冥界とは
ご覧いただきありがとうございます!
暫くすると、扉の先にあった重苦しい気配が消えました。
な、何かが終わったかもです。
冥王様、何かしましたか……?
「……」
「……」
皆と視線を合わせます。
モンスターや亡者の気配は感じません。
……少し落ちつけそう、です。
「……な、何が何だか」
「ミツキ、冥王様に会ったの??」
「お、強そうだったか?」
「「冥界の王様は強いでしょ」」
大きく息を吸って、深呼吸します。
まだ心臓がバクバクしてます。
「お声は冥王様でしたね…」
「きっとミツキを助けてくれたのね。ミツキを助けてくれて、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ウルサ・マヨルが、扉に向けて一礼します。
それに倣って、わたしもぺこりと頭を下げます。
冥王様なら、聞こえていそうです。
お名前もまだ聞けていませんし……直接会えたときに、再度お礼しましょう。
そして不意にレンさんが扉へと顔を向けました。
遅れて、わたしもこちらへと近付く気配に気付きました。
モンスター……にしてはモンスター特有の禍々しさはありませんね。
「……ぇぇぇぇぇえ!!」
……何か、叫び声が聞こえますね。
いやこの声は、ミカゲさんでは?
「うわぁぁぁあん!!」
泣き叫びながら扉から文字通り飛び出してきたのは、HPをギリギリまで減らしてボロボロになったミカゲさんでした。
そしてミカゲさんは、顔面から地面へとダイブし、地面へとうつ伏せになったままピクリとも動きません。
「みっ!ミカゲさんんん!?うひゃあ!」
慌ててミカゲさんへ駆け寄ると、ガバッと腰に抱き着いて来ました。
少し驚きで飛び上がりました。
「…もうやだ……おうちかえる……」
小さい声で呟いたミカゲさん。
とりあえず落ち着くまで、その背を撫で続けました。
「……うぅ、お、お見苦しい所を」
よろよろと上体を起こして、ミカゲさんは項垂れました。
いつものミカゲさんから想像できないほど、ダメージを受けて消耗してます……!
ウルサ・マヨルがミカゲさんの背をポンポンと撫でます。
双子の二人も心配そうに、地面へとしゃがんでミカゲさんの様子を窺っています。
オリオンさんとペルセウスさんは周りを警戒しています。
レンさんは……読めませんね。いつも通りです。
「ボク……ボク……例のアイテムをちゃんと入手しました。事前にギルドでどんなアイテムか聞いて、入手出来るようにアイテムも借りてきたので」
ぽつりぽつりと、ミカゲさんは語ります。
煙のようなアイテムなので、それを吸い込むアイテムがあって……とのことです。
「その『死の吐息』ってアイテムを手に入れた後、何やら冥界が騒がしくなって、岩陰から様子を窺っていたら、何やら重罪人がタルタロスから出て暴れてる、とのことで」
「!」
「ボク、流石に怖くなりまして……扉の方向へと戻ろうと踵を返したら、……返したら……」
ミカゲさんは身体を震わせながら、眉間に皺を寄せます。
「すごい猟奇的な笑みを浮かべた、悪魔がいて」
「ひえ」
「「こわ」」
「ボクを見て、『何か知ってる気配するなー。まァいいか、オレと鬼ごっこしない?オレが看守に捕まるか、キミがオレに捕まるかで』とか言いやがりまして……」
「……それは恐ろしいわね。話が通じなさそうなタイプだわ」
「その後は……ケルベロスが助けてくれるまで生きるか死ぬかの鬼ごっこを……ううううう!」
こ、これは不運……出会ってはいけない存在と出会ってしまった感です。
ミカゲさんを慰めていると、扉からケルベロスが姿を現しました。
『お、無事に戻ってこれたな』
『アイツに追いかけられるなんて不運だったな』
『生きててよかったな』
「なんであんな奴が脱獄してんですかぁ!」
『訓練?』
『実験?』
『冥王様がわざと奈落に抜け道作ってた』
「な、なんと」
「わ、わざとでボクは……」
両手を地面について項垂れたミカゲさんの背を撫でます。
冥王様恐ろしい事してますね…
『ひとまず落ち着いたし』
『質問とかあれば答えてやるよ』
『何か聞きたいことある?』
「聞きたいこと……冥界はどんな場所なのでしょう?」
「あと奴!奴は何なんですか!」
『おー』
『まず冥界な』
わ、教えてくれるみたいです。
ミカゲさんはその悪魔?との邂逅が若干トラウマになってそうですね…
そうしてケルベロスから聞いた冥界についてまとめると、
・冥界は全部で六階層あり、さらにその下に奈落と呼ばれる監獄がある
・冥界の第六階層に冥王の神殿がある
・冥界に入るには、ハーセプティアの何処かにある冥界の入り口から入る必要がある
・渡し守に渡し賃を渡せば、第一階層に足を踏み入れる事ができる
・その正規ルート以外では、生者の存在は許可されていないため冥界に入る事は出来ない
・亡者は攻撃してこないが、モンスターは攻撃してくる
・レベルは周期的に変動する
・下の階層へ行くほどレベルが上がる
……こんな感じでしょうか。
話を聞くと、一種の広大なダンジョンみたいですね。
今回はミカゲさんだけ許可されていたので、ミカゲさんが入る事は可能だったのでしょう。
『それと奴についてか』
『何処まで教えていいんだ』
『星の娘いるしいいんじゃないか』
『遅かれ早かれって奴だよな』
『うんうん』
「えっ」
えっわたし?
なんにも知りませんが??
