鏡に映るは月下美人
ご覧いただきありがとうございます!
夕食とお風呂を済ませてログインしました。
すっかり日が落ちて、夜の帳がおりています。
月の光に負けないくらい、星が瞬いていますね。
島の星座の配置を変えましょう。
ふむ……小動物と大きな動物を……うさぎ座、りょうけん座、くじゃく座、りゅう座、はと座で!
喚び出した瞬間、ファクトがこちらにウインクしてから何処かへ飛んで行きました。
今回は何を持ってきてくれるのか楽しみですね。
『息災のようだなミツキよ』
「ドラコーンも……わっ」
顔を寄せてきたドラコーンの頬を撫でていると、アルネブが胸元に飛び込んできました。
赤い目をした白ウサギです。可愛らしいですよね!
「ミツキ様、準備の程は……ッ!」
「…………フンッ」
「鼻で笑われました?今鼻で笑われました!?」
両手を上げて着地したムーンバニーとアルネブが見つめ合うと、アルネブがフンッと鼻を鳴らして目を瞑りました。
『……月の眷属か』
「やや!この威圧感はまさしく星の龍!」
『……フン』
「ルーナ様のお迎え準備を手伝ってくれたムーンバニーです。一応、敵ではないです」
「なんだ敵じゃないのかー」
「攻撃する所だった」
「カラ、アステリオン」
足元で唸りを上げていたカラとアステリオンの頭を撫でます。赤い首輪がカラ、青い首輪がアステリオンです。
「わふー」
「僕ら猟犬だからね」
「頼りにしてるね」
満足気な二匹から視線を上げると、尾羽根を広げたピーコックがムーンバニーを威嚇していました。
「わ、私にはルーナ様が……!」
『馬鹿者。貴様に求愛などするばすなかろう』
「あっ視界が」
『フンッ』
ピーコックの尾羽根を見つめたムーンバニーが倒れました。ムーンバニーー!?
「ピーコック!?」
『なに、少々平衡感覚を狂わせただけよ』
「凄いけど、敵ではないのですが!」
『……フン、ここでは部外者であろう。身の程は弁えさせねば』
『その通りだ』
ピーコックの言葉にドラコーンが頷きました。
そうですか……そういうもの、ですかね?
「はわ……素敵なボディ」
「姉貴……」
振り返ると口元に手を当てたジアちゃんが頬を染めていました。好きですもんね……
「うおーもふもふしてー!」
「撫でてもいいけど?」
「うお、いいんすか」
「えっ俺も撫でても?」
「ぼ、僕も」
「私もドラコーンさんに触れても良いかしら?」
『構わん』
いつの間にか皆集まっていました。
カラとアステリオンを撫でつつ、母がドラコーンの鱗を撫でます。
では、そろそろガーデンへ向かいましょう。
アルネブを下ろして、アイテムボックスから鏡と料理を取り出します。料理は置ききれないので、母がアイテムボックスから出した別のテーブルへと並べます。
セレネ・スペクルムをテーブルへと置いて、手を組みます。
月様、お待たせいたしました。
こちらがルーナ様の祭壇となります。
今後とも、よろしくお願いいたします。
お口に合えば良いのですが……!
-月 の承認を得ました-
『……顔を上げよ』
冷たく、でもほのかに温かみを感じる声がかけられ顔を上げると、すらりとした脚を組んでこちらを見下ろすルーナ様がいました。
『私を後回しにしなかった事は褒めてあげるわ』
「あ、ありがとうございます」
『フン。供物を寄越しなさい』
「はい!皆でつくりました!」
ルーナ様の近くへ料理を運びます。
フォークを手に取ったルーナ様が、一口大で作られた料理を見つめ、そのうちの一つを口に運びました。
あ、鶏むね肉のみぞれ煮ですね。
『……!や、やるじゃない』
ルーナ様の表情が輝きました。
ほ、褒めてくれているんですよね?
そんな事を考えていたら、離れた木の影からムーンバニーがこちらを覗いていました。なにかプラカードみたいなものを持っています。
(意訳:美味しい)
んんん???
『こ、これもやるじゃない』
(意訳:美味しい)
『な、なによこれ……食べたことないわ』
(意訳:美味しい)
『……なんて事、今までの肉はなんだったの』
(意訳:美味しい)
ルーナ様の言葉に合わせてムーンバニーがプラカードを出します。
今の所全て美味しいですが……ルーナ様の手が止まらないので、良しとしましょう。
ムーンバニー、気付かれたら怒られるのでは?
