クエスト会議③
ご覧いただきありがとうございます!
色々と話をしていたら、遅い時間になってしまいました。考えることが多く頭を悩ませましたね。
今日の所は解散の方針になりました。他に何か出てきたら、アデラさんが立てる掲示板に書き込むように、とのことです。
「……書き込み用の、今この場にいるクランに限定した掲示板を立てたらリンクを送ろう。そこに本日の話し合いを纏めて書き込んでおく」
「さすがアデラ氏有能ですな!」
「とても助かります」
「……戦闘は君達に任せるからな」
アデラさんは小さく笑みを浮かべると、片手を上げたレギオスさんを連れて部屋から出ました。
「イナミさんから、イベント参加者用にギルドで依頼書が発行できると聞きましたからね。そこでアイテム素材や料理に使う肉野菜等を集められます」
「イナミ殿がいて助かった」
アーサーさんとカメリアさんの言葉にイナミさんが一礼しました。本当に、ここまで助言をいただけて助かりました。
「ありがとうございます、イナミさん」
「……いえ、ミツキ様には感謝しておりますので」
「へ」
イナミさんに感謝されるような事、わたししましたかね……?特に思い当たる節は無いのですが。
「昨日ヘルプで呼ばれた際に、私に紅茶を淹れてくださいました。その行動が、私にはとても嬉しかったのです。当たり前のようなその行動が、私を《個人》として見てくださるようで」
「!……それは、わたしでは」
「いえ、契約召喚は契約者の行動原理を学習し実行するAIを搭載しています。共に行動すればするほど、契約者と似たような判断・行動を起こすようになるのです。彼がこちらの世界の住人ではない私に紅茶を淹れてくださったのは、“ミツキ様ならそうする”と判断したのでしょう。嬉しかったので、システムを駆使していただきました」
その言葉に息を呑みました。
イナミさんは、とても嬉しそうに頬を染め笑みを浮かべています。
わたしの行動を学習する……へ、変なことをしないように気を付けなければ。
「ミツキ様、皆様の物語を楽しみにしております。では、何かあればGMコールでイナミをお呼びくださいませ。失礼いたします」
深々とお辞儀をして、イナミさんは姿を消しました。
……今度は紅茶だけではなく、スイーツも用意しましょう。
「……まーたミツキ氏がAIを誑かしてますわ」
「……程々にしとけよ」
「そんなつもりは一切無いんですが!?」
「デフォルト装備でしたか……」
ミカゲさんとレンさんの言葉は全力で否定しておきます。人の形していて意思疎通できるなら普通の対応ですよね??
「……なるほど、人柄か」
「興味深さMAXですね。今後共よろしくお願いしますよ。今後共、ね」
アサギさんとアーロさんがジッと見つめてきました。
アーロさんからは含みを感じますけどね!?
普通です普通!
