使徒と杖 ②
ご覧いただきありがとうございます!
お師匠様の所へ戻ってきました。
いつもよりは早い時間ですね。
「お師匠様、戻りました」
「おかえり」
「ヴァイスさんもお疲れ様です」
「あぁ」
二人は変わらず机の地図に向かって顔を顰めています。
ふむ、忙しそうですね……今度にしましょうか。
「……何か用があるのか」
「ひぇっ……バレバレでしたか?」
「視線を感じた」
「なんだい。構わないよ」
ヴァイスさんに、様子を窺っていたのが即バレしました。
お言葉に甘えて、お師匠様のソファの背後に近寄ります。
「えと、身内が使徒になりまして」
「……ほう」
「へえ、珍しいね」
「誰の使徒となるか迷っているみたいで、コスモス様の使徒になるのはアリかどうか確認をしたくてですね」
……無音になりました。
お師匠様もヴァイスさんも、難しい顔で考えています。
「コスモスの使徒か……」
「はい。コスモス様は、今まで使徒は居たことなかったようですが」
「私達しかコスモスの存在は知らないからねぇ」
「……君の身内は、どんな人物なんだ」
「……わたしより天体への知識と興味があり、未知との遭遇に心躍らせる大人、でしょうか」
最近楽しい事が好きなんだなってわかりましたが。
面白そうという理由でランダムにするくらいですからね。
多分何が起きても楽しめる人物ではあります。
「あ、母です」
「……相性が良すぎるね」
「……波長も合うだろう」
「よ、良すぎるんですか?」
「知識があり未知との遭遇に心躍らせる事が出来る者は、宇宙との相性は良いね」
「あと、吸血鬼なんです。もしソル様を信仰したら、太陽光を克服できたりしますか?」
「太陽の使徒であればむしろ回復に作用するだろうね。太陽の下で強くなるだろう」
太陽の下で強くなる吸血鬼、控えめに言ってヤバい奴では?
強化されたラスボスですか?
「…………さすがのワタシでも、コスモスの使徒の存在は今まで見たことがない」
「使徒のジョブを持つ者は数少ないからな」
「そしてコスモスの存在を知る者はアストラルウィザードしかいないからね」
「「本音を言うと気になる」」
うお、お師匠様とヴァイスさんの声が重なりました。
なるほど、今まで見たことがないのですね……
「コスモス様の事を認識出来れば、コスモス様の使徒になれるのでしょうか……」
「そこはなんとも言えないね」
「前例が無いからな」
「母に相談しないとですが、説明も難しいですしね…」
まぁ確実に興味を持ちそうですが、母の気持ちはわからないですからね。
まぁ決めるのは母なので。とりあえず候補に入れてもらいたいものです。
「コスモス様は、ランクの高い贄を用意すれば実体化できると言ってました。……どうにか、贄を用意したいと思います。わたしの戦いで、母に考えて貰おうかと」
「……君のレベルでは難しいのでは」
「んぐ、そうなのですよね………」
レベルは36になったばかりです。
お師匠様が戦ったようなモンスターとは、全然戦えません。
レンさんやミカゲさんにも手伝ってもらわないとかもです。
……強いモンスターと戦いませんかと言えば、レンさんは手伝ってくれるかもしれませんけど、頼りすぎるのも良くないですよね。
「……ランクの高いモンスター、ね」
「お師匠様?」
「この間連れてきた二人と、お前さん達が準備して全力で戦えばギリギリイケるかもしれない奴なら、思い浮かぶ奴がいるね」
「全力で……」
「ああ。怠惰なネームドモンスターがいてね。レベルは低いが、モンスターとしてのランクは高いだろう」
「そんなモンスターが……」
レベルは低いけど、ランクの高いモンスター……
一体どんなモンスターでしょう。
「ただ準備は必要さ。もしソイツと戦う気があるのなら、長期戦になる準備をするんだね。3日後はミツキに依頼を用意してあるがそれは1時間程度で終わる。その後準備をして、その次の日に行きな」
「っはい。わかりました」
「……君、今の武器を見せてみろ」
ヴァイスさんに言われて、魔花の杖を取り出します。
ずーっと、初期から使ってますからね。
「………今の君のレベルに合ってないんじゃないか」
