建国祭 2日目 ②
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「わあ…」
「……普通に墓地っすね」
目の前には、柵に囲まれた比較的手入れのされている墓地があります。
王都にこんなに広い墓地があるのですね。
木々に囲まれていて、民家は近くにはありません。
ごくり……いかにもな雰囲気です。
今の所目立って変な所はないですけどね。
「依頼書によると、夜墓地に入ると変な事が起こるって事なんで、入りますか」
「とりあえず杖出しておくね」
「俺も斧出します」
二人して武器を握り締めて、墓場に足を踏み入れました。
…ひやりとした空気を感じます。
暗闇に慣れてる目でも、更に薄暗く感じますね。
今の所変な気配は感じません。
「……リーフくん、何か感じる?」
「……」
リーフくんは耳を立てて気配を探ってます。
獣人の嗅覚や聴覚は良いっていいますしね。
……パッシブスキルで何かあるんですかね?
「……獣の気配はするっす」
「なんと」
「いやでも獣とはちょっと違う、薄いような……?」
「……とりあえずその気配の元を探してみようか」
「っす」
そうして10分程墓場を歩いていると、リーフくんが立ち止まりました。
リーフくんを避けて前を覗くと、一つの墓の前に一匹の黒い犬がいました。
アイコンの色は黄色なので、敵でもNPCでもない、って所ですかね?
赤が敵、黄色が敵でも味方でもない、緑がNPCです。
犬はこちらをちらりと見ると、牙を見せてこちらを睨みつけます。
音は聞こえませんが、グルルルッって感じです。
「…俺達は墓荒しじゃない。異変の調査をしに来ただけだ」
「………」
「……お前の主人を暴きに来た訳じゃない。俺達は何もする気はない」
「………」
リーフくんの言葉に、恐らく唸るのを止めた犬は再び目の前の墓を見つめます。
「…言葉、わかるの?」
「俺、【動物言語】ってパッシブスキル持ってて。NPCか黄色のアイコンなら、何を言ってるかわかるっす」
「おお、すごい」
墓守犬Lv.■■
……なるほど、聞いたことありますね。
墓を守る守護霊的な、魔犬だとか?
「…何か墓場で変な事があるか、聞ける?」
「……割と友好的な感じでは無いっすね。けど少し、聞いてみるっす」
「その間周りの警戒をしておくね」
リーフくんに墓守犬との会話を任せて、わたしは墓地を見回します。
うっすらと霧が出て、少しおどろおどろしいです。
いかにも、何かが出て来そうです。
通路を見つめていると、黒い煙と共に一体の骸骨の姿が見えました。
その何もない虚で、こちらを見つめています。
…【鑑定】しても何も、見えません!
(【ブースト】【ハイブースト】)
念の為自分に強化を施しましたが、強化アイコンも現れずMPも減りません。
「……ファイアーボール」
口に出してみても、魔法が発動しません。
こ、これは……!
「リーフくん!!」
「ッ!」
「魔法使えない!気を付けて!」
魔法が発動出来ないのは、そのようなイベントなのか。
別にわたしに何か魔法が使えない呪いがあるとかは無いですからね。
リーフくんが隣を通り抜けて斧を振るいましたが、それは骸骨の身体をすり抜けました。
「!」
「リーフく…!?」
隣をすごい速さで駆け抜けた墓守犬は、勢い良く骸骨へ飛びかかりました。
それはすり抜けず、骸骨の身体を地面へと転がしました。
すると、わらわらと数体、骸骨が集まってきました。
ど、何処にいたのでしょう!
墓守犬は果敢に骸骨へと飛び掛りますが、如何せん数が多いです。
骸骨は何もせず、ただ前に進みます。
「リーフくん、墓守犬から何か聞けた!?」
「偶に、墓を荒らす骸骨が来るって言ってたっす!」
「今回みたいな!?」
「そっす!でもいつもは一体か二体なのに、今回は多いみたいっす!あいつも困惑しながら戦ってるっす」
な、なんと。
やはりこれは何かのイベント……!?
イベントを発生させる何かありましたかね!?
依頼にしては大掛かりですが!
墓守犬は次から次へと骸骨へ飛びかかります。その中の一体が、気付いたら先程墓守犬が見つめていた墓の前に立ってました。
!
きっとその墓は、リーフくんも言ってましたが主人の墓の筈です。
魔法は使えない、ならば何かアイテムとか…!
な、何かアイテムありま………!
ありますーーー!星のキュアポーション!
確か、確か星の力のおかげで解呪と破邪の力が込められていたはず!最近大変お世話になってます!!
あの黒い魔女様の呪いや王家の毒も回復できたんです。
破邪の力も、あるはずです!
