ヴァルフォーレン侯爵家 ①
ご覧頂きありがとうございます!
ミツキの物語をお楽しみ下さい!
地面を踏んだ感触で目を開けると、ルクレシアとは雰囲気の異なる建物が並ぶ街……いえ、村ですね。
土壁の建物がたくさん並んでいます。
入り口近くに立ってました。
リゼットさんの外套から手を放し、周りを見渡します。
マップは………!レダン帝国にいます!砂漠も見えます!
ココレ村とは、レダン帝国の村でしたか!
「さ、ミツキさん。こっちよ」
「は、はい!」
リゼットさんに促されてリゼットさんの後を追います。
すると、ある建物の前で立ち止まりました。
「アルシャレム、いるかしら?」
「…なんだ、リゼットか」
「私の杖を受け取りに来たわ」
「メンテナンスは終わってる。握ってみろ」
リゼットさんが声をかけると、奥から若そうな、褐色の男性が出てきました。
そして傍らの台に置かれた杖を手に取ると、リゼットさんに渡しました。
リゼットさんは杖を受け取り、魔力を込めたり振ったりします。
そして頷くと、男性に何か箱のような物を渡しました。
「いつもありがとう。今回のお礼よ」
「おう」
その光景を眺めていると、男性と目が合いました。
会釈をして、目を逸らします。
逸らしましたが、なんだかこちらを見ているような気がします…!
「ああ、彼女は私のお弟子さんよ」
「そうなのか」
「渡り人のミツキです」
「……アルシャレムだ」
アルシャレムと名乗った男性は、箱を持って奥の部屋へと消えました。
「さ、行きましょうか」
「わかりました」
「次はヴァルフォーレンね」
お店から出て、リゼットさんが外套をわたしに向けて持ち上げたので、そちらを掴みます。
そしてまた浮遊感に襲われ、反射で目を瞑ると、ひんやりとした空気を感じました。
目を開けると、見上げる程の大きな山が目前にそびえ立っていました。
「わぁ……」
「霊峰〈マグナ・パラディスス〉よ」
「……間近で見ると、とても高く、なんだか人を寄せ付けない雰囲気ですね」
来る人を拒むような圧を感じます。
でもとある方向からは圧を感じません。
……入り口でしょうかね。
「一応登山道はあるけれど、位の高い神官や巫女しか入れないようになっているらしいわ」
「そうなのですね……」
「勿論エトワールの弟子であるミツキさんは入れるわね。ただレベルが高いモンスターも多いし、ここにはかつての名残で神の力が満ちていると言われているわ。だから登山道以外で山を登ろうとすると、山からモンスターが降りてきて襲われるわ」
「ひえ、怖いですね…」
「神官も巫女も途中の神殿までしか行けないわ。……ただ、かつての一族が住んでいた場所はもっと山頂に近い場所、確かアストラルウィザードなら入ることは出来ると、エトワールが言っていたかしら」
わたしは山を見上げます。
雲がかかっていて、山頂は見えません。
あんな高いところに住んでいたのですね……
「さ、ヴァルフォーレン領に入りましょう?初めてでしょう?」
「はい!」
「色々説明しながら向かうわね」
リゼットさんが進む方向には、高い塀に囲まれた建物が見えます。
なるほど、領地……
ジル様は確か侯爵家と言っていました。
そしてこの霊峰から降りてくるモンスターが街や王都に向かわないように戦っていると言っていました。
……山から領地まで近くないですかね??
いち早く察知できるから良いのでしょうか。わたしにはわかりませんね……
塀の上には辺りを見回す人もいますし、見張り台ですね……
そんなにモンスターが降りてくるんですかね……
「薬師のリゼットよ。ギルベルト様と約束しているわ」
「は、伺っております。……こちらの方は?」
「わたしの弟子よ」
リゼットさんはギルドカードを入り口近くの兵士さんに見せながら会話します。
そしてチラリとこちらを見たので、ひとまず同じようにギルドカードを取り出しました。
「ミツキです」
「………ミツキ様」
「?はい、ミツキです」
「……その、ブローチ!もしやジル様をお助け頂いたミツキ様でしょうか!?」
「はひっ」
「ありがとうございます!我ら領民一同、感謝しております」
がばりと頭を下げた兵士さん。
わたしは驚いて目を丸くしました。
「いえ、偶然お会いしたようなものですが、お助けするのは冒険者として当たり前ですから」
「我ら領民、ミツキ様にお会い出来ることを楽しみにしておりました。ようこそ、ヴァルフォーレン領へ」
「あ、ありがとうございます!」
胸に手を当てた礼を受けましたので、深く頭を下げました。
ジル様、どんな伝え方をされたのか!