「……ルーナ様、あの」
『なっ、なによ』
「わたし達も、お話をしながら一緒に食べても良いですか?」
『……いいわよ。……名乗りも許すわ』
ルーナ様の視線がわたしの後ろへと向かいました。
両親が供物として用意したお酒を手に拝礼しました。
「ミツキとリューがお世話になっております。母のソラと申します」
「お世話になっております。父のサクヤと申します」
『……面影があるわね。これ、気に入ったわ』
グラスに注がれた果実酒を揺らすルーナ様。すごくお似合いです。
『日輪の国の食べ物は好きよ。ヘルシーだもの』
「概念的存在も……あ、なんでもねっす。気に入ってくれて良かったです」
(※概念もヘルシー気にするんだとかはNG)
何か言おうとした兄がプラカードをみて言葉を変えました。うーん何が逆鱗に触れるのかわかりませんね……
「ミカゲと申します!こちらボクのおすすめと自信作です」
『死の弟子ね……ふうん。面白いじゃない』
「……レンと申します」
『……弟子なら破壊の奴の手綱握りなさいよ』
「……弟子ではありません」
『アイツいつもここに降りる時にこっちをチラ見するんだから……!』
「ハイドレンジアと申します」
「リーフと、申します」
『……色々な種族が集まっているわね。月に仇なす狼にならないように』
「う、うっす」
『ハイドレンジアと言ったわね。あとそこの……ソウ、だったかしら』
「!はい」
「……はい」
『月は狩猟の象徴の面も持つわ。……無様な姿は見せないことね』
「「!」」
(意訳:期待しているわ!!!!)
ルーナ様の言葉に息を呑んだ二人に、ムーンバニーが慌ててプラカードを振ります。
今の言葉は期待でしたか……
『……肴に話でもしなさい。聞いてあげなくもないわ』
(意訳:あなた達の冒険話が聞きたいわ)
少し照れたように頬杖をついたルーナ様。
わたし達は顔を見合わせて、今までであった話を語り始めました。
会話の間にフルーツポンチを供えて、みんなに渡します。ソウくんも、皆と打ち解けているようで安心です。
『…………ッくやしい』
(意訳:美味しい!ちなみに私のもあります?)
フルーツポンチを睨み付けつつ口に運ぶルーナ様の後ろでムーンバニーがプラカードを振るので苦笑しながら小さく頷くと、バッと勢い良くルーナ様が振り返りました。
『……お仕置きよ!覚えてなさい!これはあげないわ!』
「あーーーー!フルーツポンチーーー!私も頑張りましたのにーーー!」
「あはは……手伝いのお礼なので、受け取ってほしいです」
『……今回だけよ』
「ありがとうございますー!美味ですね!」
周りに花を飛ばしながらフルーツを頬張るムーンバニーは、フォルムも相まってキュートです。
ルーナ様の瞳は、優しくムーンバニーを見つめています。
「眷属とは中々ユニークですなぁ」
「眷属って人型もいれば動物もいるんでしょう?拘りがあるのかしらね」
『単純に好みと、月の力との相性よ』
「相性、あるのですね」
『まあ、拘りもあるわ。基本眷属の種族は揃えるわよ。見栄えもいいし、同じ事を覚えさせればいいだけだもの』
「ルーナ様に与えていただいたこの服が、私たちを見分けるポイントでございます」
な、なるほど……ムーンバニー以外にムーンバニーがいて、衣装も異なる、と!
『そこの癇癪娘は見栄え気にするよねぇ』
『ム、大切なのは意思疎通だろう?まあ、海の眷属達は我が強いが……よく服を強請られる』
『フォッフォ。ワシの眷属には骸骨もいるからのう。顔なんてわからんぞ』
『もっと肉体を残した奴にすりゃよかったのに』
『肉体が邪魔になるじゃろ』
んごふっ!びっくりして炭酸水が気管に!
勢い良く噎せていると、兄に軽く背を叩かれました。
びっくりしました……気配が全然読めないんですよね!
