占術師
リーミアがティオロを見つめる。その眼差しは昼間市場で出会った時の様な感じでは無く、乙女の様な優しさに包まれている様な表情だった。
それを見たティオロは、暖炉の側に戻りリーミアの向かい側へと座る。
「何か…話してくれるの?」
「そうね…いろいろあるけど、まず…私には親が居ないのよ」
いきなり予想外の言葉にティオロは、自分の理解が追い付けなかった…。
「生まれる時に、両親が亡くなったの…?」
「違うわ…ある日突然、私は修道院の祭壇の上に居たらしいの…」
ティオロは、自分の知ってる許容範囲を越えた出来事に、どう解釈すれば良いか考えていた。
「ええと…つまり、君は親の体内から産まれた訳ではないの?」
「そうね…」
ティオロは、理解しようとしていたが…彼女の話に付いていけずに立ち上がる。
「ごめん…今日は、もう寝るよ」
「そう…」
「ちなみに、この街にはどの位の期間居る予定なの?」
「準備が整い次第、出発するわ…」
「分かった…」
そう言ってティオロは部屋を出て行く。
- 翌朝
リーミアが朝、食事をしようと部屋から出て広間に向かうとティオロが既に起きていて、宿の主人が用意してくれた朝食を済ませていた。
リーミアは、ティオロより遅い食事をする。
「今日は、色々と買い物をするの?」
「買い物と言うよりも…行きたい場所があるのよ」
「そうか…実は僕も、ちょっと行きたい場所があるけど銭が無くてね…」
「幾ら必要なの?」
「そうだね、金貨2~3枚位欲しいな…」
ティオロはチラッとリーミアを見た。
「分かったわ」
リーミアは、袋から金貨3枚出してティオロに渡す。
嬉しそうな表情でティオロは金貨を懐の中に入れる。
「それを受け取る事に対して、忠告して置く事があるわ」
「何…?」
「今後、私の護衛役を務めて頂くわね」
「ああ…分かった、じゃあ…僕は急いで予定を済ませるから先に出掛けて来るね」
ティオロは、嬉しそうな表情で宿を出て行く。
それを見ていた宿の主人が少し呆れた表情でリーミアの側へと近付く。
「あいつめ、逃げやがったな…」
「え…、逃げたのですか?」
「ああ…手元に金が入ったから、遊びに使うつもりですよ…奴は街では義賊って言う事で有名だからね」
「ム~…」
騙された…と、感じたリーミアはティオロが出て行った外を見続けていた。
「まあ、心配無いですよ金が無くなれば、また戻って来ますから…」
「それでは困ります…」
リーミアは、不機嫌そうな表情をしながら席を立つ。深い溜息を吐きながらリーミアは羊皮紙に描かれた地図を広げる。
宿の主人も隣で地図を見て少し驚いた。その地図は描かれている場所が指で動かす事が出来た。その上…場所の拡大小も可能な…不思議な地図であった。
「嬢ちゃん、中々珍しい代物を持っているねェ」
「修道院から借りた物なの、旅が終わったら返す事になっているわ」
リーミアは、地図を見て占い師の居る場所を探す。広い市場である街の中で、現在地が解りずらく、小さな家も見ずらい状態で占星術の場所を探すのは困難だった。
「レンティ占術師…て、御存知ですか?」
「ああ…聞いた事あるよ」
主人はリーミアが持っている地図を指で動かす。
「この辺だよ」
そう示した場所は、地図上では街外れにあたる場所であった。主人が指した場所をリーミアは、指を置くと…不思議な跡が残り、地図を拡小しても跡は残っていた。
「ここからだと、少し距離がありそうね…」
「ちょっと歩く事にはなるね…周囲からも変わり者呼ばわりされているし…あまり関わらない事を勧めるけど…」
「ここの方に会う様に、祭祀から言われたので…会って来ます」
「そう…まあ、理由があるなら止めないけど」
主人が言うと、リーミアは微笑んで「ありがとう」と、一言礼を言い、身支度を整える為に部屋に戻る。
- 居酒屋
まだ午前の日差しが昇って間も無い頃から、店を開けて居る酒場があった…。普段は、夜遅くまで店を開けて…午前中は、店を閉めて午後から開店…と言うのが、普通だったが…その店は、数名の店番が居る為、早朝から深夜まで、どの時間でも利用出来る事が可能だった。
その日、珍しい客人が店に訪れた。
「よお…おっちゃん、一杯注いでくれ!」