「そいやっ!」
わたしはその骸骨に向かって、星のキュアポーションを投げつけました。
珍しくナイスコントロールだったわたしが投げたキュアポーションは、骸骨に当たると瓶が割れました。
そして、骸骨が淡く光に包まれて、消えました。
「ひょえ」
「!?」
「消えた……」
「……ッ!あの骸骨1か所に集めさせるんで、まだそのアイテムありますか!?」
「ま、まかせて!あるよ!」
前に作ったときにキュアポーション増やしましたから!
リーフくんが墓守犬をサポートしながら骸骨を1か所へと転がします。
……リーフくん墓守犬の踏み台になってますね。それで器用に骸骨の方へ身体を反転してます。
とりあえず星のキュアポーションが効くことを祈ります。
「ミツキさん!」
「いくよっ!」
折り重なった骸骨に近付いて、星のキュアポーションをひっくり返します。
星のキュアポーションを浴びた骸骨達は、淡く光に包まれて消えました。
「………はぁぁぁぁ」
「……もう、来ないっすよね」
墓守犬はまた墓の前に戻って座ります。
先程と違うのは、こちらを向いている所でしょうか。
「……おう、なるほど」
「リーフくん?」
「今日は新月なので、活性化してるみたいっす」
確かに、今日は新月ですね。
いつもより薄暗いです。
「手伝いに感謝する、って言ってます」
「……報告は墓守犬の存在と定期的に【鑑定】出来ず、わたし達から攻撃も出来ない骸骨が出現するから、お祓いが必要って言っておいた方がいいよね」
「そっすね……墓守犬だけだとしんどいと思うっす」
王都には聖女?とやらもいるらしいですし、一回清めてもらった方がいいと思いますね。
こんなに勇敢な主人想いの墓守犬がいるのですから。
「……じゃあギルドにそう報告しようか。異変の調査だしね」
「そっすね。………?」
リーフくんが墓守犬と見つめ合います。
……わたしも【動物言語】取りましょうかね?少し気になります。
「……また明日の夜、来てほしいみたいっす」
「え?」
「なんかお願い?があるみたいで」
「お、お願い……?」
墓守犬からのお願い??
しかも明日??
「…わたしは何も無いからこれるけど、リーフくんは大丈夫?」
「明日は今日よりログイン遅めになるかもですが、行けるっす」
「じゃあ、また明日来るね」
そう墓守犬に伝えると、墓守犬はゆっくりと瞬いてまた墓を見つめました。
-特殊イベント《墓守犬の想い出》を開始します-
響いたアナウンスに、リーフくんと思わず視線を合わせました。
墓場を出て、声を潜めて話します。
「ギルドで報告したら、ホームで作戦会議しよう」
「そっすね。他のメンバーにも相談しといた方がいいかもっす」
二人で足早にギルドへ戻ってきました。
そしてそのまま、達成報告のために受付に並びます。
「…この受けた依頼の調査報告なんですけど」
「かしこまりました。では別の部屋へご案内いたします」
「え、はい」
あれよあれよと別の部屋へと通されました。
まああそこで話していたら他の人の迷惑になりますもんね。
依頼達成報告するためのカウンターですし。
リーフくんが緊張した面持ちで立ってます。
「…大丈夫だよリーフくん。少し偉い人が出てくるだけだと思うよ」
「…怖いこと言わないで欲しいっす」
リーフくんは小さくため息つきました。
いや別室対応って事はこの報告を聞くために誰か来るって事ですもんね。
「失礼するよ」
「失礼します」
そう言ってノックと共に扉を開き、壁際の水晶を操作して入って来たのは軍服を着た女性とギルドの制服を着た男性でした。
「私はミゼリアの副ギルドマスターをしております、アレンと申します。彼女は今回の依頼者です」
「私が依頼者のコルテだ」
男性が副ギルドマスターで、隣の軍服を着た女性が依頼者……!?
「…今回依頼を受けました、冒険者のミツキです」
「同じく冒険者のリーフです」
「あの場では話が長くなると報告手続きに支障が出ますので、こちらにご案内させていただきました」
「私はミゼリア所属の騎士でね。巡回中に墓場で感じた違和感を調査してもらおうとついさっき依頼したんだが、まさかこんなにも早く報告が来るとは。優秀な冒険者で何よりだ」
「では、報告を聞かせていただければ」
なるほど、騎士なのですね。女性騎士、かっこいいです。
リーフくんが少し辿々しくこれまでの経緯を話し、一応わたしも相槌入れつつ伝えました。
「……なるほど、墓守犬ですか」
「その骸骨も気になるが、あの墓場に墓守犬がいるとは、気付かなかったな」
「騎士の皆さんは聖水を持たせた方がよろしいかと」
「そうしよう。経費で申請しておく」
「……あの、明日までは俺達に任せて、欲しいんですが」
「?何故だい?」
「墓守犬から、頼まれた事があって」
「…………ふむ、なるほど。では明日までは、お二方にお任せ致します。でもご報告はお願いしますね」
「ありがとうございます」
リーフくんがぺこりと頭を下げました。
わたしも頭を下げます。
……ホームに戻ったら星のキュアポーションを作りましょう。
何かあった時のストックが必要です。
「…では、ご報告感謝いたします。こちらの調査報告に関しては、依頼達成と言う事になります」
「…そうですか」
「新しく依頼を作りましたので、こちらの依頼を受けていただけますか?」
アレンさんが指を鳴らすと、1枚の依頼書が出現しました。
リーフくんと一緒に依頼書を覗き込みます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
指名依頼 ミツキ様・リーフ様
墓守犬に関する調査報告
依頼達成報酬:300,000リル 銀コイン×5枚
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
な、名指し……!
