イベント前日②
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お師匠様の島へと移動しました。
戦闘の気配は、感じませんね。遠くでいっかくじゅう座が駆けて行くのは見えました。
『……やっぱり、雰囲気がちがうね』
「雰囲気が、ちがう?」
ぽつりと、思わず呟いたようなラクリマの言葉が聞こえたので、ラクリマの方向へ振り向くと、ラクリマはジッと島を見つめていました。
『ミツキの島は世界樹があるから、こう、クリアな感じなんだけど、ここは在るけどない、というか……?』
「ラクリマの言いたいことはなんとなくわかるさ。掴みづらいというか、捉えにくいというか」
ラクリマの言葉に続いてアストラエアさんも頷きました。ふむ……わたしも見回しますが、特にこれといったものは感じませんね……
『特別な島なんだろね』
「お師匠様の島だからね……」
普通の島でないことは確かです。どこにあるのかもわかりませんし、どんな仕組みが施されているのかも知りませんからね。
森を進むと、お師匠様の家の庭先でお師匠様とヴァイスさんがなにやら話をしていました。
お師匠様とヴァイスさんはこちらに気付くと、小さく笑みを浮かべました。
「こんにちはお師匠様、ヴァイスさん」
「ミツキ、よく来たね」
「元気そうで何よりだ」
「学業に励んできました」
「そりゃ大切なことだね。しっかり学ぶと良い」
お師匠様の言葉に頷きます。
ラクリマがふわりと浮かんでヴァイスさんに近寄りました。そしてふわふわと周囲を飛びながらヴァイスさんに話しかけているようです。
「……ついに明日、ですね」
「そうさね。……今から緊張してどうする」
「はぅあっ!……バレバレでしたね」
わたしが神妙な面持ちで言葉を繰り出したからか、お師匠様は笑って軽くわたしの背中を叩きました。
いやどう切り出したものか迷いまして……!
「当日ワタシは帝都の防衛を担う。ヴァイスはシュタール王と共に国境での警戒と迎撃だ。ミツキ、お前さんは戦場に立つんだろう」
「はい。マレフィックさんと一緒に、悪魔と戦います」
「……そこがまあ、読めないところでもあるが。奴の力は本物だ、お前さんと契約もしているからそう簡単に裏切ることはないだろう」
「……裏切る可能性もあるんでしょうか」
「そりゃあね。だがまあマレフィックの場合は神秘の契約もあるから、裏切りは無いと断言できるだろうよ。こき使ってやれ」
……通常の悪魔召喚だと裏切りの可能性が出てきましたね。マレフィックさん以外を喚ぶつもりはありませんしできませんから、頭の片隅にでも留めておきましょう。
「マレフィックさんが多くの人目につくのは問題ないでしょうか?」
「問題ないだろう。そもそも奴は普段奈落に収監されているから奴と会う方法は限られる。ワタシたち、もしくはタルタロスの管理者しか関わりがないからね。ワタシたちが喚ばなければ奴の目撃情報は皆無になるだろうよ」
確かに、そうですね。
わたしたち以外が会いたいと思っても会える存在ではありません。神秘に関わることでもありますし、魔法契約外の人には話せないかもしれません。
「……ミツキ」
「はい」
「言葉が通じるからといって、その言葉に惑わされてはいけないよ。だが頭ごなしに否定するのも違う。大切なのは言葉の真意を読み取り、信じるか信じないかちゃんと考えることだ。いいね」
「……はい」
お師匠様の言葉、とても重みがあります。
悪魔という存在の人を惑わす力は、恐ろしいものです。
戦場で相対したときには十分気を付けなければなりませんが……マレフィックさんもいますし、そこは頼りにさせてもらいます。
「……ミツキ、やりたいようにやればいいのさ。結果は確かに重要だが、過程も大切だ。ワタシたちは国と人を守るために戦う。奴らは悪魔を統べる王のために……歩み寄ることなんてしなくていい、どうせ互いに譲らんからね」
「……情け容赦は無用ということですね!」
「そうさ。もし会話を試みたいのであれば大人しくさせるために一発ぶち込んでからすりゃいいさ」
「……師匠、師としてその発言はいかがなものかと」
拳を握りしめたお師匠様に、ヴァイスさんがラクリマを連れて歩み寄りました。
一発ぶち込んでから話し合い……
「お前さんは会話する気もないだろう」
「必要性を感じませんからね」
「これはミツキへのアドバイスさ。そう気負わずに、臨んでほしいのさ」
お師匠様がこちらを見つめます。
……お師匠様はいつも、わたしのことを気にかけてくれています。
それはとても嬉しいですが、いつの日か安心して任せてもらえるよう、頼りがいのある存在になりたいですね。
「……と、言ってもミツキは考えるだろう。だから帝都にはワタシがいる。帝都のことは考えなくていいさ」
「はわ……」
ニヤリと笑みを浮かべたお師匠様のかっこいいこと……!さすがお師匠様です!