「ん…珍しいなティオロ、真面目に仕事する様になって、金が入ったのか?」
「ちょっと違うけど…副収入が入ったから、少し酒が飲める様になったのさ…」
店番の男性は注文通り、木のジョッキに酒を注ぎ、ティオロに渡す。
酒が届くとティオロは、一気に喉に流し込み「ウメェ~」と、ジョッキを置く。
「副収入が入ったって…一体どんな悪さして大金を得たんだ?」
「へ…それはちょっと言えないな、まあちょっとした善行して、金を得た…て言う事かな…」
ティオロがニヤけた顔で言うと…店番の男性が少し溜息を吐く。
「お前の口から善行なんて言葉が出るとは思わなかったな…」
二人が話していると店の扉が開き、若い女性が荷物を抱えて入って来た。彼女はティオロを見るなり少し驚いた表情をした。
「あら…ティオロ、貴方どうして店にいるのよ」
「何か…珍しい物の言われ方だね…」
「そりゃそうでしょう…今まで、ずっとタダ飲みされていて、出入り禁止になっていたじゃない」
「副収入が入ったらしい…だとよ」
店番が女性に向かって言う。
「へえ…じゃあ、今飲んだ分も加えて、未払い分払えるのかしら?」
「多分足りると思うけど…」
「そう…ちょっと待っててね、今から精算するから…」
女性は奥にある台を使って算盤を叩き始める。
「悪いね…店の親方が口煩いから、金が払えない奴は店に入れるなって…言うんだ」
「仕方無いね…」
酒代まともに払えない自分が悪い…と、ティオロは自分に言う。
そう思っていると、女性が精算の金額をたたき出した様で、紙に金額を書き込みティオロの前に来た。
「こんだけよ、払えるの?」
それを見た店番は目を大きく見開いた。
「ちょっと…こりゃ、幾らなんでも多過ぎじゃ無いか?」
しかし…ティオロは「ふ…ん」と、微動だせずにポケットから金貨を3枚取り出す。
「これで足りるかな?」
それを見た店番と女性は息を呑んだ。
「お…お釣りを用意するわ…」
そう言って女性は奥の部屋へと向かう。
ティオロにとっては計算外だった。もう少し他へ遊びに周りたかったが…、ツケが想定以上だったのは痛かった。リーミアからもう少し金貨を頂くべきだった…と、少し後悔しながら酒場を出て行く。
- マネニーゼ市場
レンティ占星術の居る場所を地図を頼りに歩いているリーミアは、市場を歩き続けていて…ある場所まで来ると足を止めた。
目の前に如何にも、そう思われしき建物が見えたのである。周囲の町並みと比べると…やや古びており、何処から購入したのか解らない奇妙な術具が建物の周囲に飾られている。
どう考えても見間違う事が無い場所に来たリーミアは、少し足を止めて立ち入る事に少し躊躇いを感じた。
(宿屋の方が言っていた事は、このことなのね…やっぱり引き返そうかな…)
そう思って数歩引き下がろうとした時だった…。
「おや、ウチの店に用かね?」
いきなり後ろから声が聞こえて、ビクッと驚いたリーミアは振り返ると、自分と同じ背丈の老婆が立っている事に気付く。
背が曲がって、片手に杖を付き、鼻が尖っていて、顔や手にはシワがある。赤茶色のフードを被った…80代位の老婆だった。彼女は、細目であるが…人を見る時は、目がギラ付く感じを漂わせている。
「イシシ…こんな処に居ないで、中で話をしようじゃ無いか…」
「は…はい」
「大丈夫、茶は出すからよ」
そう言って老婆は杖を付きながら先に店に入って行く。リーミアも続いて店に入る。店の中に入ると…更に不思議な術具が処狭しと並んでいた。
何処から仕入れたのか解らない不思議な装飾や、奇妙な形状をした置物等が数多くあった。
「はじめまして、私はリーミアと言います」
「どうも、はじめまして私はレンティと言う者じゃよ。イシシ…」
「さっそくですが…今日こちらに来たのは、術具の購入では無くて…王位継承の事を知りたくて来ました」
「ほお…王位継承かね、そうか、なるほど…」
老婆は頷きながらリーミアを見る。
「私は、修道院で育った身ですが…幼少期の頃から、他の子とは違う鍛錬や勉学を学ばされて来ました…。主に剣術や柔術…その他に様々な種類の魔術。召喚術から治癒に関する術等…その他様々な事も多く学びました。そんな中…14歳になる頃に祭主様から、コレを授かり貴女に会うように言われたのです」
