表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/369

建国祭 3日目 ④

ご覧いただきありがとうございます!



とりあえず重なっているものを下ろしましょう。

この……船?いやボートですかね?入り口から考えると入らなそうなのですが……まあ考えるのはやめときます。


(【重力操作】)


ふわりとボートを浮かせて、脇におろします。

皆は剣や槍といった細かいものを、とりあえず離れた所に並べていきます。


「ミツキ、もう一回特徴教えてもらっていい?」

「赤い石が嵌め込まれた黒い剣だね」

「わかったわ」


ジアちゃんが1本1本見つめながら避けていきます。

およそ100年経ってますからね……

原型、残ってればいいのですが。


とりあえずわたしは大きいものを運びます。

……全身鎧もあります。

な、中身無いですよね?


そっとおろします。

……何も入ってなさそうです!よかった!


そんな事もしながら、いい感じに山が無くなってきました。

種類毎に空間いっぱい使って並べていきます。


『……おお、これ海の向こうから流れてきたやつだ。この辺の奴らが来てる鎧となんかちげーって思ったんだよな』

「ああ、甲冑だね。恐らく島国……日輪の国から流れてきたんだと思うよ」

『かっちゅう……キラキラしてるな』

「これは胴体を守るものだけど、頭を守るものは……あ、あった。これは兜と言ってね……」


……父が解説役になって一緒にバルトと宝物を眺めてます。

案外大人しくなると、聞き分けよいですね。



「………ミツキさんミツキさん!」

「ぴっ」

「ミツキさん見てくださいっす!」


リーフくんが両手で丁寧に何かを握り締めてこちらに駆けてきました。

その手の中を覗き込むと、柄の部分に赤い石が嵌め込まれた、刃も黒い剣がありました。


「!これ!」

「これっすよね!」

「これだね!」


リーフくんと顔を見合わせて笑います。

記憶の中の剣と同じです!

少し錆びて汚れてますが、ほぼそのままです!


「見つけられて良かったわ」

「こっちの仕分けも終わったよ」

「…かっこいい剣ですなぁ」


墓守犬の主人さんが使っていた黒剣です。

……これを墓守犬さんに届けましょう!


『……んあ、見つかったか』

「はい。ありがとうございました」

『良いもん貰ったし、いいよ』

「わたしもこの杖、置いていきますね」

「ボクの大鎌もよろでーす」

『……良い武器じゃん。いいのか』

「はい。元はと言えばわたし達不法侵入者ですし」

「っす。剣のためとは言え、邪魔したっす」

『…いーよ。宝物、並べてくれてありがとな。次会ったら容赦しないからなー』


魔花の杖、今までありがとうございました。

思い返せば、どれだけレベルが上がってもずっとわたしと戦ってくれました。

両手で握り締めて、バルトの宝物の中に混ぜます。ミカゲさんも大鎌を並べました。


『……これも持ってけよ』

「?」


バルトが尾で器用に何かを包みました。

それをわたし達へと差し出します。


『この俺の鱗と脱皮した残骸、あとよくわからん沈没船から引き上げた箱』

「……よろしいので?」

『俺は使えないし。俺の鱗なら素材として使えんだろ……新しい武器でも作れば』


その目はリーフくんを見つめてます。

リーフくんは一度迷うように視線を揺らしましたが、しっかりと受け取りました。


『そら、出ていけー』

「は、はい。お邪魔しました」


リーフくんと頭を軽く下げて、空間を後にしました。

来た道を戻ります。




『………これは俺を討伐しに来た男の槍、これは海を流れてた女の剣、これは事切れる直前に俺に話し掛けて来た奴の鎧、これは俺が引っかかった網……』


残った空間の主は、並べられた《宝物》を眺めてぽつりと、思い出しながら呟いた。









ふう。

洞穴を出て海風を浴びます。

兎にも角にも、見つかって良かったです。


「100年前とは言え、しっかり原型残っていて良かった」

「うっす。墓守犬の所に持ってく前に、錆だけでも落としたいっす」

「そうだね」

「皆も、あざっした」


リーフくんがぺこりと皆に頭を下げます。

ジアちゃんがニヤリと笑って、その頭を撫でました。


「大人しいアンタは珍しいわね」

「クラン仲間ですし、むしろ誘ってくれなかったら拗ねますぞ」

「ええ。いい体験だったわ」

「…俺は行く。報告しろよ」


レンさんはそう言って何処かへ飛びました。

倒した訳じゃないですし、不完全燃焼でしたかね。


「ボクも武闘祭までにもう少し技の精度上げてきますわ」

「ミカゲさん、それ私も一緒にいいかしら」

「いいですぞー!」

「ソラ、僕らはもう少しレベル上げようか」

「ええ、わかったわ」


片手を振って皆を見送ります。

わたしはリーフくんの作業を見せてもらうために、リーフくんが借りている鍛冶場についてく事にしました。





リーフくんについて王都へ戻りました。

そのままリーフくんと一緒に鍛冶場へとお邪魔します。


殆どの鍛冶師プレイヤーは、リルを支払って鍛冶場を借りているのだとか。

リーフくんは、リルを貯めてクランホームに鍛冶場を作るのが今の目標なんだと語りました。


おお、その時はわたしの杖の手入れとか、お願いしても良いですかね??