「えっ」
「……違う杖は持ってないのか」
「も、持っていません」
「……用途によって杖を使い分けるのが理想だぞ」
んぐぅ………やはり杖1本じゃ心許ないですよね……
どうしても思い入れが強くてですね……
でももうボロボロなんですよね。
耐久値を騙し騙し使っていましたし、イベントの時にミカゲさんが耐久値の回復をしてくれてました。
わたしの、相棒です。
わたしは手元の魔花の杖を眺めます。
「………………ミツキ」
「はい」
珍しく名前を呼ばれたと思い顔を上げると、ヴァイスさんがこちらに1本の杖を差し出しました。
「?」
「………プラムの、礼だ」
思わずぽかんと口を開けてしまいます。
顔を背けながらこちらに杖を持つ手を伸ばすヴァイスさんと杖を2度見します。
「……早く受け取り給え」
「いえ、でもそんな立派な杖を」
「プラムに比べれば足元にも及ばない物だ。気にせず受け取り給え」
「プラムはあくまで感謝で、お礼なんて」
「いいから受け取ってやんなミツキ」
わたし達のやりとりを見ていたお師匠様が呆れた表情を浮かべながらこちらを見ます。
「兄弟子が数時間悩んで1日かけて作り上げた杖さ。受け取ってやんな」
「師匠!」
「まどろっこしいのさお前さん達は!」
「だからと言ってタイミングがあるでしょう!」
「ミツキに受け取ってもらいたいなら外堀を埋めて受け取らないといけない雰囲気にするんだよ!」
「え、あの……」
「受け取らざるをえない雰囲気にしてから押し付けた方がこの子は受け取るだろうね」
「ッそう、ですか」
「え……信じるんですかそれ」
ヴァイスさんがすごく悔しそうな顔をしました。
え、わたしの事途中からちょっとチョロいやつって言ってませんか?
「…き、君が受け取らなければこの杖は日の目を見ることなくアイテムボックスの中で眠ることになるだろう」
「地味にダメージが来ますね」
「……受け取らないのか?」
………ヴァイスさん、気位の高い懐かない猫のイメージだったのですが。
今は捨て猫のような雰囲気です……!
「んぐ……嬉しいんですけど、嬉しすぎるんですけども!わたしには分不相応ではないかと!」
「そんな事はない。レベルに合った杖を使わない方が、杖への負担が大きいだろう」
「そ、そうなのですか!」
「……まぁ間違っていないね。ミツキはレベルも上がったからね。魔攻の高さと杖の出力が合えば、100%の威力が出せるだろう。……その杖を見ると、今まで40%くらいの威力しか出せてないんじゃないかね」
「えっ!?」
今までの魔法の威力が、40%!?
【天体魔法】ですごい削れました!ってやってたのが40%、と言う事ですか!?
な、何ということでしょう………
思わず頭を抱えます。
杖を使い分ければ、もっと戦闘の役に立ててたのかもしれません。
「……自分に合う武器を持つことも、成長する為の一歩だ。……私が君の為に作った杖、受け取ってくれ」
「………ありがとう、ございます!」
真剣に見つめられれば、受け取るしかないです。
わたしの為に作ってくれた杖、とても嬉しいです。
というかヴァイスさん、杖作れるんですね。
受け取った杖を眺めます。
シンプルな木の杖です。
先端は三日月のように曲がり、真ん中に青い石が浮いてます。どうなってるのでしょう。
蒼銀の布が小さくリボンのように巻かれて、いいアクセントとなってます。
なんだか魔法使いの杖!という感じです!
わたしこういう杖好きです!
アストラル・ワンド
ヴァイスによって作られた杖。
素材に世界樹の枝を使用しているため、魔力伝導率が高く、魔法の発動速度が速い。
石はタンザナイトが使われている。
魔攻+40 【魔力修復】【魔法威力上昇(中)】
「な、なんですかこれ!」
「む、気に入らなかったか。……やはり本職じゃないからな。それくらいの魔攻とスキルしか着かなくて申し訳無い」
「いえ逆です!強すぎでは???」
「?そんな事はない。それはどちらかと言えば中級者向けの武器と同ランクくらいだな。師匠の指輪の足元に及ぶか及ばないかくらいだな」
「ひえあ」
お師匠様の指輪、伝説級ですか???