リーミアは自分の腰に携えていた銀色の短剣を老婆に見せる。
「こ…これは、御主が持っていたのか?」
「はい」
老婆は驚きながら震えるている様子で、銀色の短剣を眺める。
「さ…触っても良いか…?」
「はい、どうぞ」
それを聞くと老婆は短剣を持ち上げる。老婆は短剣を鞘から抜こうとするが、短剣はビクともしなかった。
「正に…伝説の神秘の聖魔剣よ。使い方次第では所有者の命さえ奪ってしまう程の威力を発揮させる…恐ろしい物だ」
老婆は短剣をリーミアに返す。
「その剣に纏わる昔話は知っておるかね?」
「いえ、全く知りません」
「そうか…修道院では何か話は聞いて無いのか?」
「ある日、祭壇の上に赤子だった私が居て、側にこの短剣があった…と聞きます。修道院でも、この短剣を鞘から抜く事が出来るのは、私以外には居ませんでした」
「その剣は、聖魔剣とも言える物…見た目の短剣とは異なり、所有者が想い描いた形に剣が変わる優れ物だ。魔を封じ込める聖なる威力を持つが…巨大な力を発揮させるには、所有者の生命を吸うが故…扱うのを恐れられているのだ…。御主の手元に短剣があった…と、言うのは多分…100年前に訪れた魔獣達の災いを封じ込めた王女の生まれ変わりだからかもしれないのだな…」
「その話は祭祀は教えてくれませんでした。修道院の人達も噂話をしていましたが…詳しくは知りません…」
「なるほど…ね」
老婆は、話の途中でお茶を淹れてリーミアに差し出す。老婆はお茶を一口飲むと話を始める。
「100年前…エルテンシア国は突然現れた魔獣達の群れに襲われたのだよ…、国が絶対絶命の危機に瀕した時、その時王女だったリムア姫が、神秘の聖魔剣を持って我が身を犠牲にして国を救った…と言われている。100年も前の話で、私すらまだ生まれていなかった頃で、今となっては伝説の話になってしまっている。ただ…国は現在も正当な王位を持っておらず、現在は代理…と言う意味での王が玉座におる。王位継承権が得られるのは…エルテンシア国にある神殿の大神官アルメトロスが認めた者のみなのでな…」
それを聞いたリーミアが、老婆を見て言う。
「では…この短剣を持って神殿に行けば王位継承権を得られるのですか?」
「それは難しいとも言える…」
「何故ですか?」
「王位継承権を得ようとする者は、毎年何人とも現れる。お前さんの様な珍しい剣を持つ者が大勢いるのも事実だ…その中で正しい王位を見極めるのは、至難の業とも言える。その為、神殿は試練を勝ち抜いた者を王位継承者として認める事にしている」
「直接大神官に会う事は出来無いのですか?」
「直接会えるのであれば、既に他の者が王になっておるよ…。御主の話を聞く限り、お前さんがリムア姫の生まれ変わりである可能性は強いが…実はな、御主が来る数日前にも1人、同じ境遇の者が居たのだよ…」
「え…どう言う事ですか?」
「その者には、両親と暮らして居たのだが…その者、ある日森へ遊びに行った時に、不思議な剣を見つけたのだ。それは選ばれた者にしか使えない、不思議な剣で私の処へと持って来て、調べて見たが…その者にしか使え無い不思議な剣だった」
「その方は、どうしたのですか?」
「その者は…自分が王位継承権があると信じて、神殿の大神官に会う為に、現在は街にある冒険者ギルドに通っているのだよ」
「冒険者ギルド…?」
リーミアは、聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「冒険者ギルドとは…この街に幾つかあり、一般的に小鬼や魔物退治の為の傭兵待機場の様なものだよ…。その場所に行き、得点を稼いで上位の称号を獲れば、自然と大神官アルメトロスとも会う事が可能となる。ちなみに…現在の代理の王も、冒険者ギルド出身者であるのだよ…」
それを聞いたリーミアは納得した様子で頷く。
「つまり…冒険者ギルドに通う事が、1番王位継承の近道なのですね…」
「まあ…そう言う事である」
「分かりました。ちなみに…この辺で1番近くの冒険者ギルドは何処ですか?」
それを聞いた老婆は、街にある冒険者ギルドを教える。
一部内容を変更しました。
祭祀×
祭主○