アルヒラル神殿 ③
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合言葉は『ファンタジー』です!
聞こえてきたソル様とルーナ様の会話に耳を傾けていたら!物騒な単語が聞こえました!
『ムーンバニーよ、余興は終いだ。新入りをここへ』
「ほ、本気ですか!?まだ完全に狂気を抑えきれていませんが……!」
『構わぬ。新入りを対処できれば、試練は終わりとする』
「……承知、いたしました」
ムーンバニーが顔を顰めて、モンスターを出現させていた靄を消しました。
そして空中に再度靄を出現させると、そこから一人の、ヒューマンのような男性が落ちました。
『月がここで見ておる故、存分に暴れるといいぞ』
「っ!はい、はい!ああ偉大なる、美しき月よ!貴女のためなら、私は何でもいたします!この呪われた力も、貴女のためなら、恐ろしくはない!」
『ふふ。素直で従順な貴様には、月の光をくれてやろうな』
「有り難き幸せ……!ッガ、ァ!アアアアアッ!」
……演劇の一幕でも始まったかと思いましたが、男性の様子がおかしいです。
跪いてルーナ様を見上げていた虚ろな目をした男性がルーナ様に照らされると、その姿を変えました。
まるで、作り変えられるかのように。
その姿は童話やお伽噺で出てくるような、人のような狼……狼男ですね。狼男へと変貌しました。
その姿を、ムーンバニーが悲痛な表情で見つめていました。
ウールヴヘジン Lv.75
アクティブ アルヒラルの呪縛状態
【???】【???】【???】
【???】【???】【???】
その紅く光る瞳と目があった瞬間その姿が消え、衝撃と共にわたしの身体が吹き飛びました。
「ぐっ!?」
「ミツキッ!」
背後にいたアストラエアさんがわたしを受け止めながら転がります。
いった……い!速くて、見えませんでした!構える時間も、ありません!
「ミツキ!」
「ありがとう、ございますアストラエアさん……!」
一気に半分に減ったHPを回復します。
まさか、一撃で半分もダメージを負うとは……!
まだ腹部に衝撃が残っています。
腹部を抑えつつ立ち上がると、兄が槍で攻撃を弾いているのが見えます。
なんて、速い……!それに、あの彷徨う亡霊と同じように、アルヒラルの呪縛状態となっていました。
あれは、ルーナ様の力……?
◆◆◆
『……随分と悪趣味だな』
『……月と貴様は違う。貴様ほど柔らかく民を見つめている訳ではないからな。冷たく、ただ浮かぶのみ』
太陽と月は、立場は違えど観劇する立場として、眼下で繰り広げられる戦闘を見つめている。
『太陽は貴様よりも民と関わることが多いが、貴様ほど冷徹では無いからな。そのような考えには至らぬ』
『貴様は夜ではなく、昼間活発に動く民と関わるからだろう。信徒も見つけやすいだろう……月が見つめる夜に、民は休む。夜に行動するものは、少ないからな』
『だがそれで眷属や信徒を使い潰すのは愚の骨頂だろう。信心なくば我らの存在も危ぶまれる……破壊のように』
『……わかってるわ、そんなことくらい』
太陽の言葉に、月は視線を逸らした。
◆◆◆
ウールヴヘジン……聞き慣れない名です。
素早いウールヴヘジンを捉えたシリウスが右脚に噛み付き、そして蹴り飛ばされました。
その右脚には青い炎が残りましたが、兄とソウくんがお互いに武器を持ってウールヴヘジンに武器を振りかぶった瞬間にその場で片手をついて回転したのでその炎も消えました。
兄とソウくんはその脚を武器で受け止めましたが、反動で後ろに跳ね飛ばされました。
……パワーもありますね。
「【宇宙線】!」
『っ、糸千切れた!怒った!』
動きが速いので捕まえようとしたラクリマの糸が千切れたようです。
どうにか捕まえたい所ですが……!冥王様から貰った冥鎖も、弱らせられれば使えるでしょうか!?
「……!」
「ガッ!?」
フィールドを見渡していたヘラクレスさんが、一歩踏み込んで消えました。次の瞬間には、両手でウールヴヘジンを捕まえています。
そしてそのまま……バックドロップをしました。
母が眺めていた動画を一緒に見ていたのでそれだけは覚えています。あれはバックドロップ……!
頭から地面へと衝突したウールヴヘジンのHPが七割まで減りました。
さすがヘラクレスさん……圧倒的パワーです。
そこに兄とソウくんが飛び込みます。わたしも攻撃しないと……!
「【宇宙線】!」
「【ライトニング・ドライブ】ッ!」
「【首吊り、そして切断】!」
宇宙線がウールヴヘジンに突き刺さり爆発した瞬間兄の槍の一撃が命中し、最後にソウくんが吊り上げてその首元に剣を……!
