま消えました。
それなりにプレイヤーが前進しているので、こちらまでくるモンスターは多くないです。
このままモンスターを倒しながら門の方向へと向かうのもアリですが……
前方は前方でわたしよりレベルの高いバルムンクのジークさんや、彼岸花の朱蓮さん、カメリアさんやレンさんたちがいるはずです。
戦力過多な気もしますけど……肝心な悪魔の姿が門の近くの悪魔しか見えないので、その悪魔が出現した時にはレイド戦のような感じになるんですかね。
『ミツキ、進むよ』
「うぐぬ……わかりました」
『この辺のモンスター手応えないから、悪魔を殴りに行こうか』
……アストラエアさんやラクリマが何とも言えない表情を浮かべましたが、悪魔というモンスターがどんな感じなのかは気になりますからね。
「地上を進みましょうね!!」
『……空のが速いのに』
「空はセシーさんたちテイマーに任せますから!!」
空を見上げた時、上空のデーモンやワイバーンといったモンスターを相手取るセシーさんが見えました。
セシーさんは大きなフクロウのようなモンスター、他にも数人のプレイヤーが大きな鳥やペガサスへと跨がって空を飛んでいました。
それに加えて離れた場所から放たれる光線や銃撃が、ワイバーンの翼を撃ち抜いたりするのが見えます。
離れた場所からモンスターを、あそこまで正確に撃ち抜けるのはきっと遠距離を専門にするジョブのプレイヤーでしょう。さすがです。
空を進んで万が一、マレフィックさんがモンスターと勘違いされて狙われる可能性もありますので空中飛行は遠慮します!
「生き残るために頑張りますが、わたしが倒れたら強制送還ですからね……」
『……そうだね。じゃあ雑魚を倒しながら進もう』
レベルが上がると手強いですけどね!
わたしたちは遠くに見える門へモンスターを倒しながら向かうことにして、厄介そうなモンスターに襲われている帝国兵やプレイヤーを支援しながら進みました。
◆◆◆
「ッ!【アークスラッシュ】!」
アーサーと共に戦場を駆けるアデラは、突如前方へ出現したデーモンによる黒い光線を魔力を込めた剣で切り裂くと、距離を取って魔眼を発動させた。
デーモン Lv.82
アクティブ 侯爵の贄
【闇魔法】【誘惑】【飛翔】
【狂化】【吸魂】【幻覚】
【生贄】【絡繰】
耐性:物理攻撃耐性(中)
吸収:闇属性魔法、闇属性攻撃
弱点:光属性
アンドレアルフスの尖兵3
「!?」
「アデラ!」
「チッ!物理攻撃耐性(中)!闇属性は吸収されるぞ!光属性で攻撃してくれ!」
「【聖なる刃】!」
アーサーは光を纏わせた剣でデーモンを切り裂き、アデラと共に距離を取る。
アデラは瞳を淡い光で覆いながら、目の前のデーモンを見つめていた。
「……何か書いてあるかい」
「状態の所に侯爵の贄と。そしてアンドレアルフスの尖兵3」
「それ、確か悪魔の名前では」
「……マジですか。これ尖兵がナンバリングされてるってことは数体いて、倒したら確実に上司出てきません??」
「贄を倒せば出てくるでしょうね。ミツキさんのレポートによれば、過去の戦闘でも爵位持ちの悪魔が出現しているようですし」
戦場の各地に、爵位持ち悪魔の尖兵が散在しているのだろう。他のプレイヤーにはアデラの魔眼のように細かく視ることが不可能であるため、知らないうちに尖兵を倒している可能性が高い。
「アデラ殿、ユーリフさんからの伝言です」
アーサーがデーモンへと攻撃を繰り出す中、アサシネイトのメンバーの一人がアデラの背後に降り立った。
「デーモンの中に、爵位持ちの贄と書かれているデーモンがいること。ラウム、アンドレアルフスという名の尖兵をみたと」
「……今まさに目の前のデーモンもそうなんだよなぁ。了解、一定数のデーモンを倒したら恐らく該当の悪魔が召喚されるため注意しろと伝えてくれ。カゲロウさんにも伝えてもらって、可能であれば各クランのマスターにも伝えてほしい」
「御意」
アデラの背後からアサシネイトの気配が消えたのを確認し、アーサーがデーモンを倒し剣を振り払った姿を見つめる。
アヴァロンを率いる、クランマスターであるアーサー。彼が握る聖剣・カリバーンは、悪魔に対して有用だろう。
バルムンクのジーク、ヒルト夫妻はかの竜殺しを尊敬しているのか、二人して両手剣を振るうドラゴンスレイヤーだ。戦闘力は申し分ない。
