卵とプレゼン
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『…何故太陽が』
『使徒が増えるのは良いことじゃろうて!我は一人もいないんじゃぞ!』
『其方はそのような存在だろう。諦めろ』
『ムキー!』
『……其方、吸血鬼であったな』
ちらりとソル様が母を見ます。
さすがにソル様達の力の強さを感じたのか、母達は跪いていました。
「はい」
『太陽を信仰すると日差しの克服、日差しの元でのステータスの上昇、炎系統の威力上昇、日差しを浴びるとHP、MPを徐々に回復、アンデッド系への常時特攻状態が付与されるだろう。後は弱点の光属性脆弱が無効になるか』
「まあ」
『しっかりプレゼンしてるではないかぁ!』
コスモス様がソル様の足をポコポコと叩きます。
ソル様のお話は、吸血鬼で日差しを克服していない母にとってはとても有益です。
日差しの元で強くなる吸血鬼……
字面の時点でヤバいです。
というか使徒になるだけでそれらが付与されるのですか???
吸血鬼で使徒になった人はソル様を信仰するのが良いかもですね。
『ただし信仰度によるがな。太陽の意に反する行動や思想を持つものに力は与えぬ』
『そうじゃの。しっかり信仰すれば贔屓にするが、信仰心なければこちらも力なぞ与えぬぞ』
………信仰心……!
確かになあなあで信仰されてもよし!力を貸してやろう!なんて思えないですよね………
ならしっかり信仰してくれる人を贔屓にする方が良いです。
……もしやソル様を信仰する人達は一部を除いてなあなあな人達なんでしょうか。神殿の人達とか………
供物をちょろまかす人がいるみたいですからね。
『わ、我は戦う時に宇宙空間を創り出せるんじゃ!宇宙は昼も夜も関係なく広がっている故、常にステータスにバフがかかる!それに宇宙速度を利用した攻撃も出来るのじゃ!』
『……大雑把だな』
『うるさいぞ!暗黒物質で身体を覆い、太陽光も捻じ曲げれば、少しは太陽光のダメージも減らせるじゃろ……無効には出来ぬが……』
コスモス様は話していると段々元気が無くなりました。しょぼんとされてます。
『……ぐぬぬ、太陽の齎す効果のメリットが大きすぎる………!我の力は一つ一つの規模が大きい故、ちと扱いづらいのじゃ……!』
『……そうだな。其方の力は大きすぎる』
『重力を纏わせた攻撃も出来るが、扱いづらいからのう……』
母はコスモス様とソル様の話を真剣に、聞き逃さないよう瞬きも最小限に、口元に手を当てて考えています。
……あれは学芸員の顔になってますね、つまり大真面目です。
わたしはラクリマの卵を撫でながら、その様子を眺めます。
あ、そういえば星座の皆さんはどうしたのでしょう。
レグルスは、ミカゲさんとレンさんに撫でられてます。
ペルセウスさんは、壁に背を預けて目を閉じています。
………あれ、オリオンさんがいません。
わたしはラクリマの卵を抱えたまま、ペルセウスさんに近寄ります。
「ペルセウスさん、オリオンさんは……」
(…コスモスが実体化した辺りで、戦闘はもう無いと判断して還った。奴は太陽と相性が、……関係が良くない)
「………そ、そうでしたね」
オリオンさんの神話を考えると、仲良し!とは言いがたいです。
……月と太陽と関係が良くないオリオンさん……
…後で労うとしましょう。
【19:太陽】がソル様だとすると、【18:月】はおそらくルーナ様です。
月の満ち欠けで出力が変わるオリオンさんなので、相性良さそうなんですけれどね。
後でこっそり伺いましょう。
わたしはソル様とコスモス様の会話の様子を眺めるヴァイスさんに近付きます。
「………ヴァイスさん」
「どうした」
「……ヴァイスさんが、育ててみてはいかがでしょうか」
「……何故、そう思った」
ヴァイスさんはわたしをじっと見つめます。
「ヴァイスさんは、ラクリマとの短くない付き合いがおありですよね。ラクリマもヴァイスさんに育てられた方が安心されるかと」
「………」
「……共に過ごせる時間は、たくさんあった方が良いです」
「…………そうか」
ヴァイスさんは小さくため息をつきました。
「だが断る」
「えっ」
「お前が育てるといい。コスモスの力が混ざり、種族も変わったのだろう。それは私の知るラクリマであり、私の知らないラクリマだ」
「でも」
「……浮島を貰ったと聞いた。そこで、ラクリマを育てるといい。空の景色を、彼女は知らないだろうからな」
空を見上げながら、ヴァイスさんはそう言いました。
……わたし、召喚師では無いのですが、育てられますかね???
