建国祭 8日目 武闘祭本戦⑤
ご覧いただきありがとうございます!
6000文字あって視点がコロコロ変わるので読みにくいかもしれません。
『いよいよ決勝戦ー!』
『皆予想していたか!?《ステラアーク》と《エクリクシ》の戦いだ!』
大きく深呼吸をします。
その様子をみたミカゲさんが、軽くわたしの背中を叩きました。
「そぉい!」
「ひゃう!?」
「はは、気が抜けました?」
「心臓が口からでるかと……?」
「そりゃ大変ですわ……飲み込めました?」
「その返しは中々斬新ですね……大丈夫です」
その会話を聞いていた母がクスクスと笑いました。
「緊張しいなのは変わらないわね」
「いや緊張するよ大舞台だし……決勝だし…」
「そうだね、こればかりは緊張してもしょうがないね」
「レン氏とか見てください。変わりませんよ」
「レンさん緊張とかしないんですか……?」
「…高揚感はある」
「高揚感」
「自分の力を示す良い機会だからな」
レンさんは一度目を閉じると、開いたときに真っ直ぐ前を見つめます。
視線の先には、カメリアさんがいました。
「……ボクら、ですよ!」
「はい!レンさんが戦えるように、注意引きます!」
「そちらは好きに戦うといいよ」
「こちらは心配しなくていいわ」
わたし達の言葉を聞いて、レンさんは一度目を丸くして、微かに笑いました。
各々武器を構えます。
わたしもしっかりと、アストラル・ワンドを握り締めました。
『では、武闘祭パーティートーナメント戦決勝!』
『スタートッ!』
その言葉と同時に、カメリアさんが剣を片手に走り出しました。
それと同じタイミングで、レンさんもカメリアさんに向かって走り出しました。
(【身体強化(魔)】【ブースト】【ハイブースト】【惑星加護】)
「コスモス様、その力をお借りします。【ブースト】【ハイブースト】【宇宙空間】」
「【黒鎧換装】【ブースト】【ハイブースト】」
各々相手を見据えながら、強化を施します。
ミカゲさんの気配は薄くなりました。
「【付与術(攻撃)・全】【付与術(魔攻)】【付与術(防御)・全】【付与術(魔防)・全】」
「【ブースト】【ハイブースト】【爆発】!」
「【真空空間】!【彗星】!」
当初の通り、ハイシールダーのグランさんに向かって彗星を放ちました。
尾を引いて流れる彗星は、真っ直ぐにエクリクシメンバーの元へと進みました。
「グラン!」
「おう!【エリア・プロテクト】!」
チェリーさんとカイトさんの前で盾を構えたグランさんが声を上げました。
彗星が直撃し、付近が凍り付きます。
「うおお冷てえ!?盾凍ったぞ!チェリー、溶かしてくれ!」
「嘘でしょ!?」
「試しに受けてみたら凍っちまったぜ!」
……HP2割しか減らせませんでした。
むぐぐ、やはり防御高いプレイヤーは厄介です。
「……コスモス様、その力を身に纏う許可を。……ありがとうございます」
隣で跪いていた母の額の第三の目が、眩く光りました。
「【簡易神装】」
宇宙空間の煌めきが、母のドレスへとまとわりつきます。
それはやがて、とても美しい宇宙のグラデーションとなりました。
「【宇宙嵐】」
母が片手をグランさん、チェリーさん、カイトさんに向けると、彼らを中心に暴風が吹き荒れました。
暴風によって、チェリーさんとカイトさんが遠くへ吹き飛ばされました。
「きゃっ!?」
「うわ!?」
「チェリー!カイト!」
「さ、ミツキはミツキのやる事をやりなさいな。私は彼と遊んでくるわ」
「……わかった!」
神秘的な姿になった母に背を向けて、チェリーさんが飛ばされた方に向かいます。
その背後から、「【第一宇宙速度】!」の言葉と共に頑丈な物に何かがぶつかった音が聞こえました。
……投げましたね、母。
『アーツの応酬ーー!』
『お互いのパーティーからそれぞれ一人抜け出して、【彗星】も流れた!しかもあの使徒の女性!』
『【簡易神装】だね!!概念的存在の力を纏うことにより、ステータス倍加、特殊なアーツを使うことも可能……!?』
『何か投げた!?投げたな!?……鉄球!?』