リーフくんに頑張って貰いましょう。


「おやっさん。鍛冶場借ります」

「おう!……おや、連れかい?」

「うっす。うちのリーダーっす」

「ミツキと申します。見学してもよろしいですか?」

「俺はこの鍛冶場を任されてるダンゼンだ。見学は構わないぜ!リーフ、なんか作るのか?」


ツナギから溢れそうな筋肉を蓄え、立派に髭を生やしたおじさまが、こちらを見てニカッと笑います。


「いえ、今日はこの剣の手入れをしに来たっす」

「…………ほう」


黒剣をそっと手に持つと、それをダンゼンさんに見せるリーフくん。

ダンゼンさんの視線が鋭い物に変わりました。


「………随分と年季を感じるな。使うのか?」

「いや、墓前に供える…っすかね?」

「……今日は俺の鍛冶場を使え。生半可な鍛冶場だと、傷めるかもしれん」

「…っす、わかりました」


火の近くなので、ポンチョは外しました。

なるべく邪魔にならないように、スカートを手で抑えます。



「っ」


ダンゼンさんの案内で奥まった場所にある扉を開けると、雰囲気の異なる鍛冶場が現れました。

……思わず息を呑んだのは、炎の色が青かったからです。


「…俺はダンゼン。アイオンの兄貴にはまだ並べねえが、これでも王都に店を構える鍛冶師の一人だ。鍛冶場には当然拘りがある」


道具を机に並べてリーフくんを見てニヤリと笑うダンゼンさん。

リーフくんは、口を結んで真剣にそれらを見つめます。


「…まあ今回は手入れだろ。ここの鍛冶場を貸してやる」

「ありがとうございます」

「ただちと見ただけでもわかるが、その錆は完全には落とせないだろう」


剣……刀は湿気がある所だと錆びやすいってテレビで見た事ありますが、剣も似たようなものですかね?

思い切り海辺にありましたし、埋もれていたとは言え湿気に包まれてました。


黒い剣なのであまり目立たないのもありますが、結構錆びててしまってます。


「……指南してやろう。受けるか?」



‐ダンゼンの鍛冶指南が発生しました‐

指南を受けますか?

はい

いいえ



アナウンスが響きました。

リーフくんはちらりとこちらに目線を送ったので、微笑みで返しました。

わたしの事は幽霊だと思ってください。


入り口近くの壁に背を預けて見守ります。



‐ダンゼンの鍛冶指南を開始します‐



わたしはダンゼンさんによるリーフくんへの指南を、じっと見つめました。




「今回は錆の程度が強いから、裏技を使う」

「裏技、すか?」

「こっち来てみろ」


ダンゼンさんが手招いた先には、水が貯められた水槽がありました。


「……冷却水っすか?」

「神聖水だ」

「神聖水……?」

「聖水のワンランク上の破邪の力が強い聖水だ。剣を清め、不純な物を排除するのに使う。入れてみろ」


リーフくんはそっと鋒から神聖水とやらに剣を沈めます。

……初めて聞きましたね。そんなアイテムがあるんですね。


「これに入れれば大抵の錆も取れる」

「すげぇ……」

「出してみろ」


取り出された剣は、確かに錆が取れてます。

わあ、すごいです。


それを布で丁寧に拭き取り、台座に置きました。

ふむ、あれは研ぎ石……?