『……遠慮しなさいよ!月の時間よ!』
『君はそろそろ空に還りなよ。ミツキ達が疲れちゃうでしょ』
『長居するのも良くないからのう』
『おお、やはり果実は新鮮なものに限るな!』
「……カーッ自由!あまりにも自由ですわ!」
「えっと、もしかして……」
「……ソウくん、こうやっていらっしゃるんだぜ……」
「いつも心臓に悪いっす」
『……ん?おや新しい子がいるじゃん。よろしくね』
『ほう……ほう、また面白そうじゃの』
『月が最初に目をつけたんですけどぉ!?』
『ここにいる子達は俺達みんな目をつけてるじゃん笑う』
『ほっほ。ではの』
『馳走になった。今度は神殿に来るが良いぞ』
『見かけたら見てあげるよ。じゃね』
……皆様は、嵐のように過ぎ去っていきました。
パワーが……わたしのHPが……
『……フン。気に食わない奴らよ』
「ルーナ様もそろそろお戻りを」
『わかっているわ。……饗しに感謝を。其方達に月の導きがあらん事を』
ルーナ様の吐息が光となってわたし達に降り注ぎました。それはとても柔らかく、温かく……
『……中々楽しめたわ。月に貢げば、もっと見つめてあげるわよ』
「……ルーナ様、さすがに彼らはルーナ様の使徒にはならない、いえ、なれないかと」
『ふ、フン。言ってみただけよ。供物によっては助けてやらなくもないから、その時は跪いて請いなさいよね』
ルーナ様は顔を逸しながらそう言い放つと、姿を消しました。
「……言葉が強くなってしまう方ですが、心根はお優しい方なのです。どうかルーナ様を、よろしくお願いいたします」
綺麗に一礼したムーンバニーも、瞬きとともに消えました。ガーデンが静寂に包まれました。
わたしは力を抜きます。
「……ルーナ様のおもてなしは、どうにか終わったね……?」
「どうにかな」
「残された本日の大問題の事、そろそろ話し合います?フルーツポンチで喉は潤いましたぞ……」
「じゃあ、世界樹の所で……」
祭壇周りを綺麗にして、広く落ち着いて、よく作戦会議をする場として定着しつつある世界樹の根本に皆で座ります。
世界樹にフルーツポンチを供えつつ、振り返りです。
「では、本日の大問題、えっと、レイドクエストというものでしょうか」
「そうですな!そしてそれを話す前に皆さんの交友関係、少し知りたいんですけど戦力的に頼りになる知り合いいます?」
ミカゲさんの言葉に皆が顔を逸らしました。
わたしはフレンド欄を眺めます。
「ミツキ氏はなんだかんだで知り合い増えてきました?」
「フレンドは多くないですね……エクリクシの皆さんとシルバーウルフ、チャイニー、アデラさんとレギオスさん、そしてアヴァロンの皆さんくらいしか……」
「ふーむ、シルバーウルフのギン氏はテイマーのクラン作っていたはずなので、声をかけてもよさそうですな。カメリア氏は……パーティーだけでしたな。クランは組んでなさそうでした?」
「……俺に聞いてンのかよ」
「知ってるかな、と」
「知らねェよ。アイツは人数多いと他人を邪魔に思うタイプだぞ」
「レン氏と似てますなぁふぎゃっ!?」
「ミカゲさんーー!」
ミカゲさんの顔を鷲掴みにしたレンさん。無言ですがご機嫌ナナメなのはわかります!カメリアさんの話題は禁句なのでは!?
「ひぃんもっと優しさ欲しいですわ……他の皆さんもソロタイプですもんね……」
「ソロだから、ソロの知り合いが多いわね……」
「ステラアークに入ってからは他のプレイヤーとのプレイも減ったっす」
「僕らは元々交友関係狭いからね。ソロの知り合いならいるんだけど……」
「私はさっぱりね」
「……僕もですね。姉は、服飾クランを作っていますけど戦闘向けではありませんし」
「ソウくんお姉さんいるんだ?」
「はい。このアウターも、姉が作ったものです」
「すごい既製品にみえた。手作りなんだね!?」
売っているものと同じようなクオリティですが!?
世の中にはすごい人もいるもんですね……
「……結論!ボクとアヴァロンがどうにか集めるしかないですな……ただ何処を呼んでもやっかみは発生しますなぁ……とりあえずレダンで起こることなのでバルムンクに声はかけるとして、聖女氏も悪魔関連ですし……うぐぬああああ!」
「ごめんなさいミカゲさん……フレンドがいなくて!」
「レン氏は気に入らんかもですが、カメリア氏には声掛けさせて貰いますからね!」
「……勝手にしろ」
「アーサー氏とカメリア氏、ギン氏に根回ししつつ、バルムンクの信頼のおけるメンバーは……」
ミカゲさんがウィンドウを見つめて呟きます。
うぐぬ……あとはもうNPCの知り合いしかいません。
「僕の知り合いは闘うの大好きだから、一応声をかけてみようか」
「クランじゃなくても参加できるんすかね」
「クランの参加制限数は十五と決められているけど、ソロの制限は無いわね」
「ならミツキさんが許可を出せば、ソロでも参加可能っすね」
「レベル制限無しとはいえ、低すぎても困るからな。せめて65~は欲しいんじゃねえの」
わたしはもう一度クエストを確認します。
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〈レダン帝国防衛戦〉
参加可能クラン:15
参加可能プレイヤー数:100〜
レベル制限:無
アイテム制限:無
敗北条件:レダン帝国軍の全滅
所属クランを参加させますか
はい
いいえ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何回みても敗北条件がこわい……」
「……なるべく被害は、減らしたいわよね」
「軍と帝国への被害を減らせばボーナスとかありそうだけど、そうも言ってられねえよな」
「……守るという事は、とても覚悟の必要な行動だからね」
「自分の身も守れない者が他人の事を考えるなんて無能のする事よ」
「母さんめっちゃ言うじゃん」
「ふふ、帝国軍よりも先にこちらが悪魔を殲滅すれば良いのよ」
母の言葉に頬が引きつりました。その通りなんですけど、発言が過激なんですよね!?なんでそんなに好戦的なんです!?
