ヴァルフォーレン侯爵家 ②
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リゼットさんの目から優しさのあたたかみが消えました。
……なんだか相容れない様子。
わたしも苦手な方かもしれませんね。
そして断りもなく目の前のソファに座りました。
「……リゼット様、そしてお嬢さん。大変失礼致しました……今すぐ追い出しますのでお待ちください」
推定ギルベルト様がその様子をみてため息をついて、そして腰の剣を半ばまで引き抜きまるで鬼のような表情で……えと、伯爵を睨みつけました。
「待て待て待て!君の客人なら僕の客人でもあるだろう!」
「ある訳ないだろうが……ッ!」
「……おやめなさいな」
リゼットさんがいつの間にか杖を取り出して、杖で床を打ちました。
その音で、二人は動きを止め、推定ギルベルト様と思われる方は剣を鞘へ収めわたしの反対側のソファへと座りました。
「さて、ルゴール様と仰ったかしら」
「そうだが」
「私は薬師のリゼットと申します。……大切な依頼の話があるので、席を外してくださるかしら?」
杖を持ったままニコリと微笑むリゼットさん。
すごい圧を感じます。
いつものふわふわした雰囲気を持つリゼットさんではなく、まるでモンスターを前にしたかのようにピリピリしてます。
「おお、貴殿があの薬師の!ぜひ私共ともやり取りして頂きたいですなぁ」
「…話が通じない方ね」
「貴族の後ろ盾が必要であればぜひ私めに声を掛けて下さい」
リゼットさんの圧を物ともせずニコニコと話を続けます。
……話を聞かないタイプの方ですね。
「…それで、こちらのお嬢さんは?」
「……私の依頼に同行する弟子よ」
「ほう、貴殿の弟子……」
わたしは無言で頭を下げます。
なんだか上から下まで見られている感じがします。
そして絶妙に目を合わせないように、眉間を見つめます。
「ふむ、渡り人か」
「……はい」
「…ふむ」
そしてニヤリと笑うとこちらに手を差し出します。
「君も貴族の後ろ盾はどうだ?何かあった時の資金調達や派閥争いから守られる。チラつかせれば愚かな貴族も黙らせる事が出来るぞ??」
何言ってんだコイツって目で隣のギルベルト様が伯爵を睨みつけました。
いや本当に何言ってんだこの人、って感じですが……
リゼットさんの弟子であるわたしを囲みたいんですかねぇ……
わたしを囲む、もしくは縁を繋げばリゼットさんとも繋がりを得られる、なんて考えてるのかもしれませんね。
「…有り難いお話ですが、わたしには既に後ろ盾になると言って下さった方がいるので、申し訳ございません」
「……証を何処にも付けてないじゃないか。証を見えるところに付けないとは、その程度の後ろ盾なのだろう?私は顔が広いしコネもあるぞ?」
…え、そんなわかりやすく後ろ盾の存在を匂わせないといけないんですか???
それは確実に自分の身を危ぶむと思いますが……
そんなに見せびらかすのはちょっとお馬鹿さんがやりそうですよね。
よくやられる悪役が言うような、俺のバックには〇〇さんがいるんだぞっ!
ってやつですよね……恥ずかしい……
お師匠様も見せびらかせって言ってましたし、今の時間だけポンチョにつけますか。
これがわかる人なら、ちゃんとした貴族なんでしょうし。
わたしはアイテムボックスから勲章が入った箱を取り出しました。
そして膝の上で箱を開けたとき、隣のリゼットさんと目の前のギルベルトさんが息を呑みました。
あっこれ金具で布貫いて止めるタイプです!
……ポンチョに穴開けるわけにはいきません!
つけられません!
「これが後ろ盾の証にと頂いたものです」
「……獅子と剣の紋章…!まさか」
「ルゴール=ブピッド伯爵様ですね。お名前、しかと覚えました」
にこりと笑って伝えると、急に真っ青になりました。
そして慌てたように立ち上がります。
「よよよ、用事を思い出しましてね!この話は無かった事に!では、失礼する」
ドタドタと音を立てて部屋から出ていきました。
おお、王様の勲章の威力すごいですね………
先程の老齢の執事さんが、伯爵様が座っていた場所や通った場所を丁寧に掃除しました。
……お嫌いなんですね。
「……大変失礼致しました」
「変な輩に絡まれているのね、ギルベルト様」
「ただの商談相手です。…商談と言っても、自慢でしたが。次の客人を待たせてしまっているから早く終わらせろと伝えたら挨拶すると言って立ち上がり………申し訳ございません」
立ち上がって深く頭を下げました。
周りにいた使用人達も、揃ってです。
「あらあら、とんでもない。お気になさらないで」
「……寛大なご配慮、感謝致します」
リゼットさんの隣で必死に頷いていたら、ギルベルト様は優しく微笑みました。
そしてわたしへと向き直ります。
「君に会えるのを楽しみにしていた。ギルベルト=ヴァルフォーレンだ。息子、ジルを救ってくれて感謝する」
「渡り人で冒険者のミツキです。仲間の力添えもありまして……」
手を差し出してくれたので、両手で握手します。
ジル様が成長したらこうなる!ってわかるくらいそっくりです。
「息子の件の礼もあるのにあのクs…失礼、伯爵の件で迷惑をかけたな、すまない」
「いえ、王様から頂いた勲章のおかげでどうにかなりました」
「はは、これ以上ない後ろ盾だ」
「王が目にかけている子にちょっかいかけるなんて、下手したら首が飛ぶものね」
「ひょっ!?」
「でもそのおかげできっと、今後一切君に関わることは無いだろう。気の小さい男だからな。そもそも異名持ちを囲うことは禁じられているから君に繋がりを取ろうとしたようだが」
「ミツキさんも良い対応だったわ。名前を覚えられて、いつ王様に告げ口されてしまうかわからないものね?」
く、くくく、首が飛ぶ!?
