終末を継ぐもの
*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。
最初に地球を発ったヒトが5000万年前。最後に地球上で絶滅したヒトは今から250万年前。
月はかつて人類が見ていた時よりも小さく変わり、潮の満ち引きにほんの少し気持ち程度の影響をもたらした。
今、地球ではヒトの跡を継いだ主な三種族によって治められており、かつての中央アジア大陸の平野で小さな首脳会議が行われようとしていた。
猫と犬、そして金魚の三者が会し、14年ぶりとなった。
犬はヒトのペットであった頃とは姿形を変え、言語能力を獲得していた。
かつてヒトの友と称された彼らの脳みそは大きく進化し、今やヒトと同等程度の進化をみせていた。
肘をテーブルに見立てた石に置き、怪訝な表情で他の二匹を牽制するかのようにしている。
猫はというと、犬のように二足歩行に舵取りをすることはなかった。
未だ四足歩行であるが犬同様に言語能力を手にしており、それらはフランス語と日本語を足して2で割ったかのようなもので母音の少なさと巻き舌の多さをあわせ持つものであった。
犬の使う荒々しいドイツ語とはかけ離れた発音に小さな優越を感じつつも、時折、二足の彼らに嫉妬心を抱いていた。
唯一の魚類である金魚はそのままの姿であった。
陸に上がることは決してせず、この催しには犬の助けで容器に入れてもらい参加した形となる。
ただし彼らは海洋を支配し、それらを意のままに操る力を手にいれた。
遥か遠い先祖たちは、淡水でのみ生存が許され、ヒトによってその数を統制されていた。
中にはその輪から逃げ出し、身勝手に繁殖をするものがいたがそれも極限られた一部で大多数はヒトの手のひらで生殺与奪の状態にあった。
ヒトがいなくなり自活していくことを求められた金魚たちは試行錯誤の末、地球上のありとあらゆる水が存在する場所で生存する能力を獲得し、海流の異常や大洪水など彼らにとっては赤子の手をひねるよ
うに容易く行えることであった。
「それにしてもなんで今日なんですか」
茶色のちぢり毛をし、ヒトの真似をするかのように頬杖をついた犬がため息をもらす。
服装は同胞の抜け毛を集めたものを編んだもので酷い臭いがするが、猫はあくまでも紳士に振る舞う。
「それは私も気になっていました。発案者の金魚氏、ぜひともその解を頂きたい」
種族代表の二頭の視線が容器の右下で申し訳無そうに留まる金魚に注がれた。
明後日の方向を向いていた真横の目が両者に合わさった時、金魚は大きく飛び跳ね、そのままの勢いでテーブルにゆっくりと身を置いた。数度バタついた後、大人しくなる。
"まずはお礼をさせていだきたい"
金魚は両者の脳に直接感謝を述べると、二人は一瞬で体をこわばらせた。
"猫氏の意見はごもっとも。しかし今日でなくてはならない理由がある"
犬は片眉をひそめた。
「お聞かせ願いますか?」
"我らに時間が迫っている"
「どういう意味ですか」
"絶滅の可能性についてお伝えしたい"
犬は思わず立ち上がり、猫は毛を逆立てた。
「考え直されよ、金魚氏。地球に残る同じ友ではありませんか。戦争などまるでヒトのすることではありませんか」
"いいえ。戦争など私も最初から望んではおりません。別方向からそこへと至る道が見えたのです"
「はて?」
犬が座り直し、一息つく。
金魚は自身の筋肉を使うと再び飛び跳ねると、容器の中へと戻った。
水面下をゆっくりと周回しながら、東から昇ってきた太陽を見つめた。
"ヒトが誕生し、この星を去るまでおおよそ全ての時代で崇高な扱いを受けた太陽ですが、我らが知るところによると近々、良からぬことが起こります"
「馬鹿なことを申さないで頂きたい」
犬がくってかかったが、猫は冷静であった。
「超新星爆発に関すること……ですか。考古学でも言葉が当てはまらない程の古の学問でそのような事が議論されたと知っております。ですがね、それは偽りであると結論づけられたはずですよ」
"いいえ、事実であります。私達はずっとその予兆を感じていました。今それが現実に起ころうとしています"
金魚は続ける。
"終わりが始まろうとしています。逃げ場はどこにもないのです"
催しはそこで一度小休憩となった。
呆れて疲れた二頭は各々の過ごし方で休息を取り、金魚は未だ水面を周回していた。
"ヒトよ、貴方方はこの日をどの種族よりも予見しており見事に回避された。地球を捨てた理由も納得です。しかし私達を置いていく必要はなかったはずです。まだ考えることもしなかった私達の先祖に少しでも奇跡が起き、最期の時まであなた方とついていけたらどれほど幸せだったか"
金魚は空に消えていった遠い先祖たちがかつての主人達を思うように、長いヒレを揺らしながら一人静かに想いを募らせた。
お読みいただき、ありがとうございました。