「なっ!」
「は、」
僅かに首をずらしてその歯で剣を止めたウールヴヘジンの瞳が、ソウくんを睨み付けました。
「チッ!」
「ソウくん!」
「こちらは気にせず!」
すぐに体を捻ってウールヴヘジンを蹴り飛び上がって、背後に浮かぶ銃剣を手に取り落ちながらウールヴヘジンへと乱射するソウくん。
そこに兄が勢い良く槍を投げました。
ウールヴヘジンが首元の縄を引きちぎり、咆哮を上げるとその体が一周り以上大きくなりました。
そして槍を腕で、傷を負いながらも弾くと無手となった兄へと飛びかかります。
「ッ」
『避けろ愚か者ッ!』
「うおお!?」
身構えた兄にトニトルスが体当たりして転がりました。
ソウくんもしっかりと着地しましたね。
……このウールヴヘジン、このまま倒したら、消えてしまうのでしょうか。
アガースラは、消えてしまいました。
……アガースラも、元はハーセプティアの民だったのでしょうか。
だとすれば、わたし達は……
「それは、今戦場で考える事でしょうか」
「っ!」
「後で良いのであれば、集中しなさい。対処を考えなければいけませんからね」
「……はい、すみませんでしたサジタリウスさん。そしてありがとうございます」
静かに、サジタリウスさんから問いかけられました。
……余計な事を考えるのは悪い癖です!
ウールヴヘジンはまだHPが半分もあります。
まずは瀕死にすることを、目指しましょう。
頬を叩いて、気合を入れます。集中集中!
「……ルーナ様は、対処と言っていました。倒せとは言わなかったので、どうにか無力化する事が、必要だと思います」
「ふむ、それではどうしますか」
「……ラクリマとわたしで、動きを止めます。そこでヘラクレスさんに抑えて貰って、攻撃を行い弱らせて捕まえて、あの呪縛を解くことが出来るかを考えます」
「ではそのようにしましょうか」
「ラクリマ!」
ふわりとラクリマがこちらへと舞い戻ります。
そして考えを伝えると、頷きました。
『……ラクリマ、やる!ラクリマも試したいもの、ある!試してみても良い?』
「?ま、任せるよ!」
『わかった!……【宇宙創生】!』
その壮大な言葉と共に、文字通りラクリマから宇宙が拡がりました。
『!』
『これは……!』
頭上から驚いた声が聞こえます。
わたしも驚きで杖を落としそうになりました。
「……ラクリマ?」
先程まで隣にいたラクリマの姿が消えました。
見渡しますが、上下左右宇宙空間です。でも、踏みしめている感覚があります!
「ど、どないなってるんじゃー!?」
「な、なんですかこれ!?」
『なんじゃこりゃー!』
「ラクリマ!?」
兄とソウくんの声の後に、ラクリマの叫びが続きました。
『ミツキミツキ!わかった!使い方わかったよ!』
「ら、ラクリマ!何処にいるの!?」
『ラクリマは今、この宇宙空間そのものになってる。この宇宙空間は時限式だけど、この宇宙空間の中なら……色々と出来そう!』
……なんかアバウトですが、なんだかラクリマがわくわくしてますね!?
『ひとまずミツキ、あいつに向かって重力操作しよ!』
「わ、わかった!【重力操作】!」
警戒して遠くからこちらを見つめていたウールヴヘジンに向かって重力操作を放つと、ウールヴヘジンが空中に、無重力のように浮かび上がりました。
おや……?抑えつけたと思ったら、浮かびました。
宇宙空間で重力を扱うと、逆に浮かぶように……?
まあ空中で藻掻いて、動きにくそうですが。
「ミツキさん何してん????」
「いやあの動きを止めようとして……ラクリマが試したいものあるって……」
おっかなびっくり歩いてきた兄に肩を掴まれました。
いやわたしもわからないんですって……
「ルーナ様は対処って言ってたでしょ?だから倒さない選択肢もあるんだろうって」
「はーん、なるほどな……俺も、試してみっかな。使ったことないアーツ」
「とりあえず、瀕死にする方向で。そして捕まえてから、呪縛を解くことが出来るかを試したいかな」
「あいよ」
兄がまたおっかなびっくり宇宙空間を駆けていくと、ウールヴヘジンから風の刃が四方八方へと放たれました。
「ガアアアッ!」
「わっ!」
『させない!』
ラクリマの声が聞こえた瞬間、風がかき消されました。……周りが全部、宇宙空間のようなものなのであれば真空空間と同じような空間、でしょうか?
