アルヒラル神殿 ①
ご覧いただきありがとうございます!
兄もソウくんも、もちろんわたしも揃って口を開けます。
ルーナ様の、神殿……!そして謎の……NPCです!
ムーンバニー Lv.??
パッシブ
う、うーん、月の兎ですね。
ルーナ様の繋がりであるのならば、眷属……?
「久方振りの勇士の来訪ッ!とても、とても喜ばしい事ッ!だがッ!!」
「来たのは太陽の気配を纏わせる渡り人が二人ッ!太陽の気配は無いが……微かに闇の気配を纏わせる渡り人ッ!」
「ルーナ様は、少々、お怒りだ……!」
場の雰囲気が変わりました。
目の前の、黒兎の表情も。
「理不尽に怒られましたしッ!私がッ!」
「だがここに来たのは紛れもなく貴方達の実力ッ!」
「勇士たる資格を持つのであればッ!」
「ルーナ様の祝福を得られる可能性がありますッ!」
「ならばッ!」
スポットライトがホールを照らします。
瞬きの間に、ムーンバニーが真ん中に移動していました。
「ルーナ様の目に留まるよう、アピールの時間ですよッ!」
「ルールは単純ッ!戦いです!今再び己の力を示すのですッ!」
「しかしルーナ様はお怒りですッ!難易度はルナティックと言うところでしょう……ルーナ様だけにあいたッ!?」
ムーンバニーの頭に、何かが直撃しました。転がり落ちたあれは……レモンですね。なぜにレモン……
ふと見上げた先に、椅子に足を組んで腰掛ける女性の姿が見えました。
足元まで伸びる黒髪には、所々銀色の……メッシュでしたか。銀色が差し込まれています。
キトンをアレンジしたような、胸元があいた服を身に纏い、頬杖をついてこちらを見下ろす金の瞳と、目が合いました。
『……不敬』
「っ!」
『許可なく月を見上げるな』
「っ失礼、しました」
慌てて視線を逸らします。
恐らく、ルーナ様です。とても冷たい雰囲気でした。
……今までお会いした概念的存在の皆さん、フレンドリーだったので……勘違いしていましたね。
友好的にしてくださるのは縁や関わりがあるから。ルーナ様とは、今の所接触も何もありませんからね……
「ルーナ様今太陽の気配にピリついているからあまり刺激しないでネ」
「左様ですか……」
「で、ルーナ様の試練受ける?難易度は上がってるけども、HPは少なめヨ」
首を傾げてこちらへと問いかけるムーンバニーの言葉を受けて、兄とソウくんと小さな声で会話します。
「……どうする?」
「ぶっちゃけ祝福にはそこまで興味ないんだが」
「……僕は、色々とわからないことだらけで」
「ルーナ様……概念的存在のあたりから?」
「……はい」
「聞き馴染みは無いよね……この世界で神のように崇拝されている存在、って所かな。そしてそれぞれが司る概念がある」
「…………それは、僕から見れば上位存在からの祝福による、見返りが恐ろしい所です。というか、最初に小間使いって言いかけていませんでした?」
……聞き間違えじゃなかったようですね。
まさか……と聞き流していたのですが。
「今の所祝福をいただいて、何かを強要されたことはないよ」
「ま、ここまで来たらやりてえけどよ。全力は出せねえからな」
「アーツのリキャストタイムがまだ……」
「そこだよね……」
『……ふむ、それは太陽が手を貸そう』
ソル様の声と指を鳴らす音、そしてわたし達に温かい光が降り注ぎました。
む、むむむ!?こんなこと出来るんですか!?
『……漸く姿を現したか』
『太陽が目を掛けている渡り人だからな』
『……フン、気に入らぬ』
うおおう険悪な雰囲気が漂い始めました。
ソル様がすごい挑戦的な笑みを浮かべました。
「やるの!?やらんの!?どっちなの!?」
「っ、やります!」
「やりまーす」
「……僕も、やります」
険悪な雰囲気に耐えかねたのか、ムーンバニーが飛び跳ねながら問いかけてくるので思わず決めていないのに答えてしまいましたが、兄もソウくんも同じタイミングで返答しました。
ソル様が見ている前なので……!謎の回復もしてくれましたし!リキャストタイムが復活してますし!
『……加護も与えていないのにその力を使うとはな。貴様、余程入れこんでいるようだな』
『入れこむとは聞こえが悪い。貴様と違って太陽は信者を大切に扱っている。そして、今回太陽は契約で請われて力を貸している側だからな、貴様と違って』
『………………』
『喚ばれるのは二度目だが』
『………………』
「こわいこわいこわいこわい!さっさと始めるぞッ!」
「は、はい!」
「触らぬ神に祟りなしィ!」
「……知らぬが仏、知らぬが仏……!」
触れてはならぬ領域があるってこと、わたし知っていますので!
やります!試練、受けます!
-月の試練 を 開始します-
えっと、オリオンさんが駄目なので……!そして難易度がルナティック?らしいので!
「〈ヘルクレス座〉!」
ヘラクレスさんに主な攻撃はお任せして、サジタリウスさんがまだいてくださるので……あと二枠ですね。
うーん……かんむり座で火力を底上げしつつ……ペルセウスさん……いや、今回はシリウスを喚びましょう。
シリウスの炎で燃やしてしまいましょうね!アンデッド系も多かったですし!
