建国祭 14日目 ⑤ 霊薬と少年
ご覧いただきありがとうございます!
確か、あの過去?の場所では、この崖近くにありましたが……
時が経ってますし、ツェアシュテーレンの花はあるでしょうか。
と、思いながら歩いていたところ、見つけました。
まるで白い桔梗に似た花です。変わらず、ぽつりと咲いています。
わたしは、深呼吸しました。
は、反応してくださるかはわかりませんが。
「……ヴァスタトル様、お花を下さい」
祈るように手を握り締めて、ぎゅっと目を瞑り唱えます。
『……どうして君が、その採集の方法を知っているのかな』
「っ!」
目を開けると、白い髪と紅い瞳を持つ少年が、しゃがんで頬杖ついていました。
「さ、先程、追憶?で子供たちがこのような採集をしている所を、拝見しまして……」
『ふうん?まあ君星詠みだもんね。そんな事もあるんだなあ』
「……わ、わたしはミツキと申します。大変恐縮ですが、名前をお伺いしてもよろしいでしょうか……」
『君今言っただろうに。まあいいけど』
少年はにっこりと笑います。
『俺は破壊。破壊を司るものだよ』
「ヴァスタトル様…あの、仲間の、レンさんに声をかけました…?」
『うん、それ俺だね。破壊の衝動持っている人間に声掛けてるんだよね。っとそんな事より花、欲しいの?』
「ほ、欲しいです!…他に採取の方法はあるのですか?」
『俺が破壊の力を止めるしか方法は無いけど、民はこの花の採取方法を作ったでしょ?そういう進歩を見るの楽しいんだよね』
「あ、あの球体のアイテムですね」
『そ。採取させてあげるけど、君には交換条件ね』
っ、思わず身構えました。
ど、どんな条件がくるのでしょうか………!
『流石の俺達も、認識されないと存在が揺らぐんだよ』
「存在が、揺らぐ……?」
『概念を司る俺達が消えたらどうなるかなんて、想像は容易だろう?』
……それは例えば太陽様の存在が揺らぎ消えてしまったら、この世界から太陽が消えるってことでいいんですよね?
『んで君、島に神殿作るんだろ?』
「……その情報は広まっているのですね」
『だから俺も、祀って?』
愛くるしい笑顔を浮かべながら、首を傾げます。
……どこか、圧を感じます………!
まあ否は無いんですが。
レンさんの事で破壊様、ミカゲさんの事で死様は祀りたいと思っていました。
……神殿が多神なのは気にしないでもらいたいですが。
割と闇鍋神殿になりそうですね……?
「……祀るのは全然、こちらからお願いしたいですが、御神体と言いますか、ヴァスタトル様の概念と言いますか」
『ふうん、俺ってわかるモノがいいってコトね』
頬杖ついたまま目を瞑ったヴァスタトル様。
そして目を開けると、にっこりと笑いました。
『等価交換だよ。それ、あげるから作った霊薬を神殿に捧げて?』
「れ、霊薬をですか?」
『うん。無難に宝玉でいいよね、交換しよっか』
花に触れたヴァスタトル様は楽しそうな雰囲気を出して、姿を消しました。
……恐る恐る花に触れます。
触れます!壊れません!
アイテムボックスにしまって、先程の言葉を頭の中で反芻します。
……霊薬と、交換。
ま、まじですかぁ……
と、とりあえず作りますが、これ皆になんて話しましょう。
レンさんには確実に……いや、皆にも伝えないとです。
山を下りる前に、作らねば……!
崖から離れて、村の方角へと駆け戻ります。
テーブルを出して、調合の準備をします。
「〈みずがめ座〉」
わたしが召喚して、何かの準備をするのをみて、皆が遠巻きに眺め始めました。
ぴょっ!?緊張するので見ないで下さい……!
「ミツキ?」
「ミツキ氏?」
「色々!色々ありまして!とりあえず作らせて下さい!報告は必ずしますので!」
ポンチョを外して、腕まくりします。
そしてテーブルに素材を並べると、サダルスウドが頷きました。
「【17:星】【星の祝祭】」
周りに星が浮かびました。
よし、やりますか!
えっとまずは、魔力神草と世界樹の葉を細かく刻みます。
鍋にサダルスウドの水を入れて、刻んだ魔力神草と世界樹の葉を丁寧に混ぜます。
そしてツェアシュテーレンの花を手に取り、花と茎を分けます。
茎を細かく刻んで混ぜ、最後に花を浮かべて軽く混ぜます。
工程はこんな感じだった気がします。
ポーション瓶を取り出し、漏斗をセットします。
「【精製】」
鍋が淡く光ったのを確認し、丁寧に注ぎます。
…………無色透明になりました。何故???
星の霊薬 ★☆☆☆☆
星詠みの一族の古の霊薬。
HP、MP、状態異常を回復する。
-サブジョブレベルが上がりました-
……?
こ、これは星5のうちの、星1って事ですかね?