『ミツキ、ドカンと一発かませるよ!』
「なんだって!?」
-ラクリマより、惑星操作権を付与されました-
【惑星招来】が使用可能となりました。
「な、なんだって!?」
『ラクリマはこの状態だと直接攻撃が出来ないけど、契約者であるミツキなら扱えるらしいから』
「そうなの!?」
『コスモスがそう言ってる』
「コスモス様が!?」
慌てた拍子に重力操作を解いてしまいました。
そこに兄とソウくん、シリウスとヘラクレスさんが突っ込みます。
わたしには聞こえませんが、ラクリマには何やら、コスモス様と対話ができるのかもしれませんね!?
『今は【惑星招来】しか使えないけど……』
「むしろ惑星招来ってなに……?」
『擬似惑星?を創造して?ぶつけるらしいよ?』
惑星をぶつける???惑星を、ぶつける???
そ、そんな物理的な???
『時間がないから、試してみて!』
「わ、わかった!【惑星招来】!」
-ランダムな惑星が召喚されます-
な、何がなんだか!唱えてみると、アナウンスが響きました。惑星を、召喚?
この広い宇宙空間の中で、突如ウールヴヘジンの真上……すなわちわたし達の真上へと巨大な質量が出現し、その場にいた誰もがその赤い地表を見つめた瞬間、爆風と轟音が響きました。
「……生きてる」
ルーナ様の観劇場の姿に戻ったフィールドで、地面に転がりながら呟きます。
ダメージはありませんでしたが、爆風に飛ばされました。
……これはなんというか……爆発技というものですかね……恐らく惑星の中で赤い地表をもつ惑星は火星のはずなので、落ちてきたのは火星だと思うのですが。
火星、爆発しました……
「……ラクリマ?」
『うううマナ使い果たした……眠い……ねむ……ごめんミツキ……』
「ラクリマ!」
ふらふらとしていたラクリマが、召喚石へと戻りました。消耗が激しい技なんですね……!
ゆ、ゆっくり休んでもらいましょう。アーツについては、コスモス様に聞きましょう。
ハッ!この一撃で、ウールヴヘジンを倒してしまってはいませんよね!?
「随分と物騒な技じゃないか……ほら」
「ありがとうございますアストラエアさん……」
アストラエアさんの手を取って起き上がります。
フィールドを見渡すと、皆が無事なのは確認できました。
ウールヴヘジンは……倒れてますね。
HPも、二割くらい残っています。あの爆発を受けて二割残っているのは……すごいです。
距離を取って近付くと、ダメージが大きかったのか、失神しているようです。
……これは捕まえられそうですね。
ヘラクレスさんを手招いて、冥鎖を取り出します。
わたしよりレベルは高いですが、失神してますし……ヘラクレスさんが抑えてくれていますので、とりあえずぐるぐる巻にしましょう。
冥鎖を巻くと、ほんのりと黒い炎が鎖に灯りました。
……大丈夫ですかね?
「捕まったん?」
「わからないけれど……今のうちに呪縛を解けるか試したいね」
「星のキュアポーションならいけるか?」
「試してみよう」
兄の言葉に頷いて、星のキュアポーションを取り出します。
それをウールヴヘジンに振りかけますが、姿に変化はありません。
「変化は……ないね」
「マジか……ってことは、これ呪縛だけど呪いって訳じゃないんだな」
「……デバフではなく、彼にとってはバフかもしれないってことですか?」
「ありそうだな……」
「……下がれ」
三人でウールヴヘジンを上から見下ろしていたとき、ヘラクレスさんが腕を上げました。
素直にウールヴヘジンから離れると、ウールヴヘジンが目覚めました。
「ガァッ!?」
しかし冥鎖が燃え上がり、動きを阻害しています。
おおお……便利ですねこの鎖!
「……でも、困った。星のキュアポーションの効果が無かった」
「んー、俺も聖女じゃないしなぁ」
「バフの解除は……僕には無理ですね」
『……我に案はある』
「え、トニトルス?」
トニトルスが、兄の側で声を発しました。
おや、何かトニトルスに考えが……?
「あるならもっと早く教えてくれれば……」
『……月がこちらに手を出さない事を確認せねば我も動けぬ。我は幻影故襲われても何もないが、お前たちは危険だろう』
「トニトルス……お前……」
『それに!貴様には教えただろう!我は紫雷月狼……月の眷属ではなく、どちらかと言えば脅かす側であると』
「……あっマジ?今アレ使える感じ?」
兄が手を叩きました。
……何か心当たりがある様子。ならば兄とトニトルスの話を聞きましょうか。
ダンジョンはアーツを使うのに最適ですねぇ!
アルヒラル遺跡と神殿については次の話で終わりますね。(終わらせる)
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




