悪魔という存在
ご覧いただきありがとうございます!
いつも誤字脱字申し訳ないです……とても助かっております!
「…………こりゃ驚いた。悪魔の擬態ならまだしも、憑依している俺の事も見えるってワケ?」
「!?」
「っていうかその瞳、同族の瞳じゃん。君悪魔の契約者だろ?……なぜそちら側にいる」
商人の男性に憑依している悪魔は、レンさんに足蹴にされたまま、開き直ったかのように話します。
「……ミツキ」
「わたしは契約の際に、瞳を借りたんです。悪魔と人とを見分けられる、瞳を。それが発動しまして……商人の男性にブレるように重なる、悪魔の姿が見えました」
「ほう」
わたしの瞳をみて、帝王様は目を細めました。
そして男性と、レンさんへ剣を向けている兵士へと視線を向けます。
「その兵士さんは悪魔ではありませんね」
「は、ハッ!商人の付き添いで」
「そうか。下がれ」
「ハッ!」
帝王様の一言で兵士は剣を納めて下がりました。
レンさんは気にしてはなさそうでしたね……
「……チッ。バレたなら仕方ない、この男は捨てるか」
「地下水脈への呪いの原因は悪魔ですか?」
「言う訳無いだろ。………は?出られねぇ。……この、鎖か!」
悪魔の体を縛る冥鎖が、仄暗く燃え上がっています。
おお、冥王様の力が込められた特殊なアイテムですので、なにやら悪魔の力を阻害しているようです。
「……チッ!」
悪魔は舌打ちをしてだんまりです。
ではこの池を、重点的に調べましょうか。
「ひとまずこの池を調べよう。ベイリー、浄化」
「そう簡単に言われても……準備が必要なんですよ」
帝王様の言葉を聞いたベイリーさんはため息をついて、錫杖のような杖を取り出しました。
ふむむ……左目の反応があります。何か、池の中心でぼやーっとした何かがあります。
らしんばん座を召喚します。
「ピクシス、呪いを放つ何かがあるのかわかる?」
MPを込めると、ピクシスの針が池を指し示します。
ふむ、やはり何かしらありそうですね。
皆でわたしの手元を覗き込んで、池の方をみて頷きました。
「人体に害がないなら、潜るか?」
「わたし泳げないから……あ、人魚のお姉様たちに貰ったアクセサリーがある」
「いーよ俺が行く。どの辺りにあるのか教えてくれ。こないだアルヒラル遺跡で祝福の腕輪(水)手に入れたし」
兄が腕輪を取り出しました。
ああ、一定時間呼吸ができるやつですね。
「じゃあひとまず俺が逝ってくるから皆待っててくれよな」
「なんか行ってくるのニュアンスが違う気がしますが、頼みましたわ……」
「水中で使えるアイテム、持ってないのよね……」
「毛が濡れると動きづらくて……」
「リューさん、気を付けて」
兄が池に飛び込みました。
ベイリーさんが苦笑して、池に光を放ちます。
「……ミツキさん、その瞳は大丈夫ですか?痛みとか……」
「痛みはないよ。じんわり熱い感じはするけど」
「その瞳、あの悪魔の瞳とそっくりなんですけどぉ……」
「はい。【凶星の瞳】というもので、マレフィックさんの瞳の力を借りているようなものだと……?」
兄が潜っている間に確認しちゃいましょう。
えっと……
【凶星の瞳】
凶星の名を持つ悪魔の瞳……の概念。
悪魔を視認すると自動的に発動する。
悪魔、悪魔憑き、悪魔の契約者を見抜くことができる。
「……悪魔、悪魔憑き、悪魔の契約者を見抜くことができるようですね」
「おお……」
「まあ、悪魔に対策中のレダンにとっては有用ね」
マレフィックさんオリジナルかもしれませんが、わたし自身見極める事が困難なので、とても助かります。
発動するまで商人の男性は普通の男性だと思いましたからね。
少し待つと、兄が浮かびました。
何処か動きが、ぎこちないような……
両手をついて陸に上がった兄の右腕が、真っ黒になっていました。
