アルヒラル神殿 ④
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これからも様々な事に巻き込んだり巻き込まれたりするミツキの物語を楽しんでいただけたら幸いです。
「あー、ハティに近いって言ってたもんなあ……あ、ハティってのは北欧神話で月を追いかける狼なんだが。ハティが月を食らうことで月食が起きるとかなんとか」
「……月食。それは……ルーナ様ブチギレ案件というやつでは……?」
「だよな」
「ですね」
「使ったら怒られるかなぁ……」
『試練に口を出すことはないだろう。奴が手を出した時点でそれは試練ではなく、私刑に近いものとなる。だからまあ……問題ないだろう。月の力だけ食ってやる』
牙を見せたトニトルスの言葉を反芻します。
……つまり、トニトルスはルーナ様に対して有利となる力がある、ということですよね?
「使いみちがわからなかったアレか。じゃあ使うか……そこそこ時間も経ったしな」
気付けばもう夕方です。
午後はずっとダンジョンにいましたね。
「うし、やるか」
「ひとまず、任せたよお兄ちゃん」
「おー」
兄がウールヴヘジンから離れた場所で槍を構えたので、ソウくんと一緒に離れます。
トニトルスが兄の影に溶けるように消えて、兄が紫色のオーラを纏いました。
「お、おおお!?なんかチュートリアルが!……槍いらないんか……えっそんな動きすんの!?……ああ、でもなんか……」
「……美味そうだ。【月食】」
兄が槍を消して一歩踏み込んで両腕を前に出し、まるで顎のように、噛み合わせるような動作を繰り出した瞬間に、オーラが狼の形となって、ウールヴヘジンへと襲いかかりました。
それはウールヴヘジンにダメージを与えると同時に、何か靄のようなものを吸い取り、咀嚼しているようにも見えます。
そして全てを食らい尽くした時には、ウールヴヘジンはヒューマンの姿へと戻り、兄のHPが全回復していました。
ウールヴヘジンは、気絶しているようです。
「……ご馳走様でしたっと」
「……終わった?」
「ルーナ様の呪縛は食えたはずだな。表示もなくなったし……【解析】は弾かれるし、特殊ボスなんかね」
「……イベントボス、のようなものですか」
「それに近いかもな」
オーラが消えるとまた兄の足元からトニトルスが出てきました。
そして、ルーナ様を見上げます。
わたし達も、武器を握りしめたままルーナ様を見上げます。
ウールヴヘジンは戦える状態ではありませんし、対処はできたはずですが……
「ルーナ様……」
『…………フン、どのような力を使おうと、戦闘不能にしたのは貴様達。もう奴は戦えぬ……試練は終了とする』
-月の試練 を クリアしました-
この戦闘では経験値のみの取得となります。
種族レベルが3上がりました。
任意の場所へステータスを割り振って下さい。
種族レベルが70になりましたので、【起死回生】のアクティブスキルを取得しました。
アクセサリースロットが1枠増えました。
SPを6獲得しました。
メインジョブレベルが3上がりました。
宇宙の結晶が必要数を満たしました。
はふう……!
試練、クリアしました!レベルも上がりましたね!
ステータス操作は後でします。今はルーナ様の……
『……見事な戦いであったぞ、星詠みの娘とその血縁者よ。そして……ふむ、其方もまた特異な道を辿っている』
「ソル様、ありがとうございます。お世話になりました」
『居座ったのはこちら故気にするな。それに……』
空中に浮かぶソル様に向かって頭を下げて、お礼を伝えると微笑みが返ってきました。
祝福の強化といい、ソル様はわたし達がルーナ様と出会うことを予感していたのでしょうか。
ソル様の視線がルーナ様へと向かいます。
ルーナ様は椅子からふわりと浮かびながら移動して、ムーンバニーと共にウールヴヘジンだった男性を見つめています。
『……休ませてやれ』
「……はい!」
男性を抱え上げたムーンバニーが、ふと動きを止めてこちらを振り返ります。
「……命を残してくれて、感謝する」
そう言い残して、何処かへと消えました。
ムーンバニーにも、思う所があったのでしょう。
最初からあの男性の事を心配されていたようですし。
『……厄介な力を持つ渡り人め。だが、試練を乗り越えた貴様達を、勇士と認めよう』
-称号 月の祝福 を手に入れました-
あ、祝福をいただきました。どうにか祝福をいただけるくらいには、認めていただけたと……?
すごい不本意そうですが……なんだかジト目で見られています。
『……ハァ』
『……さっさと去ね。貴様も用は無いだろう』
『このまま何も言わずに帰ろうと思ったが、貴様の猫被りが癪に触る。星詠みの娘よ、此奴は尊大な態度を取っているが普段は我侭な箱入り娘だ』
『貴様ッ!』
『あれだけ嫉妬を込めて睨まれれば理解する。我らが星詠みの娘の島に降りた時も、空から鬱陶しい程視線を感じた。宇宙のように貴様も覗き見ていただろう』
『ッ!』
『それに自分をよく見せるために尊大な態度を取り威張り後で後悔して凹んでいるそうだな?以前の集まりでムーンバニーが嘆いていたぞ』
………へぁ?
