報告と確認
ご覧いただきありがとうございます!
ひ、ひとまず、お師匠様の所へ戻りましょう。
報告しないとです。
懐中時計に魔力を込めて、わたしはお師匠様の島へ飛びました。
「戻りました!」
「おかえり」
お師匠様の家へ入ると、ヴァイスさんはソファでカップを傾けてました。
……これはコーヒーの香り!
紅茶を準備してくださったのは、こちらへの配慮だったのですね。
ヴァイスさんはコーヒーを好む、と。おぼえておきましょう。
ソファに座るお師匠様の隣にお邪魔します。
「軽くはヴァイスから聞いたよ。だからお前が感じたことを聞かせておくれ」
「はい」
ヴァイスさんから聞いた夢見の森の事、戦って、会話して感じたラクリマの事。
罪悪感を抱いて、ラクリマを生贄にした事。
その後のコスモス様の様子やソル様の反応。
母の反応……を少しずつ話しました。
お師匠様は、時折相槌を挟み、静かに聞いてくれました。
「……これが、ラクリマの卵です」
アイテムボックスからラクリマの卵を取り出し、膝の上で抱えます。
「……ほう、触れても?」
ラクリマの卵を珍しそうに眺め、わたしに確認します。
わたしが頷くのを見ると、そっと卵に手を乗せました。
「………中々粋な事をするね、コスモス」
ぽつりと呟いて、卵を撫でます。
お師匠様も、ラクリマと少なくない関わりがあったのでしょうか。
「……ラクリマを初めて見つけた時、何もせず森に転がっていてね」
「こ、転がって??」
「ああ。何もせず、森の中で葉を食べながら無為に過ごしていたようでね。敵意は感じなかったから会話してみたんだよ」
幻獣の気配が消えたのを確認し、間を空けて森へ確認しに行った所、ラクリマを見つけたのだとお師匠様は語りました。
「幻獣だと云うのは気配でわかる、だが幼体だ。そしてたった一体だけで森にいる。そんなの、何かあるだろう?」
「……とてもそう思います」
「それに話せるときた。話を聞いてみたらこれだったからね。とりあえず夢見の森の番人でもさせてみたのさ」
「…?夢見の森には人もモンスターも入れないのでは?」
「人は入れないが、モンスターは自ら近寄らないだけさ。……何故か終の棲家に選ぶ幻獣も多くてね。ラクリマはそれらの話し相手になってもらったのさ」
幻獣の、終の棲家……
武器の墓場だけでなく、モンスターの終わりの地にもなってるのですね、夢見の森………
「爺婆の話し相手する孫娘みたいなモンかね」
「ラクリマが孫娘」
「幼体だからね」
なるほど、ちょっとしっくりきました。
……この森で他の幻獣と会話して、少しはこの世界の知識を得ていたのでしょうかねぇ。
「だがずっと幼体でいるのも良くはない。ラクリマは幼体だが、ラクリマに宿る力は成体の幻獣の力だ。……最近は記憶が抜け落ちたり、ずっと眠っていたり、ぼんやりとしている事が多くなってきてね。だから、贄に薦めたのさ」
「そう、でしたか」
大きな力を持っていても、身体がそれに合わせられないので、中身にしわ寄せが来ていたのですね。
……成体のラクリマ、見たいです。
どうにか育てましょう。
「さて、卵の育て方は聞いたかい」
「MPを分け与える?ということくらいでしょうか」
「そうさね。一定のMPを吸わせれば孵化するだろう。……島の守護獣にするのかい?」
「……ラクリマが了承してくれるのであれば、お願いしたいです。でも一体じゃ寂しいと思うので、戦闘人形も、他のモンスターも雇いたい感じです」
「戦闘人形なら伝手がある。もし島に家を建てたら、言うといい」
「ありがとうございます!資金は潤沢です!」
……なんと言っても富豪ですからね!
王様からの振込が怖いくらいの額でしたから………
「……にしても新種か」
「恐らく新種になると思われます」
「ほあ」
「コスモスの力が混ぜられた新種だからね……島の守護獣としてのんびり過ごすのも合ってるのかもしれないね」
新種………!
コスモス様の力が混ざってますもんね!新種ですよね!