「ちょっ!?」
「リュー、それどんな状態なのかしら」
「呪い。なんか箱っぽいものあったんだけど、持ち上げられなかった。触れたら呪われた。コスモス様の祝福のおかげで、右腕だけで抑えられてるっぽい」
母の問いかけに兄が右腕のシャツを捲りあげると、肘辺りまで黒く染まっていました。しかし、肘で淡く光って止まっています。
「そ、それが宇宙侵食ってやつ?」
「かもな」
「めっちゃ興味深いですな……」
「痛みや痺れはない?」
「大丈夫だけど、動かしにくいな」
「私に見せていただけますか」
ベイリーさんが近付いてきて、兄の腕の様子を眺めます。
「浄化はその箱までは作用していませんでしたか」
「恐らく。光は届いてましたが、箱に変化はなかったです」
「……【浄化】」
ベイリーさんが腕に杖を近付けて唱えると、兄の腕が元通りになりました。ほっ、よかったです。
「ありがとうございます」
「いえ、これは私の仕事ですからね」
ふむむ……困りましたね。
帝王様が悪魔と圧迫面接していますが、悪魔は黙ったままです。
これがあの悪魔が設置したのであれば、何か知ってそうなんですが……
「ラクリマ、世界樹の葉はまだある?」
『あるよ。結界張る?』
「今の間だけでも、その呪いの流出は防げるかなって」
『やってみるね。【破邪結界】』
ラクリマがこの空間内に結界を張りました。
その瞬間、悪魔が顔を顰めました。
「……ゲッその世界樹の葉をクッキーみたいに頬張るモンスターなんなんだよ。力抜ける……」
「池に呪いを流出する箱を置いたのはあなたですか?」
「……」
というか、ルーナ様の呪いもそうでしたが。
呪いが込められているものは箱の形をしたものが多いですね?
パンドラの箱イメージでしょうか……希望が残るならまだ良いんですがね。
「……チッ。子供たちは離れていろ」
「……何か方法でもありますか?」
「口を割らせる方法は色々あるからな。試す」
「ひぇっ」
帝王様が真顔で言い放ちました。
ベイリーさんが笑顔で聖水を取り出しました。
悪魔へのフラストレーションが溜まってそうです。
ひとまず離れて、皆で相談します。
レンさんがこちらに戻ってきました。
「うーん、どうしましょう……」
「触れると呪われるし持ち上げられないんですもんね?」
「……ここから壊しますか?」
ソウくんが銃剣を持ち上げながら言いますが、その言葉に首を振ります。
壊せるかどうかわからないのと、地形が変わって水脈がどうなるかわかりません。
「そうね……悪魔の事は悪魔ならわかるんじゃないかしら」
「そうだね。ミツキと契約している彼、喚べるんだろう?」
両親の言葉に頷きます。
神秘は問題なく使えます。このまま悩んでいてもわかりませんし、悪魔の事はマレフィックさんに聞くのが一番かもです。
ミカゲさんがジアちゃんとリーフくんの影に下がりました。
「【15:悪魔】」
悪魔のカードが浮かび上がったあと、魔法陣からマレフィックさんが出現しました。
空中で翼を広げて、周囲を見渡して、わたしをみて笑みを浮かべました。
『お、悪魔じゃん。捕まえたの?』
「偶然の出会いですが……マレフィックさん、彼らがわたしの仲間です」
『……うん、皆星の気配を感じるアクセサリーとかつけてる?覚えた覚えた。そこの子は新しい子かな』
「っ!」
『オッケー。ちゃんと覚えた……あ、そういえばタナトスの気配の子』
「ッな、なんですかこのやろーやるんですか」
『やんないやんない。この間はごめんネ』
毛を逆立てた猫のようにジアちゃんの影からマレフィックさんを睨みつけるミカゲさんに、マレフィックさんが謝りました。
『俺はマレフィック。よろしくね』
「……うおう随分とフレンドリーな悪魔だな」
『で?なんの用?』
