試練(4)
–––– リーミアが祠に行く数日前……
神殿内にある練習場でリーミアは大神官と剣の稽古をしていた。最初は高齢で大丈夫……?などと、彼女は稽古前に言うが、「心配無い、全力で掛かって来い!」と、言うアルメトロスの言葉を聞いた彼女は、全力で挑むが、高齢のアルメトロスから全然1本打ち取れなかった。
高齢とは思えない素早さと、剣術の腕に若輩のリーミアは圧倒された。
稽古が終わると、練習場にある観戦場で彼等は休憩する。
「驚きました、大神官様が、こんなに剣術が強かったとは……」
「はっはっは……単に強いだけでは無いぞ、まだまだ若い者には負けない自信はあるのだよ!」
彼は、ムッと二の腕を折り曲げる。
「時にリーミア殿よ、其方は力で何事も押し切ろうとしておるな……」
突然の言葉にリーミアはドキッとした。
「力は表面的な強さでしかない。まあ……小鬼や魔獣討伐程度には良いが……世の中には力では叶わぬ敵もおる。そう言う敵と遭遇した時、今まででのやり方では通用しなくなりますぞ」
「はい、わかりました」
大神官を見ながらリーミアは返事をする。
「さて……本日、其方に稽古を招いたのは、そんな話をするだけでは無くてな……」
大神官はそう言って、腰を上げてリーミアを見る。
「お主にどうしても伝えたい事があっての……」
「それは何ですか?」
「実はな、光の魔法……12番目の魔法に付いて少し話をしたいのだ」
それはリーミア自身も最も知りたい事だった。
「よく言われる12番目の魔法って何でしょうか?大神官から直接教えて居ただけ無いのが、少し気になって居ました」
「本来の鍛錬とは異なる異色の魔法だ。これは紋様を授かりし者や聖魔剣に導かれた者だけが得られる特殊な魔法なのだよ」
「特殊な魔法……?」
「聖魔剣に導かれた者が、極限の状態に達た時のみに発動する事が出来るのだ。だから敢えて私が直接指導する事は不可能なのだ」
「どう言う事なのでしょうか?よく分かりません。一体12番目の魔法とは何ですか?」
「その魔法は『神光』と呼ばれている」
「『神光』……ですか?」
初めて聞く言葉にリーミアは不思議な表情で首を傾げる。
「これは……紋様を授かりし他の火や水などの属性を持つ者も皆同じで、12番目の魔法はこの『神光』となっている。それには深い理由があっての……」
「その辺の詳しい事情に関しては、私が話そう」
後方から声が聞こえて、振り返るとそこにはレンティの姿があった。
「占星術師様!お久しぶりです」
リーミアが頭を下げながら挨拶をする。
「畏まった挨拶はしなくて良い」
レンティが手を振りながら言う。
「ところで何故……貴女がここへ?」
「私が招いたのだよ」
リーミアの質問に大神官が答える。
「昔話なら、私よりも彼女の方が詳しく話せると思ってな……」
大神官の言葉にレンティは溜息を吐く。
「何時もながら人使いが荒いのぉ……」
「いやはや……面目ない」
大神官が愛想笑いしながら答える。それを傍にレンティは練習場に腰を下ろし、彼女に隣に座る様手を差し伸べる。その手招きに応える様にリーミアはレンティの隣へと腰を下ろした。
「で……どの辺の事から知りたいのだ?」
「12番目の魔法『神光』に付いてです」
「ふむ……最初の聖魔剣、セルティスの剣は以前、お主にも伝えたと思うが……」
「はい、光の洗礼の前に聞きました」
「実はな……そのセルティスの剣が造られた時代、遥か闇の奥深くで、その光の聖魔剣をも凌ぐ恐ろしい魔剣が造られて居たのだよ」
「恐ろしい魔剣ですか⁉︎」
リーミアは驚いた表情でレンティの言葉を繰り返した。
「そう、昔の人々は、それを暗黒魔剣と言い恐れたのだ。……しかし、その魔剣が地上に現れるのはセルティス没後、光の聖魔剣がテリオンの手に渡る頃だった。誰しもがセルティスが地上を平和にして安寧の時代が訪れたと思って居たのだが……それを過去のものにしてしまう程、恐るべき者が地下深くから現れたのだ……!魔界の皇と呼ばれる暗黒王アナサレス」
「暗黒王?」
不思議な表情でリーミアは呟く。
「その暗黒王は巨大な力を発揮する暗黒魔剣を操り、地上に恐怖をもたらしたのだ。短期間で地上を恐怖の渦に貶めてしまい、テリオンだけの聖魔剣だけでは成す術が無かったのだ。それで、その時代……最強と呼ばれた魔術師を集めて、全11の聖魔剣を造り、新たに12番目の魔法『神光』を開発して、暗黒王と暗黒魔剣を闇の奥深くへと封印したのだよ」
それを聞いたリーミアはふと……一握りの疑問を感じた。
「光の聖魔剣をテリオンが手にした時、扱い辛いから聖魔剣を造ったのでは無かったですか?」
「そうだよ、テリオンの手に渡った時、彼は早い段階で契約のみで扱える聖魔剣を造ったのだ……しかし、暗黒王を封じるには彼だけの力だけでは不可能だった。12の聖魔剣に導かれし属性の紋様の者達と、認められて契約を果たした者達が揃って『神光』を放ち、暗黒王を封じる事に成功したのだよ」
「そうだったのですか!ちなみに……その『神光』とは、一体どんな魔法なのですか?」
「紋様を得た者で、聖魔剣に導かれた者が極限の状態に達した時に発動されると言われる究極魔法……と伝えられている。その魔法効果を得た者の前では、あらゆる物理攻撃も魔法も全て無と化す……と、古文書には記されていたよ」
それを聞いたリーミアは呆けながら空を見上げる。
「そんな魔法があるなんて……私に出来るかな……」
「何を言っておる。其方は、既にテリオンの剣と契約している身では無いか……更に光の聖魔剣を手中に収めようとしている。充分に条件を満たしておる」
「でも……私の手元には肝心の聖魔剣がないです……」
「あくまでも発動条件は、聖魔剣に導かれし者だ。手元に聖魔剣は無くとも、条件さえ満たして居れば良いのだ」
「そうなんだ……」
リーミアは愛想笑いしながら答える。
––––現在……
「残念だったな、秘策を全て出し尽くし、抜け殻の状態になってしまった貴様には、もはや逃げる気力さえ無かろう。今ここで、私が貴様を苦しまぬ様に止めを刺してやる、安心して成仏するが良い」
人型の者が棒を青く輝かせて振り上げた、その瞬間だった。
「神……光……」
ほぼ……虫の息とも言えるリーミアは、虚ろ状態で小声で呟いた。
––––その瞬間……
パアアーーッ!
金色の神々しい輝きがリーミアに降り注いだ。
「グワッ!な……なんだ、この輝きは!……小娘の身に一体何が起きたのだ?」
あまりの眩しさに、人型の者は、目を開けられない程だった。
眩しい光が消えると、人型の者は「お……おおッ!」と、驚いた表情をする。
つい先程まで力尽き掛けていたリーミアが立ち上がり、その前身には金色の衣を全身に纏ったような姿で立っていた。




