イベントに向けて⑤
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サダルスウドに腕を引かれて世界樹の根元へとやってきました。サダルスウドはわたしを根本に座らせて、隣に座りました。
ぎゅっと眉間にシワを寄せるサダルスウドの髪をそっと撫でます。
「……わたし、いつもと違ったかな」
わたしの言葉にサダルスウドは小さく頷きました。
な、なんと……全然自覚はありませんでした。兄も何かを察してわたしに声をかけたのでしょう。
むむ……とりあえずたくさん作らないとな、と考えていただけですが、それで集中して機械的な作業になっていましたかね?
そんなことを考えていたのが顔に出ていたのか、サダルスウドが頬を膨らませました。あ、あれれ!?
そして水瓶をわたしに預けて、森の中へを駆けていきました。と、とりあえず水瓶は抱えておきます。
少し待つと、アンドロメダさんがサダルスウドに手を引かれてやってきました。
「ふふ、いい夜ねミツキ」
「こんばんはです、アンドロメダさん」
「サダルスウドが珍しく表情を変えて呼びにきたから、何かあったのかしら」
アンドロメダさんがわたしの隣に腰かけました。サダルスウドも、わたしから水瓶を受け取って隣に座りました。
わたしとしてはまだ自分自身で理解できてないので、自分の主観が挟まりますが、今までの流れをアンドロメダさんへと伝えます。
「ふむふむ、そうなのね」
「わたしとしては、いつも通りだと思っていました」
「そうね……話を聞く限りだと心配しすぎかしらと思ったけれど、ミツキも無意識ね」
「?」
「普段ポーションを作る時、何か考えてる?」
「何か……」
ポーションを作る時は、ちゃんとしたポーションが出来上がるように、手順を間違えないように気をつけて液体の様子も確認していますね。あわよくば最初から星のポーションが作れるといいな、など……
「ふふ、真面目ね。さっき作る時は、普段と違うことを考えていたかしら?」
「普段と違うこと……」
いつも通りポーションを作り【複製】して出来上がった星のポーションを見て、まだ足りないかなと、もっと多くあった方がいいかもと、考えました。もう少し作らないといけないな、と。
「薬師だものね。ポーションがみんなの命を助けられるよう願って作るのよね。でも、ミツキがポーションを渡したい相手は、ポーションがなければ戦えないような人ではないでしょう?」
「!」
「戦闘においてはケガはして欲しくないけれど、怪我はつきものよね。その時に回復できる手段はあった方がいいわ。でもその時の状況によって使うのが難しい時もあるし、傷だらけの姿を見ると胸が痛くなるわ」
「……アンドロメダさんも、そう思いますか?」
「……いつも、思うわ」
アンドロメダさんは、寂しそうな表情を浮かべてそう言いました。
そして空を見上げます。頭上には、ペルセウス座が輝いています。
「わたくしの逸話、特性上、戦闘ではいつも守られてばかりだし、どんなに気をつけていても敵に捕まってしまうわ。そうしていつもあの人が助けに来てくれる」
「……アンドロメダさんは、どんなお力があるのか聞いてもいいですか?」
「わたくしは戦場で喚ばれるとミツキとペルセウスに対して、ステータスへの強化効果を付与できるわ。敵に捕まると強制的にペルセウスへの試練が始まってしまうから注意ね。……いつも、あの人は助けてくれるのよ。自分が傷を負っても、何を言ってもね。だから、わたくしは信じることにしたの」
「信じる……」
「あの人は絶対に助けてくれるから、信じて待つことにしたのよ」
微笑みを浮かべるアンドロメダさんを見つめます。
……とてもまっすぐに、ペルセウス座を見つめていますね。アンドロメダさんのヒーローですもんね。
「あの人は強いもの。だから、ミツキも相手を信じていいと思うわ。むしろ、ミツキのポーションを使うような事態にならないよう頑張ってくれ、でもいいんじゃない?」
「へ」
「使ったら使った分だけお代を更に請求するとか……」
「それは悪徳では!?」
使ったら使った分だけはさすがにヤバすぎですね!