「あの池の中に何かあるようなのですが、マレフィックさんわかりますか?」
わたしの言葉を受けてマレフィックさんは池まで飛びます。
マレフィックさんの姿をみた悪魔が、目を見開きました。
「……貴様、裏切り者の……!」
『やっほー。人間に簡単に捕まるなんて、オマエ弱いね』
「貴様、奈落に囚われている筈じゃ」
『出入り許されてんのよオレ。お前らと違ってゼンリョーな悪魔だからサ』
ニヤリと笑みを浮かべたマレフィックさんは、池の中心で手をかざすとその手に魔力が収束していきます。
『んー、あ、これか』
そのまま腕を上に上げると、水中から何かが飛び出てきました。
正方形の、小さな箱です。
『呪いの元はコレだよ』
「それは……」
『悪魔が昔この世界の奴を食らって蓄積された、食われた側の負の感情ってヤツ?それを特殊な箱に入れると呪いに転じるんだよね。あと悪魔王サマのほんの少しの魔力で、人体に害の無いようにしてるんじゃない?発見が遅れるように』
「……それ、マレフィックさんなら壊せますか?」
『壊せるよ。まァでも……』
マレフィックさんが片手で謎の箱を浮かせながら、わたしに近付きました。そして笑みを浮かべます。
『対価、頂戴?』
「……ふふ、もちろん」
わたしも負けじと、笑みを返しました。
わたしのアイテムボックスの中には、食事はたくさん入っています。
「これはスピカさんが作ったトマトゼリーで、これはこの間わたしとミカゲさんで作ったカプレーゼです。そしてアルフレッドさんのイングリッシュマフィンバーガーと、レガリアで買ったジンジャークッキーもありますよ」
『うわ何これトマトデッカ……うっま』
「うちの特産品ですね。大きいのにしっかりトマトです。スピカさんの料理も美味しいんですよ」
『ゼリーまでトマトの味するじゃん。オレこれ好き』
「またスピカさんに作ってもらいますね!」
「…………」
「…………」
「あー、あの、うちのクランマスターがすいませんね」
「いやでも、本当に料理が対価なのね……美味しそうに食べているわ」
「こう見ると普通の青年に見えるね」
「……立派な翼と角がありますなー……」
背後から皆の会話が聞こえます。
これが契約なので……マレフィックさんはどれも目を輝かせて口に運びます。
『……あ、その悪魔の事は任せなよ。殺すと本体が消えて悪魔にバレるから、オレの支配下に置く』
「!」
『ン、美味しかったよ。食事分は働くよ』
謎の箱を浮かせたままマレフィックさんは商人に憑依する悪魔に近付きました。
顔を見合わせた帝王様とベイリーさんが、こちら側へと下がりました。
な、何をどのように……ミカゲさんがわたしの両肩に手を置きながら、マレフィックさんの方向を覗き込みます。
『悪魔っていうのはさ、長く生きれば生きるほど角が立派になるんだよ。だから角が小さいやつは若造なんだよね』
「……ッ!……!」
マレフィックさんは鎖に縛られた男性の顔を両手で掴んで、無理やり自分の方へと向かせます。
『オレはまァ《神秘》と契約してるから半分不死なのもあって裏切り者判定を受けているし、悪魔王サマから興味を持たれてるから毎回半殺しにされてるケド』
そう笑いながら言うマレフィックさん。
それは笑って良いんですかね……?背後から「こわ……」という呟きが聞こえました。
神秘との契約とは、どんな……
『こんな雑魚消えても悪魔達は困らないだろうケド、オレの暇潰しにはなるだろ。奈落は、暇なんだ』
「……っひ、ィ……!」
『だから、侵攻が起こるまで、奈落で死んでも遊ぼうぜ?【リールガレト】』
「が、ァッ!?」
マレフィックさんの言葉に悪魔が苦しそうな声を上げた瞬間、男性から半透明な悪魔が引きずり出されました。
『貴様、何故、真名を……ッ!』
