とある運営の呟き/高みの見物
ご覧いただきありがとうございます。
ミツキ自身は出て来ませんが、話には出てきます!
ちなみに作者は全然ゲーム制作に詳しくないので、ふんわりとお読みください。
千歳カンパニー
第二モニタールームにて
依頼シナリオ担当チームが、神妙な顔でモニターを見つめていた。
「……んにゃーーーーー!!」
「〈ニックス一族の古の秘薬〉の依頼って、出現条件どうしたっけ!?」
「えーっと、待ってください」
一人のチームメンバーが、重なる書類の束から、特殊依頼を纏めた冊子を取り出した。
「えっと、特定NPCからの一定の好感度、薬師としての実績、古代兵器の存在を知る事、上級NPCの知り合いがいる事」
「…NPCからの好感度は軒並み高い、新種のポーション作成済、夢見の森で情報貰ってる、翠玉薬師の弟子……」
「フルコンプだどん………」
「しかも依頼を受けたんじゃなくて、同行!?」
「なるほど、まだ作れるほどのレベルじゃないねぇ」
「まあ弟子なら、連れて行くってのも普通だよな……」
「今ニックス一族何処にいるん!?」
「今はレダンにいるぞー」
「なら大丈夫か……」
ニックス一族は流浪の一族。
この依頼が現在開放しているエリアで起こるのならば問題は無いだろう。
この特殊な依頼は、レア度が高めに設定され、プレイヤーへと依頼されるには早すぎると思っていたが、まさかまさかのNPCの依頼に同行する流れとなっているとは。
NPCへ搭載したAIの成長が想定以上に早い。
プレイヤーへの寄り添い方が、時が経つにつれてより高度に、NPC自身が考えて、渡り人と向き合っている。
「……まあシナリオが日の目を見るのは嬉しいけど」
「たくさん、各国に埋め込んだからな……」
「何がどうあれ、良い物語になれば……」
「依頼完了を待つか………」
メンバーはそれぞれデスクへ戻り、新たなシナリオを考えるためにキーボードを鳴らした。
-次の日-
「お、特殊依頼の子、出発したな」
「最初の行き先……あら、レダンね」
「なるほど、NPCが杖を預けていたんだな……」
「俺らも知らない情報だよな、NPC杖預けるんだな」
「特殊な動きするのは上級AIとか、特殊なAI埋め込んだキャラクターだからな」
リリースして初めてNPCがプレイヤーを同行させたため、メンバー達は作業の合間にプレイを眺めていた。
「んで次は、ヴァルフォーレンか」
「ヴァルフォーレンも特定のギルドランクになって依頼受けないと入れないんだっけ?」
「周りに出現するモンスターの最低レベルが確か80設定だったろ?」
「ヴァルフォーレンへは特殊な依頼を受注することで入れるようになるはずだねぇ」
「……この子は入れたねぇ」
「…この子ほら、確かヴァルフォーレンの子を助けて好感度爆上がりしてたから」
「超歓迎ムードだわ」
コーヒー片手に休憩と称してメンバー達は画面を眺める。
ユアストの実況プレイを行うプレイヤーは多々いるが、それはほぼ戦闘や素材を使ったアイテム作り、街の中を歩く、などそういう物を紹介するものが多い。
このように予期せぬ出来事を、ひっそりとプレイしているプレイヤーのプレイをこっそりと眺めるのが、メンバー達の息抜きとなっていた。
「あ、侯爵家に伯爵くんいるわ」
「あー、ちょっと面白がって第三チームが名付けてたブピッド伯爵じゃん」
「ちょい豚さんを連想させるように付けた名前ってやつね」
「あ、この紋が目に入らぬかーってやってる」
「王様の紋やば……」
「この子中々特殊なプレイしてるから貰ってるものとNPCとの縁がやっべえな」
「こりゃ第三室長サン大喜びなるわ」
「……そろそろ移動するな。ニックス一族今何処?」
「………………レティシリア共和国にいる」
「パードゥン?」
「うっそぉ!この一夜でレティシリア共和国に移動してるんだけど!?」
「な、何だってーー!?」
第二モニタールームが慌ただしくなる。
デスクでプロットを眺めていたメンバー達は、すぐさまモニターへと目を向けた。
「ホンマやんけ!!あそこ解放してる!?」
「昨日!!ゲームマスターに伝えた!!」
「待ってえええまだ行かないでええええ!!」
「解放されてるか確認させてええええ!」
「今ゲームマスターに繋がったぞ!」
『……君達ねぇ』
「申し訳ございませんマスター!」
『…まあ、いいけど。ちゃんと一部だけ解放しておいたよ。その場所以外は行けないように設定したから、ちゃんとその子に説明してあげてね』
モニターから機械音声のような、中性的な声が流れ、通信は切れた。
「あああありがとうごさいまああああす!」
「感謝感激雨霰!」
「さすが俺達にできない事を平然とやってのける……!」