良心があってもなくても駄目です……わたしにはそんなことできないですね……
わたしの反応をみて、アンドロメダさんが笑いました。
「ふふ、むしろ使いどころを見極めさせるのが良いわよね。そんなたくさん無いのだから、大事な場面で使わないと」
「そ、それはなんとなく理解できます。ここぞと言うときに使ってほしいと思います」
「ならミツキ、たくさん作ったのでしょう?それだけあればいい感じじゃない?」
アイテムボックスを確認すると星のポーションシリーズは、セットにすれば50個以上できます。
帝王様にはお渡しできましたし、あとはプレイヤーに渡すだけです。
……足りそうですね!
「ミツキのそのポーションは作ってと頼まれたものではないでしょう?だから、そんなに気を張り詰めて作る必要はないと思うわ。あなたの力作を、ただの消耗品にしたくはないわ。ね、サダルスウド」
サダルスウドは勢い良く頷きました。
……価値を、損なわせてはいけませんね。
サダルスウドも手伝ってくれていますし、なんならプレミアものですよね!
「ありがとうございます、アンドロメダさん。わたしより強いひとたちばかりですし、お守りに持っててもらえたら、なんて軽い気持ちが最初でしたし」
「ふふ、その意気よ。ペルセウスなんてわたくしの助けなんていらないほど強いし、きっとミツキのポーションを使うときはピンチの時よ。だからその時にちゃんと立て直せるよう、サポートを考えたりしましょ」
「はい!サダルスウドも、ありがとう。頭がスッキリしたよ」
サダルスウドを撫でると、嬉しそうに微笑みました。
眉間にシワを寄せるサダルスウドも可愛らしかったですが、罪悪感と言いますか、胸に重くのしかかる何かがありました。
アンドロメダさんと話して理解できたと思います。
そんなつもりはありませんでしたが、作らなければならないと、自分で追い込んでいたかもしれません。
あったらいいなはわたしの考えなので、あったら助かるかも、ですもんね。
ふむ、テストが終わったらイベントですし、その時に戦闘メインでと言っていたバルムンクのジークさんや彼岸花の朱蓮さんにお渡ししましょうか。
「なら星でも見つめましょ。今ならあの人もいるし、お母様たちもいるわ」
アンドロメダさんが指差す先に、特徴的なWの配置が見えます。カシオペヤ座ですね。
椅子に座った女王の姿を象徴としている、現実でも見つけやすい星座ですね。秋になると、わたしが起きている時間帯でよく見えます。
北緯44度よりも北の地域では星座が地平線に沈まない周極星になるんだとか。
「ちなみに戦闘中にわたくしとペルセウス、お父様とお母様を喚ぶと戦闘そっちのけでペルセウスに対して試練が始まるから、大事な戦いだとオススメできないわ」
「その試練というのはどのような……?」
「わたくしとペルセウス二体なら簡略化されるけれど、わたくし達四体を喚ぶと、【海王の怒り】というかつての災害がフィールドで発動するわ。お母様の『海の娘よりもアンドロメダは美しい』という言葉が起点でね」
「な、なるほど……アンドロメダさんの神話の」
「そう。生贄となったわたくしを助けるためにペルセウスへ試練が始まって、救出できれば英雄として認められてペルセウスの全ステータス倍加、英雄として覚醒するわ」
「ほぁっ!」
「でも救えなければ英雄たる資格なし、となってペルセウスの全ステータスがとんでもなく低下するデバフを受けるわ。アイテムを使っても解呪不可で、一定時間召喚もできなくなるわ。ハイリスクでハイリターンってやつね」
そ、それは……ペルセウスさんが最大限バフを受けるためにはその試練を突破しなければならないということですね!?
