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05 エアコンが聞いていない夏の部屋は、チーズの無いピザと=(イコール)で結べる

 


 僕は、急いでカーテンを顔からはがした。


「は? なんでカーテ......」


 よく見れば、僕の部屋の窓は全開になっていた。



「うわ~、マジか」


 そのせいで、部屋は異常なまでに蒸し暑かった。



 というか、何で最初っから気が付かなかったんだよ、僕。


 だからあんな夢なんか見るんだよ。僕は少しイライラしながら窓を閉めた。

 あ、ヤバい思い出したら、また落ち込みそう。

 頭もガンガン痛むし、最悪。



 シャッ!



 音がするほど乱暴に、厚手のカーテンを閉める。

 照りつけるような日差しと蝉の音も遠くなった。


 さっきよりかは幾分、静かになる部屋。


 だが、そんなものでこの負の気持ちはなくなるわけもない。


「あ~~もう最悪! っていうか誰だよ、窓開けたの」



 そう悪態をついたものの、犯人はもうわかっていた。

 昨日の夜は空いてなかったし、大体そんなことするのはこの家に一人しかいない。


 いつも、「ずっとクーラーを付けてたら電気代がかかるし体に悪いわよ、喚起しなさい!」 って口うるさい母さんの仕業だろう。


 そういえば昨日夜更かしした時も「××早く寝なさい。明日起きれないでしょ!」とか言ってたな。


 ふと時計を見ると、時刻は11時を回っていた。つまり母さんが仕事に行ってから3時間以上開けっぱなしだったわけだ。

 そりゃ熱いはずだ。


「くっそ、こんな熱いのに窓開けっぱなしで行くことないのに!」


 かわいい、かわいい一人息子が熱中症にでもなったらどうしてくれるんだ!

 いや、流石にこの年で自分でかわいいって言うのは痛すぎんな。今の無し。


わたくしですよ」


 頭の中で一人言い訳してると、後ろから......誰かの声が、聞こえた気がした。


「えっ?」


 急いで後ろを振り返る。その場には当然ながら誰もいなかった。

 そう、いるはずがないしいたら困る。


 だって、両親は仕事に行っているし、僕には兄弟もいないんだから。

 仮にいたとしたら異常事態エマージェンシー待ったなしだ。


 卓球部で幽霊部員の僕が強盗なんか倒せるはずない。


 なんならGにだって負ける自信がある。

 出てきたら覚えたてのIKOOのモノマネでもしながら全力で逃げることしかできないだろう。


 辺りを注意深く見渡してもやっぱり誰もいない。

 気のせいか、そうホッとした僕は強張った体から力を抜いた。


 身体が軽く震えている。いや~ちょっとビビりすぎだよな、我ながら笑える。

 熱いから本当に熱中症にでもなったのかもしれない。そういえば、頭もふらふらガンガンする。


 うん。これは完全に脱水症状だな。

 水飲まなきゃ、下いこ。

 そう思って窓を背にしてた僕は、部屋のドアに手をかける。


 だけど、ドアを開けようとしたその時だった。


「フフフ、強盗でも幻聴でもありませんよ? 窓を開けたのはわたくしですよ」


「!」


 間違いない、今度はしっかりと聞こえた。


 僕は急いで声のする方を恐る恐る振り返る。


 すると、さっきまで僕がいた本棚の前に男が立っていた。

 頭からつま先まで全身黒ずくめの、見るからに怪しい男が。


「えっ、だ、だだ誰?」


 全身黒ずくめの知らない人が部屋にいる。

 その明らかな異常事態に、僕はその場で腰が抜けて座り込むんでしまった。

 別の生き物のようにバクバクしている鼓動はパニックに陥った頭を通り、どこか遠くに聞こえた。



 僕は殺されるんだろうか?



 そんなシンプルで馬鹿臭い考えが頭に浮かぶ


「ああ、そう驚かないで。ハハハ、殺すだなんて物騒なわたくしはあなたに危害は加えませんよ?」


 ニコニコと胡散臭い笑顔でそういいながら、男は腰を抜かした僕に手を差し出した。

 だけど、その手を掴む余裕なんてないし、怪しすぎてつかむ気もおきない。


 ただ、とりあえず僕は今すぐ死ぬわけじゃないらしい。


 そう思うと少し落ち着いた。

 僕は男から離れようと尻餅をついたまま後退りで逃げようとした。

 ......が、残念なことに後ろは壁だった。



 僕は逃げることを諦め、とりあえず男を睨むことにした。


「じゃ、じゃあなに? 僕はお金とか何も持ってないよ!

 お小遣い月3000円しか貰ってないんだから!」


「なにをおっしゃいますか。あなた様に何かするつもりならばもう、しておりますよ。疑うのならば、今確認してごらんなさい。部屋にも、体にもどこか、おかしいところがありますか? 