ラクリマがどのような姿になるのか、楽しみです。
わたしは手元のラクリマの卵を優しく撫でました。
残ったMPも、注ぎ込んでみます。
「ふえあ……」
MPがすっからかんになりました。
まあ元が3割しかありませんでしたけどね。
そういえば【鑑定】とかしてませんでした。
視てみましょうか。
ラクリマの卵
■■■の卵。
宇宙の介入により種族は変化している。
個体名:ラクリマの魂は休眠状態となっている。
魔力充填率:3%
「ほあ…………」
種族は変わってますね……
魔力充填率……ラクリマの孵化に必要な魔力量ですかね。
まあラクリマの失くした魔力を増やすためなので、充填という考えで良いのですね……
……わたしのMP3割で3%しか充填出来ませんでした。
……少しずつ注ぎ込むこととしましょう。
それまで待っててくださいね、ラクリマ。
………にしても卵って撫でやすいですね。
ずっと撫でられます。
「……まあ今日は疲れただろう。ゆっくり休むんだね」
「疲労は気付かぬ内に蓄積する。ちゃんと休めよ」
「はい!」
なんかこう、今日は気を張ってたのでちょっと疲れました。
ゆっくり休むとしましょう。
わたしはラクリマの卵をアイテムボックスへしまい、立ち上がります。
「お師匠様、ヴァイスさん、今日はこれで失礼します」
「ああ。ゆっくり休みな」
「お疲れ様」
「はい!ありがとうございます」
わたしは挨拶して部屋へ入りました。
はふう………家族にも見られながらの戦闘は、ちょっと疲れました。
ログアウトする前に、イベントの確認をしましょう。
メニューで、達成したイベントを振り返ります。
ついこの間知ったんですよね、この機能。
今までに達成した特殊イベントを振り返ることができます。
《特殊イベント》
太陽のプラム
王族を蝕む呪毒
夢見蝶の涙の願い new!
わたしは 夢見蝶の涙の願い をタッチします。
夢見蝶の涙の願い
特殊クリア内容
ラクリマの願いを叶える clear!
ラクリマの記憶を思い出させる clear!
ラクリマと関わりのあるNPCを会わせる clear!
特殊クリア報酬
ラクリマの卵(宇宙の介入による)
なんと………
ラクリマの卵は特殊クリア報酬でしたか……
……コスモス様の介入によってですが!
本当に規格外なお方ですね。
ありがとうございますコスモス様……
……アナウンスが無いのは、それはそれで良いかもしれません。
○○をする、○○を入手する、それが最初から分かると、みんな完全クリアを目指すでしょうし。
わたしの選択でクリアできるかできないか変わる……それはとてもリアリティがあります。
……わたしだけの、物語……か。
せめて開始のアナウンスはあっても良いかもですけどね!
……色々考えを纏めるのにも、ログアウトしましょう。
夕食のときに母と少し話したいですしね。
わたしはベッドに倒れ込んで、ログアウトしました。
「よっ」
「お兄ちゃん」
「お疲れ様な」
夕食の時間になりキッチンへ入ると、兄に椅子へと座らせられました。
おや?なんでしょう?
「今日は俺が準備するから、座って待ってろ」
「いや手伝うよ」
「いーや疲れてるだろう。見えない疲れがあるはずだ。母さんが作ったやつ持ってくるだけだし、ちょっと待ってろ」
「…ありがとう」
兄はそう言ってキッチンへ向かいました。
母と何かやってますね。
………少し落ち着きませんね。手持ち無沙汰です。
「お疲れ様、満月」
「お父さん、ありがとう」
わたしの前にコースターと麦茶を置くと、目の前に父が座りました。
麦茶で喉を潤します。
「満月は強いんだね」
「そうかな……お父さん達より始めたのは早かったし、頼りになる仲間もいるからね」
「……それに成長したね。今までならそんなことないって遠慮してたからね」
「うえ、そうかな。………お師匠様の魔法はすごいから、そんなお師匠様の元で学べてるのはすごいし、自信持ちなって言われたのもあるかも」
お師匠様はいつも凛としていて、魔法を扱う姿も迷いがないです。
余裕もあります。星座達との信頼関係も、悪態つくほど良いですからね。
…主にシリウス……
その姿を見ていると、胸を張って、お師匠様の弟子として恥じないアストラルウィザードにならねば、と思うのです。
「……満月のその師匠さんに会った事はないけれど、ヴァイスさんとお話ししてとても真面目で、満月の事もよく見てくれている事がわかったからね。いい縁に恵まれたね」
「うん。わたし、ユアストやるのとても楽しいよ」
「うんうん。とても楽しそうだったから、僕も嬉しかったよ」
柔らかく笑う父に、ちょっとわたしが照れます。
まさか家族にプレイを見せるとは思いませんでしたからね。
そんな事を話していると、母と兄がテーブルに皿を並べていきます。
「今日は簡単に焼きうどんにしたわ」
「ほれ、サラダも」
「ありがとう」
「ありがとう、母さん。そして流星」
「じゃあ食べましょ」
「「「「いただきます」」」」
野菜たっぷり焼きうどん!
