イベントに向けて④
ご覧いただきありがとうございます!
砂漠を進み、ある程度気配が無くなったところで立ち止まります。
月光神草や月光キノコといった素材は夜のほうが魔力を纏って光っているので見つけやすいんですけどね。そして、夜採集する方が品質も良さそうです。
むむ、とりあえず今は取りやすい素材を探しましょう。砂漠ではカマル草やワルドゥの雫目当てにフラワープラントを倒そうと思います。
なので……ひとまずシリウスと、へび座が見つけるの得意だとオフィウクスさんが言っていたのでアリアとオフィウクスさんも喚び出します。
アストラエアさんと、おおぐま座もですね。
「今日は戦闘をしつつ、ポーション類を作るために採集もしたいです。砂漠ではカマル草と、フラワープラントを倒してワルドゥの雫が欲しいですね」
「お、わかったぞ」
「了解よ」
「では、よろしくお願いします!」
わたしたちは武器を片手に、モンスターの気配がする方向へと走り出しました。
「ウォーターボール!フレイムピラー!」
岩山に張り付くフラワープラントに水をあげてから燃やす工程を繰り返します。まあ水をあげると言っても攻撃ですが!
この辺りのモンスターはレベルが低いので、最初ウォーターボム一発で倒してしまったので次からウォーターボールにしました。
昼間なので、太陽のブレスレットのおかげで全ステータス1.2倍がとんでもない威力を発揮しています。
戦力過多かもしれませんね……
砂の上を滑るように移動し何処かへ行っていたアリアが、カマル草を咥えて戻ってきました。
おお、さすがアリアです。カマル草を受け取ってアリアを撫でます。
「手応えがねぇな」
「強くなったものね」
アストラエアさんの言葉にウルサ・マヨルが頷きました。出現するモンスターのレベルが50ですからね。
今のわたしはレベル74ですし、レベルが上がるほどの経験値はもらえなさそうです。
「素材をある程度集めたら、レベル上げをしたいので霊峰の麓……ヴァルフォーレン領へ向かいましょうか」
「そうね」
「噛みごたえがある奴いねえかなぁ」
「せめて怪我をしろ」
オフィウクスさんの言葉に苦笑します。
すごい発言ですが、オフィウクスさんはヒーラーですもんね。
その後は逃げるフラワープラントを追いかけ、ついでに砂花石も採集して、ヴァルフォーレン領へと移動してログアウトしました。
「満月何処にいたん??」
「?砂漠?」
「砂漠か……レベル上げか?」
「ポーション類のための採集依頼も兼ねて。でもレベルも上げたいから、午後はヴァルフォーレン領でモンスター討伐だね。そのあと森で魔力神草を探すよ」
「私達もとりあえずレベル65にはなっているけど、クエストまでにはレベル70にしたいわよね」
「休みは取れたのかい?」
「時間休を取ったわ。だから夜六時までには帰るわね」
本日の昼食は和風パスタです。サラダとコンソメスープはわたしが用意しました!
皆で食べながら、報告です。
「俺も午後はトニトルスとレベル上げだな。魔力神草とかは俺も持っているやつ保管庫に突っ込んどくわ」
「ありがとう、すごい助かる」
「私達も入れておいたわ。また集めに行くわね」
「品質は申し訳ないけどわからないから、ひとまず数を集めてくるよ」
ありがたい!ポーション作りが捗ります!
レベル上げを挟んだら星のポーションを作ろうと思います。
「ちゃんとテスト勉強もするから!」
「なんだかんだで真面目にやるしな満月は」
「満月だからあまり心配はしていないけれど」
「うぐ……多分平均点はいける、はず」
きっと多分恐らく!
テスト前はちゃんとやります。なのでこの週末はゲームに打ち込むのです。よし、ごちそうさまでした。皿を洗ってタオルで拭きます。
「あ、満月」
「?」
「無理はしないようにね」
「……うん」
父に見送られて、部屋へ戻りました。
よし、心配させすぎないようにレベル上げ頑張りましょう。
ログインしました。
ヴァルフォーレン領には変わらずNPCの姿しか見えませんね。門の近くに立つ兵士さんに挨拶をして、門から離れた場所で先ほどのメンバーを喚び出します。
「よし、では行きましょう」
わたしの言葉に頷いたみんなと共に、遠くに見えるモンスターの影へ向かって走り出しました。
「【重力操作】、【流星雨】!」
暴れ神馬 Lv.80
アクティブ
【風魔法】【駿足】【突進】
【跳躍】【鼓舞】【踏み付け】
迫り来る暴れ神馬と名のつく馬に向けて流星雨を放ちます。暴れ馬がより強くなったようなモンスターです!速いし、大きいです。
ウルサ・マヨルが姿勢を低くして、暴れ神馬へと飛びかかりました。胴体にタックルしました!