彼岸花の朱蓮は、その高い攻撃力でモンスターを倒す女傑。敵を倒せば倒すほど彼女の攻撃力は上がると聞いた。そのまま倒していてほしい。
パーティーで参加しているエクリクシのカメリアも、ソロで参加している侍も、狂人もいる。
戦力は、問題ないだろうが……
「あー、嫌な予感してきた」
「……フラグを立てないでくださいアデラ」
「モンスターの群れを倒したら悪魔出てきますよコレ。恐らくレイド戦になるでしょう。我々よりもレベルが高く、殺意も高いイベントボス」
「帝国軍を庇いつつ、悪魔との戦闘ですか」
「その聖剣の力を大いに奮っていただいて。あとは聖女さんたちも悪魔に対して何か特効とか持っていると助かるんですけどね」
「……ミツキさんの近くには悪魔がいますからね。もし近い場所にいれば、尋ねるのもアリでしょう」
アデラは戦闘開始前にミツキの近くで浮いていた男の姿を思い浮かべた。見目が良く、空想に出てきそうな角と翼を持った悪魔。
「……絶対契約者以外には塩対応」
「でしょうね」
「まあモンスターを倒すして進むしかないです」
アデラの言葉にアーサーは頷き、二人は再び前方へと移動をはじめた。
……その斜め前方で大きな爆発が起きたのをみて、二人は顔を見合わせると爆発が起きた方向とは別の方向へと走り出した。
◆◆◆
「めっちゃ爆発しましたわ」
ミカゲは相棒の大鎌を片手に、先程放り投げた爆発薬によって起きた爆発場所を見つめる。
想定以上の威力に、にんまりと笑みを浮かべた。この爆発薬に毒や酸などを加えたら、爆発以外でモンスターを弱らせられる確率も上がるかもしれない。
案の定、クレーターの中心にいたはずのデーモンは影も形も残らなかった。これは改良の余地アリと頭に書き込んだミカゲは、上空から向かってきたモンスターの攻撃を片手に握りしめた大鎌を振り上げて受け止めた。
次のデーモンは、先程のデーモンより体躯が大きく、理性的な感じがした。こちらを鋭い瞳で睨みつけてきた。
「敵討ちってやつですかね。まあ……ボクにとっては実験台ですけど。【死神の吐息】」
ミカゲの持つ大鎌を、黒紫色のオーラが包み込んだ。
それは炎のように揺らめいている。
「掠っても大ダメージ、ワンチャン即死!首元に注意してくださいね!」
眼鏡の奥の紫色の瞳が、怪しく煌めいた。
◆◆◆
「ハッ!」
宇宙の使徒であるソラは、重力を纏わせた両手両足を満遍なく使用し、迫りくるモンスターを倒しながら進んでいた。
先程空から落ちてくるデーモンへと、第一宇宙速度を利用して鉄球を投げつけた人物でもある。
「人型なら急所は人間と同じでしょう」
上から降ってくる黒い槍を避けながら宙に浮くサキュバスへ接近し飛び上がり、片足を掴み地面へと勢い良く打ち付け、思い切り首元へ向かって踵を振りおろす。
自身の生命の危険を感じたサキュバスは、渾身の力で体を逸らし、恐ろしいものを見る目でソラを見つめた。
「……あら、さすがに顔の近くの攻撃は嫌かしら。綺麗な顔に傷を付けたくない?」
『……ヒッ、コナイデ!』
「うーん、困ったわね……じゃあ、糧になってちょうだい。【吸血】」
怯え、戦意を喪失し震えるサキュバスの頬を撫でながらHPを吸ったソラの背後に、サクヤが立った。
「君は容赦ないね」
「生きるか死ぬかよ。生き残るには倒すしかないでしょう」
「僕は首を刎ねて終わりだからねぇ」
「武器があるにこしたことはないけれど、自分の手足のが扱いやすいのよね」
拳を握りしめるソラをみてサクヤは小さく笑みを浮かべた。自分の妻、強すぎる。
「さ、進みましょ。ミツキは恐らく彼と一緒に扉の方へ向かうでしょうし」
「そうだね。リューはどの辺りにいるのか見つけつつ進もうか」
ソラとサクヤはお互いに頷くと、不利な状況に陥っている帝国兵を助けつつ、モンスターを倒していった。
それらの戦闘を離れた場所で偶然見ていたプレイヤーは、首元を擦りながら「恐ろしいものをみた……」と震えていた。
宇宙の加護はすごいですねぇ(白目)
モンスターからミツキをみると、ミツキの背後に宇宙が広がっているかもしれませんね!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