えっと……要するにルーナ様は……
「……えっとつまり、ルーナ様ツンデレってこと?」
『ツン……が何かは知らないが、月は偶像として崇め奉られる事が多いからな。欲しいものは何でも手に入れてきたが……』
『自身の祭壇も作れと言えない奴だ。言えないが、祭壇用の概念は宝箱に紛れ込ませる狡賢い奴だ』
えっ!?
る、ルーナ様概念の何か貰っていましたっけ!?
アイテムボックスをスクロールして眺めると……あ、もしやこの怪しい謎の鏡だったりします!?
『まあ本人の口から無いのであれば別に用意せずとも良いだろう』
『…………』
『では、太陽は戻る。喚ぶも良し、祭壇で祈るも良い』
笑みを浮かべてソル様の姿が消えました。
えっと……ルーナ様も、祀って良いのですかね?
ソファもラグマットも無いので、準備が必要ですが……
『何も無ければこの遺跡から出た方が良いだろう。リュー、貴様はもっと雷の力を扱いこなせるように鍛えるぞ』
「今日はさすがに疲れたからゆっくりしたいんだが……」
『ム、確かに本日は休むべきだな』
「……僕もそろそろログアウトしたいですね。長時間ログインしていますし」
「ソウくん、また別の日に会える?ダンジョン内で得たアイテムの確認もしたいし、もしかしたらわたしは使えないけどソウくんなら使える、なんてアイテムもあるかもしれないし」
「……そうですね。後ほど日程の相談をしましょうか」
今日は疲れもありますので、夜は島でゆっくり過ごしましょうかね。
昨日今日で、たくさん戦闘しましたから……
ルーナ様の事も気になりますが、どうすれば良いのか……わたしから言い出すべきですかね!?
『……星詠みの娘』
「……っ、はいっ!」
『…………その鏡を使って、私も、』
そんな事を考えていたらルーナ様から話しかけられました。そして途中で、口を開けたり閉じたりしています。
『……わ、私も』
「は、はい」
『……ち、力を貸してあげるから祀りなさい!……あっ』
顔を背けながら、小さく言葉を紡いだルーナ様。そしてすぐに、俯きます。
な、なんだか最初の雰囲気とは正反対です。
これが兄の言っていたツンデレ……?
でも力を貸してくれるのであれば、わたしとしてはウェルカムです。
「準備が必要なのでお時間いただきますが、あの場所で良ければお祀りしても良いですか?」
『……構わないわ。概念として、力を貸すのは定めだから』
「準備でき次第、お祀りいたしますね!」
わたしの言葉を聞いたルーナ様が、小さく微笑みました。
離れた柱の影から、ムーンバニーが涙を流しながらこちらを見つめていました。
「……よかった……ルーナ様が思ったことを言えて……」
「保護者か??」
「うおおおおおおん」
「めっちゃ泣いてる……」
『……ッ!もう行け!勇士達は休むが良い!』
ルーナ様は泣いているムーンバニーを連れて爆速で消えました。
兄とソウくんと顔を見合わせます。
「これはチョロインの気配……」
「なんて??」
「いや何でもねえわ。ソウくん、手伝ってくれてありがとうよ」
「……本当に、色々とありがとうね」
ソウくんは途中からでしたが、色々と巻き込んでしまったような気もします。
兄と二人だけでは、とても厳しかったですからね。
「いえ、僕も普段体験できないような……いや本当に……なんと言うか……とんでもない体験、でした」
「いや本当にそれはうちのミツキさんがですね」
「お兄ちゃんもです」
「……お二人とも、僕から見たら普通ではありませんでしたけどね。でも、とても楽しかったです」
目を閉じて小さく笑みを浮かべるソウくんに、兄と視線を合わせて微笑みます。
今回のダンジョン、中々大冒険だったと言えるでしょう!
戻ったらステータスの操作をして、皆へ報告するのに纏めてアイテムも確認していないものを確認して……コスモス様をお迎えする準備をしないとです。
まあその前にログアウトですね。
「……んあ、終わったか。じゃあ俺らも戻るか。もう戦闘も無いだろ」
「ええ。ミツキ、戦闘の振り返りは忘れずにですよ」
「はいっ!ありがとうございました!」
話が終わるまでは待っていてくれたシリウスとサジタリウスさんが消えました。
ヘラクレスさんも時間で還られたようです。
わたし達も、ルーナ様が消えたら出現したワープポイントがあるので、ワープポイントを使って神殿から出ました。
アルヒラル遺跡の入口でパーティーを解散して、兄とアストラエアさんとともに島へ戻って一旦ログアウトしました。
すこし短めですが、遺跡と神殿の話はここで終わりにします。
やはり女神()はツンデレでなければ……
それにやっと宇宙が世界に正攻法で介入できるようになります( ˘ω˘)
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