「あら、ミツキさんはジルくんとも知り合いなのね」
「以前森で出会いまして…」
「ふふ、良い縁ね」
兵士さんに再び会釈して、ヴァルフォーレン領へと入りました。
ヴァルフォーレン領と言っても、何だか小さな街のようですね。
……あ、なるほど領地の中の街ですか。領地って広いですもんね、ちょっと勘違いしてました。
人々が生活し、お店もあります。
あ、ギルドもありますね。
「ヴァルフォーレン領はモンスターの動きが活発だから、腕に自信のある冒険者達が所属している事が多いわね」
「所属?」
「そうね、専属契約みたいなものかしら……カレンはルクレシア所属の冒険者よ」
なるほど、所属……
確かにカレンさんはギルドランクCと高めですが、ずっとルクレシアで依頼を受注したり、指名依頼を受けていたりしました。
「ヴァルフォーレンにはギルドランクAの冒険者達が多いわ。血の気が多い冒険者もいるけど、基本的には皆きっと話しかけやすいわよ」
「ぴっギルドランクA!」
「むしろ話すのが大好きな人達ね」
へあ……ギルドランクA!
そんなに依頼を熟すとは、きっとすごい強い冒険者なのでしょう………
というか、プレイヤーが一切いないのですが、もしやまだプレイヤーが到達していないんですかね??
「今回は〈マグナの神水〉という、霊峰でしか採取できない特殊なアイテムを受け取りに来たわ。侯爵家管理だから、侯爵家に向かうわね」
「は、はい!」
こ、侯爵家……
貴族の家に行くのは初めてで少し緊張します。
……あれ、でもわたし王城に入ったことありますし、堂々としても大丈夫かもですね。
あ、ちょっと落ち着きました。
リゼットさんと共に進むと、一際大きな建物が目につきました。
「大きい……」
「あれがヴァルフォーレン侯爵家ね。いざとなったら領民全てを抱え込む避難所になるから、大きく作ったそうよ」
それは素晴らしいですね。
ジル様の様子から思っていましたが、ヴァルフォーレン侯爵家はとても誠実な方々なのですね。
本に出てくる横暴で傲慢な貴族のイメージは忘れましょう…
「アイテムの受け取りに来たわ。リゼットよ」
「は!どうぞ中へお入りください。ミツキ様もぜひ」
「ひょっ!?し、失礼します」
ニコリと微笑まれ驚きました。
兵士さんとのやり取りの間に、情報がここまで……!?
そして屋敷の中へ入り客間へと案内されました。
シンプルな装飾で大変好みです。
「申し訳ございません。主が来客の対応に苦慮しておりまして」
「あら、そうなのね」
「手早く済ませますので」
執事服を身に着けた老齢の男性が、紅茶や簡単につまめるお菓子の乗ったティースタンドをテーブルへと音も無く置きました。
ほわ……美味しそうです。
「どうぞ召し上がって下さい」
「はわ、す、すみません。ありがとうございます」
柔らかく微笑まれ少し恥ずかしくなりました。
美味しそうな食べ物に目がつられてしまうのです……!
「じゃあ食べながらお待ちしましょ」
「はい!」
リゼットさんと世間話をしながら、紅茶とお菓子の時間を楽しみます。
すると、廊下が騒がしくなってきました。
なんだかドタバタしてますね……
「待て!そちらは客人を待たせている部屋だ!」
「君の客人なら僕も挨拶せねばいかんだろう?」
「その必要はない!チッこの」
「貴族としての言葉遣いが悪いのではないか?ギルベルト」
「貴様もヴァルフォーレンのルールが分からんようだなァ…!」
あ、嫌な予感がしてきました。
お師匠様の予言……あ、嫌な予感がしてきました。
大事な事なので2回言いました。
「ほらどきたまえ。僕を誰だと思っているのだ!」
「あっお待ちください!」
バタンッと大きな音を立てて扉が開きました。
恰幅の良い男性がのしのしと部屋に入ってきました。
「私はルゴール=ブピッドだ。由緒正しき伯爵家の者さ」
腰に手を当て前髪を靡かせた男性が自己紹介してきました。
その後ろに、額に怒りのマークを浮かべた金髪の男性が、頭を抱えて扉へ肩を預けていました。
このタイミングで伝えるのもアレですが、ユアストにはメインストーリーと呼ばれるものはありません。定期的に災厄など(イベント)が訪れるくらいですかね……
基本的には好きに進めてねってスタンスです。
これからもこの作品をよろしくお願いします!