『…【第一宇宙速度】ォ!?あの距離でおよそ秒速8km進む鉄球を受け止めたハイシールダーさんご無事!?』
「ぐううおおおお!」
フィールドを盾を構えたまま滑る。
重いなんてものではない。
今までに受けたことのない衝撃だった。防御を盛っても、盾を越えてダメージを受けている。
どうにか足に力を込めて滑るのを止めると、盾からごろりと鉄球が転がり、消えた。
遠くで、黒衣の女性が腕を振り上げるのが見えた。
「…は、まじかよ」
グランは、心底嫌そうにポツリと呟いた。
「聞こえないかもしれないけれど……キャッチボールしましょう!…次!【第二宇宙速度】ッ!」
ソラの手から離れた瞬間、ゴッ!という音が遠くから聞こえた。
サクヤはあまりの規格外さに、ほんの少し苦笑した。
あの青年には気の毒だが、生き生きしてるソラを止めることはしないので、ソラのHPが尽きるまで彼女と遊んでほしい。
【簡易神装】により継続的にHPを消費しているソラの残存HPは残り7割と言ったところだ。
サクヤのHPも同調して減っている。
さすがに彼もこの攻撃を受けて無傷とはいかないはず。
「宇宙から脱出するには第六宇宙速度必要だし……彼、逃げられないか」
サクヤは、ポツリと呟いた。
彼が光速で動けるのであれば、避けられるかもしれないが。
『私の知ってるキャッチボールと違う……』
『安心しろ俺の知ってるキャッチボールとも違う』
『そんな事言ってる間にあっちでは魔法のぶつかり合いが!』
『見応えあるな…』
『付与術師さんにも大鎌使いの渡り人がめっちゃ攻撃してる!』
『ソードマスターさんと狂戦士の彼、剣と拳が見えないなー…』
「【爆発】!」
「ウォーターボム!」
ふよふよとわたしの周りで水星が浮かんでいます。
そのおかげで、わたしの水魔法でチェリーさんの魔法を相殺する事が出来ています。
「私の魔法を相殺するとかやるじゃない!【快晴】!」
「【宇宙線】!」
「いっ!?【爆発】!」
「うぐ!」
チェリーさんの魔法は、わたしよりも魔攻が高そうな気配がします!
真空空間の周りから爆風がダメージを与えてきました。
しかし宇宙線も命中し、なにかしらのデバフはかかった筈です。
わたしのHPはまだあと7割くらいありますし、まだ戦えます。
「とんでもない魔法使うわね!?なにこのバッドステータスの崩壊状態って!」
「ウォーターボム!」
「【火花】!」
ウォーターボムが相殺されました。
もっと、もっと隙を見つけないとです。
ミカゲさんが付与術師の方を倒すまで、時間を稼ぎたいです!
バフは厄介ですからね!
『魔法を使う者同士の戦いは見応えありますけども』
『やはりエレメンタル・フランマの火力が高いな』
『相殺するのは難しいから、なかなかの技術の高さだね!』
『先に仕掛けるのはどちらだろうな?』
「俺戦闘とか苦手なんだよな」
「なら早く戦闘不能になってくれていいんですよ?」
「俺にもプライドはあるからなっとぉ!ウォーターボム!」
ミカゲは大鎌を振るう。
目の前の男は、杖を片手に魔法を放つ。
「【ポイズンリッパー】!」
「ってぇ!?あー、食らっちまったか」
「【ソウル・リッパー】!」
「ッ!」
付与術師のバフは厄介だ。
パーティーメンバー全員に作用するし、その強化効果も高い。
……調べた限りでは、付与術師の特殊なアーツもあるらしい。
それを使わせる前に、戦闘不能にしたい所……
カイトの残りHPが3割まで減った時、カイトは大きくため息をついた。
「あーもうしょうがねえよな」
「!」
「まあ俺はここまででいいだろ。【付与術(自己犠牲)・全】」
「は、」
アーツを唱えた瞬間、カイトの身体は光となって消えた。
ミカゲは急いで背後を振り返ると、カメリアの一撃で吹き飛んだレンの姿をその目に捉えた。
「まさか本当に戦う事になるなんてな」
「シッ」
「お前の仲間は個性的だね」
「オラァ!」
一方的に会話をし、返ってくるのは拳だった。
カメリアは、目の前のレンの拳を首を逸らして避けて、その心臓へと剣を差し出した。
それは左腕のガントレットにより上から叩かれ、心臓から軌道を逸らされ脇腹を切り裂く。