「〈おおいぬ座〉〈かんむり座〉!」
わたしが喚び出している間に、フィールドにはモンスターが溢れ出ています。
……レベルが70になった、ワーカーアントやスケルトン、オーガの群れです。第一階層から、出会ったモンスターですね。
……もしや第一階層から出会ったモンスターとの再戦とかだったりしますか!?
「え、おかわりってコト!?」
「嫌なおかわりです、ね!」
「おかわりフルコースはやべーぞ!」
「ヘラクレスさん!思う存分蹴散らして下さい!」
「……了解した」
棍棒を片手にヘラクレスさんが飛び出し、一振りで地面と一緒にワーカーアントとオーガが潰れました。
わ、わあ……!さすがのパワーです!
「…………あれ、いけるかもしれんわ」
「す、すごい人、ですね……」
(【ブースト】【ハイブースト】【流星雨】!)
『でりゃー!光よ!』
使えるものは何でも使います!
えっとアルフェッカの能力は……
アリアドネの宝冠
宇宙にて輝く宝冠。頭上で輝く宝冠は以下の効果を齎す。1日に1回のみ召喚可能。
リキャストタイム:24時間
【星魔法】星座が一度だけ魔力消費無しでアーツ使用可能(完全解放されているため、ステータスアップ状態を付与)
【天体魔法】威力・効果範囲上昇、MP消費緩和 (7回のみ)
【神秘】効果時間延長 (1.5時間)
少しパワーアップしてますね!?
アルフェッカの能力は何というか、大事な戦い向けです!使えるものはなんでも使います!
「……えっと、ソル様!」
『む、どうした』
「闘技場効果も、いただけますか!?」
『……ふむ、良いだろう』
「ありがとうございます!……ソウくん!」
銃剣を構えて着々とモンスターを撃ち抜くソウくんに駆け寄ります。
ソウくんは視線だけわたしに向けました。
「耳だけ貸してくれる?っと、ファイヤーウォール!」
「はい」
「これ、耐熱薬。これから日差しが強くなるから、気休めにしかならないかもだけど使ってほしい」
「……わかりました」
「そしてこの日差しの下では炎系のアーツや魔法の威力は上がるけど、水系のアーツ、魔法は無効になるね。あとは敵も、わたし達も防御が下がっていて、徐々にHPが下がってMPの消費が多くなるから気を付けて」
わたしと兄はソル様によって本日限りで祝福を強化されているので、プラマイゼロに近いですが、ソウくんは違いますからね。
わたしと兄に付き合ってくれてここにいるので、出来る限りサポートしたい所です。
「……終わったら、色々と説明するね」
「ありがとうございます。でも、話せる範囲で大丈夫です。僕も、受け止めきれるか不安なので……」
「あはは……困ったことがあったら、ラクリマかサジタリウスさん……あの人馬に声をかけてね。じゃあ、頑張ろうね!」
「無理はするんじゃないよ。時には逃げる選択肢も必要さね!」
◆◆◆
そう言って戻って行ったミツキさんと、アストラエアと呼ばれたホワイトタイガーの獣人の女性を見送る。
手に持った耐熱薬を使用して、瓶はアイテムボックスへと仕舞う。
正直、厄介な事に巻き込まれたかと、一瞬だけ後悔した。なんだこの妖怪大戦争みたいなやつ。
自分が他のプレイヤーとは少々変わった、特殊な戦い方をしている自覚はあった。
が、自分より斜め上にカッ飛んでいるプレイヤーを見るのは初めてだった。しかも二人。
「水は無効で、炎は威力が上がる、か」
銃剣を構えて、襲い来るモンスターの群れを撃ち抜く。
飛びかかって来たスケルトンの剣を銃剣で受け止め、押し返してバランスを崩させその真っ黒な眼窩に銃口を突き付ける。
「【フレイム・シン】!」
銃口から放たれた炎は通常より大きく弾けた。
……急所を狙ったとはいえ、威力が高すぎる。恐ろしい。
それに、特殊なプレイヤーなら、もっと力を誇示したいのかと思っていた。ゲームだし。
けれど、二人はとてもおおらかで、嘘が無くて……
ミツキさんは……正直何をするか、一番わからない。嫌な人ではないけど、謎な人。本当に、何をするかわからない。飽きないけど。
リューさんは、頼れる兄貴肌。僕には姉がいるけど、やっぱり兄という存在には憧れる。面倒みも良い。
まあ、ジョブの事を教えたのも、他のプレイヤーよりも信用できると思ったから。だから、今回限りは……二人を手伝う名目も兼ねて。
少しくらい、派手にやっても良いんじゃないか、なんて。柄にも無く、楽しくなってきた。
「オラ、トニトルス働け!」
『貴様遠慮が無くなってきたな!?』
「シリウス、サボらないで!」
「ミツキ目ざとくなったな……」
「シリウス、この矢に炎を」
「犬使いが荒いぞサジタリウス……いいけどよ」
…………あの言葉を話す動物達も、気になるんだよね。
聞けないけど……聞いたら衝撃が大きそう。
まあ、僕は僕で、使うのに躊躇していたあのアーツも使えるかも。
タイミングを見て、機を狙って。
存在感を消して……僕には僕のできることを。
『貴様は太陽であるのならば、大人しく沈んでいれば良いものを』
『貴様も月であるのなら、ただ浮かんでいれば良いものを』
こっっっわ。
神殿の話はそこまで長くならない予定です。
上空でバチバチしてるんで……こわ……
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