 ねっ無いでしょう?」


 男は、少し不快そうに眉をひそめ差し出した手を引っ込めながら、何も持っていないというように大きく手を広げて肩をすくめて見せた。


 そのしぐさがこの前みたドラマのアメリカの俳優みたいだな、なんて意味わからない感想が一瞬頭によぎる。僕は自分の体と部屋を隅々まで確認した。男が言った通り、特に変わったところは見当たない。しいて言えばさっき空いてた窓ぐらいじゃないか。



 ん?

 いや、それ普通に大罪だな、償えや。アイス1個じゃ足りねぇぞ?



 まってそんなふざけたこと言ってる場合じゃない。


 この男は、いったい何の目的でここにいるんだ。


 正体も目的が分からないことが、男への猜疑心と恐怖心をつり上げる。


 何も起こってないからって信用なんて出来るわけない。そもそもここにいること自体が変過ぎるだろ。民法とか法律とかよく知らないけどさ、これ家宅侵入罪とかになるんじゃないの? 


 ねえ警察仕事してる? 


 そうだ、法律的には圧倒的に僕の方が有利なはずなんだ!


「と、とりあえず、でてけよ!」


「何が目的かって、そりゃわたくしはあなたを救いに来たのですよ。正体は......秘密です」


「はぇ? 

 す、救いに? 

 僕を?」


 明らかに怪しい男が、そんな予想外なことを言うからなんか力が抜けて変な声がでてしまった。


 いや、お前は絶対にヒットマンとかそっち系の衣装じゃん? 

 命狙ってる系のやつじゃん? 

 なんで救いに来てんだ? 

 いや、救うのはいいことだけども!


「そうですよ。あなた今、悩んでおられますね? 私は人の心が読めるんですよ」


「心が、読める?」



 なんだ、こいつはいい年して厨二病なのか中々にやばいな?


 一瞬そう思ったが、よく考えれば、男はちゃんと僕の心の中の疑問に答えていた気もする。


 え、マジ? これは漫画の中でよく見るそういう展開なのか?


「じゃ、じゃあ今僕が何考えてるかわかる?」


「漫画でよく見る展開だとそう思ってらっしゃいますね」


 あ、あってる!?


 動揺している僕をよそに、男はどんどん話を進めていく。


「私は、私と似ている人を探して救うお仕事をしておりましてね。今日のお客はあなたです」


「似てる? 

 似てるってどこが」


 どうやら漫画でよく見る才能あるんであなた、地球の敵的な怪物と戦ってくださいパターンではないらしい。


 そりゃそうだ。もしそうだったらもっと設定ひねらないと売れないぞと思ったことだろう。


 しかし、僕と似てるといっても男はどう見たって30代ぐらいに見えるし、体型も大柄。

 服装だって真っ黒なスーツをしっかり着こなす男と、床に尻餅ついてヨレヨレのTシャツ短パンを着ているヒョロい僕とは違い過ぎる。


「フフフ、似ているのは何も見た目だけのものではありませんよ。私をよ~く見てください。何か気づきませんか? 

 貴方が喉から手が出るほど欲しいものを持っているはずですよ。いや、持っていないと言ったほうが正しいかもしれませんが......」


「僕が欲しい物?」


 なぞかけのような意味深なことを言いながら男が手を広げてよく見ろと僕に促す。


 改めて男を上から下までじーっと見てみる。

 黒い帽子、顔はサングラスに隠れてよく見えないけど多分20~30代ぐらい。


 黒いコートを着ていて、左手には黒い鞄、それと黒いズボンと黒い靴。


 男は汗一つかいていないが、いるだけで汗が流れ落ちるようなこの熱い部屋にいるには、正直、頭おかしいとも言える全身真っ黒といったスタイル。


 どう見ても僕が欲しい、s〇itchとかP〇5を持っている、サンタのようには見えなかった。来るにしても季節とイメージをよく考えろ。


 日本の小さな一軒家に不法侵入して窓開けるなんて地味な犯罪してないで、オーストラリアのサンタを見習って夏の内は大人しく地球の裏側でサーフィンでもしていて欲しい。

 あ、今オーストラリア冬か......。じゃあ雪だるまでも作ってればいいと思う。



 不法侵入そうでなくても見知らぬ奴がくれるプレゼントなんて怪しさMAXの代物を使えるほど僕は図太くない。


 まあ、貰ってほしかったら最低限、赤い服と白ひげくらいはつけてきて欲しいとは思う。

 真っ黒ってなんだ真っ黒って威圧感ありすぎだろう。

 コ〇ン君のあいつかよ。


 色々と突っ込みたいところはあるが、ここは変質者ちゅうにびょうかんじゃを刺激してはいけない。


 あくまでソフトに伝えてここを乗り切り、速やかにお帰り頂こう。


「え~っとしいていえば服が、変わって......ッ!」


 そう言いかけたとき、僕はその男の言いたいことに気づいた。

 その瞬間、この暑いのに全身の毛がゾワッと逆立った。



 ......男はその体に、色を持っていなかったのだ。



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