「世界樹の枝を使うことにより【魔力修復】のパッシブが着いた。これは魔力を流せば、耐久値を回復し傷付いても修復するようになっている」
「そ、れはすごいです」
「タンザナイトは私が入手したものを師匠に研磨して頂いたものだ。タンザナイトの性能で魔法の威力が上がっている」
「そ、そんな高価な物使って良かったんですか?」
「………妹弟子へ、兄弟子からの贈り物だからな。生半可な物では駄目だろう」
目線を逸しながら小さく話すヴァイスさん。
兄弟子………お師匠様の元で共に学ぶ仲間です。
そのお心遣い、とても嬉しいです。
わたしは、貰ってばかりです。
「弟子なんだ。貰ってばかりでいいんだよ」
わたしの心を読んだようなタイミングでのお師匠様の言葉に、勢い良く顔を上げます。
「そこまで難しく考えなくていい。その魔花の杖もヴァイスが作った杖も、どちらも使うといい。用途によって使い分けろと言ったのはまぁ理由はある」
「用途によって使い分ける………」
「まぁ慣れればいいがね。……ヴァイスの作った杖はまぁ戦闘用でいい。だが雑魚を散らすには威力が強すぎるだろうから、使い慣れたその魔花の杖も持っておくといい」
「……強い敵に対する戦闘と弱い敵に対する戦闘で使い分けるんですね」
「だが言わせてもらうと今のミツキにその魔花の杖は弱すぎる。………まずはその杖に慣れることだね」
「……はい、わかりました」
40%の威力しか、出ないんですもんね。
それはこれからモンスターのレベルが上がることを考えると、戦闘では致命的です。
………お守りとして持ち歩きましょう。
魔花の杖を見れば、初心に帰れる気がします。
今までありがとうございます、魔花の杖。
「ありがとうございます、ヴァイスさん、お師匠様」
「……君の成長を楽しみにしている」
「アストラルウィザードの依頼は明後日の朝伝えるからね。準備を怠らぬように」
「はい!レンさんやミカゲさんとも相談しますね」
「それでは、失礼します。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみ」
二人に挨拶して、部屋に戻ります。
ベッドに腰掛けて、グループチャットを開きます。
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『魔女と狂犬とボク』
ミツキ:日曜日に、ネームドモンスターと戦います。
ミツキ:レンさんとミカゲさんは、ご都合いかがですか?
レン:行く
ミツキ:は、はやいですね。
ミツキ:モンスターの素材は貰えず、瀕死にするのが目的という時間のかかる戦いです
ミツキ:わたしとレンさんとミカゲさんが、全力で戦ってギリギリで勝てるかもとお師匠様は言っていました。
レン:……
ミツキ:準備は充分にって言ってました。
レン:面白ェ
レン:いいぜ
ミツキ:詳細は日曜日にお伝えしますので、アイテム類などの準備は各々お願いします!
レン:了解
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レンさんは即答でしたね。
ミカゲさんは、後でグループを確認するとしましょうか。
さて、そろそろログアウトしますかね。
メニューのログアウトボタンを押そうとした所、通知音が響きました。
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ミカゲ:ボクも!
ミカゲ:ボクも参加します!
ミカゲ:絶対参加しますからねーー!
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ふふ、ありがとうございます。
感謝をグループに書き込んで、ログアウトしました。
今日も春の大三角は変わらず輝いてます。
残念ながら緯度的にアンタレスは見えませんけどね。
星は変わらず彼方に輝いています。
届かないのが分かっていても、手を伸ばしてしまいます。
………もっと勉強しないとです。
神話も、星も、天体に関することも。
よし、明日明後日はゲームはお休みです。
寝てばかりは身体が訛ってしまいますからね。
運動しつつ、母の蔵書を借りたいと思います。
それでは、おやすみなさい。
おはようございます!
良い天気です!
週の真ん中ですね。
ユアストの通知を開きます。
Your Story -ミツキ-
35ページ目
森のモンスターを多く瀕死にしました。
そして、モンスターを祭壇に捧げました。
宇宙より、助言を賜りましたね。
使徒について相談しました。
そして、新しい杖を兄弟子からいただきました。
貴女の戦いを楽しみにしています。
お疲れ様でした。
杖が変わると魔法の威力がどれくらい変わるのか、確認しないとですねぇ。
それにアストラルウィザードの依頼とやらも、どのようなものかわかりませんからね………
後は準備です。
リゼットさんの所に向かいつつ、自分でも作らないとですね。
よし、今日も頑張りましょう!
ずっと同じ杖使ってましたからね……思い出の杖です。
これからもこの作品をよろしくお願いします!




