人形師と、準備と
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噴水広場のパン屋のおじさまの所で食パンを買い足します。もちもちでふわふわの食パン、美味しいので……
「……おじさま、先に謝っておきますね。ごめんなさいです」
「きゅ、急にどうした!?」
「渡り人のアイテムボックスは入れたものをその時そのままで保管出来るので……クリスティアのパンを…王様と王妃様に……ごにょにょ」
「………なん、だと……ッ!?」
小さい声でおじさまに伝えると、ピシャーン!と雷が落ちたようなエフェクトを幻視しました。
おじさまは動きを止めて、小さく震えます。
「……お、お怒りでは無かったか!?」
「逆です。王妃様、美味しかったのでお礼に行こうかとか言ってましたよ」
「」
あっおじさまが白目に……!
どうにかおじさまを立ち直らせ、マップを頼りにスフィア様のお店へ向かいます。
以前と同じように進むと、黒い霧が漂い、スフィア様の館が見えました。
館に近付くと、入り口に立っていた燕尾服の男性が扉を開けてくれました。
「……し、失礼します」
そっとお店を覗き込むと、アンティークな椅子に座って本を読んでいたスフィア様が顔を上げてこちらを見ました。
「……やっと来たのね」
「お、遅くなりまして?」
「いいわ。約束はしていないもの……今日は人形を見に来たって事で良いのね?」
「はい!」
力強く頷くと、スフィア様は小さく笑みを浮かべて手招きしました。
「……今日は連れがいるのね」
「わたしの契約獣の、ラクリマです。大人しい子なので、一緒に見ても良いですか?」
「…構わないわ。話しても良いわよ」
「えっ」
「みれば高位の契約獣なのがわかるもの」
『…ラクリマです』
「そう。わたくしはスフィアよ」
す、スフィア様は何者なのでしょう。
人形師と言うことしかわかりませんが、ただの人形師では無さそう、です。
「どんな人形が良いのかしら」
「……えっと、庭の手入れや畑仕事が出来る方と、ホームの管理を任せつつ、料理やスイーツが作れる方と、防御が出来る戦闘が得意な方、いますか?」
わたしの言葉にスフィア様は考える素振りを見せます。
い、一応考えたのですよ!
スピカさんと一緒に島の木々やガーデン、畑作業が出来る補佐的な人形と、ホームの管理をして料理やスイーツが作れる人形がいたらいいなと!
わたしスイーツは作ったことあまり無いので……太陽島のフルーツで、スイーツ作ってもらいたいなあ、なんて。
後はわたしの側で防御を担当する人形とか居たらありがたいな、と。
「…今後は何処へ行くのかしら」
「?えと、この後はレダン帝国を探索するのに、砂漠を横断しないとですね」
「レダン……なら」
スフィア様は一体の人形の前で立ち止まりました。
「この人形は重要な場面で連れて歩いた方が良いわ。貴女、ソロなんでしょう?仲間が居るのなら構わないけれど、基本的に召喚獣はギルド以外では還さないといけないわ。でも人形なら連れ歩けるの」
「つ、連れ歩く…?」
「レダン帝国は実力主義の国、と言うことは聞いたかしら?冒険者は自由だけど、あくまで冒険者。レダンからみたら、依頼する価値があるかどうか値踏みされるわ…失礼な事にね。だからそうね、もし貴族の家を訪ねる事や王宮に向かう事があるなら、その時には後ろに控えさせるといいわ」
一体の人形の手を取り、腕を引くと人形が一歩前に出ました。そしてその場で、目を閉じたまま立ちます。
は、話が難しいですが、とりあえず舐められないようにギルド以外では人形を連れてくと良い、という事ですか??
「彼は執事ね。家令の立場にもなれるから、礼儀作法については問題ないわよ。それに料理も出来るわ」
「た、多才ですね!?」
「わたくしの趣味よ。貴女の後ろに控えさせるだけで、レダンで、一定の力を持つと示せるわ。わたくしの人形を控えさせる事が出来る、という事がわかるひとにはね」
スフィア様の人形を、控えさせる…
やはり力を見せ付けるタイプの国なんです!?レダン帝国!?なんか不穏なのですが…
「《藍銅》の人形は、瞳が宝石なのよ。さ、どんな瞳にしようかしら」
ぴっ
あ、アズライト…!
お師匠様の知り合いですもんね!異名持ちですよね!