「声掛けに感謝だ。中々通常のフィールドで試すことも難しかったからな。空中にいる敵ならいい的になる」
「重火器の威力、期待していますね」
「はは。命中率を上げるために頑張るさ」
「空中のモンスターとの戦闘経験を稼いでおきます」
アサギさんが片手を上げて出ていきました。次いでシェネさんもそう言って、部屋からでました。
このファンタジーな世界で重火器を扱うミューニション・スラッガーの皆さん……どんな感じなのか気になります。
「何かほしいものあればマモン商会へ」
「か、考えておきますね」
「フフ、お待ちしておりますよ」
アーロさんは何処か掴みにくい所がありますが、真剣にアルケミストとファーマシー・サーペストの方々と会話していました。
商人、中々大変そうですし、手強いですね……怖いです。
「今度、一緒に討伐依頼をやろう。どんな戦い方なのか気になるから」
「彼岸花は戦闘大好きの集まりみたいなものなので……」
挨拶のためか近付いてきた朱蓮さんとアケミさんの言葉に苦笑します。
わたしの戦い方は魔法メインですからね。近接攻撃を得意とするレンさんや兄、リーフくんなどと一緒に行った方が良いのでは……
「じゃあまた今度」
「メンバーは集めておきますね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
朱蓮さんとアケミさんを見送ると、ジークさん達も席を立ちました。
あ、ジークさんにはお願いしたい事があるので、部屋から出る前に声をかけます。
「ジークさん、ジークさんにはお願いしたいことがありまして」
「俺?」
「はい。一番レベルが高く、カリスマ性もありますしプレイヤーからの認知度も高いジークさんには、プレイヤーの陣頭指揮をお願いしたいのです」
「……行くぜ野郎ども!ってやつか?」
「そうです!」
「ジークさんなら出来るだろうと思いまして」
わたしとアーサーさんの言葉にジークさんは一瞬考える素振りを見せましたが、すぐに頷きました。
「普段やってる事と変わらねえな。いいぞ、任せろ」
「この人はそういうの向いていますよ」
「ありがとうございます、ジークさん。ヒルトさん」
よろしくお願いします!と頭を下げるとお二人は小さく笑って頷き、部屋から出ていきました。
恐らく年上……兄より上な気もします。頼れる上司感のあるお二人です。
「では我々もお暇しましょう」
「準備という名のレベル上げに勤しむとしよう」
「アーサーさん、カメリアさん、ありがとうございました」
「いえ、初めての事は誰もが緊張しますし、不安にもなります。いくら準備をしても、本当にこれで良いのかと悩むでしょう。ですがこういう時こそ、頼る時です」
「……アーサー、お前はたまにはいい事を言う。そうだぞミツキさん。大人になると一人でやらねばならぬ時もあるだろうが、こう、アレだ。皆でやれば怖くないというやつだ」
「カメリア……お前いい事を言おうとすると語彙力何処へ行くんだよ」
「うるさい」
皆でやれば怖くない……言い得て妙ですけどもね。
皆で一丸となれば、乗り越えられる……そんな気がします。プレイヤーが寄れば文殊の知恵です。
皆様忙しい合間をぬって手伝ってくださるのです。わたしはわたしにできる事を頑張りましょう。
帝国側との連絡係など、やれます!
「では、本日は失礼しますね」
「では、またな」
アーサーさんとカメリアさんはそれぞれ嵐スロットさんとグランさんを連れて部屋から出ました。
部屋にはわたしとレンさん、ミカゲさんしか残っていません。他の皆さんは挨拶をすると、帰られました。
「お二人とも、ありがとうございました」
「さすがに人数集まると緊張しますね!」
「ミカゲさんでも緊張します?」
「そりゃしますとも。年上と話すなら特に」
つっかれましたわー。とミカゲさんは脱力しました。
レンさんは普段通りですね……さすがです。
「少なくとも、準備の第一段階はクリア、ということにしましょ。後は追々で。今後色々出てくるかもですからね」
「はい。何か情報があれば、すぐに報告します」
「ボクも情報集めますわー。一部のプレイヤーは何か起こるかも……とザワザワしてますし、マーレで気になる動きをしているプレイヤーもいますし、ちょーっと調べてミツキ氏にお伝えしますね」
「マーレで……?」
「海に出ようと画策しているプレイヤーがいるんですよう。まだマーレの海に関する情報を集めきれていない中で変な事をされると困りますからね。マーレを拠点とするプレイヤーが警戒してるんです」
ほあ……マーレでそんなことが。
海に出ようとしていると言うことは、日輪の国へ行こうとしているんですよね。
でも確か、まだ船舶の航行不可だったような。
「まだ航行不可なのでは?」
「そうですね。海竜が暴れているのと、大渦やら嵐やら巨大なモンスターが泳いでるとか色々あるんですわ。海竜が暴れているのにマーレでやれ討伐やら何やら話題に上がってないってことはまだ手を触れてはならんイベントだと思うんですよ。まだ情報が足りません」
だからこそ、勝手に海竜と接触して変にイベントを進行しても困る、とミカゲさんは言います。
ふむ、海竜がこちらを攻撃してくるかどうかもわかりませんし、海上で戦うのも不利ですからね。
少なくともわたし達に船はありますが、船から落ちたらわたしは泳げませんからね!モンスターに襲われたらパニックになります。
「まあまずは目先のイベントからですわ!それとなく手は回してますので、悪魔の侵攻に備えましょう」
「……あっ、そういえばマレフィックさんに目印を考えようと思っていたのですが、相談をしそこねました」
「おおん、なるほど……」
「……クランの紋章とか考え始めたらキリが無いですもんね」
「も、紋章……」
「ほら、クランの紋章を刻んだ首……チョーカーとか、スカーフとか、ブローチとか色々と考えつくものはありますもんねぇ」
はわ……紋章……!なんだか心惹かれます!かっこいいですね!