「後は神聖水を使いながら研ぐだけだ」

「……俺は、まだ研いだ事ないっす」

「教えてやるよ」


そうしてダンゼンの指導を受けながら、リーフくんはゆっくりと黒剣を研ぎました。

わたしの目にも、黒剣が元に近い姿へと戻っているのがわかります。


「…初めてにしては上出来じゃねえか」

「……っす、ありがとうございます」

「にしても見事な剣だな。嵌め込まれてるのは柘榴石だ」


柘榴石……ガーネットですね。

墓守犬の主人さんは、とても腕の立つ方だったのかもしれませんね。

小隊長になったと言ってましたし、纏める立場に相応しい剣なのでしょう。


「…ありがとうございます、おやっさん」

「いい剣が見られたからいいさ。リーフ、お前さんもちゃんと腕上げてるのがわかったよ」

「!ありがとうございます」


リーフくんの尾が控えめに揺れてます。

褒められると嬉しいですよね。リーフくんは褒めて伸びる子なら、たくさん褒めるとしましょう。


「そら、持ってくんだろう?行ってやれ」

「あ、鍛冶場の使用料は…」

「そんなのいつもの使用料で構わん」

「っ!ありがとうございます!」


リーフくんは黒剣をしまって、勢い良く頭を下げました。

ダンゼンさんは笑いながらリーフくんの頭を撫でました。

よい関係ですね。


「お待たせしましたミツキさん」

「全然、良い物が見られたよ」

「お、嬢ちゃんも興味出たかい?」

「わたしは薬師ですが、鍛冶師も奥が深いですね!」


リーフくんの鍛冶場を作るときのレイアウトの参考になりました。

ここまでのものを揃えるには時間とリルがかかるでしょう。


「また来ます!」

「お邪魔しました」

「おう!」


ダンゼンさんに挨拶して、リーフくんと共に墓場へ向かいました。








墓の前では、同じように墓守犬がじっと座ってました。

そしてわたし達の姿を見ると、立ち上がります。


「……これ」


リーフくんが黒剣を取り出します。

墓守犬はそれを見て、軽く尾を振りました。


「時間も経ってたし、錆びてたから俺が研いだ」

「………」

「……はは、それは良かった」


墓場の前に、その黒剣を供えます。




■■■■の黒剣

クリスティア王国 第一騎士団 第3小隊 小隊長■■■■が所有していた黒剣。

柘榴石が嵌め込まれた魔剣。悪魔への特攻を持つ。


※依頼アイテムのため装備不可




なんとなく鑑定を控えていた所がありましたが、間違えてなかったみたいです。

良かったです……


それを見て目を閉じた墓守犬は、再び目を開けると主人さんの墓の横のスペースを掘り始めました。

そして何かを見つけると、脚で器用に転がしリーフくんへと押し付けました。


「っ!?」

「……」

「……あ、ありがとう。ミツキさん、水とか出せますか」

「わかった」


簡単にウォーターボールを出します。

リーフくんがそこに両手を突っ込み、わしゃわしゃと洗うと、手を引っ込めました。


そして手を開くと、そこには1枚のコインがありました。

銀コインにしては色が明るい………まさか!


「……プラチナ、すか」

「プラチナだね……」


白金コインです!

え、墓に埋まってましたね今。


報酬って事ですね!?

こ、これが白金コイン……輝きが違いますね……


墓守犬はこちらをじっと見つめます。


「……ありがとうって言ってるっす」

「…どういたしまして」


墓守犬は尾を揺らして、また主人さんの墓を見つめます。



-特殊イベント《墓守犬(チャーチ・グリム)の想い出》をクリアしました-

達成報酬は白金コインとなります。



「……終わったね」

「終わりましたね」


変わらず目の前には墓守犬と供えられた剣があります。

この剣、誰にも持って行かれませんよね?大丈夫ですよね?



■■■■の黒剣

クリスティア王国 第一騎士団 第3小隊 小隊長■■■■が所有していた黒剣。

柘榴石が嵌め込まれた魔剣。悪魔への特攻を持つ。


※オブジェクト化しているため取得不可




あ、大丈夫みたいです。

良かった良かったです。


「じゃあ、ギルドに報告しに行こうか」

「っす」


わたし達は墓守犬に背を向けて歩き出しました。

そして墓場の入り口でふと振り返った時、軍服を着た青年が墓守犬を撫でている姿が見えたような気がしました。


「……見えた?」

「見えたっす!」


リーフくんは目をキラキラとさせます。

ホラー好きなんですもんね。


「……まあ、邪魔しないでおこうね」

「勿論すよ。……良かった」


その光景を忘れないように胸へしまって、わたし達はギルドへと向かいました。



鍛冶云々はこのストーリーだけのオリジナルと言うことで( ˘ω˘)錆も邪なものなのです( ˘ω˘)


これからもこの作品をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>これは俺が引っかかった網……  こんなものを大切に取っておくバルトが可愛いです。
[一言] ご主人様と犬が最後に会えて良かったです。
[良い点] 星座にもなっているから格が違いますね~。 忠犬の思いも成就しました。 [気になる点] これから先で鍛冶師のヒントになりそうですね、この蛇?さんは。 [一言] 針供養というのを祖母と家でし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