そこにシリウスが突っ込み、噛み付いたと同時に暴れ神馬の片脚が燃え上がりました。
「グォォッ!?」
「……むぐ、あんま美味しくねえな」
「コラ、戦闘中に食べないの!」
「フレイムピラー!」
ウルサ・マヨルが両腕を合わせたまま振り上げて、勢い良く振り下ろし、暴れ神馬のHPを減らしてから飛び退きました。
瀕死の暴れ神馬にトドメを指して、新たなモンスターの気配を感じて振り返ります。
マッドエレファント Lv.79
アクティブ
【狂化】【突進】【硬化】
【衝撃耐性(中)】【闇魔法】
【身体強化】【踏み付け】
うわあ、マッドエレファントの群れが!
赤い目を光らせてこちらに向かってきます!
すごい音です……!地面が無事じゃなさそうな音がします!
「マッドエレファントの体表は固くてなぁ」
「魔法も効果が弱くなりそうですけどね」
「まあ柔らかい所もあるからな。そういう所は積極的に狙った方がいい」
アストラエアさんが短剣を構え、飛び出して行きました。ふむ、柔らかい所……マッドエレファントの柔らかい所……?
マッドエレファントを見つめていたとき、右から飛び込んでくる気配を感じて杖を向けると、見たことのないモンスターが空高く跳ねました。
スピリット・ラビット Lv.82
アクティブ
【???】【???】【???】
【???】【???】【???】
「っ、【宇宙線】!」
「ギッ!?」
宇宙線の爆発で弾かれたスピリット・ラビットは大きく後退しました。淡い光を纏った、中型犬ほどの大きさのウサギのようなモンスターです。淡い光が羽のような形にも見えます。
「ガァッ!」
「っ!いった!?」
小さく吠えたスピリット・ラビットのオーラが弾けると、目には見えませんが何かが飛んできました!
空気の塊のような!?真空空間を展開すると、体に当たらなくなりました。
地味に痛い攻撃です。HPが半分まで削れてしまいました。威力高すぎでは!?一発で半分も減りました!
「【重力操作】、【宇宙線】!」
「ガァッ!」
「【ブラックホール】!【流星】!フレイムピラー!」
飛んでくる光の槍をブラックホールで吸い込みつつ流星を落とし、視界に入ったマッドエレファントに炎魔法をぶつけます。
急に視界に巨体が入ってくると心臓が跳ねます!
スピリット・ラビットと睨み合っていると、わたしの体が淡く光りました。HPが全回復しています。そしてアリアが体に巻き付きました。
オフィウクスさんと、この間のアリアの一撃防いでくれるものですね!
「【宇宙線】!【流星雨】!」
わたしがスピリット・ラビットと相対している間に皆がマッドエレファントのHPをどんどん削るので、流星雨を降らします。マッドエレファントに当たることを祈って……
それにしてもこのスピリット・ラビット、結構HP多いです。宇宙線を三回食らってもまだHPが半分もありますからね。
ハイMPポーションを自分に使いつつ、距離を取ります。とりあえず魔法です!
「【二重詠唱】ハイドロピラー!」
水の柱から飛び出してきた影をすぐ真横からアストラエアさんが攻撃しました。
空中へと打ち上げられたスピリット・ラビットに炎の光線が直撃します。
一部焦げたスピリット・ラビットがこちらを見下ろし睨みつけた瞬間、空中を蹴り抜いてとんでもない速さでこちらに飛び込んで来ました。
轟音と衝撃が響きわたしの体は吹き飛びましたが、アリアのおかげで転がった時のダメージしか負っていません。
「ありがとうアリア!」
シャー!とちいさく吠えてわたしの体から離れたアリア。煙が晴れると瀕死のスピリット・ラビットの首をシリウスが噛んで動きを止めていました。
「……随分と殺意の高い奴だ」
「霊峰のモンスターね。さすがにパワーがあるわ」
「はぐもごあぐもご」
「とりあえず何を言ったかわからないけどトドメは刺すね……」
シリウスが離れた瞬間にファイアーボムを放ちます。
スピリット・ラビットの姿が消えたのを確認して、ちいさく息を吐きます。
-スピリット・ラビット、暴れ神馬、マッドエレファントを倒しました-
種族レベルが2上がりました。
任意の場所へステータスを割り振って下さい。
SPを4獲得しました。
メインジョブレベルが2上がりました。
アナウンスが響いたことで、戦闘が終わったことを確認します。
あの攻撃がすごく痛かったんですよね……お腹のあたりを擦りながらステータスを操作していると、ウルサ・マヨルがこちらをのぞき込んできました。
「大丈夫かしら?痛いの?」
「いえ、見えない攻撃が痛かったなと、思い出していました」
「【空撃】だろ。ルプスも使ってたな」
「【空撃】……?」
「文字通り空気を魔力で固めて飛ばしてくるヤツ。魔力感知で気配は追えるだろ」
「簡単に言う……」
何かが飛んでくるのはわかりましたが、それを戦闘中に察知するのはわたしには難しいです……
恐らく一人だと負けてました。
皆強いので、格上のモンスターも倒せるのです。
よし、ステータスはこのような形で良いでしょう!