その言葉を胸に刻んでいると、思案していたヴァイスさんが口を開きました。
「……ミツキ、好きに動くといい。周囲に合わせる必要はない」
「はい」
「前だけを向くと良い。きっとその隣や後ろには友がいるだろう」
……レンさん、ミカゲさん。兄や両親、ジアちゃん、リーフくん、ソウくんの姿が思い浮かびました。
頼りになりすぎる人たちですからね、心配はしてません。
むしろ悪魔がボコボコにされるだろうと確信しています。
「そら、皆と話をしてきな。きっといい意味で力を抜けるだろうよ」
「……またな」
「……ありがとうございます!お師匠様、ヴァイスさん!」
お二人はいつも為になる言葉をくれます。
先達として、導いてくれていること、わかります。
……わたしも覚悟を決めました。
わたし一人だと怖くて立ち止まってしまうかもしれませんが、みんながいます。
なので、わたしは頑張れると思います。
「……ラクリマも、アストラエアさんもいるし」
『?ラクリマ、ミツキと頑張るよ!』
「あたしはお前さんの護衛だからね」
一人じゃないので、強気でいけそうです!
よし、ホームに戻りましょう!
お師匠様とヴァイスさんに挨拶をして、ホームへと移動しました。
ホームに入ると、ジアちゃんがソファで手元を動かしていました。
キッチンではアルフレッドさんがテキパキと動いています。あ、明日のために、プラムを使ったスイーツをお願いしましょうかね。
「アルフレッドさん、この太陽のプラムでタルトとかお願いしてもいいですか?」
「お任せください。……何度見ても、素晴らしい果実ですね」
アイテムボックスから太陽のプラムを十個ほど取り出してテーブルに置きます。
小さな太陽が転がるように、美しく美味しいプラム、以前いただいた時に食べたタルトにはクランメンバーみんなに蘇生効果が付与されていたはずです。
完全回復ではなく、効果は蘇生のみ、というものでした。
これを食べれば不意打ちにも対応できるはずです!
アルフレッドさんのタルトも美味しいので、一石二鳥です。
「……すごく食べたいけれど、原価を考えると複雑よねそれ」
「ハイドレンジア様、それは言わぬが花、というものでしょう」
「ふふ、そうね」
「花だけに……」
「コラ」
ぽそっと呟いた言葉がジアちゃんに拾われました。
いつの間にか隣でタルトを見つめていたジアちゃんの手元を見ると、チョーカーが握られていました。
「これが今の私にできる精一杯ね。サブジョブのレベルがすごく上がったわ」
「……かっこいいね、これ」
「でしょう?」
ノーブル・ノワール
ハイドレンジア作。
カーフレザーを使用して作られたチョーカー。
シルバーチェーンで繋がれたアスタリスクにはルビーが埋め込まれている。
【軽量化】【耐久性上昇】【幸運補正】
「……すっごいねこれ!?」
「こっちはミツキ用のブレスレットね。お揃いならなおさらミツキが召喚した悪魔であるって言いやすいでしょ」
「ひゃあ」
似た意匠のブレスレットがアイテムボックスから出てきました。ジアちゃん仕事が早すぎでは……!?