「わたしは、召喚師では無いのですが……」
「召喚師でなくとも育てることは出来るだろう。…愛玩でもなく、戦闘で呼び出す仲間ともまた異なるだろうが。島の守護獣にする事も出来る」
「島の、守護獣?」
「師匠の島をみて知っていると思うが、浮島はモンスターに襲われるだろう」
「はい、結界石を設置するか、戦闘人形でも雇ったらどうかと言われました」
わたしが浮島に居るときには、お師匠様と同じように星座達を喚び出して好きに過ごさせるのも良いですが、依頼やフィールドの探索とかしていたら島にはいない事が多いですからね。
潤沢な資金があるので、結界石を買うことも視野に入れてました。
戦闘人形も、気になります。
「浮島の所有者は、浮島に護衛を配置することができる。召喚士であれば召喚できるモンスターを、召喚師でなければ、雇うことも。そして、モンスターの卵は誰でも育てる事ができる。その育てたモンスターを、島に配置することができる」
なるほど………浮島の持ち主はわたしですが、今は誰でも入れる状態にあります。
もしかしたら今も、モンスターがいるかもしれません。
………こわ!
不法侵入されるのはちょっと嫌です!
でもまだギルドランクEなのでホームは建てられませんので、あまり浮島へ行ってないんですよね………
「……まあ育てないといけないだろうが、モンスター専用の経験値石もある。利用してみるといい」
「経験値石!?」
「知らないのか。1日3個までという使用制限はあるが、卵から育てたモンスター専用のアイテムがある。それでレベルを上げるのもいいだろう」
な、なんですかそれは!
そんなものがあるなんて、知りませんでした!
「………と言うことで、ラクリマを育てるのはミツキに任せる」
「ハッ丸め込まれました!?」
「……そんな事はない。相談には乗るから、よろしく頼むぞ」
む……ラクリマの卵を撫でながら言われると、断れません。
そもそも育て方もわかりませんから、遠慮なく頼らせていただきましょう。
『……なぁにを話しとるんじゃ二人して』
コスモス様が、こちらへと歩いてきました。
プレゼンは終わったのでしょうか?
「ラクリマは、わたしが育てることになりました」
『そうか。毎日MPを注ぐと良いぞ』
「わかりました!」
MPを注ぎ込むと良いのですね。
……アイテムボックスにしまっていいのでしょうか。
『さて、愛し子の家族と話は出来た。我も実体化もそろそろ解く』
「はい、今回は応えてくださりありがとうございます」
『良い。喚ばれるのは嬉しい』
にんまりと笑うコスモス様。
とても愛らしいですね……
『太陽も戻るとしよう。次に会うときの成長を楽しみにしている』
「ソル様、ありがとうございます!…デイジーさんに、よろしくお伝えお願いします!」
『…この太陽を、メッセンジャーにするとは面白い』
「…あばばばば!失礼しました!」
『伝えておいてやろう』
ニヤリと笑うとソル様は消えました。
……ソル様をメッセンジャーにしてしまいました。
お怒りでなくて良かったです。お優しい方ですね。
「…有意義な対話を、ありがとうございますコスモス様」
『良い。我もプレゼンのしがいがあったぞ』
「私の見識が深まりました」
『よく考えると良い』
「ありがとうございます」
コスモス様は母と会話すると、こちらへ向き直りました。
膝を突いて、コスモス様と視線を合わせます。
『うむ!此度は生身で会えて嬉しかったぞ』
「こちらこそ、コスモス様の御姿を見れて嬉しいです」
『また何かあれば喚ぶが良いぞ!ラクリマを頼む』
「…本当に、ありがとうございますコスモス様」
コスモス様は最後にラクリマの卵を一撫ですると、笑顔で消えていきました。
「レンさん、ミカゲさん。今日は本当にありがとうございました」
「……気にすンなよ。殴るだけじゃ足りねェのわかったし、もっと力が必要だと理解した」
「ボクももっと爆発力の高い薬作るか、耐性無視して内側から作用する薬とか作れるように頑張りますわ。暗殺者としてももう少しダメージ上げないとですなー」
「……わたしもレベルを上げて、魔法の威力を上げます!」
わかりやすく強くなるには、レベル上げとたくさん魔法を使うことです!