ミツキ Lv.76
ヒューマン
メインジョブ:アストラルアークウィザード Lv.18/サブ:薬師 Lv.19
ステータス
攻撃 71 +1
防御 129 +1 (+96)
魔攻 245 +4 (+70)
魔防 125 (+96)
敏捷 92 +1 (+40)
幸運 126 +3 (+20)
レベルが上がれば魔法の威力も上がりますからね。
よし、素材も探しましょう。
アリアと一緒に足元の魔力草を採集しつつ、呼吸を整えて森の方向へと向かうことにしました。
アリアはもちろんのこと、オフィウクスさんとシリウスも素材を見つけるのが早く、アストラエアさんとウルサ・マヨルはモンスターの気配を察知するのが早いです。
わたしが顔を上げるよりも早く気配の方向を見ていて、わたしはまだまだだなあと実感できる訳です。
今はみんなを頼らせて貰いますけどね!安心して素材を採集できます。
そうして皆で採集していると、いつの間にか太陽が傾いていました。
黄昏時は恐ろしいことをわたしは学びましたからね、皆を還してホームへと戻りました。
夕食とお風呂を済ませて再びログインし、調合室に向かいます。
保管庫を確認すると、皆が入れておいたと言っていた素材がわんさか入っていました。
……たくさん作れますね。みんなの分も作れると良いのですが。
ふと、窓から降り注ぐ星明かりを見つめます。
窓を開けると、柔らかな風が入ってきました。
うん、パワーを感じます!
神秘で星を降らせて、素材を確認しみずがめ座を喚び出します。
こちらをみて微笑んだサダルスウドに頷いて、わたしは器具と素材を手に取りました。
ひたすらに手元を動かします。
出来上がったポーションはサダルスウドが違うテーブルへと並べてくれているのは見えました。
フルポーションも、キュアポーションも、蘇生薬もそれなりの数は作れたはずです。
多くあれば、あるほど良いでしょう。これでは、まだ足りないかもしれません。
まだもう少し、
「そこな妹よ」
「!」
「さっきから何度も呼びかけたけどやっと気付いたか」
その言葉に振り返ると、兄が扉にもたれかかっていました。全然気付きませんでしたね……
「集中できるのはまあ良いことだが悪いことでもあるな。それだけ作ればいいんじゃねえの?」
「……そう?まだもう少しあっても良いかなって」
「あると助かるのは間違いねえけどさ、そこまで根を詰め過ぎても疲れちまうだろ。あんま楽しそうに作ってるようには見えなかったし」
「……えっ、ほんと?」
「本当本当。無意識に作らなきゃって考えてたんだろ。義務感で作ると倍疲れるぞ。サダルスウドも心配してる」
慌ててサダルスウドを見ると、眉間にシワを寄せていました。は、初めてみる表情です!
「ほら今日はそこまでにして世界樹の所で星でも見てこい。ほら行った行った」
「わわ!」
「サダルスウド、ミツキを連れてって」
兄の言葉に頷いたサダルスウドが、水瓶を片手にわたしの手を引いてホームの入り口の方へと歩き出しました。
「か、片付け……!」
「俺がしとくからさっさと行って休んでログアウトしろよー」
兄の言葉を背に、わたしはサダルスウドに手を引かれてホームを出ました。
◆◆◆
「……ありがとうございます、リュー氏」
「んにゃ全然、兄としてこれくらいはな」
隣の錬金室から顔を覗かせたミカゲに、リューは小さく笑みを浮かべた。
リューはホームへ戻ってきた時に、どこか焦ったような雰囲気をまとうミカゲに捕まった。
ミツキに何度か声掛けしたが、反応がなかったと。
珍しく慌てた様子のミカゲをみた後、ミツキの背を見つめる。
傍らで手伝うサダルスウドの表情も、どこか心配そうだ。
……嫌な集中の仕方をしているなと心の中でひとりごちたリューはどうにかミカゲを宥めて、ミツキに声を掛けたのだ。
「やっぱりプレッシャーですかね?」
「それにも気付いてないなアレは。無意識に作らなければならない、と追いつめているようなもんか。少し落ち着かせれば問題ないだろ」
「……ボクも今までイベントを運営する側になったことはありませんし、ここまでフレンドと一緒にプレイしたことも無いので、勝手がわからず。励ますのも難しいですし……」
「え、そうなの?ミカゲちゃんめっちゃフレンドリーで助かってた。……というか若者はもっと気楽に楽しくプレイすべきだよな。難しい事は大人に放り投げようぜ」
「……それはリュー氏に放り投げてもいいんです?」
「俺心は少年だから一緒に悩もうぜ。ひとまず綺麗に片付けるの手伝ってもらえる?」
「了解です」
ミツキは落ち着いた場所で星を眺めさせれば、気持ちの整理ができる事を知っているリューは、机の上を片付けながら窓の向こうの星空を見つめた。
作りたい、が作らなければならない、という考えになったら精神的にも疲れちゃいますからね。
ここらで一息星を挟んで、イベントに向かいたいと思います。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