目の前の人形は、わたしよりも頭一つ分高い男性です。ダークブラウンの髪で、前髪はセンター分けできっちり整えられています。
瞳は閉じていますが……スフィア様の人形、造形が全て美しいです。
「他の人形も選びましょうか。庭師ならこちらよ」
スフィア様に促され、違う場所へ歩きます。
いやこの館広いですね!?
「この辺りの子達なら、庭師よ」
男性から女性、年齢も様々な人形が並びます。
……ま、迷いますね!優柔不断さがでてきそうです。
わたしの庭師のイメージが老齢の男性ですし……イメージに沿っても良さそうです。
「この方は…」
「庭師と言ったら、を詰め込んだ老齢の男性ね。【緑の手】という庭師にとって重要なスキルを持っているわ」
「【緑の手】…?」
「植物の状態を読み取って、その植物に応じた対応が出来るスキルね。庭師になるには必須スキルかしら……資格を取るのに知識が必要らしいけれど、わたくしは詳しくは知らないわ。スキルオーブで憶えさせたものだもの」
「…スキルオーブと言うものがあるのですね」
「ええ。ダンジョンから良く入手されるわ」
む、無知で申し訳ないです!
しょうがないわね……という表情で、スフィア様が教えてくれました。
なるほど、ダンジョン……
「……では、この方でお願いします」
「わかったわ。では次ね」
庭師と言ったらお爺様なイメージがありますので、決定です。こちらの方は、白髪を一つに纏め、口の周りに髭を蓄えてます。
次は防御が出来る戦闘人形…
スフィア様が二階へ上がるので、その後をついていきます。
「戦闘人形にもランクが設定されているわ。わたくしは人形師として、人形に意思を持たせる事が出来る……それこそわたくし達と同じように意思疎通出来るくらいに」
「……わたし達と、同じように」
「さっきの執事も、それ相応の知識を持たせる為に、一人の執事の記憶をコピーしてあるの。それを埋め込んでいるわ」
「え、」
「安心して。執事としての知識作法とこの世界の歴史と常識だけ埋め込んであるわ」
そ、そんな事が、出来るのですか!?
異名持ちだからですか!?
なんというか、こう、禁術みたいな!?
「企業秘密よ。わたくしの人形の価値は高いの……入手出来る者も限られるから」
「……わたしは、縁を結んでよろしいのですか?」
「エトワールとリゼットの弟子で、王の後ろ盾もあるんでしょう?ならば構わないわ…宣伝してちょうだい」
微笑むスフィア様に、何も言えなくなりました。
というか、わたしの理解が追いつかないですね…
「防御と言う事は、盾を持たせるか攻撃を弾ける人形が良いって事よね?そうね……盾持たせるなら男性も良いけど、これまで男性の人形を選んで来たから、女性もいいわね。この狼の獣人や虎の獣人も俊敏性とパワーもあるから攻撃は弾けるでしょうし、このヒューマンもしっかりと筋肉ついてるから、盾持てると思うわ」
ぐぬ、ぐぬぬ……!
また迷う選択肢が……!
というか獣人も人形でいるの本当に如何なってるですかね……この、毛皮とかどうなって……
「……スフィア様、人形って食事は出来るのですか?」
「…………オプションで胃を作れば食べれるけれど」
食べれるんですか……!
自分で聞いておいてアレですが、オプションで胃も作れるのインパクト大きいですね……!?
えっと、えっと……狼はリーフくんいますし、ここは虎の獣人にしても良さそうな……?
レダンに向かうので、獣人を連れていても良い気がします。
「……では、こちらの虎の獣人の女性で、お願いします」
「…わかったわ。『おいで』」
スフィア様の一言で、瞳を閉じたままの人形が、スフィア様の後を歩き始めました。
わたしは空いた口が塞がりません。
わたしもスフィア様に着いていきます。
一階へ戻ると、先程決めた人形達がスフィア様のソファの近くで立っています。
虎の獣人の人形を近くに立たせ、スフィア様は三つのガラス玉を取り出しました。
「ここにMPを注ぎ込んで」
「は、はい!?」
「人形のマスターとして登録するわ。貴女の魔力が血管の様に四肢まで届かせる為に、満タンまで注ぎ込んで」
と、とりあえず言われた通りにします。
ガラス玉に触れると、MPを込めるかのウィンドウが出現したので、はいを押します。
うぇっ!?MPバー全部持ってかれました!