しかもこの今の会話の間に作れるんですか!?
ま、まあ報告はしますけど……
リーフくんがちらりとこちらを見ます。
指名依頼ですし、報告はするつもりなので受けても大丈夫だと思います。
小さく頷くと、リーフくんも頷きました。
「受けます」
「お二方、ギルドカードを」
お互いギルドカードを出します。
それを依頼書と共に窓際の水晶に翳します。
水晶多いですね……
−指名依頼を受注しました-
「では、本日はお時間いただきありがとうございます」
「貴君らの助力に感謝申し上げる」
目の前の二人が立ったので、わたし達も立ちます。
二人に礼をして、わたし達はギルドを後にしました。
そしてプレアデスに戻りました。
リーフくんがクランチャットを操作する間、わたしは星のキュアポーションを作る準備をします。
「〈みずがめ座〉」
テーブルを出して、薬師セットを出してキュアポーションの素材をアイテムボックスから探します。
……少し心許ないですね。妖精の雫とヨモギなので、ちょっとオークションで競り落としてきます。
サダルスウドを撫でて、【神秘】を使います。
「【17:星】」
よし、星のキュアポーションをあと10本以上は欲しいです!
無心に手元を動かして、作り上げたキュアポーションに【複製】を使います。
それらを【鑑定】していくと、13本の星のキュアポーションを作ることが出来ました。
それをリーフくんに渡すもの以外はアイテムボックスにしまって、薬師セットを片付けます。
サダルスウドを撫でてお礼を告げて還します。
サダルスウドは片手を振って還りました。
よし、これで大丈夫でしょう!
振り返ると、クランメンバーが勢揃いしてて、物理的に飛び上がりました。
「びっ」
「あ、ミツキさん終わったんすね」
「う、うん。作り終わったよ」
「俺も経緯は説明しました」
リーフくんに6本くらい星のキュアポーションを渡します。
皆思案顔で顎に手を当ててます。
「依頼書からイベント関連なのはわかりましたが、あまりにピンポイントですな」
「話を聞く限りだと、新月の日に墓守犬と会話が可能で、攻撃不能なタイミングでアイテム使って骸骨倒したって言うのがトリガーっぽいわねぇ」
「ソラ氏の推測が近いと思いますわ」
母は推理物とか読むの好きですし、母が言うと説得力があります。
「……その墓守犬のお願いとやらの内容による」
「そうね……一応、手伝えるように明日はフリーな状態でいるようにするわ」
レンさんがポツリと呟き、ジアちゃんは頷きながらそう言いました。
「ボクもすぐ動けるようにしますなー。なんか普通の依頼じゃ無さそうですし」
「私達はログイン出来るタイミングがあるから、その時に手伝うわね」
皆の言葉にわたしは頷きました。
皆の手伝い、とても有り難いです。
「んじゃリーフくん、ログインしたらメッセージするね」
「あ、俺もするっす」
「依頼を進める時に一回メッセージ入れてくれ」
「わかりました」
その日は解散となりました。
……わたしもログアウトしましょうか。
お師匠様の家に向かいます。
「こんばんはお師匠様」
「おや、元気そうだね」
「依頼に奔走中です」
「結構結構」
「終わったらお師匠様にも聞いてほしいです」
「……そりゃ楽しみだ」
お師匠様はニヤリと笑いました。
わたしはお師匠様に挨拶して、部屋に入ってログアウトしました。
「…明日、聞くとするか」
エトワールは少女の背を見送ってぽつりと呟いた。
「……攻撃出来ないって怖かったなぁ」
たとえ向こうから何もされないとしても、ちょっと怖かったです。相手骸骨でしたし。
星のキュアポーションがあって助かりました……
そういえば、こちらの空とユアストの空は少し違うんですよね。
こちらは新月ではないですし。
それを見る楽しみもあります。
明日も頑張りましょう!
では、おやすみなさい。
テッテレテッテ…『星のキュアポーション〜!』
これからもこの作品をよろしくお願いします!