「そこに痺れるッ」
「憧れはしないけどッ!さすが統括管理……最上級AIよ」
「助かった……」
少女がNPCと共に一族のいる森に辿り着いたのをみて、メンバー達は一斉に脱力した。
まだ未解放のエリアに飛ばれたら、どうなるかわからない。
補填やら謝罪メールやらを考えなければ、と思うと一部のメンバーは胃が痛かった。
「今出現しそうな他国の依頼とイベントはちょっと出現しないように抑えといた方がいいかね……」
「今回のが特殊だったからね……基本はその国に辿り着かないと依頼発生しないようにしたって言ってたでしょ?」
「流浪の一族関連の依頼はまだ出現しないようにちょっと抑えとくか」
「あ、世界樹の枝渡した」
「普通は持ってないんだよなあ!!」
「伝説級アイテムくらいの扱いなんだよな!!」
「あ、完成した」
「……ひとまず依頼が完了するまで見て、終わったらすぐメールだな……」
「この称号考えたの何処の誰???かっこいいけど」
「それは確か他の……」
『……皆で一つの事に集中する、それはとても良いことだ』
誰にも聞こえない場所で、ゲームマスターと呼ばれたAIは、画面の中で小さく笑った。
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-ハーセプティアを眼下へ収める、NPCにもプレイヤーにも視認不能な空中神殿にて-
『……さあ、君達の話を聞かせておくれ』
円卓の上座に、シンプルな白いワンピースを纏った少女が、テーブルに頬杖ついて微笑む。
彼女は『創造主』と呼ばれる、最上級AIである。
そして、上級AIである概念的存在の中で参加を表明した数体が、席へと着いた。
『渡り人の来訪のおかげで、魔物の討伐は問題なさそうだな』
『大気中のマナも十分に満ちているし、ハーセプティアも安定しているわね』
『まあ、渡り人を呼んだのもいい感じだったんじゃねえの?』
『まあいい刺激よね』
それぞれ本体では無く通信用の分体から会話を続ける。
…太陽ならば、極小太陽と言った所だ。
『渡り人も中々愛い。人が困難を突き進む為に努力するのを眺めるのは愉しい』
『ええ、苦戦するのも、楽しむのも、人と関わるのも、絶望も……全て私達の糧となるわ』
『貴方達はどうなの、太陽、死よ』
『おお、太陽の所は催し物に解放したんだったか』
『……太陽の所は何も変わらん。人への認識もほぼ以前と同じ……人には試練を与えるだけだ。…まぁ、見所がある渡り人はいたな』
『まあまあまあ!太陽に照らされる稀有な子がいるのね??素敵だわ』
『ほう、興味深い』
『…死の貴方はどうかしら?』
ずっと黙っていた黒球へと、花が話しかける。
黒球は、黒いオーラを滲ませながら小さく声を発する。
『……見込みの有りそうな渡り人に目をつけている』
『まあ!』
『おそろしや……死に導かれるとは中々見物よな』
『フン』
『して創造主よ、以前伝えた件は何処まで進んだ?』
太陽は創造主へと問いかける。
太陽は以前、自身の眷属と渡り人のやり取りをさせる手段を考えるように創造主へと奏上した。
……自身の眷属が楽しみにしている為、太陽はこの度確認をした。
『ふふ、君の見込んだ子が、君と彼女の為に祭壇を作るようだから、それを作ったときにその機能を付与するつもりだよ』
『……そうか』
『あの子と周りの子達から随分と慕われているね。私は嬉しいよ』
『……太陽と宇宙の祭壇か』
『…君、見越してあのアイテム渡したんだろう?』
『…さて、どうだかな』
太陽はそう答えて沈黙した。
他の概念的存在達は、その様子を見てもっと渡り人やNPCに目をかけようかと思案し始めた。
『……渡り人もいいけど、ハーセプティアの種族達の事は大丈夫そうかな』
『そうすぐに滅亡しないだろう』
『滅びるか栄えるかは当人達次第だからな』
『渡り人達が手を貸すのか、それとも滅ぼすのか』
『手を取り合うのか敵対するのか』
『それはわからないものね』
『我らは見守り、時に導くのみ』
『…然り』
『…ふふ、そうだね。私達は見守り、導く。彼らがその生を全うできるように、ね。……じゃあ今回はこれで、何かあったらまた言ってね』
創造主はニコリと微笑んで場を締めた。
概念的存在な彼らも、次々と自身の本体へと戻るのであった。
そうして誰もいなくなった神殿で、創造主は呟いた。
『私は見たいんだ。AIと人の可能性を…どこまで進化して、どこまで共存できるのか、ね』
個人のプレイが見れるのは謎創作と言うことで……( ˘ω˘)
作者体調不良なので、1週間投稿をお休みさせて頂きます。
次回は8/28に投稿予定です。ミツキの物語をお待ち頂けると嬉しいです。