それは何というか、見てみたい気もしますが……そのためにアンドロメダさんが生贄になるのを見るのは心が痛いですね……
「わたくし達はミツキとあの人の力になるための星座……わたくしは嬉しいわ。毎回手をかけさせてしまうのは申し訳ないけれど……戦闘中のあの人、かっこいいのよね」
「お師匠様のところでみたペルセウスさん、戦闘中にアンドロメダさんを心配してらっしゃいますからね……!お互いを思い合う気持ち、素晴らしいと思います!」
「ふふ、愛よね」
「はわわ」
「……そこまでにしておけ」
頭上から声が聞こえたと思った瞬間、ペルセウスさんが地面に降り立ちました。
ペルセウスさんをみて、アンドロメダさんが口元に手を当てて笑いました。
「ふふ、照れてるわね」
「……遅い時間になる。そろそろ解放しろ」
「はぁい」
アンドロメダさんが立ち上がったのでわたしも立ち上がります。確かにそろそろログアウトしたほうが良い時間です。
「やっぱりやりたい事を自分のタイミングでやる事が良いのよね。マイペースが良いわ」
「マイペース……大切ですよね」
「ええ。じゃあ、ゆっくり休んでね」
手を振ってペルセウスさんと森へ歩いていったアンドロメダさんを見送って、サダルスウドとホームへ戻ります。
ソファには兄が座っていて、対面ではジアちゃんがアクセサリーを作っていました。
「おかえり。……ん、気分転換出来たようだな」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
「さて、そろそろログアウトすっか」
「ジアちゃん、大丈夫?」
「ええ。リューさんが話し相手になってくれて、アドバイスを貰いながら作っていただけだから。私もログアウトするわ」
「はーい。じゃあまたね、サダルスウド」
サダルスウドは笑みを浮かべて頷くと、その姿を消しました。今度フルーツをたくさん使ったスイーツを作りましょう。
サダルスウドやアンドロメダさんたちに、たくさん作ってお礼しないとですね。
それぞれ部屋へと戻り、ログアウトしました。
「自由に、自分のタイミングで、か」
自分だけの物語を紡ぎましょう、それがユアストのキャッチコピーです。
自分の道は、自分で作る。やりたい事をやりたい時にやれる。
自由ですが、大事な選択は自分で選択しなければなりません。その選択を後悔しないよう、ちゃんと考えないとです。
少なくとも今はイベントを最優先として頑張るしかないですが……わたし一人じゃないですし、みんなを頼ってどうにか乗り越えていきたいと思います。
ストレッチと天体観測を済ませて、ベッドに潜り込みます。今日はひとまず休むことにします!
おやすみなさい。
おはようございます!
朝までぐっすりと眠りましたね。
今日は勉強と掃除と色々とやる事があるので、ゲームはお休みとします。
明日からテストですからね!
なので通知だけ見ておきます。
Your Story -ミツキ-
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師より礼としてアクセサリーを貰いました。
金紅が作り上げるアクセサリーは貴重です。大切にしましょう。
悪魔に関する情報を得ました。
情報は貴方の力となるでしょう。
兎の縁を辿り、黒豹とのカフェを楽しみました。
星のポーションと霊薬を渡しました。
戦闘にて素材を集め、ホームでポーションを作製しました。
友や星座たちは貴方をよく見ているようです。
貴方のペースで、物語を紡いでいただければと思います。
お疲れ様でした。
お師匠様のアクセサリーは勿論素晴らしいものでしたが、帝王様とカフェタイムもとんでもないものでした……美味しかったですが、途中味がわからなくなりましたよ。
いろいろな場所のNPCの前で変な動きをしないように気を付けたいと思いました。みんなよく見てらっしゃる……恥ずかしいですがありがたいです。
やはり縁は大切です。紡いだ縁が力になる……どこかで聞いたフレーズですが、割と実感してます。
みんなに助けて貰っているので、わたしもみんなを助けられるよう頑張りたいですね。
よし、今日も一日頑張りましょう!
星座に関してはあくまでこの物語での解釈ですけどね!
この後はテスト終わりで1話挟んで、イベントに向かう予定です。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