この勲章一つで!?
ちゃんと名前覚えましたよアピールが首の問題に!?
はわわ……大切にしまっておきましょう。
箱をしめてアイテムボックスへとしまいました。
「……ではこちらが〈マグナの神水〉となります」
「いつ汲んだものかしら?」
「今朝です」
「素晴らしいわ。ありがとう」
ギルベルト様が壺をテーブルに置きました。
……そういえば皆さん普通にアイテムボックス使ってるんですね。
にしても、壺……?でも壺にしては口が広いですね……
「…これが気になるか?」
「!す、すみません」
「これは中に入れた物を、入れた瞬間のまま保存出来る水瓶だ」
「!」
!水瓶!サダルスウドの水瓶とは異なる形なのでちょっとわかりませんでした!
ジッと見つめていたからか、ギルベルト様が説明してくれました。
「マグナの神水は、中腹にある神殿で汲める湧き水だ。この山の力を宿す水だと言われている。それは汲むと徐々に効果が薄れてしまう。それを防ぐために作られたのがこの保存の水瓶だ。普通の瓶だと力が抜けてしまう事がわかってな」
「すごいですね……」
「昔は色々な場所で重宝されていたんだ。今はアイテムバッグやアイテムボックスが普及しているからそれほど残っている訳ではないがな」
「災害時には重宝するわ。一つは持っていた方が良いかもしれないわねぇ」
なるほど……アイテムボックスに入れていても力が抜けてしまうとは……とんでもないアイテムですね。
そしてそれに対応する水瓶を作るのもすごいです。
「この度はお時間とらせてしまい申し訳ございませんでした。…お詫びは後日ご用意させて頂きます。この後はもう隠れ里へ向かわれるのですか?」
「ええ。……族長が首を長くして待っていると思うわ」
「……手土産を用意しましょう」
ギルベルト様が視線を送ると、先程の老齢の執事さんがスッと前に出ました。
そして一言二言話すと、一礼して部屋から出ました。
「族長の好みの物を用意させます。すぐに用意出来ますので」
「あらあら、とても喜ぶわ」
「ミツキさん、君もまたこの領へ来てくれ。ヴァルフォーレンの全力を以って歓迎する」
「あ、ありがとうございます」
ヴァルフォーレンの全力はとんでもないです。
震え上がっていると、柔らかく微笑まれました。
「我らヴァルフォーレンは今後アストラルウィザードとの儀式もある。その時にはぜひ我が屋敷に滞在してほしい」
「儀式…?」
「詳しくはエトワール様に聞いてほしい」
ぎ、儀式……!
なんだか壮大な話になりました。
アストラルウィザードが関係するなら、恐らくこの山か宇宙か星か…その辺りに関係する儀式でしょうか。
もしくは星詠み……
うおお、ぐるぐるしてきました。
とりあえずレベル上げましょう!
紅茶を飲んで落ち着きます。
美味しい……
「じゃあ向かいましょうか」
「はい!」
リゼットさんと共に立ち上がり、部屋を出ます。
ギルベルト様が玄関まで見送ってくれました。
「では、よろしくお願い致します」
「ええ、任せてちょうだい」
「えと、ごちそうさまでした!」
「はは、いつでも食べに来てくれ。自慢の使用人、仲間達なんだ」
ギルベルト様が笑うと、周りの使用人達も微笑みました。
良い関係ですね。
執事さんから小包を受け取ったリゼットさんが手招きして外套を持ち上げたので、また掴ませてもらいます。
本日三度目の浮遊感に身を委ねて、わたしは目を閉じました。
ふふ、テンプレな貴族を書くのは楽しかったです。
次はミカゲの閑話を挟みます!
これからもこの作品をよろしくお願いします!




