予兆(2)
アルファリオの報告を聞き付けた代理王は、直ぐに王国騎士団を市場に向かわせて怪しい者が居ないか巡回する様、指示を発令した。
逃げ出した魔族は、市場の路地裏へと逃げ込んだ。煉瓦造りの建物の細い道に入り、騎士団などに見つからない様にしていた。魔族の者は、路地裏を通り、水路の近くへと出て来た。その付近は、かつて……ティオロとリーミアが最初に出会った場所で、彼女が自分の身の丈よりも大きな男性達を弾き飛ばした時にひび割れた箇所が、そのまま残っていた。
魔族は、そんな事など知らず、そこから見える神殿へと目を向けた。その者は、「シュー、シュー……」と、息をしながら神殿のある場所へと向かった。
神殿近くまできた魔族の者は、神殿に通じる階段を登ろうと、一歩足を踏み出した。その時……バチっと、見えない結界が張られていて、その者は階段に登れない事に気付く。
「ヌウゥー……厄介な仕掛けをしやがって……」
その者は苛立ちながら、唸り声を上げる。
フード付きのマントで素顔を隠しながら、その者は周辺を見回した……その時、近くを通った男性に目を付ける。その者は男性に近付くと、大きな爪をした左手で彼の腕を無理矢理引っ張る。
「ウワッ、なんだ!」
男性はフードを被った者に、いきなり腕を掴まれて驚いた。
「オイッ貴様、今直ぐ神殿に行け!そして神殿の中に居る。転生した少女を連れて来い!」
「な……なんなんだ、アンタは?一体何を言っているんだ……?」
彼は、フードを被った者が、何を言って居るのか、全く理解出来無かった。
「やかましい、俺の言う事を聞け!」
フードを被った者は、大きな爪をした左手で、彼を引っ張ったいた。
「グワッ……」
訳も分からず、彼はいきなり相手から暴行を受けて、男性は恐怖に震え出しながら逃げ出そうとする。フードを被った者は、逃げる男性を追い掛ける。
「ヒエエー!だ、誰かー、助けてくれー!」
「待てー!」
フードを被った者が男性を追い掛け回している時、その付近を巡回していた王国騎士団のロムテスが、男性の叫び声に気付き、声のする方へと走り出す。
「何事ですか?」
男性が怯えながら、ロムテスの方へと逃げて来た。
「た……助けてくれ、あ……アイツが、俺に神殿へと行けと言って、襲って来たんだ……」
彼が指した方をロムテスが見ると、フードを被った妙な姿をした人物が目の前に立っている事に気付く。
「何者だ、名を名乗れ」
彼は腰に携えた剣を抜きながら言う。
「全く……今日は厄日だな……次から次へと、変な者に遭遇する……」
フードを被った者は、マントを脱ぎ捨てて、その下に隠れていた姿を晒し出す。
「ヒィイイー……」
男性は、目の前に現れた悍しい姿の者に驚き、腰を抜かしながら震える。
「ここは私に任せて、君は逃げてくれ」
そう言われると男性は一目散に逃げ出した。
「ほお、余程自身がある様だな……」
「ふ……僕は、こう見えて優しいのだよ。何らな……片手で勝負しても構わないさ」
魔族の者は、自分の右手が無い事に同情された様な振る舞いに苛立ち、相手を激しい形相で睨み付ける。
「グヌヌ……貴様の減らず口、二度と叩けない様にしてやる!」
彼は勢い良く飛び出して来て、激しい猛攻を繰り出す。
キンッ!キンッ!
魔族の爪が、彼の剣と混じり合い、火花散らす様な攻撃が繰り出される。
「クッ……」
ロムテスは、後退りしながら、相手の攻撃を交わし続ける。
「フハハー!、何だ貴様、大口を叩きながら、その程度か。最初に会ったヤツの方が貴様よりも何倍も強かったぞ!」
一旦、魔族とロムテスは間合いを取った。
「思ったよりも強いな……」
ロムテスは、猛攻を受けながらも少し余裕のある様な表情で言う。
「フ……当たり前だ、俺は主ルディアンス様の命で動いているのだ。貴様ごとき輩に負ける訳に行かない」
ルディアンスの名前が出て来て、彼はピクッと眉を動かす。
「ほお、ルディアンスね……つまり君は、あの魔剣士の部下か……で、奴の狙いは何だ?」
「貴様!我が主を呼び捨てにするな!」
「悪いけど、僕は君達とは対極的な存在だ、君が誰に忠誠を誓おうとも、僕には何の未練も浮かばないさ、だから……ルディアンスに対しても、様や殿なんて言わないさ。それ以上に……そんな輩との関係を持つ君達の不運に同情するけどね」
「なんだとー……」
魔族の者は歯軋りしながら苛立つ。
「ほお……悔しいのか、なら聞かせて貰おうか、君達の本当の狙いとやらを……そうしたら、これまでの無礼を詫びても良いけどね」
ロムテスは、魔族に対して構えを取りながら言う。
「ああ、良いだろう!そう言う心がけなら教えてやる。我が主の目的は、転生少女とその仲間達を全員、『魔の森』に連れ込んで、奴等全員を血祭りに上げる事なんだー!」
そう言った瞬間だった、ロムテスは素早い動きで魔族の首を切り落とした。
ピュンッ!
風切り音と共に魔族の首は胴体から落ちて、その口は永遠に閉ざされた。
「ご苦労さん、色々と情報をありがとう」
そう言って、彼は剣を鞘に収める。