「あっめっちゃ嬉しそうですわ……アクセサリーはハイドレンジア氏にも相談しましょ」
「はい!」
アクセサリーはジアちゃんに相談しましょう。
何か良いアイデアが貰えるかもですね。
明日、お昼休みに相談してみましょう。ジアちゃんの都合もありますからね。
あっ色々と話をしていたら結構遅くなってしまいました。さすがに明日に響きます。授業中に睡魔と戦うことになりそうです。
「ハッ、こんな時間まで、本当にありがとうございます。またよろしくお願いしますね」
「ン」
「ボクらにとっても、一大イベントですから。頑張りましょ」
部屋を遅くまで使わせてくれたマイヤーさんにお礼を伝えて店を出ました。ミカゲさん経由で利用料金を払います!
時間が時間なので三人でホームへと戻り、別れました。わたしは頭をすっきりさせるために、世界樹の元へ向かいました。
世界樹が立っている場所は森に囲まれていますが、ぽっかりと空いていますので空が円形にみえます。
天然のプラネタリウムです。
この島にはクランメンバーしかいませんし、マットを敷いて横になります。視界に広がる星空に、心が落ち着いていくのを感じます。
今日はさそり座とみなみのかんむり座が見えますね。
メリディアナに正確な神話や逸話はありませんが、一説にはいて座が落とした冠、とも言われていますね。
星座の位置がいて座の下にありますから。
メリディアナを一回喚び出した時には【威圧】のパッシブスキルが付与されました。
恐らく装着したら効果時間中は常時威圧が発動する……のだと思いますが、星魔法の力が完全に解放された今は、また別の能力があるかもしれませんけどね。
アンタレスも猛毒を持っていますし、体の大きさも変えられ地面に潜ることもできます。
アンタレスには神話で英雄を毒で倒した……という話もありますから、毒のエキスパートかもしれません。
【致死毒】なんてスキルとかアーツとか持っていたらどうしましょう。頼りになりすぎます。
星座の力はまだ未知数で、切り札の【星装】もあります。手札はたくさんありますので、それを要所要所で使いこなさないといけません。
他のプレイヤーとは異なる戦い方をしているのは理解しています。わたしにはわたしのできる事をやるしかないのですから。
入念に悪魔侵攻への準備をして、悪魔を追い払わなければ。
うーん、テストにイベントに考えることがあって頭がショートしそうです。
テスト期間にイベントが被るのはしょうがないとはいえ、中々ハードですね。
タイミングは選べませんし……!
やるしかないです!
「よし!おやすみ、世界樹」
ちゃんと体を休ませなければ。
星明りを浴びてパワーは回復したような気はしますけどね!
世界樹に挨拶をして、ホームへ戻りログアウトしました。
ストレッチをして授業の準備もしました。
空は曇っているので、今日は寝てしまいましょう。
学生として授業もテストも頑張って、悪魔侵攻へと挑みましょう。
では、おやすみなさい。
次回は掲示板回を挟む予定です。
決めたことをまとめつつ、イベント外でプレイヤーがどんな会話をしているのかをお届け予定です。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