「にしても、お前何かレベル低くないか?お前ならレベル60半ばとかになってると思ったんだが」
「うるせェ!」
「技量でレベル差を埋める事は出来るが、私相手にそれは愚策だぞ?」
「チッ!【ギガ・インパクト】ッ!」
「【エア・スラスト】!」
拳と剣先がギチギチと音を立てて拮抗する。
風を纏った剣先は、容易にガントレットを越えてレンの腕を切り裂いた。
「…順当なルート辿ってるテメェにはわからねェだろうよ」
「………へぇ?」
「俺は俺のやりたいようにやる。テメェも倒す」
「……ふふ、やってみるといい」
お互い猟奇的な笑みを浮かべ、同じタイミングで地面を蹴った。
その時、カメリアの身体を淡い青いオーラが覆った。
「!【炎刃】!」
「ッ!【ギガ・マキア】!」
炎を纏った剣の一撃を、アーツで相殺した筈だったが先程よりも重みと速さの増した一撃を受け流せず、レンの身体が弾かれたように飛んだ。
「……カイトか!」
カメリアは少し複雑そうな顔をしたが、立ち上がったレンをみて再び剣を構えたのだった。
「【爆発】!」
「っ!【流星】!」
「【爆発】!」
「ウォーターボムッ!」
あっっっついです!!
このままだとジリ貧です!
「このままだとジリ貧だわ……試させてもらうわよ!」
同じような事を思っていたチェリーさんが、何やら杖を掲げました。
「【炎の獣】!」
チェリーさんの前に、狼?のようなシルエットの炎が揺らめきました。2匹います!
そして地面を駆けてわたしに飛びかかります。
「っ!ウォーターボム!」
命中したウォーターボムがジュウッと音を立てて蒸発しました。
飛びかかりを転がって避けます。
視界に入れたチェリーさんは、杖を構えたまま攻撃してくる様子はありません。
継続的に、MPを消費している……?
わたしの水魔法が効かないのであれば、瑠璃の短剣のアーツなら、行けるかもです。
まだ、使ったことないですが……
「ッこれは、カイトね!」
その言葉にチェリーさんの方を向くと、チェリーさんが淡く青いオーラに包まれてます。
そして炎の狼達の火力が上がりました。
「ミツキ氏ィ!」
ミカゲさんの声が聞こえました。
残存MPは大丈夫です。あと5割あります!
わたしは大きく息を吸って、アーツ名を叫びました。
「【太陽嵐】ッ!」
わたしを中心に、フィールド全体的へと波動のようなものが広がりました。
「はぁッ、クソ!」
「ハッ!」
「【シールドバッシュ】!」
重い拳をシールドで弾いた瞬間、首元へと迫る刃を上体を逸らして避けるグラン。
そのままバク転で距離を取ると、すぐ目の前に硬そうなブーツの踵が落ちた。
「あぶねっっ!?」
「あなた、中々俊敏ね」
「やれやれ、困ったな」
「二人がかりで来られてもなァ!俺のがお困りだわ!」
なんて恐ろしいのか。
今貰ったカイトの付与術があっても割とダメージを食らったようだ。
どうにか盾を再び構えた瞬間、目の前の女性のドレスが普通のドレスへと戻り、男性の鎧も元の装束へと戻った。
「っ、あら」
「おや」
「……は?」
カイトの付与術ごと、自分にかけた強化が全て消えた。
グランは一瞬固まったが、目の前に迫るブーツの爪先を盾を構えて弾いた。
「は、……はァ!?」
「これはもうしょうがないわね」
「地力の差は今はどうにかするの難しいからね」
「なっ」
なにをする気だという言葉は、音も出せずに消えた。
目の前の二人のHPは、不自然なくらい同じ残存具合だった。
残り2割程度だろう。グランは3割少し、と言った所だ。
二人は、何故かそれぞれお互いの手を取った。
「な、」
「【血の代償】」
「は、ァ!?」
気付けば足元に大きな赤い魔法陣が展開されていた。
「死なば諸共よ!」
「申し訳ないのだけど」
「「僕/私と共に死んでほしい」」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
『ちょっまっ!!!!』
『それ、道連れスキルじゃねえか!!』
『自分と、自分の大切な相手の生命を代償に、相手を道連れにするアクティブスキル!!』
『せ、戦闘不能!』
そ、そんなスキルあるんですか!