「遠慮も容赦もなくやれそうね。休み取ろうかしら」
「確か侵攻は夜なんだろう?試しがいがあるね」
「……ミツキ、大変だわ」
「ジアちゃん?」
「私の計算が間違っていなければ、侵攻の前日まで期末テストよ」
「…………わーーーー!!!」
「学生は大変だな」
呑気な兄の言葉が耳を通り抜けます。
確かに、テストです!ぐぬ、勉強をちゃんとやりつつ、侵攻に備えないといけません。
「お、お母さん!勉強ちゃんとやるから、準備もさせて!」
「……あまり良くないのだけれど」
「メッセージはスマホに届くように設定してあるからメッセージは返せるから、ログインしなくても大丈夫だったら勉強する!」
「……今回だけよ。赤点は取らないように」
「テストの前にはきちんとテストに集中、だね」
「はい!!ジアちゃん頑張ろうね!」
「……本気を出すときが来たようね」
「姉貴は毎回本気だせよ……」
「ボクはまあどうにかなりますし」
「僕もそこまで難しくないですからね」
学生の敵、テストが迫っています。
ミカゲさんたちは余裕そうな……!わたしも赤点は大丈夫だと思いますが、ちゃんと勉強しないとです。
成績は落とせませんが、クエストも手が抜けません。
「……お兄ちゃん、準備、頼んだよ」
「しゃーねえお兄ちゃんに任せなさいよ。レベル上げしつつ素材集めしておくわ。ミカゲちゃんも爆発薬に必要な素材とかメッセージで教えてくれよな」
「……!ボクのもよろしいので!?」
「俺時間に余裕あるから任して」
「わー!ありがとうございます!」
「リーフくんは鉱石で良いのかね?」
「鉱石まで、いいんすか!?」
「いいよーお兄ちゃんに任せなさいよ」
ミカゲさんの助言を受けつつアーサーさんやカメリアさん達にメッセージを打ちます。
明日は日曜日なので……どうにか話し合いが出来れば良いのですが。
「レン氏はとりあえず強くなってもらって、ボクらもレベル上げつつアイテム類を準備してって所ですかな……」
「レンくんは一騎当千してもらうしかないしな……」
「……了解」
「リーフ、私たちもレベル上げるわよ」
「わかった」
「ソウくん、良ければその腕前見せてもらいたいんだけど」
「……わかりました。是非」
ふむ、皆の予定が決まっていきますね。
わたしは……と思っていた所、カメリアさんとアーサーさんから返信がありました。
明日、時間を取ってくださるそうです。
ミカゲさんがこの間のお店を貸し切りました!っと笑顔を浮かべました。
……気合いを、入れないとです。
「では、各々備えましょう。本日は解散で!」
「お疲れ様でしたわ!やる事いっぱいですわー!」
「ソウくんお疲れ。ゆっくり休めよ」
「リューさん、ありがとうございました」
「皆ゆっくり休むのよ」
「またね」
わたしは世界樹の下で星空を見上げます。
お師匠様たちとの話し合いもあるんでした。それは後ほどお師匠様から連絡があるはずです。
今日は、本当に色々ありました。
世界樹の世話から悪魔の話、クエストまで。
正直、頭がいっぱいです。
ぼーっと星を眺めていると、結構時間が経ってしまいました。
土曜日とはいえ、早くログアウトしないと!
わたしは慌ててホームへ戻り、ログアウトしました。
ログアウトしてベッドから起き上がった所、メッセージの通知が届きました。
あ、ユアストのメッセージ、届くようにしたんですもんね。
ミカゲ:今日はお疲れ様でしたね!ゆっくり休むのですよ!ゲームとはいえ星見の夜ふかしはお肌の大敵ですし!
レン:早く寝ろ
……もしや見られていましたかね?
お二人は優しいですね。お二人も遅い時間ですが!
でもこれ以上心配かけてはいけないので、ゆっくり休もうと思います。
おやすみなさい。
書けば書くほどツンデレになってしまう月……ヨシ!
果たしてミツキはテストを乗り越えられるのか……応援よろしくお願いします!ミツキ以外の学生組の詳細な反応は次話に入ってます。
これけらもミツキの物語をよろしくお願いします!