「本当にいいの!?」
「いいのよ。余裕を持った長さでカーフレザーを用意して作ったものだから。……いつものお礼よ」
「……ジアちゃん!」
「わっ……もう」
嬉しくなってジアちゃんに飛びつきます。
少し照れたようにそっぽを向くジアちゃんはわたしを受け止めて背を撫でてくれました。
「てえてえ……」
「あら、ミカゲさん」
「寿命が伸びましたわー」
気配を全く感じなかったミカゲさんの声が!
振り返ると、ミカゲさんがこちらを拝んでいました。
ミカゲさんもこの時間帯にログインしてらっしゃるとは、大体テスト期間は同じですよね。
ジアちゃんから離れて、ソファに座ります。
「アルフレッドさんにプラムのタルトを頼んだので、明日みんなで食べましょうね!」
「ヒェ……またトンデモプラムタルトが」
「備えあれば憂いなしですからね」
「そうですなー。明日は戦闘がありますからね」
「……わたしなんて今から緊張してましたからね」
「おやまあ……でも過去形ってことは、ほぐれたみたいですな?」
ミカゲさんの言葉に頷き返します。
お師匠様たちにアドバイスをたくさんいただいたことを伝えます。
「さすが経験値が違いますわ。でもまあボクはわくわくしてますよ」
「まあ、ミカゲさんも?」
「その反応はハイドレンジア氏も緊張を楽しめる口ですな?」
「ええ、プレッシャーはあるけれど……私の弓を見せつける絶好の機会だわ」
「あ、同じくですわ。ボクの大鎌が唸りますぞ」
「ミツキ、簡単なことよ。悪魔を倒せば守れるわ」
「そ、そうだね」
キリッとした表情のジアちゃんと頷くミカゲさんに、恐る恐る同意します。……二人とも殺意が高いような??
そんなことを考えているとホームの扉が開きました。
振り返ると、レンさんが扉を開けていて、ソファのわたしたちを視界に入れると視線を逸らしました。
「レン氏なんて帝都の事より悪魔しか見てないでしょうし!ねえ、レン氏!」
「……」
「無視されました」
「……要点は」
「悪魔を倒せば帝国兵は守れますよねって話ですね。ミツキ氏も強くなったでしょ?というかミツキ氏が魔法打ったら防げるモンスターは余程のモンスターだけだと思いますよ」
「天体魔法は強力ですからね……」
「それを扱うミツキ氏so coolってやつです」
「結果的に帝都が守られるわ。それくらいじゃないと、私は戦闘中にそこまで考えられないわね」
わたしも戦闘中に、そこまで考えるのは難しいですね。一つのことに集中した方が、力を発揮できるやもです。
「ま、ミツキ氏にはラクリマもアストラエア氏も、マレフィック氏もいるので堂々とぶちかましてもらって」
「ミカゲさんも、頼りにしてます」
「お任せあれ!アーツの良い練習台になりますしね!熟練度稼ぎにもなりますよ」
「私もこの弓で悪魔を撃ち抜いてみせるわ」
「ジアちゃんの弓、楽しみだね」
みんなのかっこいい所が見られそうです。
見たことのないアーツも、他のプレイヤーのプレイも楽しみです。
「レンさんも、よろしくお願いしますね」
「……あァ」
レンさんは小さく頷くと部屋の方向へと歩いていきました。一匹狼な所がありますが、話を聞いてくれるので優しいですよね。
「明日は皆で集まって一緒に向かいます?」
「始まるのが夕方ですもんね」
「リーフが夜にクランメンバーの武器の手入れをさせてほしいと言っていたわ。タイミングをみて声をかけてあげて」
「わ、助かるね」
ならそれまではやれることをやりましょう。
ギルドにも顔を出しておきましょうかね。
………ハッ!思い出しました!依頼の報告!急いでしなければ期限が!
「依頼の報告忘れてました!急いでギルドに行ってきます!」
「おや、いってらっしゃいですわ」
「依頼達成するとたまに報告忘れるのよね……」
そんな言葉を聞きつつ、急いでホームを出ました。
あと一話だけ前日を挟んだら当日に向かいますね!
なるべく早めの更新を心がけますので!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