炎の勢いが弱まった狼を避けつつ実況を聞いてました。
道連れアクティブスキルって物騒なのですが……
そんな事を考えていたのが駄目だったのか、近付いていた炎の狼に左腕を噛みつかれました。
「あっ、ぐぅ!」
こ、れは!シリウスみたいに、噛み付きダメージもありつつ燃えてます!!じわじわと、HPが!
「【ウェポン・コンバート】つぅ……【魔絶】ッ!」
右手の杖が短剣になったのを確認して、淡く光った瑠璃の短剣を狼に向かって突き刺すと、ぶわっと炎が消えました。
「なっ!?」
「っ【彗星】!」
チェリーさんに彗星を放った瞬間、もう一匹の炎の狼がわたしに体当たりしてきました。
その衝撃で地面を転がります。
わたしが短剣を振り上げるより速く、狼の口が開きました。
あ、食われーーー
そこでわたしの視界は白に包まれました。
「………ギリギリ、だったわ」
ほんの少しのHPを残して、チェリーは立っていた。
ここまでHPを減らされたのは久しぶりだった。
彗星の落下地点を見極め、少女を倒した炎の獣を呼び戻して自分を守らせた。
それでも多大なダメージを受けたが、どうにか立っていた。
「【首刈り刃】」
しかし次の瞬間、彼女のHPは瞬きの間に消えた。
背後には、大鎌を構えた少女が無表情に立っていた。
『うわあああ【炎の獣】!エレメンタル・フランマの特殊魔法!』
『ギリギリ【彗星】の一撃を耐えたが、背後から大鎌の一撃を受けて戦闘不能!』
『残りは《エクリクシ》一人と、《ステラアーク》二人だけど!まだどうなるかわからないね!』
「おや、私達だけか」
「………」
「まさかここまで追い詰められるとは、驚いた」
まだHPを7割残しているカメリアは、素直に賞賛した。
仲間も弱いわけではない。むしろレベルも、ステラアークのメンバーよりも高いからだ。
「まあ制限時間もあるから、終わらせないとね。《生命喰らい》」
カメリアの持つ魔剣が白い光を纏った。
それはカメリアのHPを喰らいながら、徐々に光を増してゆく。
「【エア・スラスト】【首斬】」
「【マキア・ブラスト】ォ!」
お互いのアーツが衝突し火花を散らす。
幾度もぶつかり合い、爆発が起きた。
「ケホッ…」
「……チッ」
レンのHPが喰われ、残り2割となった。
対するカメリアのHPは5割である。
「……、ふふ」
煙に紛れ大鎌を振り上げたミカゲの一撃を剣で受け止めたカメリアは、小さく笑うとその空いた胴体へと思い切り拳を振り抜いた。
「ガハッ」
「武器を両手で振り下ろした時には身体が無防備になるからね、気を付けて。【首斬】」
と言いながら躊躇なく倒れ込んだミカゲの首元へ剣を振り下ろしたカメリア。
その一撃でミカゲのHPは全て喰われ、眩く光る《生命喰らい》を両手で掲げ、レンを見た。
離れた所で拳を構えたレンは、一度目を閉じると、右手に力を込めた。
「【生命置換】」
「目覚めろ《生命喰らい》」
「【破壊ノ一撃】ッ!」
「【生命の捕食者】!」
お互いの放った一撃は、フィールドに轟音を響かせた。
『んんんんパワーーーー!!?』
『残存HP的にお互い最後の一撃だと思うんだが!』
『回復不能な戦いで自分のHP喰わせる度胸凄すぎ!!』
『煙が晴れ……!』
『フィールドに立っていたのは!』
『《エクリクシ》の勝利だー!』
《生命喰らい》を振り下ろした状態でフィールドに立っていたのは、《エクリクシ》のカメリアだった。
ステータスや装備、熟練度で戦闘は変わりますね…
次回は11/10に投稿いたします!
これからもこの作品をよろしくお願いします!
《エクリクシ》
カメリア率いるトップパーティーの一つ。
モンスター討伐や遺跡探索を主に行っている。
カメリア
ソードマスター
チェリー
エレメンタル・フランマ
おこめ(不参加)
ハイプリースト
グラン
ハイシールダー
カイト
付与術師