品質でしょうか……
ふむ?やはり薬師用の器具を新しくしないとですかね。
「……お師匠様、ヴァイスさん」
お師匠様とヴァイスさんを呼ぶと、二人はこちらへと歩み寄ってくれました。
「先程、星の霊薬の作り方をみました。品質?は低いですが、これが星の霊薬みたいです」
「…ほう、この無色透明なものが」
「確かに星の霊薬となっているな」
「奥にあった、あの崩れた土壁の……」
周りにも聞こえるように、少し大きめの声ではっきりと経緯を伝えました。
過去の風景、巫女様の言動、ここにも世界樹が生えていたこと……
「……なので、わたしが見たその時の巫女様は薬師としての力もあったのかと」
「…なるほどね。確かに、薬師であった巫女もいたんだろうさ」
「…興味深いですね」
「これは神殿で等価交換に使いますので、今度は品質の高い薬を作れるように頑張ります」
「……にしても、破壊がそこまで星詠みと関わりがあったなんてねぇ」
「……戻ったら、文献を読み返すとしましょう」
お師匠様とヴァイスさんは頷きました。
わ、わたしも機会があれば文献読んでみたいですね!
ひとまずは神殿に届けないとです。
急いで片付けます。
「……やはり、俺の目に狂いは無かったな」
「ええ。やはりいつだって、若者が新しい風を運んでくるのですね」
「ミツキ様、すごいです」
お、王族の皆さんからそう言っていただけるのはとても嬉しいですが!
それもこれも……
「……縁と、皆さんのおかげですね」
「いやミツキ氏の人柄もありますよ。関わる相手みんな癖つよですもん。ボクを含めて」
「……アイツの神殿なら、尚更行かねェと」
「そうです。レンさんには絶対言わなければと思いました。レンさんの転職は大丈夫そうですか?」
「ン、もうした」
えっ!
あ、本当です!
レン Lv.66
ヒューマン
???/???
レンさんどれだけ経験値貯めてたんでしょうか…
レベル爆上がりしてますね!
「後で聞かせてくださいね」
「おう」
「んんーボクも早く扉開けねば…」
「皆強くなっていくわねぇ」
「ソラ、僕らも負けていられないね」
「ええ。山降りたらモンスター倒しに行きましょうサクヤ」
両親、やる気満々です!
そんな話しをしていたら、騎士達も片付け終わったようです。
「色々とあるだろうが、山を降りるぞ」
「あいよ」
「はい!」
「……私は王都へと先に戻ります。御前失礼します」
ヴァイスさんが一礼して、消えました。
おお、その手のスキルは使えるのですね。
よし、では山を降りるとしましょう!
行きとは違う景色があるかもです!
なんて言ったのが、フラグだったのかもしれません。
「ッ!」
「【流星】」
「オラァ!」
「【彗星】!」
モンスターに襲われています!
来る時は全く襲われなかったのに!
「ハッ!」
「面倒だねぇ……!」
「【ソウル・リッパー】!」
「【第二宇宙速度】ッ!」
王様が手にした大剣で、急降下してきた鳥型のモンスターを両断しました。
アーツは使わず、剣だけです……!
「恐らく、白竜が居たことで身を潜めていたのだと思われますわ……【吹雪】」
ローザ様が杖を掲げると、吹雪が吹き荒れました。
そして凍りついたモンスターを、王様とリヒト様が切り裂きます。
「そのようだな」
「そして今活性化して、興奮状態になっているようです」
「……転移で飛ぶとかは駄目なのですか!?」
魔法を放ちながらとりあえず叫びます。
ヴァイスさんは戻れていましたからね!
「入り口から入ったからね。入り口から出なけりゃいけないのさ。【流星】」
「なるほど、そういうものですか…【隕石】!」
流星と隕石がモンスターへと流れ落ちます。
……お師匠様の流星のが、威力高いですね。
山を下りながら、こちらへと向かってくるモンスターへと攻撃する私達です。
その中の1体と目が合いました。
エアリアル・タイガー Lv.75
アクティブ
【???】【???】【???】
【???】【???】【???】
エアリアル・タイガーを視た瞬間、黒い影が一瞬で目の前を通り、エアリアル・タイガーをふっ飛ばしました。
「レンさん」
「…近付かせねェから、お前は魔法で相手しろ」
「ちぇ、レン氏にいいとこ取られました。魔法使いには近寄らせませんぞー。遠距離攻撃はボクが対応しますわー…レベル的にボクダメかもですが!」
レンさんはそう言って飛ばしたエアリアル・タイガーへと再び接敵しました。
レベル差あるはずなのですが、レンさんは少しずつエアリアル・タイガーのHPを削ります。
ミカゲさんも大鎌を器用に振り回し飛んでくる風の刃を切り裂きます。
とりあえず攻撃を当てるとしましょう。
「【流星群】!」
流星群により周囲を囲んでいたエアリアル・タイガーが散開し、騎士たちと応戦し始めました。
果たしてわたし達はこの戦いで経験値を貰えるのでしょうか?