ハイMPポーションを取り出して、回復して、残りもMPを注ぎ込みます。
「これを人形に埋め込んで、貴女の魔力を人形に馴染ませるわ。そう……一日は貰うわね。明日今の時間にまた来て」
「わ、わかりました……!」
「人形に使う瞳と、名前も考えなさいな。…あぁ、代金はエトワールからの紹介であるから、合計から三割引きにしてあげるわ」
「っ!いえ、適正価格で」
「わたくしの人形三体は高いわ。選んだ人形のランクは全て最高ランクのもの……オプションで着ける胃は、全員に着けるの?」
「……はい、全員でお願いします」
「わかったわ。一体1000万リル、オプション着けて500万リル……3150万いや面倒ね3000万リルで良いわよ」
「ヒャア」
「オプションの内訳は、胃を作るのに取り込んだ物をマナに変換する術式を胃に刻むからオプション代金は500万リルになったわ」
空いた口を手動で戻します。
カウンターに置かれた水晶に、ギルドカードを翳して口座引き落としにしてもらいました。
「瞳に使う宝石代もオプションに含まれるわ」
「い、いたれりつくせりですね!?」
「最高な物には最高な物を使うのよ……じゃあ、また明日」
あれよあれよと手続きが終わり、館の外へと流れるように案内されました。
パタリと扉が締まり、わたしは肩の力を抜きます。
怒涛の情報の波に襲われました……人形師、とんでもない能力をお持ちです……
無言でわたしにくっついていたラクリマが、ふわりとわたしの側で浮かびます。
『……ラクリマには難しくて、わからなかった』
「わたしもだよ…」
『でも、凄いひとなのは理解できたよ』
ラクリマの言葉に頷き返します。
異名を持つという意味……単純に職業のトップ、だけでは無さそうです……
今の時刻は9時過ぎです。
……ギルドで依頼を受けて、召喚獣用の経験値石も買いつつ、国境の街マルムからレダン帝国へ向かいましょう。
レダン帝国のココレ村から行ってもいいかと思いましたが、ちゃんとクリスティアから行きましょう。
そしてミゼリアのギルドに向かい、依頼ボードを眺めます。大部分はクリスティアの依頼ですが、個人からの依頼……鍛冶師や薬師、店からの依頼には、レダン帝国の素材が求められているものもあります。
ギルドを通していますし、この採集依頼にしましょう。
えっと……デザートスコーピオンの針×五つ、デザートライオンの鬣×五つ、デザートカクタスの花×五つ……これに対応するモンスター討伐依頼も受ければ良いのでは?
……受けられました!よし、倒しますよ!
そして壁際に設置された水晶にギルドカードを翳して、契約獣用の経験値石を買います。…特殊、特大、大、中、小…あれ、こんなにありましたっけ。
特殊:契約者と同じレベルまで上げる
※レベルのみ、特殊アイテムのためレベルを上げて得るスキルは、レベルを上げて入手する事になります
……ふむ?レベルが上がると覚えられるスキルはすっ飛ばしてしまうので、今後レベルを上げれば入手出来る、と言う事ですかね?
近くにいた職員に聞くと、頷かれました。
……砂漠探索しますし、ラクリマもレベル1なので上げられるものは上げたいですね。
「ラクリマ、レベルだけ先に上げていい?」
わたしの問いかけにラクリマは頷きました。
この特殊な経験値石を押すと、ポップアップが出てきました。
-ギルドマスターもしくは副ギルドマスターの許可が必要になります 暫くお待ちください-
「え」
-承認されました 購入画面へ遷移します-
「え」
秒で承認?されました。
ひとまず買います……一個100万リルでした。
な、なるほど高めですね……
100万リルでレベル上げするか、普通に戦ってレベル上げするか……わたしのレベルは63ですし、時間がかかるよりかは最初から同じレベルで砂漠行きたいですよね。
特殊な経験値石を手に入れたので、ギルドを出ます。
マルムから砂漠へ行きましょう。
……経験値石の利用をするのは早々無いので、とりあえず見なかったことにしましょう!
わたしはラクリマと共にマルムへと向かいました。
一般の人形師が作る人形の相場は100万リルくらいですね!瞳はガラス玉を使用しています。
特殊なアイテムは買うのにちょっとした承認が必要となります。
と言っても素行に問題がなければ(システム判断)自動的に承認されます。
よし!砂漠へ向かいます!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