これはしょうゆ……香ばしい……美味しい……サラダシャキシャキ……
いくらでも食べられます……!
「うんまっ」
「あら〜このメーカーのうどん、もちもちで良いわね。また買ってくるわ」
「段々と暑くなって来るから、野菜うどんか冷製うどんパスタとか作ってみたい」
「あら、いいわね。今度作りましょう」
「……焼きうどん食べてるのに、他のうどん食べたくなってくるだろ!」
「いいね、野菜買ってこようか」
「俺も食べるから!手伝うからな!」
今日も食卓は賑やかです。
わたしは黙々と焼きうどんを食べました。
「ごちそうさまでした!」
お皿を洗って、ソファで食休みします。
あ、新しい天体雑誌です。
手に取ってページを捲ります。
「満月」
「お母さん」
「今日はお疲れ様ねぇ」
「色々あったね」
「とても有意義な時間だったわ」
母も隣に座って、ラックから雑誌を取り出しました。
「まさか概念とは言え、太陽と宇宙を司る方とお話し出来るなんて素晴らしい事だわ」
「……ソル様とコスモス様と話が出来て、良かった?」
「勿論。学術的な事目当てでゲーム始めた訳ではないけれど、趣味が仕事みたいな私は、確かに天体や宇宙に関する知識はあるわ。だからソル様とコスモス様のお話は、新たな視点として新鮮に受け止められたわ」
「良かった。お二人とも、とても素晴らしい方々だから」
「ゲームだと神様のような立場なんだものね。……とても迷うわ」
頭に手を当てて、うーんと唸ります。
母は思い切りがいい所もありますが、それは考えた上の事です。
ですが今回は、とても悩まれてるようです。
「ソル様のお話は吸血鬼である私にとって、とても有益だったわね。弱点をカバーして更に底上げするのは素晴らしいわ。でもコスモス様の力も気になるのよね。今の所攻撃手段が徒手空拳だから重力を纏わせて攻撃するのも楽しそうだし、宇宙速度を利用した攻撃も気になるわ」
「わたしもすごい気になったそれ」
「でしょう?日本の最高神は太陽神だから太陽に馴染み深いし、大きくみたら宇宙、そして天体よ。……唯一無二の使徒も、良いかもしれないわね」
「!」
「そういうのって、惹かれるわよね」
……とても惹かれます!
期間限定に惹かれるのと似たような感覚です。
誰でもオンリーワンのものは、ちょっと憧れますよね。
「うん、決めたわ。コスモス様の使徒になるわよ」
「……そっか!」
「ソル様も信仰したいのよねぇ」
「あ、わたしもソル様にはお世話になってるから、ホーム建てたらソル様の祭壇を作る予定なの。そこでお祈りする?あ、コスモス様の祭壇も!コスモス様の祭壇、無いかもしれないから」
使徒で選べないと言うことは、コスモス様の事は知られていないと言うことですからね。
ソル様は各地に神殿があると言っていましたが、コスモス様の神殿は聞いたことないです。
……コスモス様とソル様の祭壇、作りましょう!
よし、早くギルドランク上げます!
祭壇も、自分なりのを勝手に作りましょう!
「あら、いい考えね。私も手伝わせて貰えるかしら?」
「うん!一緒に作ろ!」
「それ、俺も手伝いたい」
「僕も手伝いたいな」
「わっびっくりした」
後ろから父と兄が話し掛けてきました。
「俺も天体好きだし、使徒じゃねえけど信仰したい」
「僕も好きだから、信仰したいね」
「お兄ちゃん、お父さん……」
「せっかく家族で同じゲームやってるし、それが天体に関係あるなら力になるぜ」
「……うん!よろしく!」
微々たるものかもですが、わたし達で信仰させてもらいましょう!
なんだやる気出てきました!
明日から素材集めつつ依頼中心にやります!
何の素材を使うかはわかりませんが、色々集めておきましょう。
「……色々あったなぁ」
ベランダのハンモックで揺られながら、星空を見つめます。
ベガから西へ目を向けると、そこにはヘルクレス座があります。
保有するのは三等星並の暗い星々なので、ちょっと見つけづらいです。
わたしは星座早見盤を空に掲げながら示し合わせます。
ヘルクレス……よく知られているのはヘラクレスさんなので、ヘラクレスさんとお呼びしましょう。
今度、ヘラクレスさんをお呼びしてみたいですが、どんな方なのでしょうか。
よし、明日はギルドに向かいます!
依頼やります!
では、おやすみなさい!
ちょっと依頼を熟す日常を挟んでいきます!
まあこのお話一応ほのぼのなんです信じてください………( ˘ω˘)
これからもこの作品をよろしくお願いします!