貢献した、ということで少しは欲しいですがね。
「【二重召喚】フレイムピラー!」
ワンステップで一個目の炎の柱は避けられましたが、避けた先の足元で二個目の炎の柱がエアリアル・タイガーへ直撃しました。
「ガッ!?」
「【宇宙線】!」
爆発に紛れて山道を駆け下ります。
ひぃ…!スリルがあります!背後から雄叫びが聞こえます!
「よっと!【クレセント・ムーン】!」
「【第一宇宙速度】!」
右斜め前方から飛びかかってきた新たなウサギ型モンスターに向けて、ミカゲさんが下から大鎌を振り上げました。
三日月のような軌跡を描いた刃が、躊躇なくモンスターを襲い空中へと斬り飛ばすと、そこに離れた場所から黒い塊が飛び、直撃しました。
…鉄球、見えませんでした。
「ナイスピッチ!ってやつですな!」
「ミカゲちゃんもナイス斬り上げよ!」
小型のモンスターへの命中率高いですね…わたしには難しいです。
しかもあの速度です。母、別に野球部じゃなかったはずですけど、ゲーム補正とは言えない何かがあるんですよね。
そうして駆け下りつつ魔法を放っていると、神殿が見えてきました。
さすがにあの周りにはモンスターは寄り付かないはず!
-戦闘貢献による経験値を取得しました-
種族レベルが上がりました。
任意の場所へステータスを割り振って下さい。
SPを2獲得しました。
メインジョブレベルが上がりました。
「ぜぇ…はぁ…」
「ふいー、どうにか神殿の元まで下りてきましたな」
神殿の周囲の少しひらけた場所に滑り込むと、レベルが上がりました。
貢献による経験値でした。倒せませんでしたね…
ミツキ Lv.61
ヒューマン
メインジョブ:アストラルアークウィザード Lv.3/サブ:薬師 Lv.16
ステータス
攻撃 60
防御 90 (+61)
魔攻 187 +2 (+40)
魔防 87 +1 (+61)
敏捷 57 +1 (+15)
幸運 91 +1
サッとステータスを操作して王様と話すお師匠様の元へ向かいます。
「神殿へ寄る時間はありますか?」
「騎士達も消耗したからな。少し休憩する」
「神殿へ行くんだろう?離れた所から見させてもらうよ」
重そうな鎧を纏っての戦闘で尚且つ山を駆け下りてきましたからね…騎士達も休息が必要です。
わたしは皆を振り向くと、頷いたので神殿へと足を踏み入れました。
ステンドグラスから日差しが降り注ぎ、聖卓が照らされています。
聖卓で良いのかは分かりませんけどね。
聖卓に作り上げた星の霊薬を置いて、跪きます。
(ヴァスタトル様、こちらが約束の霊薬です。どうぞお受け取りください)
『……やることが早い子は好きだよ』
聞こえた声に目を開けて見上げると、ヴァスタトル様が聖卓に足を組んで座っていました。
片手に星の霊薬を持ち、霊薬を光に照らしながら揺らします。
『…うん、ちゃんと作れたようだね。じゃあはい、これ』
「!」
霊薬を持たない手をこちらへと差し出すと、次の瞬間には魔力が収束し、水晶玉のような形になりました。
中に、ツェアシュテーレンの花が浮かんでいます。
『その花は俺の象徴だから。じゃ、よろしくね』
「は、はい!ありがとうございます」
『レン。その力、使いこなして見せて?』
無邪気な笑みを浮かべ、レンさんにも笑いかけ、ヴァスタトル様は姿を消しました。
「……はー、緊張しましたわ。子供の姿なのが少し怖く感じる所ですな」
「得体の知れない無邪気さを感じたわね」
「ミツキとレンくんへの視線は優しそうだったから、大丈夫かな」
そんな会話を聞きつつ、貰った水晶玉をアイテムボックスへとしまいます。
破壊の宝玉
ツェアシュテーレンの花が浮かぶ宝玉。
破壊の魔力に満ちている。
…書いてあることは物騒ですが、御神体としては最高ですよね!
立ち上がって、入り口にいたお師匠様達の所へ戻りました。
「…彼が破壊を司る者、か」
「本当に奴の神殿だったとはね」
「今後も神殿の手入れは継続させるが、彼の神殿と言うことは知らせない方がいいだろうか」
「奴の神殿がここだけならば、奴の力を使うことを許されたのはレンだけだろうからね」
王様の言葉に答えつつ、お師匠様の視線がレンさんに向かいました。
「でもお前さんは使徒ではないようだね」
「…そのようです」
「今後も神殿は神官に任せよう。その力の使い手は珍しいからな」
レンさんは使徒ではなかったのですね。
むむ、気になりますが、きっと後で教えてくれるでしょう。
少し休憩して、わたし達はまた山を下りるために出発しました。
思ったよりもちょっと筆が進みすぎて……あと2話で14日目終わります!
これからもミツキの物語をよろしくお願いします!