『前にエトワールが冥界で作業してた時に聞いたんだけどよ』
「お師匠様が冥界で作業」
『星の娘も神秘ってやつ使えるんだろ?』
『それに悪魔ってのがいるんだろー』
『奴は神秘と契約してる悪魔なんだよな』
「えっ………えっ?」
えっっっ!?
開いた口が塞がらなくなりました。
いやあのえっと……え?
「……悪魔?」
『おお、そんな響きだったな』
『滅多に喚ばれないから囚人生活暇だけど久々に身体動かして楽しかったぜってさっき言ってたしな』
『奴の名は《マレフィック》だぜ。エトワールが付けた呼び名を気に入ってるんだってよ』
『奴に追いかけられてる娘をみて、タナトス様ニヤけてたぜ』
「師匠……」
マレフィック……凶星!?
えぇ……さらに喚ぶのが恐ろしくなりましたが…?
ミカゲさんが脱力しました。
「……ミツキ氏、ボクのいない所で喚んでくださいね」
ミカゲさんが項垂れたままぽそりと呟きました。
それは勿論……人気のない所で試しますね……
『まあ奴については奴に聞いてくれ』
『だが忘れるなよ』
『奴は罪人である事を』
『よしじゃあ冥王様に褒美貰ってくるから待っててくれよな』
ケルベロスはそう言うと、扉の暗闇へと身体を沈めました。
ほああ……とりあえず聞いたことを忘れないようにしないとです。
「……ミカゲさんは転職出来そうですか?」
「アイテムはありますからな……さっと転職しますわ…」
ミカゲさんは慣れた手付きでウィンドウを操作します。
そして驚いたように瞬くと、眉間に皺を寄せました
「………メインジョブが、死の執行者になりましたね」
「…執行者と言うと、レンさんと似たような感じですかね?」
「恐らく……概念的存在の導きで転職すると、執行者という道もあるみたいですな。響きがやべえですな…」
「とても強そうです」
「使いこなせるように、試してみますわ」
響きはとっても強くて怖そうです。
レンさんとミカゲさんは、ヴァスタトル様とタナトス様の力を扱える、との事ですから。
レンさんは破壊、ミカゲさんは死の力……想像できませんが、パワーアップですね。
『おっすおっす』
『冥王様から褒美貰ってきたぞ』
『タナトス様の気配がする娘は、タナトス様から後で何かあるってよ』
「ボクの事雑では??」
『ほれ』
『つよつよだぞ』
『何かに役立つだろうってさ』
ケルベロスの口元から落ちてきたものを慌てて受け止めます。
こ、これは………!
冥鎖
捕らえられたものは逃れられない。
冥王の力が込められた鎖。使用者よりレベルが下のモンスターを確実に捕らえる事ができるアイテム。
使用者よりレベルが高いモンスターを捕らえる事は可能だが、成功率は下がる。
わ、わあ!!
何だかすごそうなアイテムです。
自分のレベルより低いモンスターを捕まえる事ができます!
ど、どんな意図で貰えたのかはわかりませんが、これはコスモス様をお喚びする時に必要なモンスターを捕まえるのに良さそうです!
もしかしたら今後モンスターを捕まえろなんて依頼もあるかもですし!
『お前さんにはこれだ』
『武器なんていくつあってもいいだろ』
『活用してみろよー』
「……ああ」
レンさんはなにか布のような……包帯?を貰ったようです。
冥界にも不思議なアイテムはあるんですね…
『んじゃまたな』
『今度は入り口からこいよー』
『手伝ってくれてありがとなー』
「は、はい!ありがとうございます!」
『タナトス様の気配の娘もよくやったぜ』
『ナイスファイトだぜー』
『じゃあなー』
ケルベロスは言葉を残して扉へとするりと潜り込み、全身が扉へと吸い込まれると扉は勝手に縮小し、謎の多面体に戻りました。
「……ふぅ、ミツキ氏、星座の皆様、レン氏も、ありがとうございました」
それを拾って、ミカゲさんはこちらへぺこりと頭を下げました。
そして顔を上げると、いつものような笑みを浮かべました。
「……今度手合わせすンぞ」
「えーイヤですわ。力のことわかってからじゃないと」
「「僕らとやる?」」
「もっと駄目ですわ!」
「「えー」」
「ひとまず!お付き合いありがとうございました!能力の事は試して分かったら報告しますな!」
「はい!では、また」
星座は還り、レンさんとミカゲさんは各々何処かへと向かいました。
……わたしは島に戻りましょうか。
ひとまず目印に世界樹の元へ移動しましょう。
わ、わたしに何もないか見てもらいますかね?
そして戻ってきました。
世界樹を見上げると、枝がわさわさとわたしの周りを撫でるように揺れます。
プレアデスの《枝》
世界樹から浮島プレアデスへと伸びる枝
《枝》:冥界の気配を感じるね。でも何も無いから安心していいよ
「ありがとう、世界樹」
わたしに気付かないなにかがあるかと疑いましたが、何も無くて良かったです。
亡者にも素手で触れましたからね。
……冥界、不思議な場所でした。
死者が向かう場所……ちゃんとした入り口から入れば入れるとは言っていましたが、十分な準備が必要だと思いますね。
世界樹とラクリマの様子を眺めて、ログアウトするために部屋へと戻りました。
そしてログアウトし、スマホで冥界、冥王について軽く調べます。
やはりギリシャ神話系を星座以外も調べておくと良いですかね……
後で本でも借りてきましょう。
今日は曇りなので、寝てまた明日考えましょうか。
おやすみなさい。
奴は神話と関係ないオリジナルなキャラクターでした( ˘ω˘)
普段はタルタロスに収監されていますが、召喚の際には出る事ができます。何故出れるかは、ミツキが喚び出した時に説明いたします。
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