『オレのが強いんだから真名とか秒でわかるよ。悪魔にも序列があるんだからさ。伊達に長生きして奈落で生き残ってないんだわ。ほら、跪けよ【リールガレト】』
『グッ!?』
『あ、そのヒューマンは悪魔の憑依で弱っているだろうから、教会で浄化しながら休ませればいいよ』
マレフィックさんの言葉を受けて、苦々しい顔をしながらベイリーさんが商人の男性を保護しました。
「……マレフィックさん、侵攻は近い内にありますか?」
『あるよ。扉が開く準備は着々と行われてるっぽいし。この呪いはただの悪魔からの嫌がらせだ』
「……嫌がらせ、か」
帝王様が呟きました。
嫌がらせによる、国へのダメージが大きすぎます。
『よし、真名は握れたから問題ないよ。そこの蝶の……ラクリマだっけ』
『ラクリマだよ』
『この箱に限定的にその結界狭められる?』
『……やる』
ラクリマが魔力を徐々に収束します。
結界が、箱の周囲を覆いました。
『上手いじゃんいい子。ありがとう』
マレフィックさんは両手を箱に向けると、赤と黒の電撃が迸りました。すごい魔力です……!
ピシリと箱に罅が入り、黒い魔力が竜巻のように渦巻きマレフィックさんの手を裂きました。
それでもマレフィックさんは笑みを浮かべて魔力を込めると、一際大きく割れる音が響いて箱が粉々になりました。
「マレフィックさん、手は……」
『これくらいなら問題ないよ。悪魔王サマの魔力が反発しただけ。箱は壊したし、これなら後は世界樹が浄化できる筈だよ』
「……マレフィックさんは物知りですね?」
『喚ばれた時に、場に順応する為にきみの状況が頭に入ってくるんだよね。オレじゃなかったら廃人まっしぐらだよこれ』
「そ、そうなのですね」
『じゃ、次は悪魔侵攻の時に喚んでね。オレ、悪魔と戦いたいから』
マレフィックさんはそう言い残して、悪魔を掴んで姿を消しました。
……反故にしたらしたで怖いので、その時はマレフィックさんを喚ばないとです。
小さく息を吐きます。
色々ありすぎて、精神的に疲れましたよ……!
「……フレンドリーですが、どこか狂気も感じましたわ」
「悪魔には違いないってか」
「……ミツキを裏切らないなら、良いわ」
悪魔、ですもんね。
……どうにか、食でマレフィックさんの興味を繋ぎ止めなければ。
「……ミツキ。これは返す」
「帝王様」
「……お前たちがいて助かった。色々、色々あったが」
「大神官の私としては、見なかったフリをしたいですがね」
「あの悪魔の言う通り破壊出来たのであれば、程なく浄化されるだろう。世界樹に報告するまで、付き合ってくれるか」
「あ、勿論です。世界樹からの依頼もありますし……大変申し訳ないですが、わたし達はわたし達の世界に一旦戻って、休憩して考えを纏めつつ世界樹へ報告とかでもよろしいですか?」
帝王様から冥鎖を受け取ります。色々あったらお昼でした。そろそろ空腹のアラームが鳴りそうです。
帝王様はわたしの言葉に頷いて、皆でひとまず来た道を戻り、レダンの王宮へ帰ってきました。
「俺も、休憩する。一時間後にまた執務室へ来てくれ」
「そちらの扉を開けていただくとアルブの研究室となっています。応接室がありますので、利用してください」
ベイリーさんがノックもせず扉を開けると、書類を眺めていたアルブさんが飛び跳ねました。
「アルブ、応接室を借りますよ。一時間後に執務室へ」
「わ、わかりました!」
「アルブさん、すみません……!」
「いえいえ、お気になさらず……!」
わたし達は応接室を借りて、昼食のためにログアウトしました。
世界樹をクッキーみたいに頬張る……書いてて作者が宇宙猫になりました。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