当分は依頼を受けつつ、レベル上げです!
あとリゼットさんのレシピ本のアイテムも作ります。
………予定がたくさんです!
一つ一つを、時間をかけて進めるとしましょう。
「ヴァイスさんも、お世話になりました」
「ああ。……こちらこそありがとう」
わたし達はお互いに笑顔を浮かべます。
少しだけ、ヴァイスさんとの距離が縮まった気がしますね。
「ソラさんたちにはこれを」
「あら、何かしら?」
「瞬間移動が刻まれたアイテムです。一回限りですが、地面に叩き付ければ行ったことのある街に飛ぶことができます」
ヴァイスさんが母達に渡したのは、手の平サイズの小さな石です。
ほほう、帰還用アイテム!MPすっからかんの時に有用ですね!
見かけたら入手しましょう。
ギルドとかで売ってそうな気もします。
わたしは試しにラクリマの卵をアイテムボックスへとしまいます。
…………《ラクリマの卵》と表示されました。
孵化までまだまだMPが足りませんね。
ログアウトする前に、全部MP注ぎ込んでログアウトするようにしましょう。
「お疲れ様ミツキ」
「ありがとうお父さん」
「いい戦いっぷりだったよ」
「そうかな?」
「中々強いのね、ミツキ」
「俺もレベル上げするかー」
「……じゃあ後でね、ミツキ」
それぞれわたしを労い、アイテムを割って街へと戻りました。
「じゃあボクも今日はゆっくり休むとしますわ」
「俺も行く」
「はい、ありがとうございました。今度お礼しますね!」
「お礼は気にせず、ミツキ氏にはギルドランク上げに専念してもらって」
「うぐ、頑張ります」
「……じゃあな」
「ではでは!」
レンさんとミカゲさんは、瞬きの間に消えました。
それぞれ飛んだようです。
「……師匠の所へ戻るか」
「はい!ペルセウスさん、レグルス、ありがとうございました」
わたし達の会話の間も周りを静かに警戒していてくれたペルセウスさんとレグルスにお礼を告げます。
ペルセウスさんは片手を上げ、レグルスは尾を揺らすと消えました。
本当にありがとうございます!
タイミングで労いますね!
わたしとヴァイスさんはそれぞれ懐中時計を握りしめます。
この後はゆっくりするとしますかね………
ヴァイスさんが目の前から消えたので、わたしもお師匠様の所へ飛ぼうとした時、
‐特殊イベント 夢見蝶の涙の願い を 特殊クリアしました ‐
……また始めた覚えのないイベントクリアのアナウンスが流れました。
わたしは思わず真顔になりました。そして飛ぼうとしていたので、ウィンドウを飛ばしてしまいました。
せめて!一声!お願いします!
まぁ言うてプレゼンと言うほどの物では無いですけどね…………皆様は選ぶとしたらどちらを選ぶのか( ˘ω˘)
お母様が選ぶのは既に決まってますけども!
これからもこの作品をよろしくお願いします!




